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リファの復活

 宴の広場は豪勢な料理が並んで、楽隊までいる。

 俺には一番前のど真ん中、里人に向かって座る主賓席が用意されていた。

 周りに長老衆とハンターのリーダーたちが一列に座っている。


 そして俺のすぐ両隣に里長とヤニムが座った。

 早速宴が始まり、大勢の人が俺の下へねぎらいと礼を言いに来た。

 それをなぜかヤニムが受け、言葉を返している。


 こいつ俺への労いを、自分への感謝の言葉とでも勘違いしているのではないか?

 まるでヤニムの指示で俺が頑張ったみたいな。

 だから指示したヤニムが一番の貢献者なんだぞみたいな顔でふんぞり返っているよ。


 腹立つ!

 長老会議で嫌味しか言わなかったくせに!

 段々むかっ腹が立ってきたけど、俺は我慢した。

 だってヤニムよりも俺の方が心広いから。


 気分は祝い酒の筈が、我慢比べの酒になったよ。

 俺のは果実水で酒じゃないけど。

 楽しめる宴もヤニムの振舞いが鼻に突いてイライラしっぱなしだ。


 頃合いを見て席を立とうとしてもヤニムが引き止めて来る。

 そして気色の悪いおべっかと、人気の横取り的な思惑が透けてとにかく気分が悪い。

「リファに会いに行ってきます」

 はっきり告げると、「明日にしなさい。今は里の住人からお前が認められるかどうかの大事な所なのじゃ。まだ里にいたいのなら今日は我慢しなさい」と言われた。


 もう既に俺は認められている様にしか見えない。

 だから里長に、リファに会うために席を外したいと願い出てみた。

 里長はよしよしと簡単に頷いてくれた。


 でもヤニムは、

「ダメじゃ。主役がこの場にいなくてどうする。お前は勝手にここを動くでない」

 と睨んできた。


 ちょっとカチンときた。ヤニムより心の広い俺でもさすがに。

「里長の許可は貰いました。俺はここで退席させてもらいます」


「何じゃと。長老のこの儂の言う事が聞けぬというのか!」

 ヤニムが怒声をあげた。

 周囲の皆の注目が俺達に集まった。


 怒声をあげれば俺が怯むとでも思ったか?

 お前の威圧など角兎と大して変わらん。阿保か。

 俺は急に馬鹿々々しくなった。この程度の奴、もうどうでもいいや。

「ヤニム殿は、俺が怪我しても治療を受けさせないとか言ったじゃないですか。これまで散々嫌味しか言わなかったのに、今になってこの(てのひら)返しは何なのですか?」

 俺も声を荒げた。


「何じゃと」

 ヤニムはますます睨みつけて来る。


 俺はサッと立ち上がって、「皆さん!俺の話を聞いてください!」

 と大きな声で叫んだ。


 奏楽が止み、皆の視線が俺に集まる。


 ザワザワからヒソヒソへ。そしてシンと静まり返った。

「皆さん!俺の話を聞いてください!」

 もう一度叫んだ。

 シンとして皆が俺に注目している。


「ちよっと、おい!待て!おい!何を言う気じゃ!」

 いきなり俺が何を言い出すのか不安にでもなったか?

 ヤニムが俺を思い止まらせようとワタワタ慌てている。


 俺はジロリと嫌悪感丸出しの目でヤニムを睨みつけた。

「俺はあなたの人気取りの為に利用されるつもりなんてない!それでもまだ俺を利用するつもりなら、俺はすごく不愉快であなたにとても迷惑していると、ここにいる全員に伝えようと思います」


 静まり返っているから、それなりに多くの人の耳に俺達のやり取りは聞こえたに違いない。

「わわ、分かった。席を外すことを許す」


 よし!


「皆さん!俺は疲れて眠くなりましたのでお先に失礼させていただきます。おやすみなさーい!」

 大きな声で注目する人達に告げてミトのいる治療院へと走って帰った。



「ミト、ただいま!リファの具合は?」

「騒々しいね、まったく。そんな大きな声出さなくても聞こえるよ!」

 ミトが奥から出てきた。

「リファーヌは奥にいるよ。起きてるから、会って話しておやり」

 俺がリファの寝ている個室へ入ると、「キース!」とでっかい声で迎えられた。

 元気そうだ。はぁ、良かったー

 リファの笑顔に物凄くほっとした。


「リファ。具合どう?」

「うん。すっごく良く寝たって感じ」

「そりゃずっと眠っていたから当たり前だよ。キース、薬はちゃんと効いてるよ。毎日投薬は続けるけど、明日からは普通の生活で大丈夫だ」


 ミトから一番聞きたかった答えが聞けた。

 リファは“大丈夫”だって!



「ミト、ありがとう!リファを救ってくれてありがとう!」

 リファが元気になった。こんな嬉しいことはない。


「よしとくれ、治療師が一人の患者を助けただけさ」

「それでもありがと。ミトにお礼がしたい。薬草でも魔物でも俺がなんでも採って来るから遠慮なく言ってよ」

「あんたにはもう里の為に十分してもらったさ。でも何か必要なものが出来たらあんたに頼むことにするよ」


 それから、眠くなるまで、俺はリファと話をした。

 リファがパラサリアの蔦にくるまれてから今日までの出来事を。

 勿論俺がどれだけ心配したかを中心に。


「キースごめんね。でも、これでキースを心配する私の気持ちが分かったでしょ?」

「うん。俺リファにこんな心配かけてたんだね。今までごめん。でも、リファが死ななくてよかった」


 お互い納得したところで、おやすみとなった。

 ちなみにミトは宴に参加しにいったようだった。



 翌日、リファの外出が認められた。

 寄生された時に受けた傷は治ってる。でも、足の骨のパラサリアが死滅したわけじゃない。今後投薬を重ねて徐々に溶かすように死滅していくそうだ。

 でも、乗っ取られるリスクは無くなったって。

 激しい運動もOK。魔力枯渇もOK。

 半年間投薬し続ければそれでいいらしい。


 リファの朝の診察のあと。

「あんた昨日の宴でヤニム相手に随分派手に立ち舞わったっていうじゃないか」

 やべ。ミトにバレてしまった。

「やっぱりまずかった?俺色々と腹が立っちゃって」

「まさか。でかしたって褒めてるのさ。長のギリュの人の良さに付け込んで、ヤニムはやりたい放題さ。こっちはいい迷惑してんだ。他の皆もね。ただ、権力があるから誰も逆らえない。逆らえるとしたらあんたみたいな余所者で英雄的な人気がある者だけだろうね。とにかく私はすっきりしたよ。よくやった」


 凄くいい笑顔で褒められた。

 うん。リファも順調に回復してるし万事問題なし。いい感じじゃないか。


 という事で、今日はリファと改めて里の見学に来ている。

 今は知識の大樹の前でその巨木を見上げているところだ。


「キース知ってる?遥か昔はこの知識の大樹に触れると頭の中に必要な知識が流れ込んだんだって。でも、それもずっと昔に途絶えたって。今は触っても何も教えてくれないってミトが言ってた」

「不思議な話だよね。この樹はエルフ族の誇りなんだって。信じられない話だけどミトが言うのならその話は事実なんだろうね」


 リファが手を幹に置いた。

 つられて俺も。

 ・・・・・・

 さすがに何も起きなかった。



 それから練武場へ向かった。

「俺、ここで修業したいんだ。リファも一緒にどう?」

「私もする!今回思い知ったの。キースが守ってくれても死ぬんなら仕方ないかなってずっと思ってたけど、やっぱり私まだ死にたくない。私もう少しキースと一緒にいたい」

「・・また恥ずかしいことを平気で言うね」

「だって。そう思ったんだもん」

「じゃあ、一応ミトに聞いてOK貰わないと」


 その日は見学だけにして、ミトから練武場に通う許可をもらった。

 勿論練武場側には既にお願いをして快諾してもらっている。



 夕食時。

「リファーヌ。あんた薬草学を学ぶ気はないかい?」

 ミトがそんなことを言い出した。


「薬草学はね、色々と為になるのさ。ポーションを自前で作れたら高い金を出して買わなくても済む。売れば危険な冒険なんてしなくても稼げる。何より人から感謝されるし自分を誇れる」


 リファは俺の顔を見た。

「うん。ポーション作れるようになりたい」

「じゃ決まりだ。リファーヌは今日から私の弟子だ。私のことは師匠とお呼び。キースあんたはどうする?」

「うーん、二人で同じこと学ぶより別の事を学びたい。魔法陣とか面白そうなんだけど」

「じゃ、ドルドだね。私から連絡は入れとくから自分で説得してきな」

「ドルド?」

「この街の魔道具職人さ。職人というより研究者の方がしっくりくる奴だ。偏屈だが色々と知ってるからしっかり学びな」


 翌日、俺とリファは朝から練武場へ向かった。

 皆に入門の挨拶をして軽く掃除。

 すぐに体力と保有魔力、魔力操作の細かな測定が行われた。


 体力は肉体強化した体力としない基礎体力を比較する。

 走ったり飛んだり押したり持ち上げたりしながら瞬発力、持久力、筋力を比較する。

 俺は基礎体力は十分。強化体力が著しく劣っていると判断された。

 リファはその逆。基礎体力が著しく劣り、肉体強化で理想的だそうだ。

 魔力量はお互い測定不能。里にある測定用の水晶が限界値を示した。

 魔力操作はスピードとパワーで俺の勝ち。精密なコントロールでリファの勝ち。


 こうした結果から、それぞれに鍛錬の方向性が示された。


 俺は肉体強化の部分的精度を上げる事だった。

 パワーとスピードに頼り切って、魔力のロスが非常に大きく無駄遣いなのだそうだ。

 そう考えると、死にかけた時はずっと身体強化を掛けて走り続けていた。でも、黒狼討伐の時は身体強化を使っていない。それであの時とこの時で使用魔力量の差が大きかったのかな。

 繊細な制御を覚えることで、もっと早く、もっと長く、力強くなって強くなれるらしい。

 基礎体力を維持しながら、拳闘術で肉体の使い方を教えてもらうことになった。


 専任師匠にビオラという女マッチョが選ばれた。

「お前はその年齢で驚くほどの才能とすでに強さを持っている。正直私よりも遥かに強い。だが、接近戦に関しては私に絶対勝てないだろう。半年で本気の私を倒すまでになってもらうぞ」

 と意気込みを語っていた。

 普通は、意気込むのは生徒の俺の方だと思うのになぜかビオラの鼻息が荒い。


 リファは、基礎体力をつける事。柔軟な体を作る事。それに弓を覚えることに決まった。

 弓に決まったのは、リファも拳闘か剣術を勧められたけど本人が拒否したからだ。

 拒否の理由はビオラのマッチョ体型を見て、あんな風になりたくないと思ったらしい。

 それよりも魔力操作で何か得意な武器を使えるようになりたいと考えた。

 毛グルミ戦で魔法の効かない魔物がいることを知って、物理戦闘の重要性を認識したからだ。

 ひとまず弓を習得しつつ、何を選ぶか決めるという話になった。

 担当はビオラとナーシュだ。

 ナーシュは弓の達人のおじさん。風魔法で軌道を変えて100発100中の凄腕弓士だった。


 早速、ビオラ師匠の指導が始まった。

 リファは柔軟が苦手らしく半泣きで頑張った。そして強化無しで走って走って走り回る。


 俺はビオラ相手に殴り合いだ。

 肉体強化をしてピンポイントでブロックすることを体で覚える。

 受け損なうと吹っ飛ばされる、まさにスパルタだった。

 俺も半泣きで頑張った。


 半日で練武場での鍛錬を終えて、リファはミトの指導を受けに行った。

 なんか見るからにボロボロだよ。

 大丈夫かな?続けれれるかな?と心配して見ていると、

「大丈夫。私頑張るって決めたから」

 と返事が返ってきた。



 俺はというと、ドルドという魔道具師に会いに行く。


 里の外れに近い場所にドルドの工房があった。

「ごめん下さい。ミトの紹介で魔法陣を学びに来たキースと言います」

 工房奥の机に向かう背中に向けて挨拶をした。

 無視をされた。

 あれ?


「ごめん下さい」

 結局それから3度声を掛けて「うるさい!聞こえとるわ!」と怒鳴られた。


「ふん。まだ子供じゃないか。里の英雄だか何だか知らんが儂が教えて才能ないと思ったら即首にするからな」

 いきなり喧嘩腰だった。


 見た目は皺の多い美形のお爺さん。顎髭が長くて、何かごみがいっぱい絡まっている。


「ミトとギリュからお前に魔法陣を教えるように言われたから仕方なくじゃ。一度教えたことはその場で憶えろ。二度は教えんぞ」

 とこんな感じだ。


 師匠が厳しいのは構わない。でも、首にされるのは困る。

 必死に覚えるしかないな。

 一日おきに午後教えてもらうことになった。

 授業料は、新鮮な肉と野草。

 さすがに無償という事はなかった。


「さて、今日はこれじゃ。」

 そう言って渡されたのは、一枚の黒い板と一枚の紙。

 紙に魔法陣が一つ描かれている。


「こいつは魔力を感知するとそこが白く浮き出る魔力感知板じゃ。ここに己の魔力でその紙に書いてある魔法陣を書き記せ。3日やる。それでできなければ首じゃ」


 紙に描かれているのは簡単な着火の魔法陣だった。それなら3日と言わず3秒でできる。

 俺は黒い板に正確に写して見せた。


「何じゃ、ど素人かと思いきやある程度はできるようじゃの。ならば他に何ができる」

「えっと、聖魔法の結界魔法陣が張れます。あと、火矢、氷弾、土弾、風刃なんかの魔法陣も描けます。戦闘では殆ど使ったことがないけど、一応できます」


「そうか。ならばこれじゃ。この感知板に自分で考えて魔法陣を描け。描くのはこの石ころを風で浮かせて空中で留め置く魔法陣じゃ。期限は3日。できんからと言って首にはせぬ」


 渡された石は、少し平べったくて片側が肉厚の石だった。

 重心が偏っているから、ただ浮かせることはできない。

 思い出すのはリファが良く魔力操作で小石を浮かべていた姿だ。

 俺も自分の風の魔力で小石を浮かべてみる。


 バランスよく浮かせられたところでその情報を術式に変換して魔法陣に組み込むことにした。

 魔法陣には中心に魔力吸収の術式。その外に発動条件、最後に発動の術式を組み込む。

 吸収と発動は基本変わらない。問題は発動条件だ。

 今回は風魔法を使う。風圧と方向を組み込めばそれで終わり。


 さて、と試してみた。

 コロン

 落ちた。予想していたけどダメか。

 ならばと発動条件をいじってもう一度試す。

 カランコロン

 今度は弾け飛んでしまった。

 ならば、吹き上げる風に強弱をつける。重心側だけを強く。或いは、外周だけ強くして中に弾く感じで。

 カラン

 コロン

 ダメだ。


 俺はその日考え試し続けたけど、夕方になり時間切れになった。

 中々奥深い。面白いじゃないか。


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