里での学び
翌日、練武場で汗を流した後、一人で村の外へ出た。
リファは筋肉痛でとてもついて来れる状態じゃなかったから俺一人だ。
その辺の茂みで角兎2匹を狩った。ドルドの授業料とミトへのお土産だ。
その帰り道。
何か言い争う声が聞こえてきた。村はずれに近い場所だ。
「ビート!お前みたいな奴が里の中をうろつくなよ。家の中でウジウジしてりゃいいんだ!」
「何か言い返してみろよ!」
ビートという声が聞こえてそっちへ向かう。
見ると、ビートが座らされて3人に囲まれている。
体格のいい子と少し太った子とちょっと身形のいい子だ。
皆ビートと同じ位の12、3歳に見えた。
体格のいい子がビートの背中を蹴った。
「おい、何とか言えよ!」
ビートは悔しそうに睨みながらも何も言わない。
じっと耐えてる感じだ。
「君たち、止せよ!」
俺は思わず止めに入った。
「あ、キースだ!なんでこんなところに?」
3人は俺を見て目をキラキラさせている。
その3人を無視してビートに話しかけた。
「ビート虐められてるのか?」
「うるさい!お前なんかあっち行け!」
「お前キースになんて言い方するんだ!」
体格のいい少年がまたビートを蹴った。
「止せ!」
「キース。こいつの親父は里の恥さらしなんだ。キースが構う奴じゃないよ。それより黒狼討伐の話を聞かせてくれよ」
「嫌だよ。俺は誰かをいじめるような奴と仲良くする気はない」
『え?』
「君達がビートをいじめる理由って、ギルムが一人だけ黒狼の討伐で生き残ったことが理由だろ?」
「あぁ、こいつの親父は俺の父ちゃんも仲間も皆見捨てて一人おめおめ帰って来たんだ」
ぽっちゃりの父親がギルムの組にいて亡くなったらしい。
「なぁ。君は黒狼がどれだけ手強くて厄介な相手か分かってて言ってるのか?」
「話くらいは聞いてるよ」
「俺が討伐した時、最初は2、30匹で最後には2千匹近くになってたよ。それをたった50人かそこらで闘かったんだ。魔力も体力も尽きて撤退したくてもしつこく付いてくるからそれもできない。全員で散らばって運に賭けるか玉砕するしかないってリドルは言ってたよ」
「でも、こいつの親父は皆を見捨てたんだ!」
ぽっちゃり君がビートを指して叫んだ。
「俺、思うんだけどさ、ハンターの人達は命を賭けて戦っているんだ。死ぬ可能性を理解してそれでも里の為に戦っている。それを生きて帰ったからって里で守られてるだけの君たちが責めるのか?おかしいだろ」
「・・・・」
「メンバーが一人でも死ねば、生き残った人たちは仲間を見捨てたと言われるのか?一人だけ生き残ったら仲間を全員見捨てたことになるのか?今までどれだけの人が戦いの中で死んで、どれだけの人が生き残った?その人たちに君は、仲間を見捨てやがってって正面から文句を言えるのか?自分の父親や死んでいった人達に、あなたは見捨てられたんですよって言えるのか?君たちのやっていることは、命がけで闘うハンター達への冒涜だよ。恥ずかしくないのか?」
「それは、そんなつもりじゃ・・」
「なら、もうビートを虐めるのは止せよ。ギルムもビートも悪くない。悪いのは君たちだ。俺なら、君たちの為に命を賭けたくはない」
「・・・・」
ビートは俺が話をしている間一言も喋らなかった。
今は肩を震わせて泣いている。
「ビート立てよ。泣くな。君は悪くないんだ。堂々としろよ」
ビートは無言で立ち上がって、うつむいたまま里の方に歩いて行った。
同じ方向だし俺も後をついて行く。
暫くしてビートが立ち止まった。
つられて俺も止まる。
「なぁ。さっきはありがと。お前に父ちゃんが悪くないって言われた時すごく嬉しかった。俺も父ちゃんにひどいこと言ったんだ。帰って謝ってくるよ。その、お前に出てけとか色々言ったけど、ごめんな」
そう言って駆けて行った。
俺はドルドに角兎を届けた後、一人ドルドの宿題を考えていた。
窓の外に、薬草園でリファがミトから教えを受けている姿が見える。
俺は借りてきた魔力感知板に魔法陣を書き込んで色々と試しているけど上手くいかない。
バランスが悪すぎて浮いても飛ぶか弾かれるかしてしまう。
掌の上ではイメージで風に強弱をつけてバランスを取れる。
でも、魔法陣ではその細かい強弱を操作できない。最初から書き込んでいるからバランスの変化に対応できないのだ。
ならば、発想を変えようか。
旋風にしてみた。
予想は風の渦に乗ってぐるぐる回り続ける。
結果は渦に巻かれて弾け飛んでいった。
ならば、上から下へロールする風を作り出した。
石をそこに置くと、風のロールに巻き込まれてすぐに弾け飛んだ。
あれ?
試しに紙を千切って入れると、それは上手くいく。
うーん。難しい。
掌で上下ロールの風を作って再現してみる。紙切れは同じ結果だった。
石はというとこれも上手くいった。何が違う?でもここで閃いた。
風速を極端にあげてロールの内側に放り込んでみた。
すると、内側の風の壁に弾かれて、また弾かれてを繰り返した後、壁に張り付いてクルクル回り始めた。
できた!
風を緩めると、途端に制御を失って弾け飛んでしまった。
バゴン!
見事に壁に突き刺さっている。
やば。
タイミング悪くそこにミトが帰ってきた。
「こら!何やってるのさ!」
「ご、ごめんなさい・・」
その日、しっかり叱られて持って帰った角兎でご機嫌を取って許してもらった。
お土産のつもりが、お詫びの品に変わってしまったよ。トホホだ。
翌日も、俺は他の方法を考え続けた。
そして、最後に別の方法で石を浮かせることに成功した。
それは2つの術式を使う複合技だ。
一つは下から上へ単純に吹き上げる。
一つは上から下へ風を吹き降ろす風だ。
二つの風は一定の高さでぶつかって安定した。そこに石を置くと平面部分で風を受け止め、安定して浮いたのだ。
ドルドに見せると、「ふん。合格じゃ。次に課題はこれじゃ」といって、3つの魔法陣を出してきた。
「これを一つにまとめて機能させよ」
それはそれぞれ“冷・温・吹”の魔法陣だ。
それにもう一つ、魔道具らしきものを机の上においた。
「その3つの魔法陣を一つにまとめよ。そしてこの魔道具に組み込んで温度調節のできる送風の魔道具を完成させよ」
ドルドの発明品らしい。
魔道具は丸板に台座がついている。丸板に魔法陣を描けばそこから冷温の風が出てくるのだろう。
切り替えと調節のつまみまである。
俺は次の課題に取り組み始めた。
一方、リファの教育も進んでいる。
ポーションを作ると言えば一言だけど、憶える内容は結構ある。
ポーションには傷を回復する治癒、魔力回復、体力回復、解毒ポーションが複数ある。
他に、治療薬がある。
ポーション程即効性はないけど、格安で一定の効果が認められる飲み薬だ。
胃薬、風邪薬、止痛薬、避妊薬、酔い止め薬、などなど。
最後に、化膿と湿布の軟膏がある。
それらを優先順位を決めて一から作り方を教えるという。
素材の種類や生息域、取り扱い上の注意点に加え繊細な魔力操作を使うレシピの数々。
覚えることはてんこ盛りだ。
それをミトは洗いざらい教えてくれるという。
その知識はエルフ族が代々継承したエルフの宝みたいなものだ。
そんな簡単に俺たちに教えていい事なのか?
リファは疑問に思ってミトに聞いたらしい。
「何言ってんだい。エルフ族の恩人に教えるのに何の不都合があるっていうのさ。この里は貧しくてキースに返せるものなんて何も無いんだよ。せめてもの感謝の気持ちだよ。遠慮なく学んで行きな」
とミトは言ったらしい。
なんか申し訳ないというかありがたい話だ。
そんなこんなでひと月が過ぎた頃、リファも筋肉痛を訴えなくなった。
今日は体力の測定が行われた。
俺は肉体強化の使い方が多少改善しているし、リファも基礎体力が若干上がっている。
俺達の指導は相変わらずビオラが担当してくれている。
リファは柔軟で体を虐めた後、練武場の障害物のコースをひたすら走る。
砂時計で時間を計っているから、手も抜けない。
ここで鍛えれば、筋力、瞬発力、跳躍力、持久力がバランスよく身に着くのだそうだ。
それが終わるとナーシュの下で弓を射る。
矢を風魔法に乗せて命中率を高めたり、軌道を変化させたり。
それに魔力を矢に纏わせることで火矢に変えることもできる。
爆散型、粘着型、貫通力向上が可能となる。
リファの場合、魔力操作は細かく制御できるから弓術はもう達人レベルに至ってしまった。
たったひと月なのに。
ただ、リファ的には弓はあまり好みでないらしく今も新しい武器を思案中だ。
俺は、ビオラを相手に相も変わらず殴り合っている。
殴り合いと言っても、お互いに殴る場所と順番が決まっている。
殴られる際に部分強化でガードして、殴る際に拳や足に魔力を集めて威力を高める。
ひたすらその繰り返しだ。
達人レベルに至れば、武器に強化魔力を纏わせることもできるし、俺の威力があれば木剣で鋼の剣も両断できるようになると言われている。
ビオラは根っからの拳闘家だから、「武器などいらん!己が拳ですべてを粉砕するまで!」とか言って筋肉をむやみにアピールする癖がある。
そういう所がとても面倒な人だ。その度に、一々俺に視線を合わせて来るから。
何か反応してやればいいのか?肉体美を褒めるとか?
俺はそういうの絶対に嫌だ。
それが無ければマッスル美人とでもいえるんだけどね。
ある日、いつも通り鍛錬をしているところへ、村長から招集の使いが来た。
俺とリファはビオラ、ナーシュと共に村長の屋敷に向かった。
そこにはいつもの長老会議のメンバーの他にミトも来ていた。
そう言えば、ヤニムはあれから俺にまったく絡んでこない。
宴で俺が迷惑を掛けられていると公言したことが広まって、今では随分肩身の狭い状況になってしまったのだとか。
ま、ヤニムなどどうでもいいんだけど。
「呼び立てて済まんの」
里長は一同を見回した。
場の雰囲気が妙に重い。長の表情も硬い様に見える。
分かりづらいからそんな気がする程度なのだけど。
「実は、バレロの里から緊急の応援要請が来たのじゃ。バレロの里近くにデビルオーガが現れた。既に戦士3人が犠牲となっておる。デビルオーガは本来深層の魔物じゃ。ここ300年、この中層域では確認されておらん。しかし、前回は勇者を含む戦士多勢で迎え撃ち半数以上が死傷した強敵じゃ。他里の危機なれど、我らは兄弟。捨ておくわけにもゆかぬ。そこでお主達に至急バレロへ行き合同でデビルオーガの討伐を頼みたい」
戦士とは、里の中でも極めて実力の高い武芸者のことを指す。
長と他の戦士に認められて初めて得られる称号で、ハンターとは全く別物だ。
更に、戦士の中から選ばれた者が試練を許されて達成すれば勇者となる。
勇者の試練では命を落とすこともあるため、簡単に受させてもらえるものではないらしい。
ここに呼ばれたビオラとナーシュもエウロの里の戦士だ。
練武場で指導に当たる者は皆、里の戦士だ。
戦士は里の防衛にもあたるため、ハンターには参加しない。
しかし、他里の危機で狩り出されることは良くある事らしい。
「長よ。その話賜った」
ビオラとナーシュが頷いた。
「キースよ。お主にも頼みたい。受けてくれるか」
「リファーヌも連れて行って良ければ」
長はビオラを見た。
「このリファーヌも相当の実力があります。私からも同行を勧めます」
その言葉にナーシュも頷いた。
「では二人とも頼む。今回はミトにも行ってもらう。どれほどケガ人が出るかも分からない。救える者は多い方が良いでな」
ミトが小さくうなずいた。
すぐに準備に取り掛かって、再び長の屋敷に集合。そして出発した。
ミトの治療院には薬草畑がある。その管理をミトは知り合いに託した。
「本当なら留守は娘に頼みたいところなんだけどね、うちの馬鹿娘は里を出て行ってしまったから」
と言っていた。
この少女のようなミトに娘がいたとは。
この里に来て一番の驚きだった。
これも魔境あるあるでいいのか?
バレロの里までは4日掛かった。
里の雰囲気もエウロの里に似ている。
違うのは知り合いがいなくて、挨拶をした相手から怪訝な顔をされることだ。
「エウロに現れた人の子が黒狼を大量討伐したとか、火焔熊を倒したとか伝わっているが本当か?」
と言いつつ俺とリファを観察している。
簡単には信じられないよね。分かるよ。
「本当さ。アシェドやリドルが確認している。火焔熊に至っては私も角や毛皮を手にした」
ビオラが話しているのはバレロの里の筆頭戦士だ。
リックと言う名の大剣使いだ。
「そっちが実力を保証するなら俺達は何も言わない。ただ、相手はデビルオーガだ。戦いに連れ出して死んだからと言って文句を言うなよ。君たちも命を落とす可能性がある事は承知しといてくれ」
最後の方は俺達に向かって言った言葉だ。
「はい。俺はキース。こっちはリファーヌ。二人とも魔法メインで闘います。よろしくお願いします」
一応、きちんと挨拶はした。
全部で戦士18人、ハンターから選抜25人、それに俺達2人とミトがバレロの里に集まった。
このメンバーで討伐隊を組む。
そこに一人ご老人が出てきた。バレロの里長らしい。
「皆の者、バレロの危機によう集まってくれた。皆の勇気と、貴重な戦力を割いてくれた各里の皆々に感謝する。確認されておるデビルオーガは1体じゃ。どうか気を付けて討伐に当たってほしい。バレロの里の平和のため、どうかよろしく頼む」
「俺はバレロの筆頭戦士のリックだ。今回俺がこのメンバーを統率する。異論はないか?では早速、状況の共有と連携などの詳細を決めたいと思う」
リック主導で討伐の詳細が決められていった。




