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薬草採取

 移動はほぼ全力の駆け足だった。それにたまに樹の上を走る。

 俺も身体強化を練習しておいて本当に良かった。

 でなれば長時間この速度についていけなかっただろう。


 昼まで移動し、そこで昼食を取った。


 その時に他のメンバーとゆっくり話すことができた。

 リドル組の面々は皆気さくで、俺を気に掛けてくれる優しい人たちばかりだった。

 そして、全員が風、土、水魔法のいずれかの使い手で、頼りになるハンターだ。

 見た目は20代半ば。実際は100歳を超えているという。

 そしてリドルは里長の孫だった。

 だから若いのに里の代表の一人みたいな顔をしてあの場にいたんだ。

 てっきり、俺を発見した人だからと思っていた。


 エルフは長命種だと聞いてはいたけど、実際に会ってみて実感した。

 里長はなんと500歳を超えているらしい。

 エルフってすげぇ。


 黒狼の話も聞いた。里の者はブラックウルフとは呼ばないらしい。

 8年位前から群れが里周辺に現れて、大きな群れになって分裂し、また増えてを繰り返したという。

 長年の縄張り争いでエルフ族を見ると徹底的に攻撃をしてくる。

 これまでに多くのエルフが殺されて来た。


 里には迷いの結界が張られているから攻められることはない。

 迷いの結界とは、里の周辺に現れる者を里に近づけさせないトラップだ。

 里への道を隠して違う方向へ誘導する罠があって、人も魔獣も近づけさせない。

 それでも里外へ出ると襲われるからハンターしか外出を許されず、里の者はかなり窮屈な思いをして暮らしているという。

 そんなわけで、黒狼を大量討伐した俺を英雄視する者もいるのだとか。

 マジか。

 リドルのお陰で凡そ里の事情と俺の立場は理解できた。


 今向かう先は、リリボスの谷。

 そこに生息する虫を捕まえる。滋養強壮剤の元だって。


 次は百年湖と呼ばれる湖だ。

 百年周期で別の場所へ湖が移動するんだとか。それも水中の魔物や魚もまとめて。ほんとか?

 これは間違いなく魔境あるあるだ。

 そこでは貴重な薬草が取れるらしい。


 その後、リファの特効薬を捕まえて、余裕があれば2、3か所の薬草の群生地を見て回って帰還する。

 3日間の日程だ。


 虫だろうが薬草だろうがさっさと採集して特効薬を探しに向かいたいのだ。

 必ず特効薬を俺がこの手で捕まえて見せる。

 俺は強く意気込んでいた。

 そして再びリリボスへ向けて走り始めた。


 俺達は順調に進んでその日の夕方リリボスの谷に付いた。

「キース。中々やるな。君に合わせて進もうと思ってたけどその必要がなかったよ」

 リドルから野営時にそう言われた。

「そんなことないですよ。俺もうヘトヘトです。野営も皆さんに任せきりで・・」

 実際、俺はかなりへばっていた。病み上がりが理由という話じゃない。

 リドル達は荷物がほとんどないとはいえ、高速で長時間移動していた。全員が。

 それはすごいことだと思う。

「野営の準備はこっちでするからいいさ。人間族の子供が俺たちについて来れたのは正直驚きだよ」

 だから、驚いてるのは俺の方だってのに。


「ここでは、夜に岩陰から這い出るジャムジャムという虫を捕まえる。そいつの卵が栄養価が高くてね、良い精力剤になるんだ。それに生息地が少なくて、うちの里のいい稼ぎになっているんだ」

「どこかに売るんですか?」

「他の里にな。年配エルフはこぞって欲しがる」

「・・へえ」


 ジャムジャムは1メトルのムカデに似た虫だった。

 岩の隙間に深い穴を掘って日中は出てこない。夜、尻尾の先端に緑色の光を灯して集まる虫を捕食しているところを捕まえる。

 光っているからジャムジャムの居場所はすぐに分かった。


 ウゾウゾと(うごめ)くたくさんの足。大小の牙がある。大きい方の牙で捕まえて、小さい方で獲物を噛みちぎるようだ。見ていてすごく気持ち悪い。

 リファがいたら悲鳴を上げて逃げていたかもな。


 それをハンターは素手で頭を掴んで腹を見る。卵を持っていたら袋に掻き落として行く。

 見ているだけで鳥肌が立った。

 だって、ジャムジャムが身体をくねらせてハンターの人の腕に絡んでるんだよ。

 俺には無理だ。リファのことばかり言えないけど、気持ち悪いったらありゃしない。


 1時間も作業をすれば袋が薄い黄色の卵で満たされた。


「長いこと来ていなかったから大量に湧いていたな。こんな一杯取れたのは初めてだよ。里の皆もきっと喜ぶさ」

 ほくほく顔でリドルが言う。

 俺はあの卵が(かえ)った小さなジャムジャムがウジャウジャと袋から這い出るところを想像していた。

(絶対にあの袋だけは背負いたくない・・)口に出して言わないけど。


 翌日はリリボスの谷を川上へ(さかのぼ)った。

 昼前に百年湖に到着。

 途中で捕まえた角兎と山鳩で食事をして薬草採集に入った。


「湖には厄介な魔物がいるんだ。水際10メトルには近づくな。湖からも襲撃があるから気を抜くなよ」

「えー水浴びしたかったのに。何がいるんですか?」

 リファじゃないけど、たまにはクリーンじゃなくてちゃんと水浴びをしたい。

 さっぱりして気持ちいいからね。ちょっと楽しみにしていただけに残念だ。


「グレートアリゲーターだな。巨大ワニの魔獣だ。ほら、あれだ」

 リドルの指先が岸に上がって日向ぼっこをしているワニを差した。

 7メトル位はあるワニ魔獣が寝そべってる。

 でも、魔境最深層の湖にいたのはこれの数倍の大きさだった。それに比べると随分小型に思えてしまう。


「じゃあ、ここの湖でも魔獣は仲良く共存しているんですか?」

「君は何を言ってるんだ?魔獣同士が仲いいわけないだろ」


 常識外れの馬鹿なことを聞いてしまったらしい。

 たしか、最深層の湖では、巨大ワニもカメも蟹も鳥も争っていなかった。魔素が濃いと性格が温厚になるのだろうか。


「おい、阿保なこと言ってないでさっさと採集を始めるぞ」


 リドルの指示で俺も採集に加わった。

 薬草の類は水際で採れる種類が多い。

 今回は、熱冷ましのライラ草と傷薬のカスピ草の花を採る。

 ライラ草は一般的な薬草で根を取らない様に茎を切るだけだ。俺は解体用のナイフで茎の根元を切ってゆく。

 小一時間で作業は終わった。


 カスピ草の花は青い綺麗な肉厚の花弁をむしり取る。これはかなりの希少種だ。綺麗な水辺と濃い魔素がないと発芽しないらしい。

 こちらも小一時間で採集は終わった。


 次は、ガマモドキの穂を刈る。

 ガマモドキの穂は乾燥させて燃やすと魔獣が嫌う魔除けの煙を発生させるのだそうだ。

 これは丈が長い、浅い水辺に生える植物だ。

 今回は8人が背負子に背負う分を刈り取る。


 水の中に入るから、ワニ魔獣に注意が必要だ。

 水魔法の使い手が湖面を凍らせた。

 寒さに弱いワニ魔獣はこれで近寄らなくなる。それでも見張りを5人置き、残りで手早く刈り取ってゆく。

 俺も微力ながら伐採に回って作業に当たった。


 刈り取り作業も佳境に入ったところで、森から魔物の気配を感じた。

 すぐにリドルが全員を集めて戦闘態勢に入った。

 ここは水場。良く魔物と鉢合わせることがあるけど、こちらの人数を見て大体去ってゆくらしい。


 でも、今回現れた魔物は逃げることなく俺達の前に立ちはだかった。


 現われたのは、赤黒い熊の魔獣だった。あの白コングを倒した二本角の奴だ。

 ただ、あそこまででかい個体ではない。


「ちっ、火焔熊だ。こりゃただでは済まないぞ。戦闘は極力回避。全員荷物を捨てて離脱する」

 リドルはあっさり荷物の放棄を決めて、仲間に撤退の陣形を素早く指示した。


 背後は湖、前に火焔熊。左右から抜けようとすると、火焔熊も素早く動いて退路を塞ぐ。

 これは戦うしかないか?

 白コングとの闘いは壮絶だった。あれを見ているから勝てる気がしない。

 確か、打撃に耐性を持っていて角の振り回しが早くて危険だ。あとは・・あの時よりも個体が随分小さい。


 目の前のこいつは4メトル位か。

「リドル!俺が攻撃するからその間に皆離脱して。離脱後に撤退しながら攻撃を。隙を見て俺も逃げます」


 俺は両手に魔力を集めた。

 火焔熊というくらいだから水魔法が弱点なのか?

 とりあえず、「アイスボール!」


 バカン!

 角の一振りで氷球は砕け散った。

 GWooo!


 威圧入りの一声だ。

 でもあまり怖くない。魔境の深層でその辺の耐性が付いたのかもしれない。

 でも突撃してきた!

 ヤバ。


「ウォーターフロー!アイスフィールド!」

 俺は慌てて、大量の水を足元に押し流して凍らせた。

 火焔熊の四つ足が凍り付いて身動きを止めることができた。


「今の内に離脱!」

 全員荷物をそのままに火焔熊の背後へ走り出した。


「氷旋風!」

 氷の欠片混じりの竜巻を起こして魔力をどんどん込める。

 気温を下げて竜巻内の氷を火焔熊にぶつけてみた。

 ゴオオオー

 GWooo!!

 かなり嫌がっているみたいだ。


 いいぞいいぞ!と思っていたのも束の間。

 竜巻の中心で火焔熊の体が赤く光り出した。

 それと同時に蒸気がモクモク立ち上がる。


 自分の魔力を高熱に変換してやがる。

 四つ足を拘束していた氷が融けたのか、動き出した。

 こっちへ向かってくる。

 ヤバイ!


 咄嗟に落とし穴を作った。ほんとに何も考えずに反射的に作ってしまった。

 慌てて作ったせいで、自分の魔力と威力が上がっていることをすっかり忘れていた。

 多分、湖の脇で土自体も柔らかかったのだろう。

 20メトルになろうかという深い落とし穴になってしまった。

 水蒸気の渦から勢いよく飛び出した火焔熊は頭から穴にはまっていった。


 ドボン!

 湖のすぐ脇だったせいか、穴の中は水が溜まっていたようだ。

 穴の中から凄い勢いで水蒸気が吹き上がった。


 GUGYAAA!

 バシャバシャと水が跳ねる音と、火焔熊の悲鳴が聞こえてきた。

 興味が出て中を覗いたら暴れて暴れてそれは大変なことになっていた。


「おい、隙を見て逃げるんじゃなかったのか」

 すぐ横にリドルがいて一緒に穴を覗き込んでいる。

「もういい。いっそ水攻めで楽にしてやれ」


 俺は言われた通り、冷水を注ぎ込んでしばらく様子を見ていると、火焔熊は元気が無くなって動かなくなった。


「はぁ。こいつの討伐は他里の強戦士も借りてきて30人くらいでやっと倒せる相手だぞ。それを君は・・」


 他の人も集まって皆で穴を覗いて憐れな火焔熊を見ている。

 何しろ逆立ちというか尻が上を向いているから哀れに見える。こうゆう無様な死に方はしたくないものだ。


「おい引き上げてくれ。こいつはすごく価値ある素材なんだ。多少荷物になるけど頑張って持って帰りたい」

 そうリドルに言われて悩んでしまった。


 落とした者を埋めたことはあっても、埋めた者を引き上げたことがない。

 結局石杭ならぬ石柱を突き上げる形で何とか引き上げることに成功した。

 考えれば魔法でいろいろできるんだという事を改めて学んだ。


 それからは、ガマモドキの採集を中止して火焔熊の解体に入った。

 毛皮、角、肝臓、胆のう、胃袋、心臓、魔石、舌、腹回りの肉を回収してガマモドキを乗せる筈の背負い籠に括り付けた。


 ガマモドキも刈った分はしっかり積み増しで籠に乗せ替えて俺達は百年湖を後にした。


 次はいよいよリファの特効薬を捕まえに行く。

 リファの特効薬の持ち主は、モモガリスという小さな魔物だ。

 手足の飛膜を広げて空を飛ぶリスだ。

 生息域がこの一帯しか確認されていない超レアものの魔物という事だ。


 その新鮮な内臓にリファに巣くっているパラサリアの根を溶かす成分があるらしい。

 パラサリアだけでなく、石化や呪毒なんかも溶かしてしまうらしい。

 森と共に生きるエルフ族ならではのレア知識だろうか。


 ここからは森の中をひたすら歩き回って樹上を探す。

 生きて掴まえる必要があるのと飛びまわるモモガリスの特性が捕獲の難易度を上げている。

 俺は首が痛くなるほど上を見上げていたけど、リドル達はモモガリスの住処にしている樹に心当たりがあるみたいだ。

 特定の樹に当たりを付けて下から覗き込んでいる。


 ピュイッ!

 短い口笛に振り向くと一人が樹上を指さしている。

 俺も見たけど見えない。

 リドルが籠に装着していた細長い木筒を取り出した。

 腰巻から小壺と針を取り出して睡眠毒を塗り付ける。そっと構えてヒュッと吹くとヒラッっと何かが舞って隣の樹に飛び移った。

 それが10秒もしない内に落ちてきた。


 駆け寄ると背中に針が刺さったモモガリスがいた。

 おおー

 思わず拍手喝采だ。


 針を抜かれたモモガリスはふさふさの尻尾を抱え込む様に手足を縛られて籠に吊り下げられた。

 これはこれで可哀想な気もする。でもリファのためだ。これは必要な犠牲なのだと自分に言い聞かせる。

 ミトのオーダーは最低1匹、できれば3匹欲しいという話だった。

 だから、頭上を気にしながら俺達はその一帯を虱潰しに探して回った。


 その日の野営時、モモガリスの習性の話を聞いた。

 夜行性で昼は樹の巣穴で眠っているのだそうだ。だから昼に見つかることは稀だとか。

 でも、夜はさすがに見えないし探し回るわけにもいかない。

 けど、その情報は先に言ってほしかった。


 つまり、夜の今ならあちこち飛び回っている可能性が高いということだ。

 何だ。そうだったのか。

 そう言う事ならと樹上に薄い霧を発生させてみた。

 広く覆って空中を飛ぶ生き物を感知する。


 いた!魔力を通して弱い雷撃を発生させると落ちてきた。

 それも2匹。

 感知したのは一匹だったけど、木に張り付いていたものも1匹落ちてきたらしい。

 他に虫がいっぱい。鳥も少々。


 無事2匹、都合3匹を捕まえることが出来た。

 ただ、稲光と轟音で皆をすごく驚かせてしまった。

 それでリドルから怒られた。

「君ね、何かやるなら事前に言ってくれよ!皆驚くじゃないさ!」

「はいすみません・・」


 こうしてモモガリスの捕獲は終了した。


 翌日、一日を掛けて里へ帰還した。途中2か所の薬草の群生地にも寄った。しっかり採集したからノルマは果たせたと思う。

 幸い黒狼にも見つからず、誰も怪我無く無事な帰還に、暗くなっていたのにもかかわらず、里の住民が大勢出迎えてくれた。


 その上、火焔熊の素材を持ち帰ったことで、急遽お祭りが開催されることになった。

 お祭り騒ぎではなく、お祭りをだ。

 里の人々にとって、火焔熊は祭をして祝いたくなるくらいに貴重なものだったらしい。

 リドル組の面々は得意満面の笑顔だし、住民は太鼓に笛と拍手と歌と踊りでもてはやした。

 俺はというと、なし崩し的に罪は許されたと受け取っていいのだろうか。


 里長始め、大勢からお礼を言われて返答に困ってしまった。

 そこまで褒められても照れ臭いだけだ。ほどほどにして欲しいよ。


 主席に据えられて困っているところにミトが来た。

「あんた大したもんだよ。まさか火焔熊を持って帰ってくるとはね、10年に一度の快挙だよ。里は潤うし、貴重な薬も作れる。いい防具もできる。贅沢な珍味も味わえる。何より、森を焦がす火焔熊は悪の総大将みたいな奴だからね。それを倒したとなりゃ皆も喜ぶってもんさ。あんたもリドルみたいにドヤ顔でふんぞり返ってりゃいいんだよ」


 ミトは酒臭かった。

 顔はしらふで仕草が酔ってる。

「そんな事よりリファの具合を教えてよ」

「心配いらないよ。私がついているんだ。モモガリスがあればすぐに良くなるさ」

 そう言ってクピっと瓢箪(ひょうたん)酒を飲む。

 なんか酒を飲む仕草が様になっているよ。

 少女のような見た目だけど何歳なんだろ。


「これであんたを糾弾する連中も黙るしかないね。万事いい具合じゃないか。私もあんたが気に入った。この里に好きなだけいるといい」

 そう言ってまたクピっと飲む。


 俺は早々に退散してリファの眠る治療所に戻った。

 リファの顔を見るとすごく安心する。

「ただいまリファ」

 手を握って体温を確認する。問題なし。

 よく眠っている。


 もうちょっとで良くなるからね。

 すぐにミトが治してくれる。

 だからもう少しだけがんばれ。

 そして早く元気になってまた一緒に旅を続けよう。


 リファの寝顔に俺はそっと囁くようにして話し続けた。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

もし宜しければ、☆評価、或いはブックマーク登録をお願いしたいと思います。


この後も新たな展開が続きます。

どうぞ、お楽しみください。

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