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魔境深層地帯 2

 崖を下ってから10日が過ぎた。

 遭遇する魔物はみな大きいし、強さも増している。


 これまでに、トレント系の魔物との遭遇率が高かった。

 霧で隠れても、視覚器官を持たない植物とは相性が悪い。

 周囲に毒を撒いてくる奴、触れると噛みつく奴、種子を飛ばす奴、枝や根を振り回す奴、色々な方法で攻撃された。

 それを巧みに避けて走って離脱する。

 言い方はかっこいいけど実際はひたすら逃げ回ったに過ぎない。


 次に、土中の昆虫系が多かった。

 歩く振動を感知しているのだと思う。

 これは、30メトル位先の土にバレットを放つことで事前に知ることができた。

 怪しい場所は、打てば必ず飛び出してくるからすぐに分かる。

 目のある奴には、光球を放てばそれが目暗ましになった。

 無い奴は樹上に逃げて息を潜める。それから離脱。

 魔物が騒げば、近くの魔物が寄って来る。

 そして魔物同士で戦いが始まったりもする。

 そんな時はじっと霧に潜んで、リファが風下になる様に気流を操作しつつ隙を見て急いで離脱する。


 とにかく俺達は戦闘を避けた。

 気配を消して、身を潜めて素早く移動する。これが生き延びるコツだと思う。



 それでも何とか今日まで生きていられるのは、リファと連携ができているからだろう。

 ベックの言っていたいくつもの覚悟を胸に、ここまで二人協力して立ち向かってきた。

 いや、逃げ回って来た。

 生き抜く覚悟が無かったら、やっぱり生きていられたとは思えない。

 俺達に必要な言葉をピンポイントで投げかけてくれたベックにはほんと感謝だ。


 そして今、そんな俺達の目の前には大きな湖が広がっている。

 ここを右周りで進むのだが、圧倒的な光景を前にして俺達の足が止まった。


 ただの湖じゃない。いや、普通の湖なんだけど魔物がいっぱいいる。

「何か異様というか、すっごいところね」

 リファが呟いた。俺も無言で頷いた。無言だったのは呆気に取られて声を出すのを忘れたからだ。


 湖の中に動く島?のような1キロメトルはありそうな巨大亀。

 浅瀬で日光を浴びる巨大ワニ。

 足が細くて長いカラフルなでかい怪鳥の群れ。

 水面を跳ねる巨大魚のように見える魚じゃない何か。

 巨大な蛙に巨大蟹にと見えるだけですごいことになっている。


 これだけの魔物がいて争いが起きていない事が不思議だ。

 すごく違和感のある光景だった。

 魔物の楽園というか、何というか。


 でも、俺達が傍を通れば確実に襲ってくるんだろうな。

 あわよくば水浴びでもと思っていたのに・・


 残念に思いながら、大きく迂回して森の中を進むことにした。



 更に3日が過ぎて森の中に人工物を見つけた。


 神殿か教会のような大きな建物だ。蔦が這って薄汚れていて、かなりの長い時間人の手が入っていないことが分かる。でも、建物自体は彫刻が施された石造りの立派なものだ。


「こんなところに神殿?」

 リファが不思議がるのも無理はない。

 魔境に入って一番の驚きだ。

 しかもサイズ感が少しおかしい。

 階段一段の高さが俺の腹まである。誰用の建物なんだ?魔物?まさかね。


 思い出したのは争いもせず湖でくつろぐ魔物の姿だ。まさか魔物が神を信仰しているのか?

 解せん・・・


「魔境っていろんな意味で訳の分からないところだね」

「うん。文明を持った魔物がいるのかな。知性のある魔物はいるらしいけど」

「でも、オーガとかオークは絶対に違うよ。あいつら棍棒と腰巻をつけてるもん。こんな神殿みたいな建物に腰巻は似合わな過ぎるよ」

「確かに。でもそうすると・・あ。古代遺跡って奴じゃないか?ほら、昔滅びた種族もいるとかってミルケットが言ってた話」

「古代人のこと?」

「そのくらい昔の話。俺達人間族とエルフ族、ドワーフ族はまだいるけど他にもいくつか種族が存在していたって証拠があるとかないとかいう話」

「滅んだ種族の神殿ってこと?そうかもね。とても古そうだし、大きいし」


 そんな推測を立てつつ段差の大きな階段を上って中へ入ってみた。

 中は仕切りも柱もなくガランとしていて、床が汚い。

 目についたのは正面の壁のレリーフの様な物。

 大きな黒い石に掘られた?人の顔。

 角が二本額から突き出て少しオーガに似ている。

 口が裂けて犬歯のような牙を生やしている。

 子供には怖い絵面だ。


 この顔が祭られているのだとしたら、ここに集まっていたのは邪教徒?だろうか。


「やっぱり人族じゃないね。やっぱりもう滅びた種族なのかな。探せば魔境のどこかにまだいるのかな」

「うん。もし見つけたら大発見だよ。でも、俺達にはあまり関係ないからもう出よ」


 ちょっとした寄り道で気分転換くらいにはなったかな。

 ふと見上げると、黄色く熟れた果実をいくつもつけた木がある。近寄れば甘い香りが漂っていた。

「リファ。これって食べられるのかな」

 物凄く美味しそうに見える。(よだれ)が湧いてきた。

「どうかな。ちょっと採ってみようか」

 リファが風魔法で器用に実を落として風に浮かせて手に取った。

 この果実も濃い魔素の影響を受けているのだろうか。

 食べても安全なのか?


 全部が全部毒でもないだろうけど、怪しいと言えば怪しい。

 何しろバキュームカズラだって見た目は変わった形の綺麗な花だ。


「ねぇ。キース食べれるかどうか確認ってできないのかな」

「俺が味見するよ。もし毒だったらすぐにヒールで浄化するから死ぬことはないでしょ」


 俺は皮を剥いてちょっと舐めてみた。

 美味い!甘い!みずみずしい!なんだこれは!


 思わずかぶりついてしまった。

 シャクシャクシャクシャク


 間違いない。これは食べ物だ。それも超うまい!毒じゃない!

 リファが羨ましそうに見ていた。

「ねぇ、どうなの!キース!」

 モグモグしてるから話せない。


「むぐむぐ・・ごめん大丈夫みたい」

 それから二人でお腹いっぱい食べて大満足した。

 こんな濃厚で美味しい果実を食べたのは生まれて初めてだった。


 そして先を急ぐ。



 ドシーンドシーン

 地響きがしてきたかと思ったら、何か巨大なものがこちらに向かってくるようだ。

 慌てて巨木の後ろに身を潜めた。

 巨大な何かは東から来る。

 そして西へと向かって俺達の傍を通り過ぎて行った。多分湖に行くのだろう。

 霧の合間から少し見えたけど、体長80メトルはあろうかという大きなトカゲだった。


「あれって地竜じゃなかった?」

 ギルド認定ランクSの魔物だ。

 背中にゴツゴツした岩でも乗せているような姿だった。


 次に現れたのは体長100メトル、体高50メトルの鼻の長い毛むくじゃらの魔物だった。ものすごく、ごつくて長い牙を生やしている。

 奥に進むほど、巨大で強そうな魔物を目にした。

 図鑑にも載っていないような巨大生物の生息地帯に入ったらしい。


 その一帯は、俺達にとっては安全な場所だった。

 俺達が虫を気にしないように、奴らも俺達を気にしないらしい。

 そばを通っても素通りして去ってゆく。

 踏みつぶされない様に気を付ければどうという事はない。


 それに、食料も豊富にある。

 果実は勿論、小動物でさえも大きいサイズで肉が美味い。

 食べると力が漲ってくる気がする。

 お陰でとても美味しくて、且つ安心して眠れる日が暫く続いた。



 もういい加減に魔境と山麓の境に来てもおかしくないと感じ始めた頃、また新たな地帯に入ったようだ。

 ここ何日かずっと登り坂が続いている。


 魔素の濃度は相変わらずだけど、魔物の大きさが小型になった。

 小型と言っても10メトル級だ。

 それに伴って俺達の危険度も各段に跳ね上がった。


 絶対に見つかるわけにはいかない。

 俺は霧を薄く広く伸ばす形で感知範囲を極力広げた。

 魔境深部に入ってから、魔力の調子が(すこぶ)る良くなっている。これも濃密な魔素の影響だろうか。

 だから、感知範囲も能力も向上してより広範囲に、より繊細に感じ取れるようになっている。

 そしてもし、魔物を感知したらリファがすかさず風をおこして俺達の匂いが届かないように操作する。



 静かに、慎重に進んでいた時に、前方から激しい戦闘音が聞こえてきた。

 何やらやたら激しい打撃音だ。

 木が倒れる音。けたたましい咆哮。多分大型の魔物同士の争いだ。

 恐ろしいけどすごく興味を引かれた。


 遠くからそっと見るだけという約束で、嫌がるリファから許可をもぎ取って音のする方へ慎重に向う。


 大木の隙間から見えたのは、ガチムチマッチョな白いコングと二角の生えた赤黒い熊だった。

 赤黒い熊は15メトル越えのサイズで白コングよりも体格がいい。白コングは素早い動きで熊を圧倒しているように見えた。

 熊は打撃をものともせず角を振って威嚇している。角の振り回しは白コングほどでなくても素早い。


 間違いなくどちらもランクA以上の魔物だ。

 凄い迫力に気を取られてしまった。


「ね、キース。あの魔物の名前分かる?」

「ううん。知らない」

 魔物図鑑にもこんな魔物は載っていなかった。大迫力と激しい攻防に目が釘付けだ。


 暫く息を潜めて見ていると、赤黒い熊が二本の角で白コングを下からカチ上げた。

 白コングは吹っ飛ばされて木々の枝を巻き込みながら視界から消えた。

 直後、“KIGyaa!”と雄叫びが聞こえてきた。その威圧に俺達は一気に汗が噴き出した。

 リファがもう離れようよと袖を引いて、目で訴えて来る。

 分かったよと思い腰を浮かせかけたところで、白コングが突如木々の奥、それもかなり高い空中から赤黒い熊に突っ込んでいった。


 そのもの凄い速さに熊は対応できず、仰向けにひっくり返ったところを馬乗りになった白コングがボコボコに殴り始めた。

 白コングのわき腹から青い血がドクドクと流れだしている。

 かなりの重傷の筈だけど、白コングの勢いは収まらない。

 赤黒い熊は為す術なく殴られて、その打撃音もまた凄まじい。


 そこまで見届けて俺達はその場をそっと離れた。


「あんな化け物がこの魔境にいっぱいいるのかな。幾らキースでもあれは倒せないよね。はぁ。私、せめて10歳までは生きたかったな」

 リファが縁起でもないことを言う。

 でも、遭遇する可能性はあるし、戦って勝てる見込みもない。


「とにかく気配に気を付けて進もう。見つからなければ問題ないよ。それにあともう少しだと思うんだ」

 殆ど気休めでしかないけど、何も言わないよりましだ。

 俺達は再び集中して北へと向かう。



 そして、その時は突然訪れた。

 木々の隙間がやけに明るいなと感じたら。そこが魔境を抜けた草原だった。

 それまでさんざん視界を邪魔した巨木はなく、一面に黄色い花が咲き乱れている。

 その花も大人の手のひらほどに大きい。

 うわぁ。

 思わず感嘆の声が漏れた。


 目線を少し上げれば黄色だけでなく色とりどりの草花が丘全体を埋め尽くしている。

 天国があるとすればこういう景色なのだろうかと思えるほどに美しい風景だ。


 そよぐ風に花々の香りが乗って何ともいい匂いがする。

「素敵な場所ね!」

 リファの目がキラキラしている。

 苦労しただけあって、ご褒美のような景色だ。

 背景には見上げるばかりのエルベス山脈。その頂上部は白く雪に覆われて、対照的に空はどこまで青くて空気が澄み渡っている。


 魔物の住む世界とはこんなにも美しい場所なのか。

 絶景だ・・

 俺達は言葉もなく一面の景色に魅入っていた。



 今日は、ここで野営をする。

 明日から西へ向かって移動して、どこまで行けるか分からないけど、行けるところまで行くつもりだ。


 陽が沈むと急激に気温が下がって来た。

「キース寒い」

 リファが歯をカチカチ鳴らしている。

 俺達の持ち物に毛布などない。というか何も持っていない。

 上着一枚ないのだ。

「こんなに寒くなるなんて。明日何かの魔物を狩って毛皮を手に入れようか」

 俺は石小屋の外壁に土を被せた。さらに内壁を火魔法で温めた上で空気自体を温めた。そして二人身を寄せて何とかその夜を耐えることができた。


 昨日の夜は寒くなかったのに、なぜ魔境を抜けた途端にここまで気温が下がったのだろう?

「きっと魔境の大木が山からの吹きおろしを遮ってるんだよ。ここは普通の野原じゃなくて魔境の、それもエルベスの麓の高原だから何が起きてもおかしくないよ。魔境じゃなきゃ魔物が出ないって思い込んでいるけど、実はいるかもしれないし、本当にいないのだとしたらいないだけの理由があるんじゃない?夜が寒いからとか。でも何が起きるか分かんないしまだまだ油断しない方がいいよ」

 リファがそれらしい推測を口にした。


 なるほど。リファは頭が良いな。

 年中温かい季節感の無い国だからあまり気にしていなかったけど、今は夏真っ盛りだ。

 まさか夏に凍える思いをするとは。

 魔境は本当に何が起きてもおかしくない不思議の土地だ。


 翌日、俺達は魔境へ戻った。

 毛皮にちょうどいい魔物を探すためだ。


 そして、見つからなかった。

 ここは魔境と高原の境目だ。そのせいなのかいくら探しても手ごろな魔物が見つからなかった。

 

 仕方なく、昼は高原を進んで夕方野営地設営の為に森の奥に戻るという進み方を考えた。

 とにかく夜が冷え込む。森の奥、あまり寒くない場所まで毎日戻る羽目になった。

 そして西へ向かう事、数日。


 大変なものを見つけてしまった。

 それは魔物の墓場だった。


 大量の骨と魔石が森の一角を埋め尽くしている。

 巨大な骨も小さな骨も、一体どれだけ魔物の死骸を集めたらここまでの量になるのか。

 古そうなものは崩れているし、苔を被っているから一目でわかる。

 魔石も色の濃い大きなものがゴロゴロしている。

 宝の山だ。


「な、なんだここは・・」

「・・・・」

 絶句した。


「この魔境に住む魔物は死ぬ時にここに来るみたいね。きっと最期を悟ったら仲間のいる場所で安らかに眠りたいと思うのかな」


 二人でその一帯を驚きながら見物して回っていると一匹の魔物の死体が目に入った。

 あの時見た白いガチムチマッチョコングだ。

 腹を突き刺されても赤黒い熊魔獣に殴りかかっていた。強烈に記憶に焼き付いている。

 まさにその個体が大木の根元に寄り掛かって死んでいた。

「リファ、いい毛皮が見つかったね」

「うん。なんかせっかく安らかに眠っているのに可哀想だけどね。毛皮は欲しい」


 近づいてよく見ればとても暖かそうだ。白くてきれいだし。

 申し訳ないけど、ありがたく頂くことにした。


 見れば見るほど凄い魔物だ。ペタペタ触っていても目を開けるんじゃないかと恐怖を覚える。

 それでも、温かい毛皮のためだ。俺達は頑張って剥ぎ取りを始めた。


 さすがに強靭な魔物だけあって剥ぎ取り作業は大変だった。

 通常、魔物は死ぬとその魔力は魔石に変化する。

 魔力の抜けた素材はいかに強靭な皮膚であろうと刃物位は通すことができるようになる。

 しかし、この白コングは魔力が無くても刃物が通らなかった。

 何度も何度も同じところをなぞる様に切り付けてようやく切り出すことができた。


 剥ぎ取りだけで丸2日も掛かってしまった。

 糸がないから木の蔦を裂いて賄った。

 複雑な服なんて作れないから、何とかマント2枚と毛布2枚を作って作業を終了した。


 本来は専用の薬液につけるとかすれば長持ちするらしい。

 防具に加工するのであれば錬金術師の作る特殊な薬液に漬けることで素材本来の強度に近いところ迄復元も可能なのだそうだ。


 でも、俺達はそんなことできないから、乾燥させてなめしただけだ。

 ちょっと臭いけど、クリーンを掛けて我慢するしかないかな。


 これで寒くなっても平気だ。

 大満足で俺達は高原まで戻り、西へ向かうことにした。


 ところが・・


 ところがすぐに行き止まりになってしまった。


 魔神の爪痕のように幅広くて、ベックと別れた谷のように、底が見えないほど深い谷が行く手を阻んだ。

 その谷は南から、北はエルベス山の麓を抉って食い込んでいる。

 結局、谷を渡らなければ先に進めない。

 幅が狭かった分、ベックと別れた谷の方がまだ可能性があった。


「キースどうするの?」

 リファが不安な目で聞いてきた。

 でも、俺にもどうしていいか分からないよ。


 残る道は東へ向かうしかない。

 でも、深い谷にまた阻まれるかもしれない。


 引き返しても谷を渡る方法がない。

(あぁ。あの怪鳥みたく空を飛べたらな・・)

 俺達は途方に暮れてしまった。

 


ここまでお読み頂きありがとうございます。

もし宜しければ、☆評価、或いはブックマーク登録をお願いしたいと思います。


この後も新たな展開が続きます。

どうぞ、お楽しみください。

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