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ギルマス特例指名依頼 2

 俺達は邪魔にならないように路地に入った。そこにあった木箱におじさんに座ってもらいヒールをかけた。

「はい。これで終わり。無理しなければ数日で痛みは消えると思うよ」

「ありがとな。どこの子か知らないけど本当に助かったよ。ぜひお礼をしたいんだが、おじさんそれ程の手持ちがなくてな」

「お礼なんていいよ。それより少し事情を聞かせて」

「君たちのような子供に聞かせる話じゃないんだが・・」


 おじさんは元々小さな商店を営んでいたらしい。1台の馬車で隣国リステル共和国とブルジェールを行き来して、細々と稼いでいたそうだ。ところが一年前に(くだん)のセントラル商会から引き合いが来た。セントラル商会で扱う奴隷の輸送を行わないかと。馬車一台に30人を乗せて向こうの顧客へ送り届ける。費用を抜きにして金貨3枚の報酬がもらえる。その金額はそれまでの倍以上の利益になった為、つい引き受けてしまったと。

 その契約の中に、期日内に奴隷売却金を持ち帰らない場合はセントラル商会の規定の利息を支払う条項があった。ただ、利息額の明示はなく通常の利息の範囲だと説明されたそうだ。

 しかし、今回街道の封鎖と共に売上金返済の目途が立たなくなってしまった。奴隷を輸送した馬車が売却金諸共、隣国から戻れなくなってしまったからだ。

 そしてディスカスから示された利息は日当たり金貨10枚だった。

 期日まであと五日。そして王国へ要請した聖魔法師の到着はおよそ半月からひと月後と領主へ回答があったらしい。


「このままでは奴隷売却金を返すまでに利息だけで金貨100枚以上を失ってしまう。そんな金はない。店も家もすべてを手放すことになってしまう。私はどうしたらいいんだ・・」

 おじさんは頭を抱えてしまった。


「でも、少し私たちにも関係あるかも。さっき西の街道の話をしていたでしょ。私達、多分だけど街道を遮っている瘴気を払いに行くの。そしたら道が開通しておじさんの悩みが晴れるかもよ?」

 リファが元気づけるように笑顔をみせた。


「ははは。君たちの様な子供に何ができるんだ?励ましてくれているつもりかもしれないけど、嘘なんてつかなくていい。私が馬鹿だったんだ。あいつらがどういう連中か知っていて取引をしたのだから」

「嘘じゃないよ。ほら、俺は聖魔法が使えるからギルドから瘴気の調査を頼まれたんだ。信じるか信じないかはおじさん次第だけど。でももし信じる気があるなら、すぐにお金を回収できるようにそこの近くで待っていると良いよ。」

「そうだな・・そうするよ。他に打つ手もないからな。こんなことになるならあの時奴等と手なんか組むんじゃなかった」


「あ、でもさ、瘴気の発生した街道ってどの辺りなんだろ」

「それはこの街から馬車で半日の距離だ。あの魔神の爪痕さ。」

「魔神の爪痕?ってなんだそれ?」

「なにそれ?」

「ん?知らないのか?魔神の爪痕ってのは深い渓谷だ。かつて神々と魔神が戦った時にできたと言われる深くて長い谷だ。それが国境になっている。今は道が整備されているから谷の底へも馬車で行けるし越えられるんだ。だがこの辺りでその街道以外に人が通れる道は他にない。今は出入り口を領主様の騎士団が封鎖しているはずだ」


 おじさんはすごく真剣な目で俺とリファの顔を交互に見た。

「なぁ。私も人の心配をする立場じゃないんだが、君たちの話を聞いていると心配になる。今回のことは国や領主様の仕事だ。ギルドの依頼とか言っていたけど君達みたいな子供が危険を冒す必要はない筈だ。命を大事にしないと、きっと後悔するぞ。少なくとも私は君たちが屍人(しびと)になった姿を見たくはない」


「うん。心配してくれてありがと。でも私たちは大丈夫。やばくなったら退散するから」

 リファが自信満々に応えた。

 その根拠のない自信の出所が気になるけど、俺も心配はしていない。

 多分俺達なら大丈夫。



 おじさんとそのまま別れハワードさんの家に帰って来た。

 でもベックはいなかった。

 ハワードさんの話では、西の街道が封鎖されたせいで鍛冶に必要な金属のインゴットが買い占められたらしい。それでベックが急遽近隣の街へインゴットを探しに出かけることにしたそうだ。

「久しぶりの親孝行だ。すぐに調達してくるからちょっと待っていれくれ」と言っていたと。

 ハワードさんの話ではベックは4、5日は戻らないそうだ。

 ハワードさんにはギルドの依頼で数日留守にするとベックに伝言を頼んだ。


 翌日朝、ギルドへ向かった。

 エイミーさんが対応をしてくれて俺達のギルドマスター特例指名依頼が決まった。

 俺達が子供という事もあり、現地を封鎖している騎士団から信用されないかもしれない。

 その為、依頼書とは別にギルマスの親書を渡された。


 数日分の食料を買い込み、一度職人ギルドへ行き野営道具と馬を曳き出してから西門へ向かった。

 途中、干し肉を(かじ)りながら休まず馬を進めて夕方前に到着した。


 谷の手前の街道上に馬防柵が据えられていた。

 そこに商会の馬車やら護衛やらが大勢野営をしている。

 封鎖されて足止めされているのだろうけど、いつ解除されるかも分からないのにご苦労様だ。


 柵に近づいて行くと、見張りの兵に呼び止められた。ギルドから預かった親書を渡すと、馬を降りて後ろをついてくるように言われた。

 多くの兵がいて俺達をじろじろと見てくる。

 そりゃ騎士団の野営場所に子供がいたら違和感しかないだろうからね。

 そうした視線は無視して周囲の様子を見ながら案内兵の背中の後をついてゆく。


 案内兵がひとつの幕舎の前で止まり親書を手に中に入っていった。

 俺達は暫く待たされた後、中に入る事を許された。

 そこに眼光の鋭い男が座っていた。40歳を過ぎたくらいのお偉いさんとひと目でわかる身形だ。


「私はブルジェール騎士団団長のイグニアスだ。ギルドマスターの親書は読んだ。お前たちが優秀な聖魔法師と風魔法師であると書いてある。間違いはないか」

「優秀かどうかは知りませんが私は聖魔法を、リファーヌは風魔法を得意としています」

「ふむ。これまでの瘴気を掃ったことはあるか」

「あります」

「ではその時の状況の詳細と討伐したアンデッドについて話せ」

「はい、ひと月と少し前にドワンゴに向けて南街道を旅していました。ドワンゴまで5日という所で街道を瘴気が覆っていました。森と川に挟まれた場所で迂回のできない場所でした。私は直径5メトルを浄化魔法で覆う形で約1キロルの汚染された距離を馬で抜けました。その時に討伐したアンデッドは屍人、ゴブリン、草原狼、オークです。浄化を付与した炎で焼き尽くしたり、リファーヌの風魔法で刻んだりして倒しました」

「ほう。ではお前たちは瘴気の中を進めるというのだな?」

「はい」

「良かろう。明日確認させてもらう。他の冒険者共の集まる区画で野営するように。野営準備はしてきたか?」

「はい。問題ありません」

「案内させる。下がってよし」


 下役の兵に案内されて冒険者の集まる区画にきた。

 騎士団の物とは明らかに違う小さい幕舎が立っている。数は4つ。周りに皮鎧を付けた男女が数人いた。

「お前らもこの浄化作戦に参加するのか?」

 土小屋を作って、二人でリファ特製の塩スープを(すす)っているとおじさんとお姉さんが来た。

「お前たちが野営慣れしているのは分かった。土魔法のねぐらもいい出来だ。それにスープも上手く出来たみたいだな。俺はビントス。少し話を聞かせてくれないか」


 話しかけてきたのは30代半ばの顎ヒゲのおじさん。隣に20代半ばの女性もいる。

「私はシャリナ。君ね、こういう時は魔法師なら魔力を温存しておくものよ。もし戦いになった時に魔力が切れたらどうするの?こんな立派な土小屋作る前にそういう事も考えなきゃダメよ」

「・・・俺はキース。こっちはリファーヌ。魔力の事は心配いらない。いつものことだから」

(話をするのはいいけどまだ食事中だぞ。人の食事中にいきなり説教ってあり得ない。常識ってものはないのか!)と心の中でプリプリ文句を言っても口に出して面と向かっては言えない。

「まぁ、いいじゃないか。こいつらだって小さくとも冒険者だ。失敗から学んで利口になるってもんだ」

「それで何が訊きたいの?」

 ちょっと棘がある聞き方になってしまった。それでもビントスは気にもかけない。


「あぁ。さっき騎士団から明日の出撃要請が来た。それで、明日は俺とシャリナがお前たちに同行する。一応言っとくが、自分の身は自分で守れよ。その上でだ、連携を確認しときたい。お前達に何ができるかを教えてくれ」

「俺が瘴気を遮断する聖魔法の結界を張れる。範囲は5メトル位。それにリファーヌが風魔法で空気を操って、俺がその風に浄化魔法を付与して広範囲の瘴気を掃う予定」

「・・・そんなことができるのか?かなり複雑で高等な魔法だぞ」

「キースはそれくらいできるわよ。だから依頼されたんだし」

「となると、俺達はお前らの護衛役だな」

「明日は何人が参加するか知ってる?5メトルの範囲に何人も入ったら身動き取れなくなるよ」

「そりゃそうだ。詳細は明日の朝、軍議で決めるそうだ。とにかくここの4人は参加決定だ」

 それからビントスはここにいる冒険者の構成を教えてくれた。

 ビントスは4人パーティーで、冒険者の一団の連絡役を仰せつかっている。ビントスは長柄の斧使いで、シャリナは聖魔法師。攻撃魔法が得意なのだそうだ。

 ここには俺達を含めて3パーティー10人しかいない。その中に聖魔法師はもう1人いるけど治癒師で戦闘はできないらしい。


 騎士団にも聖魔法師はいるけど魔力量が少なすぎて使えないとのこと。

 今までは防衛線を超えて来るアンデッドを討伐するか追い返す程度のことしかできていなかったらしい。

 エイミーさんが言っていた通り、ここには聖魔法師が圧倒的に不足していた。



 翌朝、ビントスに呼ばれて騎士団長の幕舎へ連れて行かれた。

 軍議は騎士団側から5人参加し、9人で行われた。

 内容は、聖魔法結界の効果範囲と持続時間の確認に加えて同行する者の確認がされた。

 俺を中心に5メートルの範囲しかない。その狭い範囲では戦闘を考えればせいぜい3、4人しか入れない。

 その辺の確認とメンバーの選定をして早速最前線へと向かうことになった。



 500メトル進むと深い谷に出た。下を覗き込むと瘴気で黒霞が漂っていて見通せない。

 瘴気を突き破って枯れ木の頂上部が顔をのぞかせていた。


 崖際に一部分尖杭を交差させて組み上げた柵が置いてあった。そこを抜けると馬車が通りやすいように石畳が敷いてある。崖を削り馬車が通れる幅の道が崖下まで伸びていた。30メトルの崖を下るのに、全長200メトルの長い下り坂を削って作ったそうだ。

 随分と大変な工事だったと思う。


 その道を護衛騎士二人が先頭に立って坂を下りてゆく。

 すぐ後ろに俺とリファ。続いてビントスとシャリナ。

 更に騎士数人が続いている。イグニアス騎士団長他軍議に出ていたメンバーは崖の上に立って俺達を見下ろしている。


 瘴気から5メトルのところに来た。下を見れば1メトル下が黒い瘴気だ。厚みは3メトルと聞いている。

 そこで俺は結界魔法を発動した。

 ここまで来るといつ下からアンデッドが現れてもおかしくない。


 結界内に先導の護衛騎士二人とリファが入る。

 結局、ビントスとシャリナはついて来ない。入りきらないのだ。


 リファの風魔法に合わせて俺も聖魔法を付与する。直径5メトル大のつむじ風が巻き起こり目の前の瘴気を吸い上げながら浄化し始めた。


『おおー』

 どよめく声が上がった。

 こんなもので驚いて貰っては困るのだが、皆さんには十分に驚くべき成果らしい。


 ひとまず、旋風が切り開いた道をゆっくり歩いて行く。すぐ後ろはまた瘴気が覆って黒霞以外何も見えない。


 突然アンデッドが襲って来たら困るので、少し結界の浄化レベルを高めにイメージした。

 結界の外に空気の流れが出来て前方の旋風に向かって吸い寄せられてゆく。


「おい、お前達。魔力量はあとどのくらいだ」

 50メトルも進まない内に護衛騎士の一人が質問してきた。

 今始めたばかりじゃないか。まだ微量しか使っていない。

「まだ全然大丈夫ですよ」

「私もです」

「そうか。とにかく帰りの分の魔力も残しておけよ。こんなところで俺は死にたくないからな」


 どうやら臆病な人らしい。

 今回は街道を進み、凡そ中間地点まで行って引き返すことになっている。



 イグニアス騎士団長の話では瘴気は5キロルに渡って谷底を覆っているらしい。その中心は街道から南へ1.5キロルの地点と思われる。つまり、街道より北に1キロル、南に4キロルが汚染範囲だ。谷幅が約200メトル。5キロルを200メトル浄化すればいいわけだが、大本を絶たなければいつまでも解消しない。

 それが何かは分からないけど、おそらく街道から南へ1.5キロルの地点に何かあるはずだ。


 慎重に黒靄の中を俺達は進んだ。視界は3メトル位か。足元は草が枯れて赤茶けている。

 その視界にアンデッドが現れた。

 ゴブリンだ。瘴気を(まと)い、武器も持たずにふらふらと寄って来た。そこを護衛騎士が槍で首を刎ねとばした。何気なく、それでも見惚れるような一閃だった。かなり腕の立つ人の様だ。


 首を失っても、アンデッドは魔石を砕くか浄化しない限り動き続ける。

「聖光弾」

 俺は聖魔法で作った魔力の塊をぶつけた。

 白色に光る魔力光はゴブリンの胸に吸い込まれるとゴブリンを包んでいた瘴気を霧散させた。そして倒れて朽ち果てる。

 瘴気は肉体を腐らせる事無く生者であった時のままを保つ。そこに聖魔法を浴びせると、肉体は一気に腐敗が進み骨を残すばかりとなる。

 このゴブリンも骨となり崩れた。その朽ちる過程を目にすると、夢に出てきてうなされる程にグロい。

 間近で見たくもないし、腐臭も強烈だからできるだけ距離を取って倒したいのだが、視界不良のこの場では如何ともしがたい。

 『くさっ!』

 4人共鼻をつまみさっさと先へ進むことにした。

「おい、貴様!一体どういうつもりだ。私が倒したのに敢えて浄化魔法を使ったのは嫌がらせのつもりか?」

 匂いの薄まった場所まで移動すると同時にすかさず怒鳴られた。臆病な方の人だ。

 リファ迄涙目で俺を睨んでいる。

 (リファ、ごめんよ・・)


「首を刎ねただけじゃ足りないから倒したんです。次は魔石を砕いてください」

「なんだと!偉そうに、お前は騎士の俺に命令するのか!」

「いや、命令ではなくお願いしてるんです。こんな視界の悪い中であんなもの放置して不足の事態が起きた時に取り返しがつかなくなります」

「倒せば匂うだろ!至近距離であの匂いは我慢がならないんだ。今は調査の段階だ。討伐など後回しでいい。アンデッドは倒さず足止めにとどめる。分かったか!」


 それでいいのかともう一人の護衛騎士を見たが無視された。

「分かりました。そうします」

 おれは不承不承返事をした。


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