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ギルマス特例指名依頼 4

「俺の、いや、ビントスとシャリナも含めてここを切り抜けるには力が足りねえ。鍵はお前らだ。体力と魔力が残っているうちに何とかしたい。どうだ、何か提案はあるか」

 ロッドルの主導で話し合いは始まった。


「まず、壁に小さな小窓をあけてそこから聖魔法で一匹でも多く倒す」

「奴らは通常30~50匹の群れを作っている。てことは最大50匹を相手にすると考えるべきだ。魔力的に問題あるか?」

「大丈夫。ある程度まで数を削ったら、外に出て戦うことになる。全部倒しきるまで撤退はしない方がいいと思うけど」

 中途半端な撤退は絶対に避けるべきと思いロッドルとビントスの顔色を(うかが)う。

「そりゃそうだ。背後を襲われたら堪らないからな」

 ビントスも頷いてくれた。


「外に出るタイミングは青猿共に攻撃が届かなくなってからとして、メンバーは俺と小僧とビントスでいいか?」

「私も出る」

 ロッドルの確認にリファが即座に異を唱えた。

「おい。お前は残れよ」

「私も戦えるもん!」

「・・小僧お前の意見は?」

 以前、リファと約束をした。もう置いていかない、いつも一緒にいると。

 本心はリファには安全な場所にいて欲しいし魔力も節約してほしいと思うけど、約束は破れない。


「リファーヌも戦えるよ。でも、鍛えてないから近接だと戦えない。二人がリファーヌの護衛についてくれると一番いいと思う。俺とリファーヌで全部倒す。接近戦になったら、リファーヌ優先で。それと二人の武器に聖魔法を付与するから威力は上がるよ」


「いいだろう。本当は聖魔法の使える小僧を優先したいんだがな。お前達あっての作戦だ。尊重してやる。異論のある奴いるか?」


「異論はないけど、その作戦で私達本当に助かるの?」

「さあな、だが何もしなけりゃ絶対に助からない」

 まだ泣きべそをかいているシャリナにロッドルがそっけなく応えた。


 作戦は決まった。さっさと終わらせてしまおう。


 俺は四方の壁に拳大の幅で細長い穴を空けた。ブラッディエイプの手が入らない大きさの覗き窓だ。

 窓のすぐ外で拳を振り上げている一匹に聖光弾を放った。

 胸を打ち抜かれたそいつは腐り溶けるようにして骨に還っていった。A級認定の魔物でもアンデッドなら聖光弾は効くみたいだ。


 これで安心して攻めることができる。

 次の標的に続けて放った。更に次。その次。その次。もういっちょ。


 さっきまであれ程うるさかった打撃音がみるみる小さくなり聞こえなくなった。


 倒した数は17匹。

 石小屋に入った時点でリファは旋風魔法を中断したから今は瘴気に飲み込まれて辺りは暗い。

 窓から見る視界は3メトルもない。でも気配があるからまだまだいっぱいいるのだろう。

 アンデッドに警戒するだけの頭脳があるかは知らないけど、これ以上近寄って来ないようだ。


 いよいよ外へ出て戦う時が来た。

 俺はビントスの斧とロッドルの槍に聖魔法を付与した。

 しっかり魔力を込めたから十分通用するはずだ。


 壁の一部に出口を作り、すぐに聖結界を張る。立ち込めた瘴気が霧散した。

 すぐにリファが風魔法の旋風を発動する。そこに俺の聖魔力を付与して辺り一面の瘴気を掃った。

 これで30メトルの視界が利く。

 俺達4人は外に飛び出した。すぐに背後の出口を閉じて、身構えた。

 そのまま石小屋から距離を取る。

 石小屋の陰から襲われる危険を排除したかったからだ。


 何も隠れる場所の無い赤茶けた草原に立った俺達。

 その周りを囲むブラッディエイプアンデッドの群れ。

 姿が確認できるだけで数は30に満たない位か。

 静かにこちらを睨んでいるのが凄く不気味だ。


 そこに一際大きな一匹が現れた。群れのボスらしい。

 俺とリファが背中合わせ。俺の横にビントス。リファの横にロッドルがいる。


 ”キャーッ“

 突如、ボスの口から甲高い猿叫が響き渡った。

 一斉に青ザルの群れが飛びかかって来た。

「ひぃー」

 俺の隣で情けない悲鳴が上がった。


「聖光弾!」

「風刃」

 俺とリファから同時に魔法が射出される。

 リファの渾身の風刃は3刃同時に連射できる。

 俺の聖光弾は5発同時に速射ができる。


 リファの風刃が乱れ飛び、ブラッディエイプの肢体を切り刻んでゆく。

 俺の聖光弾が光の尾を引いて次々と標的を打ち抜いて行く。


 次々飛び込んでくる青猿のアンデッドを俺は前方と両側面を同時にカバーし次々倒す。

 まるで物量押しのような体当たりだ。背中のリファの方に気を向ける暇がない。

 それでも俺はリファの実力を知っている。

 きっとリファなら大丈夫。リファを信じて、後ろは任せた。

 バシュバシュバシュバシュ!

 バシュバシュバシュバシュ!

 キャーキャー騒いで跳ね回って飛び回りやがる。

 目が回るような攪乱の動きに惑わされない様に、一匹一匹確実に当てることだけに集中する。

 アンデッドのくせに!早すぎだろ!

 「リファ大丈夫か?」

 「おう!何とかなってる」

 返事はロッドルから返って来た。

 数は明らかに減った。半分は倒したか?

 バシュバシュバシュバシュ!

 

 アンデッドになると知能が衰えるというのは本当なのかもしれない。

 攻撃がワンパターンだ。数の多さに惑わされていたけど、コツというか動きが読めるようになった。

 そこからは楽だった。

 中には器用に攻撃を避ける個体がいて少し手子摺ったりもしたけど、遂に殲滅を完了した。

 リファの方も終わったようだ。


 残るはボス猿のみ。

 ボスは他の個体に比べて筋肉量が半端なかった。 

 体高も二回り大きいが、何よりはち切れそうな筋肉が凄い。


 俺はボスに向けて聖光弾を一発放った。

 だが、片手で弾き飛ばされた。どうやらボスは他の猿とは違うらしい。

 だから連射で5発撃った。がそれもすべて弾かれた。


 わずかに睨み合いの時間があった。

 その時、俺はどう倒すかを考えていた。そこにリファから火球が飛んだ。

 それも難なく弾き飛ばされたかに見えたが、腕に絡みついた炎は激しく燃えてボス猿の右腕を燃やし尽くした。


 “キャーッ”

 ボス猿は悲鳴を上げて瘴気の闇へと(きびす)を返して逃げてゆく。


 元々、俺達は背後の不安から全滅させると決めていた。

 だから、俺はボス猿の後を追った。

 俺が動けば、聖結界が動く。石小屋にシャリナを一人残すことになるけど仕方ない。


 俺達はボス猿を見失わないように走った。

 走る事わずか1分。

 それはあった。

 ここが瘴気の中心地。一目で理解できるそんな光景だった。

 動物の骨?魔物や人骨もあるのだろう。とにかく大量の骨が山と積みあがった場所があった。

 そこから瘴気が湧き出している。

 黒い靄が中空へと吐き出され、まるで熱された空気のような陽炎(かげろう)の揺らめきが見えた。

「な、なんじゃこりゃ」

 ボソッとビントスが呟いた。

「ここが中心だ。間違いない。ここを浄化すればこの騒ぎは収まる」

 ロッドルがその呟きを受けた。


 骨の山の前にボス猿がいる。

 “キャーッ!”

 牙を剥き毛を逆立てて威嚇してきた。


 少し呆気にとられたが、その威嚇音で集中した。

 俺は聖光槍を5つ浮かべ、目の前のボス猿に向けて全力全速の一撃を放った。

 さっき放った聖光弾の5割増しの威力だ。プラス粘着タイプで。

 片腕の無いボス猿は弾き損ねて体を刺し貫かれた。

 瘴気を霧散しつつ腐敗しながら骨の山へとその巨体が吹き飛ばされた。

 “ウギャーッ!”

 バキャーン!

 断末魔が響き、破砕音と共に骨が宙を舞った。

「キース!」

 リファが魔力の発動準備に入っていた。だから、俺はそこに大量の聖魔力を付与する。

「巨大旋風!」

 リファの生み出した聖なる旋風が瘴気を巻き込み、骨を巻き上げ、上空へ高く舞い上げた。

 周囲の瘴気を引き寄せて暴風が吹き荒れる。

 ゴオオオオー

 凄まじい風の音が鼓膜を震わせ俺達は皆しゃがみ込んだ。


 リファはありったけの魔力を込めたのだろう。

「キース後はよろしく」

 そう言い残して気を失ってしまった。こんな時に無理して全魔力を注ぐなんて。リファの馬鹿タレ。



 俺達はかなり薄まった靄の中を帰還する事にした。 

 リファは俺が背負って歩いている。ビントスが背負うと言ってくれたけど断った。

 リファに触れてもらいたくなかったからだ。途中でシャリナも回収した。

 3メトル位しかなかった視界も今では50メトルは見通せるほどに瘴気は薄まっている。

 間違いなく元凶を断つことができたと思う。


 街道へ着くとそこはクリアな空気に満ちていた。

 赤茶けた草原に一本の街道が続いている。

 これならすぐにでも封鎖は解除されるだろう。


「なんだよ。俺達は今回元凶の調査が目的だったのによ、結局全部解決しちまったじゃねぇか。しかもガキに頼り切りでよ、情けねぇ」

 帰り道、ロッドルが何か後ろでぼやいているのが聞こえてきた。

 (リファが頑張ったんだからいいじゃんか!素直に喜べよ)


 シャリナがぶつぶつと何か呟いている。

「こんなの常識外よ。怖い思いして、死ぬ覚悟までしたのにばかばかしい程呆気なく終わってしまうなんて。結局私はゴブリンしか倒してないじゃない。何なのよ、もう!」

 (無事に生きて戻れたのに文句言うなよ!)


 ビントスも一人ごちていた。

「やれやれ。生きた心地がしなかったぜ。もうこんな依頼は二度と引き受けねぇぞ」

(そこまでじゃなかった気がするけどな。結局ビントスは青猿と戦ってないし。一匹も倒してないし)


 三者三様のボヤキを聞きながら戻ると、騎士団が崖の上で待っていた。

 そのままイグニアス団長の元へ報告に連れて行かれそうになったけど、俺だけはリファを土小屋に寝かせるという理由で遅れて参加にすることになった。


 俺が騎士団長の幕舎に入ると、全員の注目を一身に浴びた。

「遅れてすみません」

 一言謝罪をして席をついてもまだしんとしている。

 居心地の悪さに隣のビントスに視線を向けると顔が引きつっていた。


「キースとか言ったな。報告は聞いた。お前達は二人揃って年齢に似合わぬ実力を持っているとか。だがな、我らは冒険者ギルドに調査とその手助けを依頼したのであって、解決までは頼んでいない。それは王都から来る聖魔法師の仕事だったのだ。お前達のしたことは余分な事であったと言っておく。だが、既に解決してしまったものは仕方ない。街道が通じれば喜ぶ商人も多かろう。よって、明日朝までに問題が無ければ帰還しても良しとする。依頼書は後でビントスがまとめて持ってこい。サインしてやる。それから後日、領主ファリバス・ブルジェール公より今一度招集があると思う。その折は必ず応じるように。以上だ」


 まさか解決をして文句を言われるとは思わなかった。

 確かに調査を依頼されていたから出しゃばりすぎたと思わないでもないけど、ねぎらいの言葉一つないとは・・

 ビントスの顔が引きつるわけだ。


「どうやら俺達のやったことはお気に召さなかったらしい。ま、気にするな」

 幕舎へ戻る途中、ビントスが慰めるように言った。

「考えて見りゃ騎士団にできなかったことを俺達冒険者がやってのけちまったんだ。騎士団の面子は丸つぶれってことだろ。そりゃ面白くないわな」 

「でも納得いかないわ。あんな怖い思いしたのに怒られるなんて」

 ロッドルもシャリナも不満が顔に出ている。

「小僧、騎士団なんてあんなもんだ。だが、なにを言われてもぐっと堪えるしかないのさ。それが長生きのコツって奴だ」


「別に俺は気にしないよ。元々旅の合間の暇つぶしで受けた依頼だったし。それに街道封鎖が解けて助かる人がいるからそれで満足だよ」


「お前はガキのくせに大人だなぁ。これまで何があったか知らないが可愛気が無さすぎるぞ」

 ビントスが溜息をついた。

 ほっといてくれ!



 翌日、昼過ぎに解散を命じられ俺達は帰途に就いた。

 ブルジェールへ向かう途中、商会が多く野営している場所でロバートさんを見つけた。


「おじさん。街道の瘴気は無事掃えたからそのうち封鎖は解除されると思うよ!」

 リファが嬉しそうに報告した。

「本当か!本当なのか!これで私は助かる。君たちありがとう。ありがとう!」

 おじさんはすごく喜んでくれた。

 これを機にセントラル商会とは縁を切って奴隷の輸送なんて仕事はやめて欲しいと思う。

 ま、おじさんの喜ぶ顔が見れたし肩の荷が下りた気分だ。



 そのまま、ビントスとロッドルの仲間たち全員でぞろぞろとギルドへ戻った。

 会議室のようなところで簡単な報告をして報酬を受け取った。俺とリファ二人分で金貨1枚だ。エイミーさんの話ではGランクの報酬としては破格の額らしい。

 その後、滞在先を伝えて俺達はギルドを出た。


 

 ハワードさんの家に戻るとベックはまだ帰ってなかった。

 街道封鎖が解けることを伝えるとハワードさんもバリアンさんも喜んでくれた。 

 それだけでも頑張って良かったと思う。


 翌日の夕方、ベックが帰って来た。

 すごく落ち込んだ様子で、「親父、すまねぇ。インゴットは手に入らなかった」と告げた。 

「いや、もういい。街道はもうすぐ通れるようになるらしい。手間を掛けさせて済まなかったが大丈夫だ。それより、この二人の話を聞いてやってくれ。活躍したそうだ」


 ハワードさんに慰められ?てベックの表情も明るくなった。

 それから俺達はギルドマスター特例指名依頼を受けた件について話した。 

 勿論、ロバートさんとの出会いも含めてしっかり報告をした。


 だけど、話していく内にベックの顔色はまた悪くなっていった。

「俺の杞憂だと良いんだがな。無性に嫌な予感がするぜ」


 その言葉に俺とリファは顔を見合わせた。

(何がいけなかったの?)

(さあ?)


「親父。少しのんびりするつもりだったけど早めに出立するよ。こいつらは領主に目を付けられた可能性が高い。面倒が降りかかる前に街を出た方がいいと思うんだ」


『え?』


「考えても見ろよ。瘴気の発生はいつどこで起きるか分からねえ。だから優秀な魔法師を国も領主も手元に置いておきたいんだ。加えてここの領主は信用が出来ない。領主がお前達を手に入れようと考えたら何をしてくるかわからねぇ。今更だが、そのギルマスの依頼を受けるべきじゃなかった。そうしたリスクを説明しなかったギルドもギルドだ。だが、俺もお前たちにきちんと話してなかったからな。俺のミスもある。すまなかった」


「でも私達この国の人間でもないし、命令されても応じる必要なんてないよ?」

「だから卑劣な手を使ってくるんだ。例えば、そうだな。領主の館で出された食事や飲み物に睡眠薬を入れてあるとかな。眠っている間に隷属の首環が嵌められて従順な奴隷にされちまう」

「そんなの犯罪じゃない!」

 リファが憤慨して立ち上がった。

「あぁ。ここはそういう国だし、ここの領主はそういうことを平気でする奴だ」

「じゃあ、領主から呼び出しが来ても行かないようにする」

「それはダメだ。そんな事をしたら余計ややこしくなる。行って無難に切り上げて帰ってこい。帰ってきたら即出立だ」

「ベックは来てくれないの?」

 ベックがいれば心強い。ぜひ共に来て欲しい。

「使者に聞いていいと言えばな。だが、許しが得られなければ無理だ。ま、そうは言ってもお前達みたいな子供はいらないかもしれん。俺の取り越し苦労だと良いのだがな」


 ベックの話を聞いて俺とリファは不安になってしまった。とにかく何事もないことを願う。

 そう心から願っていたのだが・・


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