ギルマス特例指名依頼 1
朝食後、ハワードさんの庭で素振りをしてからリファと街中へ向かった。
勿論手を繋いでいる。そして今日もリファはご機嫌だ。
まず職人ギルドへ向かった。馬の様子を見るためだ。長旅を共にしてきた仲間なのだから放置はできない。ハワードさんに貰ったニンジンを二本お土産に厩舎へ行くと寂しかったのか鼻を擦り付けて喜んでくれた。否、早くニンジンを寄こせとせがんでいただけかもしれないけど。とにかく喜んでくれた。
それから商店街を目指して西へ向かう。
俺は興味のあった本屋と魔道具屋に寄った。
気になったのは英雄伝記と結界魔道具だった。
英雄伝記は重くて分厚くてとても持ち運べない。さわりを少し読むにとどめた。でないと買いたくなってしまう。
結界魔道具は5メトル四方に魔物を寄せ付けない旅の便利道具だ。
だけどこれが異常に高かった。何と金貨10枚。更に4つの中級魔石が別に必要で、効果時間はたったの10時間。なんて非効率で不経済なのか。目が飛び出る位驚いた。
てことは、俺はすごく効率的で経済的な男じゃないか。そういう事でしょ?
帰ったらベックに自慢しようと決めた。
他には虫よけ首飾り、そよ風の帽子、手品マント、爆音発生器、目つぶしライトなどなど。
ラインナップが微妙ですべて金貨1枚以上するらしい。魔道具とはとても高額だった。
リファは服飾店に寄った。色々見て回っていたけど何も買う気はなかったらしい。
そんなリファに俺からリボンをプレゼントした。ピンク色でレースが付いた可愛らしい逸品だ。一目見てリファにとてもよく似合いそうだと思った。
風の強い日に髪が舞わないようにと思ったんだけど、リファは早速後ろ髪を束ねている。
すごく喜んでくれたから買ってあげて本当に良かった。
「ふんふふん♪ふんふふん♪」
リファの鼻歌を聞きながら手を繋いで市場へ向かう。
良い匂いが流れて来るから場所は分かった。
中途半端な時間にも関わらず賑わっていて、見て回っているだけで楽しくなる。
大きなボア猪の解体ショーが大勢の客をひきつけていた。
解体されている横で串焼きにして売り出している。お腹は減っていなかったけど思わず買ってしまった。そして非常に美味だった。
そのあと大通りを通って冒険者ギルドへ向かった。冒険者ギルドは東門の傍にある。このブルジェールの街に入った時に通りかかっているから場所は分かっていた。
石造りの大きな建物。入口の上部分の壁に交差する剣と矢と斧のロゴが描かれている。
扉の無い入り口を潜りカウンターを素通りして依頼の貼ってある壁際に向かった。受け付けの美人なお姉さんがそんな俺達を目で追っている。でも依頼を決めない事には受付に用はないし。
依頼表はランク毎に分けられて張り出されていた。Gランクの壁を二人で眺めながら目ぼしい依頼がないかを探した。
俺達しかいないから周りを気にせずにじっくり見ることができる。
基本的に街の中での仕事ばかりだ。ドブ浚いに草むしり、ペットの捜索、屋根の修理、畑仕事の手伝いにネズミや害虫の駆除。
どれも銅貨2枚だ。安宿で一泊二食したら手元に残らない。Gランクでは最低限の生活費しか稼げないということだ。依頼達成に二日以上かかれば生きて行けない。
「どれにする?」
「んーどれも安いね。その割に大変そう。キースは土魔法が使えるからこの草取りとかいいんじゃない?」
「いや、土魔法で草取りはできないよ」
「穴掘って全部埋めちゃえば早くて楽だよ?」
「そんなことして怒られないかな・・」
「ていうか、お金に困ってないのに無理に働かなくてもいいんじゃない?」
「うん。だけどランク上げないといつまでたっても割のいい依頼は受けられないよ。お金と時間に余裕のある内にランクを上げるべきだと思うんだ」
「うーん。それはそうなんだけど。なんか気乗りしないよね」
リファの気持ちはよくわかる。正直俺も全くやる気が起きない。せめてFランクの薬草採取であれば受けてもいいんだけどな。
そんな事を考えていると声を掛けられた。
「君たちは見ない顔だけど、もう冒険者登録は終わっているの?」
振り向くとさっきカウンターにいたお姉さんだった。
「うん。二人ともGランク」
首から下げている身分証を見せる。
「そう、登録はしているのね。でも一度カウンターに来てくれるかな」
にっこりとほほ笑むお姉さんに言われるままカウンターで身分証を渡した。
「一応決まり事だから守ってほしいんだけど、街を移動したら必ずギルドで冒険者証を見せてね。その街にどれくらいの冒険者がいるかの把握と冒険者の生存確認も兼ねているから。わかった?」
「うん、わかった」
俺達は素直に頷く。初心者講習を受けていないからそんなルールのことは知らなかった。
「ところで、登録ではベックという人とパーティーを組んでいるみたいだけど今日はいないの?」
「うん」
「確認したいんだけど、君たちはドワンゴの街に行ったことがあるよね。そこでベックさんが魔石を売っているの。記憶にある?」
「うん。憶えているよ」
ベックがギルドに出かけている間にアンナが刺されてキャシーとビッケが浚われたのだ。忘れる筈がない。
「その魔石の中にアンデッドの魔石があったらしいの。そのアンデッドを狩ったのはベックさんで合ってる?」
「ううん、違うよ。それはキースだよ」
「へぇ。キース君って聖魔法が使えるの?」
『うん』
「じゃああっちの部屋でちょっと見せてくれる?」
そう言うと俺達は奥の小部屋に連れて行かれた。
なんだかおかしな流れになって来てリファが怪訝な顔をしている。
「さて、私はエイミーよ。よろしくね。それで、ベックさんとリファーヌちゃんは聖魔法は使えないで間違いないかしら?」
「はい。間違いないです」
場所が堅苦しくなったせいでリファが緊張してしまったじゃないか。
「じゃあ、キース君はこの水晶に手を置いてみて」
入室時にエイミーさんは透明の水晶球を持ってきていた。
「ちょっと待ってください。なんでそんなことを調べるのか理由を教えてください」
リファの言葉が少し尖っている。なんか警戒しているみたいだ。
「それは、聖魔法の使い手を探しているからよ。理由は確認が終わってから話すわ」
俺は不満顔のリファにちらっと視線を送ってから手を乗せた。
個人の能力や力量については秘匿する者が多い。ギルドとしてもそこは尊重してくれている。だからわざわざ別室に連れてきたのだろう。
それに俺が聖魔法を使えるという事がバレても問題ない。母様もシモンも使えたわけだから普通に大勢いるのではないか?
「そのままヒールをかけるように聖魔法を使ってみて」
言われた通りヒールをかける。
すると水晶は透明色から白色へと変わった。結構眩しくて目をすがめた。
「うん。はっきりと確認が取れたわ。君はすごく才能があるみたいね。ちょっと驚きのレベルよ。何でもないような顔をしているけど、その年でこの魔力量にこの適合は普通じゃないわよ。自覚はあるのかしら」
そりゃ毎日魔力操作の鍛錬をしていますから、と言おうとしたらリファが先に返事をしていた。
「勿論!だってキースだもん!キースはすごいんだから!」
ふんす!と胸を張ってリファが俺の代わりに威張ってくれた。
「・・・ふーん。リファーヌちゃんはしっかり理解しているのね。まぁいいわ。では、次にいくつか質問します。まず、倒したことのあるアンデッドの種類を教えて」
俺に聞いた筈なのに、リファが得意げに応えたものだから面食らったみたいだ。それでもエイミーさんはすぐに切り替えて何事もなかったように話を続ける。ギルドに努めているとちょっとしたことでは動じなくなるのだろうか。
それから、聖魔法で何ができるかを色々と質問された。
俺の使える聖魔法は攻撃魔法、付与魔法、結界範囲魔法、治癒魔法だ。
それぞれ初級から聖級までレベルがあるけど、詳しく知らないから答えられなかった。
攻撃魔法は聖の魔力をぶつければアンデッドを倒せる。
付与魔法は自身の体や武器、他人の魔法にも付与できる使い勝手の良い魔法だ。
結界範囲魔法は瘴気の中でも安全地帯を作り出せる。アンデッドは侵入できないけど、強力な攻撃を受けると砕け散る可能性がある。
治癒魔法はヒールで骨折程度なら数日で完治させられる。
そうしたことをエイミーさんから問われるままに話した。
「質問は以上です。君の答えた内容については他の冒険者や外部機関へ漏らすことはありません。ギルド内では聖魔法が使える者として登録されます。これは何か変事が起きた時に迅速に指名依頼を出せるようにするためです」
理解できてますか?という視線に一応うんと頷いておく。
「今回、こんな事を聴取した理由についてだけど、さっきも言ったように聖魔法を使える魔法師を探しているの。実は先日、西の街道脇に大きな瘴気溜りが発生したの。この街には大規模な瘴気を浄化できる術者がいなくてね、今領主様が王国へ派遣要請をかけているところ。その街道は、隣国リステル共和国とこのブルジェールを結ぶ重要な交易路なんだけど、その瘴気のせいで通行できなくて困っているのよ。このままだと、隣国との交易が止まって物価が跳ね上がってしまうわ。だから早く問題を解消するために瘴気の湧き点の調査、アンデット討伐、或いは支援作業のできる者を探しているという状況よ。この件はブルジェール領主直々の依頼。ギルドとしては、聖魔法を使える人にギルド指名依頼を出す方針が決まったの」
「俺達Gランクだけど受けられるんですか?」
「私も参加できるの?」
「ギルド指名依頼はCランク以上と決まっているわ。だから君への依頼はできないし、受けられないの。けれど抜け道がある。ギルドマスターの承認が得られればギルマス特例案件として依頼が出せるわ。勿論君に拒否する権利はあるからそれでも構わない。それから、リファーヌちゃんの参加は難しいわね。聖魔法の使い手が対象だから、リファーヌちゃんに貢献できることがあるとは思えないのよね」
リファがあからさまにがっかりした顔をした。
「受ける、受けないはまだ分からないけど、もし、俺が受けるとしたらリファがいた方が絶対にいいよ。リファは風魔法が得意なんだ。リファが風を操って、俺がその風に聖魔法を付与すれば瘴気は簡単に浄化できるんだ」
「そんなことができるの?」
「うん。例えばリファが旋風を起こす。それに俺が浄化魔法を付与する。そうすれば旋風に瘴気が吸い寄せられて簡単に浄化が進むんだ。俺一人でやるよりはよっぽど早いと思うよ」
俺が説明をしている間にリファの顔がみるみる明るくなった。
こういうリファの分かり易いところが好きだ。
「そういう事なら二人セットで依頼を受けて欲しいわね。一応ギルマス特例の形で依頼を出すけどいいかしら。君達は子供だし無理に引き受けなくていいんだけど」
「一度ベックに聞いてみます。返事は明日でもいいですか?」
「ええ。そうね、保護者がいるなら相談すべきよね。できるだけ受ける方向で考えてくれるとうれしいわ」
翌日の午前中の再訪を約束して俺達はギルドを出た。
道すがらリファと受ける受けないの話をしたけど、リファはやる気満々になっていた。
「だって、キースは活躍するに決まってるもの。キースが褒められたら私も嬉しい」
「俺は褒められなくてもいいけど、困っている人がいるなら助けたいかな」
「じゃあ決まりね!私も頑張る!」
帰ったらベックに報告して一応許可をもらいたい。もし反対されたら勿論受けないつもりだ。
そんなことを話しながら中央の大通りを歩いて帰る。
商業ギルドを通り過ぎると大店の商家が立ち並んでいる区画に出た。
とある大店商家の前を通りかかった時だった。門から一人の男が勢いよく転がり出てきた。吹っ飛んできたというべきか。石畳の上に落ちてとても痛そうだ。
その店の中から大男が二人、身形の良い若い商人風の男が一人出てきた。
入り口に「セントラル商会」の看板を掲げている。
「おいおい、店の前で蹲っていたら邪魔なんですよ。あなたはどこまでうちに迷惑をかけるんですか。さっさと消えなさい」
商人風の男は細い目で冷たくその男を見下ろした。
俺とリファは突然の出来事に唖然としたが、リファが心配して声を掛けた。
「お、おじさん大丈夫?」
「だ、大丈夫‥いや大丈夫なんかじゃない。お願いしますディスカス様もう少し猶予をください。私の店を奪わないでください!」
「おいおい、人聞きの悪いことを言わないでください。お金を返せないあなたが悪いのでしょう。文句を言う前に金を返せと言ってるんですよ」
「ですから西の街道さえ通じればすぐにお金はお返しいたします」
「それはいつですか?約束の期日はあと五日。五日以内にお金を返していただければ何も問題ないのですよ。ただね、ロバートさん。先ほども言ったように一日遅れる毎に利息は増えるんですよ。あなたも商売人なら弁えていることでしょう」
「ですからそんな法外な利息は聞いたことも無いし払えません!」
「あなたのように金を返さない特別な方の為に適用する特別な利息です。利息を払いたくなければ期日までにお金を工面するんですな。もうこれ以上話すことはありません。失礼」
「ま、待ってください!お願いです、もう少し猶予を!」
ディスカスという商人は踵を返した。その足元に縋ろうとしておじさんは大男の二人に蹴り飛ばされた。
そして大男たちは殴る蹴るの暴行を加える。
「おい、あんた達やめろ!」
「やめなさいよ、あなた達!」
俺もリファも見ていられなくて叫ぶと、「喧しい、ガキは引っ込んでろ!」と怒鳴られた。
ここは夕暮れ時の大通りだ。かなりの人や馬車が行き交っていて皆何事かと見ている。中には兵士の姿もある。それにも関らず二人の大男は人目を気にすることなくおじさんをいたぶり続けた。それを誰も止めに入らない。遠巻きに眺めているだけだ。
「いいか、ロバート。二度とディスカスさんに迷惑かけるんじゃないぜ。また来やがったら、次は両足の骨を砕いて二度と来れないようにしてやるからよ」
最後の置き土産とばかりにおじさんを蹴り飛ばして男たちは店の中へ入っていった。
「大丈夫?おじさん」
すぐに助け起こしたけどおじさんは動けない。
「待って。今ヒールをかけるから」
ヒールを何度かかけていると兵士が一人やって来た。さっき見て見ぬ振りをした人だ。
「お前達、往来の邪魔だ。どこかへ失せろ」
その言葉にリファが切れた。
「なによ、あんた兵士のくせに止めもしないで!そんな風に威張る前にちゃんと仕事しなさいよ!」
確かに邪魔かもしれないけど道は広い。そのいい草はないだろう。
俺も兵士を睨んだ。
「喧しい!ガキでも兵士に逆らう奴は牢に放り込むぞ!」
「ま、待ってください。すぐにどきますから。この子達は私の身を案じてくれる優しい子供です。どうか穏便にお願いします」
立ち上がれるようになったおじさんがその兵士に何かを握らせた。
兵士はニヤリと笑って立ち去って行った。
俺もリファも納得がいかなくて人ごみに消えるまでその背中を睨みつけていた。
一部加筆修正をいたしました。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
もし宜しければ、☆評価、或いはブックマーク登録をお願いしたいと思います。
この後も新たな展開が続きます。
どうぞ、お楽しみください。




