表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/194

騎士団本部潜入

「よー、お前達じゃねぇか。領主に呼ばれてどうだった?取り込まれるんじゃないかと心配してたんだぜ」

「あ、ビントスに、シャリナ。その件でちょっとまずいことになって困ってるんだ。ギルドが助けてくれなくて」

 俺はちらりとエイミーさんを睨んだ。


「だろうな。向こうで詳しい話を聞かせろよ」

「時間がないの。すぐに護衛を探さないといけなくて」

「まずは話を聞かせろ。俺達が手伝うにしても事情が分からん事には話にならん」


 リファの抵抗むなしく、俺達は隣の店へ連れて行かれた。

 そこはギルド運営の酒場だった。ひと仕事終えた冒険者に依頼料を払って、すぐに酒場で回収する。ギルドってなんてがめつくて頭が良いんだろう。

 俺はギルドのしたたかさに少し感心した。


 酒場はまだ人が少ない。この後、冒険者が次々と戻って来て加速度的に混み合うのだろうか。

 そのまばらな店内にロッドルのパーティーがいた。

「よぉ!キースにリファーヌだったか。お前らも飲みに来たのか?」

(大丈夫か?こいつ。酔っているようには見えないけど、言うことが酔っ払ってる)

「こっちだ、こっちに座れ」

 ビントス達もいるのに完全に俺達にしか話しかけてこない。

 それでもビントスは気にもかけず、さっさとロッドルの座る傍に腰を下ろした。


「それで、なにがあった」

 ビントスとロッドルのパーティー8人に囲まれてしまった。

 仕方ない。俺は昼間に公爵邸で起きた事件をかいつまんで話した。

 その上で、急いで街を離れる一家の為に護衛を探していることも。


「ったく。あの領主はあくどさに遠慮がないな。人を何だと思ってやがる。あいつらの為に仕事をしたと思うと自分が嫌になるな」

 ビントスが毒を吐く。

「あぁ。全くだ。でもよ、こいつらがやってくれやがった。スカッとしたぜ!よし、その護衛は俺達が受けてやる」

 そう言ったのはまさかのロッドルだった。

「酔っぱらってるのに大丈夫なの?」

 リファが疑わしそうに眉をしかめた。


「まだ飲み始めたばかりだ。酔っちゃいねぇよ。俺達もな、呼び出された時に散々嫌な思いをしたのさ。人を見下すというか馬鹿にしてるというか。なぁ?」

 何を言われたかは知らないが、皆の顔に不満が見える。余程腹に据えかねたのだろう。


「俺達に任せとけ。こんな町さっさと出て行こうって今も話をしていたところだ。これから出発なんだろ?いいぜ。約半月の旅だ。報酬は日当たりパーティーで銀貨4枚。途中の宿代飯代は依頼者もちだ。言っとくが相当格安だぜ。お前たちには儲けさせてもらったからな。ああいう腐り切った奴を見た後だから、何となく慈善事業じゃねえが人助けをしたくなった」

 ロッドルはそう言ってエールを飲み干した。


 リファがますます疑わしそうに見ている。

 本当に酔ってないのか?大丈夫か?口も悪いし信用してもいいのか?

 俺も不安になって来た。


「ま、そう心配そうな顔をするな。こいつ腕は立つしきちんと依頼はこなすぜ」

 メンバーの一人がロッドルを弁護した。


「あぁ、任せろ。俺達は一度準備に戻ってまたここで待ってるからよ。あとから依頼者を連れて来てくれ。急いで来ねえと本当に酔っぱらっちまうからな」



 話は決まった。さっさとエイミーさんのところに戻って依頼表を書き込む。

 指名依頼だ。


 そしてすぐに職人ギルドへ行って馬を曳き出した。

 ベックの愛馬でなく、いつも俺とリファを乗せてくれた方だ。

 もう相棒と呼べるほど仲がいいのだが、今日でお別れになる。


 すぐにハワードさんの仕事場に戻ると、ハワードさんは帰って来ていた。

 顔が青く腫れている。

 すぐにヒールをかけて癒してあげた。そういえば見習い青年の顔も腫れていたっけ。思い出したついでにそっちも治す。


 準備が出来てすぐにバリアン宅へ向かった。

 バリアンさんの家はすぐ傍で準備は終わっていた。

 子供たちは俺よりも小さくてきつい旅になりそうだけど命の危機には代えられない。

 不安そうな顔の奥さんに二人の子共とハワードさんを荷台に乗せて出発だ。

 夜逃げ同然だから家も家財も放置状態だ。


 遠ざかる家を見つめる奥さんの表情がとても悲し気だった。


 ギルドへ着いてロッドル達を呼びそれぞれの紹介をする。

 護衛費用の確認をしてすぐに出立となった。


 閉門迄まだ少し時間があるけど早く出た方がいい。

 西門の広場で俺はハワードさんにお別れの言葉と共に改めて謝罪をした。


「気にしなくていい。君たちが悪いわけじゃない。心残りはソニアの墓をここに残して行くことだ。だけど、それよりもこの街を出て住み良い暮らしをする方が重要だ。孫たちの為にもな。今まで踏み切れなかったけど、今回ばかりはいい切っ掛けになったよ。二人ともありがとうな」


 ハワードさんに迷惑を掛けたのは間違いない。それでもお礼を言ってくれた。

 そのやさしさが突き刺さって胸がジンと鳴った。

 俺達が引き起こした迷惑だ。申し訳なくて、悔しくて居た堪れない気持ちになった。

 思わずハワードさんに抱き着いてまた謝っていた。


「ごめんなさい、ごめんなさい。俺達が余計なことをしてハワードさんを巻き込んでしまった。謝って許してもらえることじゃないけど、それでもごめんなさい」


「よしよし。いい子じゃな。キース。自分を責めてはいかん。二人のしたことはこの街を救ったのだよ。街道の瘴気を排除したのだから。それは大勢の貧しい人々を救ったことと同じことなんだ。だから胸を張りなさい。キースもリファーヌも正しいことをした。私もバリアンも迷惑だなんて思っていない。むしろ誇らしいくらいじゃよ。だから元気を出しなさい。ほら、顔を上げなさい。まだまだ君たちの旅は長い。二人とも元気でな。ベックをよろしく頼むよ」


 ハワードさんは門を出て行ってしまった。

 俺達がこの門を潜ったのは僅か10日くらい前だった。

 けれど、今俺達は門の内側から夜逃げをするように出て行くベックの家族を見送っている。

 そのベックも騎士団の牢獄の中だ。


 気にするなと言われても申し訳なくなる。

 胸を張れと言われても無理だ。自己嫌悪で自分の頬を殴りつけたい。


 俺は涙が止まらなくなってしまった。

 リファが俺の袖をつまんで困った顔をしている。


 ふつふつと公爵と騎士団への怒りが湧いてきた。

 もう、遠慮はしない。

 三日後、騎士団を襲撃してベックを助け出す時はどれほどの死者が出ようと構わない。

 この気持ちを全部怒りに変えて、全力をぶつけてベックを救い出して見せる。


 拳を固く握りしめて、俺はハワードさんを乗せた荷車が見えなくなるまで見送った。



 翌日、俺とリファはフードを目深にかぶって騎士団本部の周辺をうろついていた。

 騎士団本部は街の北東区域にあった。

 ここブルジェールは西の国境に最も近い公爵家の領都でエルベス大魔境に近い堅牢な城塞都市だ。そして大手商会が軒並み店を構える経済都市でもある。

 その威容はこの区画に凝縮されていた。

 無駄に広い通り沿いに、華美な石造りの建築物。緑も人通りも少なくて、馬車ばかりが行き過ぎる。俺達みたいな子供がこの区画を歩くのはかなり勇気が必要だった。


 公爵家の大きな屋敷を始め、貴族や大商会の屋敷が建ち並ぶ大通りの先に、白亜の大教会が見えた。そして格式ばった雰囲気の行政府や公館の一角を通り抜ける。すると一番北側に外界を拒絶するかのような高い壁に囲まれた騎士団本部があった。


 中を覗き見ることはできないけど、相当広い施設と分かる。

 出入り門は6つ。東、南、西に各二つだ。北側は街壁と一体となっているようだ。


 各門に門兵が二人立っている。その門兵が俺達を理由もなく睨んできた。

 ただ前を通り過ぎただけなのに。

 ま、こんなところを子供二人で歩いていれば睨みたくもなるのか?もしれない。


 とにかく、中の様子は全く分からないことが分かった。

 そこで調査を打ち切って一度ハワード家に戻って仮眠を取った。


 陽がどっぷりと暮れてから再度向かう。

 ますます人気のなくなった通りを抜けて騎士団の壁を見上げた。


 今は深夜に近い時間帯だ。頭上に美しい星々が輝いている。

 俺たちは風魔法と身体強化を使って、難なく外壁の上に登った。

 すぐに内側へ飛び降りる。


 今回潜入した理由は、ベックが拘束されている建物を確認したかったからだ。

 ベック救出時に場所が分からず右往左往することだけは避けたいのだ。


 そこは練兵場とでもいうかとにかく開けた場所だった。

 壁沿いを素早く移動する。


 一番傍の建物に近づき中の様子を窺うと真っ暗で何も見えない。

 明かりの灯る部屋を見つけて覗き見るといくつかの執務机が並び何人かいる。

 雰囲気的にベックのいる建屋ではなさそうだ。

 次の建屋に向かうと倉庫らしき外観だった。鍵が掛かっている。

 見通せないけど、この辺りは建物が多いみたいだ。


 壁沿いに進み次々と確認したけど、ここだという確証が持てない。

 こんな時ベックがいてくれたらと益体の無い事を考えてしまう。

 その時リファに袖を引かれた。


「ね、キース。ちょっと思ったんだけどベックのいる場所ってもっと中心じゃないかな」

「何でそう思ったの?」

 声を潜めて周りを警戒しながら話す。


「だって、壁際だとすぐに脱走できそうじゃない。もっと内部というか中心に近い場所で厳しく見張られてるところじゃないかしら。この辺りはそういう感じじゃないから全然的外れだと思う」

「確かに。思い切ってもっと中心部から探してみようか」


 俺達は敷地の中心に向かって走った。

 中心に近づくと明かりが増えて人影も多くなる。

 注意深く静かに通り抜け物陰に身を潜めた。そしてこそこそっとまた先へ進む。

 なんか、ネズミの気持ちが分かった気がする。

 壁際と物陰をこそこそ移動してさ。まるで鼠だ。どうでもいい話なんだけど。



 一際大きな建物があった。周囲も明かりで煌々と照らされている。

「何か怪しいね。まさに本部って感じ。ここじゃないかしら」

「一度裏に回ってみよう」

 裏に回ると緑の多い庭になっていた。池まである。庭にも明かりが灯されていて身を隠す場所が少ない。

 花壇のような生垣まで突っ走り、身を隠した。


「ここからどう探そうか」

「忍び込むしかないよね。どこか明かりのついていない部屋から入ろう」

 そう思ったけど、どこも鍵が掛かっているのか外からは開けられなかった。

 深夜だというのに頭上の部屋から笑い声が聞こえてくる。

 まるで酒盛りでもしているかのようだ。


 建物を繋ぐ渡り廊下には何人かの人影がある。見張りではなくサボリのようだ。煙草の小さな火と煙が見えた。

 そこに人がいなければ絶好の侵入ポイントなんだけどな。忌々しく思って暫く見張っていても、次々と入れ替わりで人影が現れる。


 すごく怪しいとはいえ、一つの建物に手間取っているわけにもいかない。

 今日のところは周囲の建物を片っ端から見て回って怪しげな場所と潜入できそうな場所を確認して回ることにした。


 こんな時は時間の経過が速い。

 まだ調べきれない内に朝の気配が漂ってきた。

 もうすぐ夜が明ける。

 空が白み始めたら見つかる可能性も出て来る。いったん引き上げることにした。

 練兵場まで戻って壁を飛び越えて通りに降りた。


 通りへ出たからと言って、こんな時間帯に俺達みいたな子供がいれば間違いなく怪しまれる。だから警戒して物陰を進む。

 四つ角へ来たところで、背後に人の気配がした。


 物陰に身を潜めてやり過ごそうとしたけど、既に見つかっていたようだ。


「お前達騎士団本部から出てきたよな。しっかり見えてたぜ」

 見つかったのではなく、見られて跡をつけられていたようだ。

 リファと目で合図を交わした。

「へぇ。おじさんいつからつけてたの?」

 俺が前に出てリファを背後に庇ったふりをした。

 いきなり斬り掛けられたらリファが危ないというのもあるけど、ここはリファに攻撃してもらう。


 向こうも闇に紛れていて位置が掴めない。

「お前達が本部の建物周辺をうろうろしていた時からだ」

 低く渋い声が10メトル先の物陰から聞こえてきた。

 そこをめがけてリファが風刃を飛ばした。


 ザシュ

「おいおい、物騒な子供だな。ベックって野郎はどんな教育してんだよ」

 全然平気そうだった。

 声を頼りにもう一度、今度は3つ風刃を飛ばす。

 暗闇の中の風刃は察知しにくい分相当厄介なはずだ。それなのにまた避けたらしい。

 まったく別の場所から声がした。


「おい。止めろ。俺は騎士じゃないしお前たちの敵でもない」

「じゃ誰だよ!」

 思わず素で聞いてしまった。


「俺達はベックを脱獄させる。俺はその下見に来ていたのさ。むしろお前達の味方じゃないか?」

「おじさん誰?ベックの知り合い?怪しすぎて話にならないよ」


「ま、そう言うな。ベックの囚われている建物を探していたんだろ。教えてやろうか?」

 俺達の手に入れたい情報をど真ん中で提案してきた。

「キース。話だけ聞いてみようよ」

 リファがまた袖を引っ張った。昨日から3回目だ。リファの中で流行っているのか?

「・・・・」

「沈黙は了解と取って良いんだな。ならば少し話がしたい。ここで立ち話はできないから場所を変える。教会の南側に小さな森がある。そこに来い」


 ただでさえ暗いのに、森は更に視界が悪くなる。攻撃されたらリファを守れない。

「まだ行くとは決めてないよ」

 その俺の答えに返事はなかった。

 気配もない。もう立ち去ったらしい。

 騎士団でないのならば、さっきの男にまったく心当たりがない。

 謎過ぎて不安がある。俺は行くか行かないか迷っていた。


「キース。行ってみよ。話聞かなきゃ分からないし、本当に味方なら手を組むことを考えてもいいかもしれないよ」

「うーん、どうしよ。怪しい奴だし信用できない。森は危ないよ」

「でも、今日の感じだと私達だけでベックを助け出せるか不安だよ」

「・・・行くだけ行ってみようか」


 正直気が進まなかったけど、指定された森を目指した。

 空が白み始めて鳥がさえずり始めている。


 森に分け入り、奥へ進んでゆく。そこそこ広いけど、どこに向かえばいいのだろうか。

 キョロキョロ辺りを探りながら警戒して進んだ。


「やはり来たか。良い判断だ」


 すると、上から目線の渋い声が聞こえた。


 


ここまでお読み頂きありがとうございます。

もし宜しければ、☆評価、或いはブックマーク登録をお願いしたいと思います。


この後も新たな展開が続きます。

どうぞ、お楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ