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デビルオーガ

 俺達は深い魔境の中層域を移動している。


 オーガの確認された場所はバレロの里から南へ15キロルの滝の傍。

 古の遺跡があって、そこをねぐらにしているのが確認されている。

 遺跡は妖精族という過去に実在した種族のものらしい。


 滝の傍に薬草の採集ポイントがあるらしく、黒狼がいなくなって安全になったばかりだというのに災難な話だった。

 里から15キロルなんて目と鼻の先じゃないか。



 まずハンター組から斥候が数人様子を見に行った。

 俺達は付近で待機している。

 戦いの場所は森の中が良い。木が生い茂っていれば障害物になるしオーガの素早い動きも鈍る筈だ。


 だから、斥候が囮となってこの辺りまで引張ってくることになっている。

 木々の後ろに近接戦闘を得意とする者が隠れ、樹上に弓士や魔法を使う者が息を潜めている。

 俺とリファ、ミトは樹上の太い枝にしゃがんでじっとその時を待っている。

「なんだか緊張するねぇ。あんた達が強いことは知っている。でもね、ここにいるどの連中よりも幼いんだ。無理はしなくていいからね。皆、戦闘のプロなんだ。危ないことは全部任せとけばいいさ。あんた達は必ず生き残るんだよ」

 

 ミトは俺達のことを心配してそんな事を言ってくれた。

 けど、見た目少女だから、そんな風に言われても妙に違和感がある。

 ミトって一体何歳なんだろう。


 その時、森の奥から木々を揺らし戦闘音が聞こえてきた。

 近づいてくる。

 メキメキという音がして視界の奥の大木が倒れた。

 なんてパワーだ。


 木々の間を抜けて斥候達が駆け戻ってきた。

 すぐ後ろから真っ黒い体のオーガが邪魔な木をなぎ倒しながら迫って来る。

 3.5メトル位か。二本の太い角と牙、大木のような腕。纏っているのは火焔熊の毛皮じゃないか?

 筋肉が盛り上がって肉体美がビオラの比じゃない。

 あのビオラのことだ。絶対に自分の筋肉と比べて悔しがってるんだろな。


「弓隊放てぇ!」

 リックの合図で一斉に矢がデビルオーガへ放たれた。

 三方からの不意打ちに近い。

 エルフ族の矢は精度も貫通力も異常に高い。


 なのに、一本の矢もデビルオーガに突き立つことはなかった。

 GROoooo!

 威圧の咆哮(ほうこう)が響き渡る。


「ちっ、やはり硬い。こんな奴倒せるのか?」

 リックがボソッと呟いた。

 誰もが思っていることだ。あれ程の矢を浴びて無傷とは。


 俺達は後方からその様子を見ている。

 順次戦力を投入することになっていて、俺達の出番はずっと後だ。


「前回はどうやって倒したんだろ」

 俺の呟きにミトが応えてくれた。

「あの時は丸5日かけて地道に体力を削ったのさ」

「え!?300年も前だよ?ミトってそんな昔から生きてるの?」

「馬鹿お言いでないよ!私はまだ二桁(ふたけた)だよっ!エルフの二桁はピチピチなんだよ。全く!」


「ご、ごめん。まるで見てきたかのような言い方だったから」

「ふん、私の父親が戦士で闘ったのさ」

 ミトを怒らせてしまった。この人も怒らせたらいけない人だ。

 油断した・・


「お前ら!集中しろ。世間話してる場合か!」

 リックからも怒られた。

 ミトがでかい声出すから・・


「キースならどう戦う?勝てそう?」

「うーん、どうかな。足を止められれば何とかって思うけど。あ、あと火を使えればね」

「火は止めときな。こんな他里の庭先で使えば幾らなんでも許してもらえないよ」

「え?オーガの弱点なのに?」

 リファがびっくりしている。

 魔物討伐に火魔法厳禁なんて驚きを越えて怒りさえ覚えるよ。

 前に火魔法はダメだってリファにも伝えたはずなんだけど信じてなかったか?


「オーガの弱点が火だなんて初耳だね」

「だってあれだけ硬い身体してたら剣も魔法も全然効かないじゃない。でも高温の火魔法で燃やせば倒せるよ」

「いいから止めておきな。事前の申告なくそんな事したら間違いなく投獄されるよ」

「こりゃ苦労しそうだわ・・」

 リファが呆れてしまった。


 GROoooo!


 デビルオーガの咆哮に意識を持ってかれると、戦士とハンターが切り掛かった所だった。

 狙いは足首と膝だ。

 前後で挟んで牽制しながら戦士が(けん)や靭帯を狙う。

 けど、一人蹴り飛ばされた。

 すごい勢いで吹っ飛んで行く。あれはただでは済まない。最悪死んだかも。


 ドゴン

 地面が揺れて土塊が舞い上がった。

 怯んだ所をまた一人殴り飛ばされた。頭が弾けたから生きてはいまい。


「くっ(ひる)むな!恐れるな!」

 リックが叫ぶ。

 樹上からも矢が降って来る。

 デビルオーガは大木を一撃した。

 バキンという音がした後、メキメキと音がして木が倒れる。上にいた弓隊が為す術なく倒壊に巻き込まれて落ちて行った。


「ちょっと行ってくるよ」

 そう言ってミトはケガ人の元へ向かってしまった。

 俺もヒールを使えるから手伝いたいんだけど、それは俺の役割外だ。

 勝手に持ち場を離れる訳にはいかない。


 デビルオーガは見た目以上に素早く動き、圧倒的な破壊力で人も樹木も地面も一緒くたに吹き飛ばす。

 これでは全滅も時間の問題だ。

 もっと遠距離から攻撃を当てて体力なり魔力なりを削らないと。

 いやそれより、攻撃を当てる事よりも撹乱(かくらん)しまくって疲れさせた方が良いんじゃないか?


 最前線では怒号が飛び交ってかなり混乱している。

 連携も上手くいっていないみたいだ。

 討伐隊は攻撃を当てることに集中している。

 けど、動きが早すぎて当たらないし、当たっても弾かれるしどうすればいいのやら。

 指揮官のリックはどうするんだろうと思って目を向けると、唇を噛んで睨みつけていた。

 表情に焦りが見える。リックもどう倒せばいいのか分からないんだろう。


「キース、このままじゃ・・」

「まずいね」

 まだ始まったばかりだというのに敗色濃厚な雰囲気だ。圧倒的すぎる。


 ビオラも出た。

 素早い動きで牽制の拳を繰り出しているけど相手にされていない。


 デビルオーガが折れた大木を持ち上げて頭上にいる魔法師に投げつけた。

 なんて奴だ・・

 30メトルは上にいる魔法師に見事当てて見せたよ。


「怯むなー!里の仲間の命が掛かってるんだ!怯むなー!」

 リックが声を張り上げている。

 誰も怯んでいないよ。みんな必死だ。ただ、圧倒されて手も足も出ない。

 また一人、また一人倒されていく。

 現場から、リックに向かって何か手振りで伝えようとしている。

 それにリックは応えない。


 また一人。とても見ていられない。


「ねぇキース。私達何もしなくていいのかな」

 リファが焦れている。

 あ、ビオラが吹っ飛ばされた!

 でも、多分大丈夫。ちゃんと防御してるのが見えた。

 このわずかな時間で既に戦士3人を含む12人

「・・リックに聞いてこようか」


 俺はリックの傍に行った。

「何をしている!お前は自分の持ち場で待機していろ!勝手な行動をするな!」

 怒鳴られた。

「このままじゃ戦力の無駄遣いですよ。俺達が出ます」

「ダメだ!命令を待て」


 まったく取り付く島がない。一旦リファの元に戻った。

 どうだった?の視線に首を振った。


 ビオラがまた吹き飛ばされた。


 今度は動かない。

 すぐにハンター組の者が後方へ連れ去ってゆく。

 ビオラはさっきまで身体能力を生かしてうまく攪乱をしていた。

 ビオラが抜けて、さらに形勢が悪化した。


 焦れる。すぐにも飛び出して行きたい。

 でも、俺達への指示は“待て”だ。


 ナーシュと他の里の戦士がリックの下に来た。

 何か大ぶりな身振りで叫んでいる。

「撤退って聞こえたよ」

 聞き耳を立てていたのかリファがそんなことを言った。

 撤退を進言して揉めているのか?


 俺も戦闘を気にしながら、リックたちを見ているとナーシュがこっちへやって来た。


「キース、非常にまずい状況だ。君の意見を聞きたい。君ならどう戦う」

「エルフ族の戦力で倒したいなら、逃げ回って翻弄(ほんろう)して奴を疲れさせた方がいいと思う。今は無理に当たらず、時間を掛けて疲れさせてから勝負をかけるべきじゃないですか」

「火魔法を使ってはダメって本当?」

 リファが口を挟んだ。

「ああ。火は絶対にダメだ」

「この状況で闘い方選んでる場合?」

 俺も頷いた。

「それでもだめだ。火魔法を使えなかったら君達でも勝つことはできないかい?」

「勝てるわよ!キースなら」

 俺はリファを軽く睨んだ。

「それは何とも、やってみないと」

「勝てる見込みがあるだけすごいよ。ちょっと来てくれ」


 俺達はリックの所に移動した。リックの傍の枝に降り立った。

「リック、キースは勝てる見込みはあるらしい」

「エウロの救い人か。そんな子供が本当に頼りになるのか?」

「あぁ。実績はある。この里も周りからも黒狼が消えただろ」


「そんな話はいい。おい、キースだったな。俺はエルルの里のシャムだ。お前はどう戦う。何ができる」

「俺が戦うなら雷魔法で動きを止める。ただ、俺の周りに味方がいると巻き込んでしまう。それに、敵にかなり接近する必要がある。あの早い攻撃を(かわ)しながら発動の遅い雷撃を撃てるかはやってみないと分からない」

「雷魔法か。そんな使い手がいるとはな。だが、動きを止めるだけじゃだめだ。止めを差せないと。それはどうやる?」

「リファに弓で眼球を狙ってもらう。できる?」

「自信ないかも」

「俺ならできる」

 ナーシュが即答した。

「ならば、動きを止めた時、身体の向いている方向が分からない。他の弓の名手に声を掛けて四方向から狙おう」

 シャムの提案はもっともだ。そうすべきだろう。


「キース。私も一緒に戦う。何も考えずにあいつの前に出ても殴り飛ばされるだけよ。何か牽制して隙を作らなきゃ」

「そうだな。任せるよ」

 リファの肉体強化した動きは俺より早い。離れたところから魔法や矢を放つ分には危険は少ないだろう。


 俺は地面に降りてデビルオーガの元へ走った。

 背後上空、枝の上をリファが付いてくる。


 俺は大木の背後から、石杭をオーガに向けて放った。

 視覚外からの攻撃だ。避ける間を与えず石杭が刺さったと思ったら砕けた。

 あいつの腹、滅茶苦茶硬い・・


 GUOooo!

 怒りの咆哮が響いた。

 周りを見渡して術者を探しているようだ。


 リファが側面から矢を放った。

 脇腹に突き立ったけど、傷は負っていない。

 オーガがリファに向かって走った。


 俺も隠れながら後をついて行く。

 オーガがジャンプして樹上のリファに迫った。

 リファが一撃を躱して風魔法でオーガを上からの強風ではたき落とす。


 俺は10メトルの落とし穴を掘ってその落下を待ち構えた。

 当然穴に落ちたところで、石杭を穴の内壁から何本も突きだした。


 普通なら此処で終わると思うけど、多分刺さっていない。

 斜め下に、上に、横に、次々と石杭を突き出す。

 同時並行で水を流し込んだ。それを一気に凍らせる。


 これで動きは封じたはずだった。でも、こいつは違った。

 ビキビキバキバキと氷の割れるような嫌な音がする。


 その隙に魔力を十分な練り込んだ鉄榴弾(てつりゅうだん)を用意する。

 鉄は土に含まれるものを分離して取り出したものだ。


 GYAOooo!

 雄叫びと共に地面が爆散した。

 その中から、黒い影が飛び出して来た。

 地面に降り立ったそいつは怒りに目が赤く染まって不気味さを倍増させている。


 俺は最速の鉄榴弾を右足首を狙って放った。

「バレット!」

 GWOooo!


 関節を狙ったけど、少し上にずれた。

 それでも肉を抉って青い血が弾けた。

 初めて傷を負わせることができた。


「よしっ!」

 どこからか叫ぶ声が聞こえた。


 もう一発と思ったら傷をものともしない跳躍でこっちに飛びかかって来た。

 ヤバ。

 身体強化で俺は飛び下がる。それを追ってきたところで、リファが背中に矢を放ったのが見えた。


 風魔法でブーストされた矢は突き立つと同時に爆発した。

 Ga!

 まったく効いていないわけじゃない。痛みは感じてるし少しはダメージにもなっている。

 俺は後ろへ飛び下がりながら石榴弾をばらまく様にオーガの顔面へ向けて撃ちまくった。


 それでも、目を腕で隠しながら追ってくる。速さが半端ない。

 追いつかれる・・


 地面を蹴る一瞬に魔力を流して石杭を作り出した。

 バギャン

 あっさりと砕かれて半歩と距離を稼げない。

 せめて2秒、できれば3秒時間が欲しい。


 更に間合いが縮まって射程内に捉えられた。前後左右どこに逃げても拳が当たる距離だ。


 もう一度地面に魔力を流して石杭を突き出す。

 今度は真ん中だけを空けて左右に3本づつだ。


 それと同時に、後退を止めて俺は前へ踏み出した。

 狙いはオーガの股の間。

 俺が足を止めた刹那、デビルオーガの赤い目に愉悦の色が浮かんでいるのが見えた。


 こいつは戦闘狂だ。そう理解した。

 頭からダイブして股の間を転がって背後に回った。そして振り向いて魔力を溜めに入った。

 1秒後。

 石杭を粉砕したデビルオーガは俺に向き合っている。

 俺はわざと魔力を(まと)った右手を(かざ)した。

「キース!」

 リファの切羽詰まった声が聞こえてきた。


 でも、こいつが本当に戦闘狂なら俺の渾身の一撃を受けたいはずだ。

 正面から受け止めて打ち砕いて喜びを味わいたいはず。


 僅か3メトル。そこにデビルオーガの爪先がある。

 背丈は約3.5メトル。見上げる高さだ。そこから燃えるような赤い目で俺を見下ろしている。

 2秒。


 俺はゆっくりと足を踏ん張って時間を稼ぐ。

 さあ、攻撃するぞ。受けてたって見せろと雰囲気で分からせるように。

 3秒。

 魔力が溜まった。

 撃てば当たるという所で、蹴りが飛んできた。

 しまった。こいつは戦闘狂なんかじゃなかった。

 ただの殺戮魔(さつりくま)だ。


 顔をあげて目を見ていたから気付くのが遅れた。躱す暇がない。

 左腕に強化を纏うだけで精いっぱいだった。


 ドカッ!

 俺は30メトルは飛ばされたと思う。腕が砕けた。あばらもいった。

 それでも、右手にためた魔力だけは霧散させなかった。

 これが俺の生命線だ。

 なにがなんでも当ててやる。


 顔をあげると片足を持ち上げたデビルオーガが視界に入った。

 踏みつぶすつもりか?

 俺は右手の魔力を雷に変化させた。

 そして視界を塞ぐ黒い巨体に向けて全力で放った。

「雷撃」


 ドーンともゴーンとも聞こえる轟音と共に閃光が弾けた。


 直撃だ。その次の瞬間、オーガの目に矢が突き立った。

 パン!乾いた音がしてオーガの右目から青い鮮血が吹きだした。

 そのまま、こっちに向かって倒れて来る。

 やば。潰される!と思ったら、微妙に傾いて倒れてくれた。

 俺のすぐ真横に若干煙を上げて硬直しているデビルオーガが横たわっている。

 触れそうな距離で小刻みに痙攣(けいれん)していた。


 ・・こいつまだ生きている。

 今がチャンスだ。どうしても今決着を付けなければ。

 俺は立ち上がって、腰から父様の剣を引き抜いた。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

もし宜しければ、☆評価、或いはブックマーク登録をお願いしたいと思います。


この後も新たな展開が続きます。

どうぞ、お楽しみください。

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