ギルマス特例指名依頼 3
騎士の怒鳴り声が大きかったのか、それから次々とアンデッドが現れた。
その度に二人の騎士が槍を振るい頭を落とすか足を切り落とすかで対処をした。
ロギナスの騎士と違い、ブルジェールの騎士は余程強いらしい。少なくともこの二人は相当な槍使いと分かる。
暗闇の街道を進み、予定していた目標地点まで辿り着くとすぐに引き返した。
少人数であれば瘴気の中を移動できることが確認された。
この後報告をして、次の作戦に入ることになる。
俺達は朝と同じくイグニアス騎士団長の幕舎に戻った。
「では報告します。目標地点までは30分とかけず到達しました。途中、複数のアンデッドに遭遇し討伐しました。種類はゴブリン15、灰色狼12、ワイルドボア1、角兎5です。討伐と言いましたが、動きを封じるにとどめ完全に殺してはいません。至近距離に現れるため、完全な討伐は我々の呼吸が出来なくなり作戦に支障をきたす恐れがありました」
「うむ。ご苦労だった。キース、リファーヌお前たちの魔力はどのくらい消費したのか」
「私は1割も使っていません」
「私もです」
議場が騒めいた。
「強がりを言うでない。僅か100メトルとはいえ二人とも常時魔法を発動していたのだろう。消費した魔力がそれ程少ないとはとても思えん」
「お言葉ですが、嘘ではありません。昨日報告しましたが、以前も同じ状況で1キロルを進みました。消費魔力は問題ありません」
「これから次の作戦を検討するが、お前たちの魔力量を参考にするのだ。あとから嘘と言っても聞く耳を持たんぞ」
「問題ありません」
それから作戦が話し合われ、次は瘴気の発生源を探すことになった。
往復3キロルくらいならわけもない。
昼過ぎに偵察を兼ねてもう一度崖下へ行くことになった。
ただし、今度は騎士団の護衛はつかない。冒険者で十分という判断だ。
偵察に選ばれたのは俺、リファ、ビントス、シャリナ、ロッドルの5人に決まった。
ロッドルはビントスとは別のパーティーのリーダーだそうだ。ギルドより指名された腕のいい冒険者で槍を使うらしい。
解散して一度土小屋へ戻る途中。
「キース、さっきは滅茶苦茶臭かった・・」
「ごめん。でも中途半端に放置は良くないよ。なんかいい方法ないかな。ベックがいれば気配を教えてくれるから問題ないのに」
「うーん。視界が利けばいいのよね。いっそ上空から新鮮な空気を落として瘴気を外側に吹き飛ばすみたいな感じはどう?」
「さっきの旋風魔法を上下逆向きで行うってこと?だとすると渦から四方に浄化の空気をまき散らす感じかな。いいんじゃない?視界は広がるし匂いも外に向かってくし、俺の結界も必要なくなるかも。一度試してみよう!」
昼過ぎ、一度イグニアス騎士団長の元へ集まってから再び魔神の爪痕へ向かった。
「ちっ、まさかこんなガキのお守りをする羽目になるとはな。足引っ張りやがったら承知しねぇぞ」
ロッドルはすごく態度が悪かった。
さっきと同じように聖魔法の範囲結界を張り、更にリファの魔力発動に合わせて浄化魔法を付与する。上空から吹き降ろす風が吹き、瞬く間に瘴気が霧散してゆく。
直径で30メトルの安全地帯が出来た。
吹き込む風は強いけど視界が広い。
いい感じだ。
シャリナが目を丸くしている。ビントスは口笛を吹き、ロッドルは舌打ちをした。
暫く瘴気の靄の中を進んでみたけど問題なさそうなので俺は範囲結界を解除した。
これで魔力の温存ができる。もし、リファの魔力が底をついても問題ない。
俺達は一度さっき行ったばかりの街道の中間点に向かった。僅か100メトルの距離だからすぐに着いた。
そこから南へ向けて歩き出す。
1.5キロル進めばそこが瘴気の中心地点になる。その周囲を探して手掛かりを見つけるしかない。
途中ぽつぽつとアンデッドが近寄って来たけど俺が聖光弾を放って対処した。
腐敗臭は目論見通り外側に向けて流されていく。
ビントスとロッドルは俺達とシャリナの護衛役だけどまるで出番がない。
「ちっ、ガキのくせに」
「張り切るのはいいけどよ、魔力切れは勘弁してくれよ」
「私より全然使えるじゃない。なんか落ち込むわ・・」
1キロル行ったところで大型のアンデッドが現れた。
四刃蟷螂と戦斧大鹿だ。いずれもC級認定の魔物がアンデッド化したもので2~3メトルサイズ。
前後を挟まれて、しかも周りにゴブリンと草原狼を複数従えている。
いきなりの急展開に怒鳴り声が乱れ飛んだ。
四刃蟷螂と向き合うロッドルが「俺はこいつで手一杯だ。ビントス、後ろをしっかり守りやがれ」と叫んだ。
そのビントスは戦斧大鹿と向き合いつつ、3匹のゴブリンと5匹の草原狼を牽制している。
「無茶を言うな!数が多すぎる撤退だ、撤退!」
シャリナは泣き出しそうな顔でゴブリンに聖光槍を放った。
「皆、落ち着いて。キースがいるからこれくらい大丈夫よ!」
リファまで大きな声で叫んだ。
俺は聖光弾を一発戦斧大鹿にぶつける。角で防御されたけど顔面半分が腐り落ちた。それでも怯ませることはできたからその隙に草原狼に向けて聖光弾を次々と当てる。
その間にシャリナがゴブリンを倒して行く。
ロッドルは槍で四刃蟷螂を牽制するだけで手一杯。ビントスは睨み合っている。
草原狼を倒し、俺はビントスのフォローに入った。
聖光槍を上空へ放り投げた。
そして戦斧大鹿の正面に向けてもう一発。これは大きな角で払い除けられた。でも囮だから問題ない。本命が上空背後から軌道を180度変えて背中に突き刺さった。
「ピィーッ」
「ビントス、今!」
戦斧大鹿は背中から地面までを串刺にされて腰砕けになった。悲鳴と同時にがら空きになった喉元にビントスが斧を一閃して首を切り落とした。
これで勝負あり。すぐに四刃蟷螂と格闘するロッドルの援護に入る。
四刃蟷螂の足元に火球を放り込んだ。粘着タイプで足元から焼け崩れる。
体を支える4本脚を失った敵などもう怖くない。
ロッドルが四刃を牽制している間に俺が聖光弾を放って止めを刺した。
視界の範囲に魔物が消えたのも束の間、次は二頭蛇が現れた。
即座に石杭を隆起させて地面に縫い留める。
そこをロッドルが首を飛ばして決着した。
さすがに一度引き返そうかという話になった。言い出したのはシャリナで、ビントスが頷いた。反対したのは俺とリファ、それにロッドルだ。
「少し混乱したが終わってみれば楽勝だったろ。まだ調査地点に辿り着いてもいないのに引き返すのは反対だ。ガキどもでさえ勇気見せているのにお前らは情けなくないのか?」
「いや、明らかに人数が少なすぎる。C級が3、4匹も出てきたら対処が追い付かなくなる。そうなる前に引くべきだ」
「人数より強さを優先した方がいいよ。弱い人がいても邪魔なだけだし。お仲間に強い人はいないの?あ、午前中に俺達の護衛した人達はなしで。あの二人はいない方がいいと思うよ」
「何でだ?あいつら騎士団ではトップクラスの実力だって話だぞ」
「臭いからって理由で最後まで討滅しないから。今参加してないのも臭いのが嫌だからでしょ。それに威張るし。いくら強くてもそんな人いても困るよ」
「ははは、ガキが言うじゃねぇか。だが、確かにあいつらに気概なんてないのさ。この場にいたら嫌な思いをしていたはずだ。止めとけ止めとけ」
「騎士団を当てにしないとすると、俺の仲間か。うちのは実力不足だ。そっちは?」
「俺のとこも通用する奴はいない。つまりこのメンバーがベストってことだ。とにかくもう少し進もうぜ。まだ引き返すには早い」
「・・分かった。だが、俺はここで死にたくない。少しでも手子摺ったら即撤退だ。いいな」
そこで全員頷いて先を進む。
しかし、そこから100メトルと歩かない内に、灰色角熊のアンデッドが突っ込んできた。体長3メトル越えの巨躯に剛腕と角を使った突進が武器の魔物だ。
こいつもまた雑魚アンデッドを引き連れている。
前方からドドドドっと突進音が聞こえたから対処は楽だった。
「落とし穴作るから、注意して!」
一言告げて、深さ5メトルの穴を地面に空けた。
そして見事に嵌ったところを俺が浄化した。
引きつれてきたゴブリンや狼の雑魚アンデッドはビントスとロッドルが瞬殺する。
さらに進んで現れたのは毛毒蜘蛛という2メトルの巨大蜘蛛のアンデッドだった。
こいつは地面に罠糸を張り巡らせて待ち構えていた。
その糸に足を絡めたのは先頭を歩いていたロッドルだった。
いきなり足に絡みついた粘着質な糸に嫌そうな声を上げた。
「げっ、こりゃ蜘蛛の巣だな。糸を引っ張っちまた。すぐにでかいのが来るぞ」
言いながら槍先で糸を切り落とした。
来ると分かっていれば問題ない。
俺は火矢を数本浮かべる。
瘴気の壁の奥から赤い目が光り、徐々に全体像が姿が見えてきた。
そこに向けて火矢を放った。正面、左側面、右側面、それと頭上から。
それで終わった。
本来は猛毒の毛に近寄る事さえできない危ない魔物だ。加えて自在に繰り出す糸と鋭い8本の爪と牙。巨体の割に俊敏な動きが厄介なB級認定の魔物だ。
アンデッド化していたとはいえそれでも難なく倒せてしまった。
戦闘が続いているけど魔力的な問題はない。だから、先へ進む。
中心地に近づくほどに瘴気が濃くなってゆく。
濃くなるというのは密度と毒性のことだ。
そして次のアンデッドが現れた。
ブラッディエイプの群れだ。ブラッディエイプは魔物の血の色と同じ青い体毛をしている大猿だ。太く長い腕と短い脚に短い尻尾、攻撃的で知性が高く群れで連携を取る。素早さと剛腕が厄介な魔物だ。
アンデッドでもその種の特性は変わらない。ただ少し動きが鈍くなるし知性も劣ることが知られている。それでも十分に厄介な魔物であることに変わりはない。
ギルド認定ランクは群れでA級となっている。ブラッディエイプに遭遇したら全力で逃げることが推奨されている。
そして俺の持っていた図鑑にも超危険な魔物として載っていた。
そのブラッディエイプが群れで現れた。
「ビントス、ロッドル!下がって、早く!」
俺はすぐに地面に両手をついて全員を覆うように堅牢な石小屋を作った。
すぐに壁のあちこちを叩き割ろうとする打撃音が聞こえてくる。
「おい、とんでもなくヤバいのに出くわしちまったな。お前の範囲結界と言ったか、狭いがあの中なら安全なんだろ?それで脱出できねぇか?」
「いや、無理だと思う。こんな強烈な打撃はさすがに耐えられないよ」
「なんだと!だからさっさと撤退しようと言ったんだ!どうするんだ。あの化け物を倒すのは俺達だけじゃ無理だぞ。騎士団の救援を待つか?」
「あいつらがここまで来られる訳ないだろ。もし来るとしたらひと月以上先に王都から来るとかいう聖魔法師とその護衛だ」
「そんなに待てない!私たちが餓死しちゃうじゃない。そしたら私たちもアンデッドの仲間入りよ・・そんなのいやぁ!」
ロッドルとビントスの言い争いにシャリナがヒステリー気味に食いついた。
俺はひとまず光球を出して室内を明るく照らす。
皆青ざめた顔をしている。
「ちょっと皆、落ち着いてよ。きっと何とかなるよ」
「簡単に言うな。あれはA級だぞ。俺達だけじゃ無理だ。ここが俺達の墓場になるんだ」
「クソ!クソ!クソ!」
「嫌よ。そんなの嫌!何とかしてよ。あんた達が先に進むって言ったんだから何とかしなさいよ!」
ダメだ。落ち着いてくれない。
「ちょっと!落ち着いてよ。ワーワー騒いでもどうにもならないでしょ。いい大人がみっともなく取り乱さないで!」
見かねたリファも加わった。
「なんだと!」
「いや、この嬢ちゃんの言う通りだ。俺達はちょっと冷静になろうや」
ビントスがリファの言い方に怒りを見せたが、ロッドルが冷静になってくれた。さすが一流の冒険者だ。切り替えが早い。
対して、シャリナは蹲って泣いてしまっている。
そうこうしている間にもブラッディエイプは壁を叩きつけている。
俺は改めて石小屋に魔力を注ぎ補強した
A級認定されるだけはある。かなり狂暴な拳が叩きつけられている。シャリナのように取り乱して絶望するのが普通なのかもしれない。
だけど、リファも俺も落ち着いていた。過去に出会った2体のオーガよりも強く、頼みのベックもいない。それでも落ち着いていられるのはこれまでの経験だろうか。
「ところでこの石の建屋すげぇな。お前が造ったのか?」
「うん」
今頃か?と思わずにいられない
「おぉ。確かにこれがあって助かったぜ。で、こいつは大丈夫なのか?どのくらい持つんだ?」
「魔力を込めれば大丈夫。今の状態でも数時間は持つよ」
「てことは俺達の命もあと数時間か・・」
「いや、だからまた魔力を込めれば大丈夫だって。ここは当面安全地帯だから」
「そうか。ならばどう生き残るかを考えようぜ。その前に、お前らの残りの魔力量を教えてくれ」
「俺はまだ8割以上」
「私は5割弱」
「・・・化け物か。お前らは。まあいい。多い分には助かるからな。で、この事態を打開する方法はあるのか?」
ロッドルの口の悪さは窮地でも健在だった。
俺達は車座になって座った。
いつの間にか、ロッドルが主導して話を進めている。
でもそれでいいと思う。悲観的な考えばかりのビントスよりよほど頼りになる。
俺達はこんなところで死ぬわけにはいかない。
全員で生き延びる方法を考えて意見を出し合うことにした。
一部加筆修正をしました
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この後も新たな展開が続きます。
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