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山脈越え 2

 俺達は、目の前の岩山を登ろうとして(たたず)んでいる。

 岩山と言ったけど、エルベス山脈だ。

 絶壁という程じゃない。

 歩けそうな場所もあるし休めそうな場所も所々ある。

 絶壁に近い場所ももちろんある。そこを回避してどう登るかを考えているのだ。


 ひとまず目指すのは左上の岩棚。

 その先は少し緩やかになっているからきっと歩けるだろう。

 難所はその先にある岩壁だ。ゴツゴツしているから手足を掛けることはできそうだ。

 で、そこを登り切った先が見えない。


 俺が先頭、リファが後ろからついてくる。そう順番を決めて岩壁にとりついた。

 30メトルをよじ登ったところで合図をするとリファが登り始めた。

 リファが登っている間、俺は見張りをする。


 ここから見る魔境は果てしなく広がっている。実に雄大な景色だ。

こうして見ると、あんな深い魔境をよく越えられたと思う。

 今見てもなんて無謀な真似をしたのかと信じられない気持ちになってしまう。


 リファに手を貸して、広い足場に引っ張り上げた。

 俺は次の壁にまた取りついた。


 昼前には目標の岩棚まで辿り着いて、そこからは稜線の様になっているところを歩いた。

 空気が薄いのか、やたら呼吸が荒くなる。


 無理せずに休みを多く取ってゆっくり進んだ。

 2時間後、稜線を遮るように切り立つ壁の前で休憩をした。

 ここまで魔物はいない。

 空は澄んで風が冷たい。


 今日はここまでにして、岩壁に穴を空けてそこで野営をした。

 夕方、突然天気が崩れてきた。

 無理せず先に進まないで本当に良かった。

 こんなところで雨に濡れたら滑るし寒いしで滑落死する運命だった筈だ。

 我ながら良い判断をしたと自分を褒めてやった。


 翌日、十分に日が昇ってから俺達は動き出した。

 分かっている範囲での一番の難所だ。慎重にごつごつした岩肌に手を掛けた。


 たまに強風が吹く。

 強風はずっと吹いているけど更に強い風が吹き降ろすように、時には持ち上げるように吹くことがある。

 そういう時は壁に張り付いて身じろぎをせずにやり過ごした。

 二人が立てるほどのスペースを見つけてリファを呼んだ。リファが到着すると休憩をしてまた俺が登る。


 その繰り返しで何とか登りきることができた。

 そこからはこれまで見えなかった西側の魔境が一望できた。

 俺達の行く手を阻んだ谷も良く見える。

 太く長く一直線に南へ延びて魔境の奥に消えている。


 ここから見ると、エルベス山脈はまだ先にあった。

 麓からは見えなかったけど、今登っている一山を越え更に2山目、そして3つ目の山を越えてやっとあの雄大な山に辿り着けるようだ。

 徐々に高くなる山を越えたり下りたりしなければならないらしい。


「まだ先は長かったね。でも、がんばろうね」

 リファが慰めてるのか励ましているのか分からない事を言う。


 リファの言う通り、まだまだ先は長い。

 でも行けないことはなさそうだ。


 ベックは覚悟を決めろと言ってた。信じて進めとも。

 だから、前だけを見て信じて進むことにする。


「うん。あの山を越えたらジルべリアだ。いくらでも頑張れるよ」

 俺は覚悟を持ってリファに言った。



 次は、一度下る必要がある。ゆっくり慎重に足場を探して岩場を降りて行く。

 その先は傾斜の激しい上り坂だった。

 その地面は崩れた石が斜面を埋めている。

 ところどころ大きな岩が突き出ているけど、岩なのか石なのか判断できない。

 下の石を崩したら、上からあの大きな岩が転がって来たなんてこともありそうだ。


 その日はガレ場に入るのをやめて岩肌に野営用の穴を空けた。


 翌日。

 ガレ場の谷をリファと並んで登ってゆく。

 俺が崩して転がった石がリファを直撃してもいけないからここは並んで登る。


 足元はひどく(もろ)くてすぐに崩れてしまう。

 慎重に、時には土魔法で足場を整えて一歩一歩ゆっくり進んで乗り切った。


 そこからはまた稜線を歩く。崩れやすくて肩幅より少し広い位の道だ。

 風も強いし落ちれば谷の底まで転がり落ちてしまうだろう。


 俺達は無言でもくもくと歩を進めた。

「キース、あれ見て!」

 リファが突然叫んだ。


 指さす方向に大きな鳥が一羽いる。上昇気流に乗ってバランスを取りながらこちらを向いていた。

 魔鳥だ。

 ゲエェェー


 この鳴き声は聞き覚えがあった。

 魔境の中、岩山を回り込んだ時に、散々上空から聞こえてきてイライラさせられた鳴き声だ。


 魔境で群れていたはずなのに、こんな山頂で出くわすとは・・

 遠くて距離感が良く分からないけど、多分12から15メトルのサイズだ。

「リファ、もう少し戦い易い場所まで走るんだ!」

 細い稜線。左右はガレ場の崖で身を隠す場所もない。


 救いは強風のせいで向こうもバランスが取りづらそうにしている事と、早めに気づけたことくらいか。


 俺はどこか少しでも幅の広い場所をさがした。

 せめて3メトルの幅が欲しいけど・・

 なかった。

 その代わりになるかどうかわからないけど、岩があった。

 100メトル先。その岩が段差になってその先の稜線に続いている。


 そこまで行けば、岩に掴まる位はできるだろう。それだけでも戦いやすいし守りやすい。

 俺達が走っている間に、怪鳥はゆっくり近づいてきた。


 濃いグレーのトカゲを思わせる肌をしている。

 皮膜の羽で体毛がない。羽の先端に3本の鍵爪があって頭から背中にかけて硬質の皮膚が棘状に覆っている。足が太くてごつい。

 こいつは、ワイバーンだ。

 火球を口から飛ばすことで知られている。


 ギルド認定ランクB上位。通常個体は5メトルの筈なんだけどな・・

 なのにこの個体は15メトルはある。


「リファ急げ!」

 俺達は岩まで走り込んだ。

 岩陰に身を隠したいけど、隠せる程のものでもない。岩を背にしただけだ。

 それでも多少足場は安定している。それだけでもありがたかった。


「リファ、近づいてきたら風で気流を乱せる?」

「うんやってみる」


 ワイバーンは俺達の様子を観察しているのかすぐに襲っては来なかった。

 ランクBはオーガと同じ。俺達はオーガも倒したことがある。

 だから勝てない戦いではない筈なんだ。

 ただ、こいつは魔境深層個体で通常より3倍大きいワイバーンという事だ。

 俺達が倒した通常個体のオーガと同じ強さと考えていいわけがない。


「リファ、勝てると思う?」

 つい弱気になってそんな馬鹿なことを聞いてしまった。

「当り前じゃない!だってキースだよ。私の知ってるキースは一度も負けてないしいつも何とかしてきたじゃない」

 こんな時だというのにリファは全くブレない。

 そこまで俺を信じてくれるなら、期待に応えなくては。


「ちょっと弱気になってた。でもおかげで自信が出てきたよ。リファ、俺を隠すようにして立って。魔力を限界まで溜めるから警戒されたくないんだ。近寄らせて至近距離から強烈な一発で仕留めてやる」


 ワイバーンはホバリングしながらこっちを見ている。

 そこをリファが風を操って気流を乱した。

 ゲエェー


 煩わしそうに一声鳴いた。

 一度旋回して風に乗ると、稜線の真上を滑空して突っ込んできた。

 このままでは俺達はワイバーンと石の狭間で圧死する。本当に一発勝負の展開になってしまった。


「ストーンバレット!」

 俺は杖を腰から抜いて、掲げると俺の頭サイズの石榴弾を目の前に浮かべた。

 渾身の力作に更に魔力を加えていく。

 ギュルルルル

 石榴弾が回転しながら圧縮されてゆく。更に魔力を押し込める。

 ギュウィーン

 回転が上がり音質が高くなって準備が整った。


 ゲエェェー

 脅しか何か知らないがまた鳴いた。

 「リファ、しゃがんで!」

 その開いた口をめがけて全力のバレットを撃ち込んだ。

 パシュン!


 命中はしたけどそのまま突っ込んでくる。

 リファが突風を起こして巨体を横へ流そうとした。

 それでも間に合わない。

 俺達はしゃがんで身を低くしたそのすぐ真上で巨体と岩が激しくぶつかった。

 暴風の中、岩が舞い容赦なく背中に当たる。


 意識が飛びそうなくらい強烈な痛みを感じた時、リファの悲鳴が聞こえた。

「きゃあぁー」


 俺はリファを庇っていた筈だけど、そのリファが宙に浮いてた。というか飛ばされてた。


 こうゆう時、時間の流れがやたら遅くなる。

 俺は咄嗟に持っていた杖を突きだすとリファが片手で掴んだ。

 その周りに飛び散る破片が良く見えた。

「キース!」

「リファ!」

 リファの体はそのまま右のガレ場上空へ、杖で繋がる俺の足も稜線を離れた。

 反射的に左手で掴んだのは岩だった。

 ワイバーンの激突にも崩れずに一部岩が残っていた。それに手が触れたことはラッキーだった。

 体が持っていかれる直前。

「ロックパイル!」

 一瞬魔力を流すことができた。

 突き出した石杭に左手一本でぶら下がって、右手の杖の先にリファがいる。

 リファの足はガレ場の傾斜に届いていない。


 背中の痛みに耐えられなくて思わず呻いてしまった。

「ごめん今降りる・・」

「リファ!ダメ!そこで飛び降りたら谷底まで転がり落ちちゃう。ちょっと待って」

 俺は痛みに耐えて魔力を石杭からガレ場のリファの足元まで通した。

 作ったのは階段だ。

 リファが階段に降り立ち、俺も着地した。

 気になってワイバーンを探すと、左のガレ場のはるか下に転がっている。


 何とかなった。

 リファと目が合うとどちらともなく笑ってしまった。

 あはははは。


 生き残ったよ。

 リファの励ましが無ければ諦めていたかもしれない。

「ほら、私の言った通りキースが何とかしてくれたでしょ」

 リファはリファで俺のおかげだと思っているみたいだ。

 俺はリファのおかげだと思っているのに。


 背中の治療をして、再び先へ進んだ。

 所々段差はあるものの、この稜線は意外と長く続いていた。

 その日、狭い稜線の上に石小屋を建てて野営をした。


 その後も連日歩き続けた。

 稜線を越えてまた岩を登った。

 その後崖を下ってまた稜線を歩く。

 そんな感じで順調に3つ目の山を越えてやっとあの山に辿り着いた。


 そこからはこれまで以上に厳しい自然との闘いだった。

 低い気温と薄い空気。

 雪と風が嵐のように吹きつけて数日岩肌に空けた穴の中で過ごしたりもした。

 急勾配な岩山にかじかむ指を引っかける。力が入っているのかさえ分からない時がある。

 それに、もうずっとまともな食事をしていない。

 トラネコの肉もなくなって来る日も来る日もお湯と作り置きの干し肉だけで生きている。

 それでも頂にまだ届かない。


 リファの目から光が失われていった。


「リファ。リファ?大丈夫?」

「ん」

 口数も減って殆ど喋らなくなってしまった。

 髪が凍ってパサついてるし、顔も泥で汚れている。


 こんなになってまで文句も言うことなくついて来てくれることには本当に感謝だ。

 今、俺達はエルベス山脈の上部にいる。吹きさらしの断崖に空けた穴の中で吹雪の収まるのを待っている。もう丸二日が過ぎた。


 一向に嵐の収まる気配がない。

 穴の入り口は封じているから風は入らないけど、狭くて暗い穴の中に二日間だ。気も滅入る。

「リファ。俺、今から風呂作るからゆっくり体を休めてよ」

「ん」


 俺は奥の壁に魔力を通して穴を広げた。

 桶を作って高温の火魔法で焼いてお湯を流し込んだ。

 山全体が冷えているのか、部屋の壁が張り付いた湯気で凍ってしまった。

「リファ、お風呂できたよ」

「ん」

 まったく聞こえてないみたいだ。膝を抱えたままで立ち上がろうともしない。

 仕方ない。リファを無理やり立たせて奥へ引っ張っていった。


「・・・キース?なにこれ?」

 湯気の昇る温かいお湯を見てやっとリファの目に光が戻った。

 ついでに会話も。

「お風呂だよ」

「ここはエルベス山よ。何してんの?」

「リファがきつそうだから、少し休んで欲しくてさ。頑張って作ったんだ。入ってみて」

「馬鹿ね・・でもありがと」


「ふわ~あぁぁ。すごく気持ちいぃー!」

 奥からリファの感嘆の声が響いてきた。


 満足してくれたらしい。

 リファが満足なら俺は大満足だ。

 良かった。良かった。



 そんなこともあり、俺達は数日後に無事登頂することができた。


 でも、そこには更に大きな試練が待ち受けていたのだが・・


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