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ベックの家族

 盗賊や魔物が出ると言ったことも無く旅は順調に進んだ。

 街道には宿場町が整備されているので泊まる宿にも困らない。ベックお手製スープを飲む機会のないことが不満なくらいだ。

 俺達は魔力操作をしながら馬を進めた。俺達の周りにリファの浮かせる石がくるくる回っている。


 夕暮れ時はベックを相手に剣術の練習。そろそろ木剣ではなく真剣での打ち合いに変えた方がいいとアドバイスを受けた。

 腕力もついてきたし、真剣でのせめぎ合いになれる必要がある為だ。形見の短剣をやっと本格的に使う日が来た。これまでは剣の重さに振り回されて体が泳いでしまった。だから真剣での練習は禁じられていた。それが許されたという事は型が身に着いたという事。

 これまでの日々の努力が一つ報われたようで本当にうれしかった。だから父様に心の中で報告をした。



 いくつかの街と村を通り、レドリアを出てから半月後にブルジェールに辿り着いた。

 外壁の遥か手前から宿屋や小さな商店が軒を連ねている。街門前は石畳の大きな広場となっていて、馬車や旅人が長い列をなしていた。その列に並ぶ者に売り子が食べ物や花、籠、服にアクセサリーまでを売りに来る。


 外壁は国境傍の領都らしく石造りの堅牢なものだった。大門を潜るとまた大きな広場となっていて、馬車4、5台が並べそうなほど広い通りが一直線に奥へと伸びている。


 俺達はギルドの身分証を提示しただけですんなりと街中へ入ることができた。

 そして広い大通りとその両脇に並ぶ多くの建物に圧倒されつつ、唖然としながら通りを進んだ。


「15年も経つとさすがに色々と変わってるなぁ」

 ベックもきょろきょろしている。

 俺達ほどではないかもしれないけど、ベックだって余所者感丸出しだ。


「この辺りはな、富裕層が多く住む区域だ。ほれ、あれを見て見な」

 ベックの指さす方を見ると教会の屋根が見えた。立派に(そび)え立っている。

「あの辺は教会とか役所とか騎士団の施設とかがある。で、あっち側は貴族様と大商人様たちの屋敷やら別荘やらだ。ま、俺達には縁がない場所だ。西に向かう程庶民の街っぽくなっていく。俺の実家もずっと西の方だ」



 そんな説明をされながら大通りを西へ向かう。

 大きな交差点にぶつかって南の方へ曲がった。更に進みまた西へ向かう。

 そして着いたところは職人ギルドだった。

 大きな倉庫を隣接する石造りの立派な建物だ。金槌と金床の絵が正面の壁に彫り込んである。


 そこは職人街らしく、通って来た道の両側からは金属を叩く音が響いていた。

 ベックはギルドの裏にある大きな厩舎に馬を預けた。ついでに荷物もまとめて預ける。勿論有料だ。半月分の預かり料を一括で支払い、ここからは歩いていく。


「この辺りは鍛冶職人が多い。他に家具職人やら魔道具職人やらがあちこち集まってこの区画は職人街と呼ばれている。俺の家は見ての通り鍛冶屋だ」


「へぇ。意外だわ。ベックのイメージと結びつかない」

「どんなイメージしてんだよ。俺が鍛冶屋の息子じゃおかしいか?」

「うん、すごく変。違和感しかないよ」

 リファの容赦ないやり取りを聞いていると中から人が出てきた。

「えっと、お客さんですかい?」

 まだ子供っぽさが残る少年が入り口から顔を出した。

「いや、俺達は客じゃないんだが。バリアンはいるかい?」

「ちょっとお待ちを」

 そう言って少年は中へ戻って行った。

「旦那!お客さんですよ」

 大きな声で呼んでいる。すると奥で金属を叩く音がピタッと止んだ。


「久し振りなんでな。へへ、なんだか緊張しちまうぜ」

 そう言うと店の中を窺うように覗き見る。

「自分の家なんだから“ただいま!”って入ればいいんじゃないの?」

「いやぁ、そうなんだが、何か後ろめたくてな」


「へい、今日はどのような御用で・・」

 入り口にベックの顔を少しだけ老けさせた感じの男が現れた。

 ベックの顔を見てその人が固まった。


「お前ベックか!今までどこで何をしてやがった!え?親父とお袋がどれだけ心配したと思ってんだ!この大馬鹿野郎!!」

 いきなりベックの胸ぐらをつかんで怒鳴りつけた。

「へへ、やっぱこうなるよな。バリアン、その話は後にしてくれないか。ちょっと連れがいるんだ。無様な所は見せたくないんだよ」


 そう言って俺たちを振り返った。

「紹介する。こっちはリファーヌとキースだ。俺の恩人の娘とその友人だよ。数日世話してくれねぇか?」

 振りあげた拳が宙で止まった。

「お前って奴は・・そういう所の要領の良さは変わらねぇな」

「ん?何の話だよ?」 

「とぼけるな!俺がお前を殴り損ねたって話だ」


「おい、ベックって名前が聞こえたが・・」 

 老人というにはまだ若いが年寄が出て来た。

「親父・・」

 ベックの声が少し涙声になった。


「お前‥ベックか・・今までどこに。ソニアがお前の事をどれだけ心配してたか。この!このバカ息子が!」

 その父親と思しき老人はベックの顔を殴り飛ばした。


「ソニアはなぁ、ずっと死ぬまでお前の事ばかり気にかけていたんだぞ!最期までお前のことを・・うぅ・・それなのにお前という奴は」

「親父。すまねぇ。いや、すまなかった。お袋は死んだのか・・そうか」

「あぁ。もう10年になる。ずっと抱えていた病が悪化してな。最後は辛そうにしてたな。それでもお前のことばかり心配していたんだぞ。だがベック、よく帰ってきた。よく生きて戻ってきてくれた」

「すまねぇ・・すまねぇ・・」

 ベックはもう立っていられなかった。膝が崩れて涙がぽたぽたと滴って黒い染みを作っている。

 老人もそれ以上ベックを責めなかった。


 そして俺たちはひとまず奥へ案内された。

 先ほどの少年がお茶をおいてすぐに部屋を出て行った。


「すまなかったな。変なとこ見せちまった。それにお前達の親のこと忘れてたよ。嫌な思いさせちまったか?」

「ううん。私のことは気にしないで」

「俺も平気だよ」

「そうか、それならいいんだが。しばらくここで旅の疲れを癒そう。俺もすぐに出ていくのは気が引ける。半月くらいならいいだろ?」

「うん。この家の人達が良ければ俺は構わないよ」


 それからベックが改めて家族を紹介してくれた。


「親父と兄貴のバリアンだ。でこいつらはキースとリファーヌだ。俺達は今ジルべリアに向かう旅の途中なんだ」

 簡潔すぎるだろ。親父さんも苦笑いしている。

「そんな紹介の仕方があるか。全く。父のハワードだ。いつも息子が世話を掛けているだろう。昔から手のかかる奴でな、いつも心配ばかりさせられていたんだ。何があって君達と旅をしているのか知らないが、君たちも苦労させられてるんじゃないか?」

 思わず3人で顔を見合わせた。

「いやいや、俺だってもう良い大人なんだ。こんな小さい子供に苦労かける訳ないだろ」

「ベックはとても頼りになるわ。危ない時は特にね!」

 うんうんと俺も頷いておく。

「おい、ベック!こんな子供をお前は危険な目に遭わせているのか?」

 リファのフォローにバリアンが食いついてきた。

「いや、そうじゃなくて、いや、そうなんだけどそうじゃないんだ」

「どっちなんだ!?」

 バリアンの目が三角に吊り上がった。


 それから、ベックはこれまでのことを一通り話す事になった。 

 ベックは傭兵稼業をしていたことを家族には黙っていた。代わりバルバドールで商店を開いていたなどと噓をついていた。

 それでいいのかと思わないでもなかったけど、俺達は敢えて嘘をばらすことはしなかった。

 だけど、俺達がベックとどういう経緯で旅をすることになったのかとか、普段のベックはどんな感じなんだとか色々聞かれて困ってしまった。


 ベックの語って聞かせた設定はこうだ。

 この国に愛想の尽きたベックは足の赴くままバルバドールへ向かった。生活の為に戦場跡で武器を漁りそれを売って金を稼いで店を開くまでになった。ある日、敗残兵に襲われた所を傭兵団のリファの父親に助けられた。気の合った二人は友人となったが、その友人も戦場で命を落とし、残された娘のリファをベックが引き取ることにした。その時俺もいたからついでに引き取った。それから俺達はベック商店の従業員になった。そして今は店をわざわざ休業して、生き別れの両親の元に俺を送り届ける旅の途中であると。

 ベックが語ると、ベックの人柄と人情味に溢れた実にいい話になった。お父さんは涙して聞いているよ。

 全部嘘っぱちなのに・・


 ベックのお父さんはハワードさんという。人の良い優しい笑顔の人だ。

 そのハワードさんとベックと俺達で今日はベックのお母さんのお墓参りに来ている。

 ソニアさんのお墓は街壁の外にあった。兄のバリアンさんは抜けられない仕事があるという事でいない。ちなみに、バリアンさんには奥さんと子供がいて、実家兼職場の傍に家を借りて住んでいるらしい。


「ソニアよ。ベックはバルバドールで一旗揚げて今や立派になった。自慢の息子だと褒めてやってくれ。ずいぶんと心配を掛けさせられたがもう大丈夫なんだ。そっちで安心して眠るといい」

「・・・・」

 なぜか俺まで心が痛い。リファも隣で眉をしかめている。

 ベックは目を閉じて無表情を装っているけど絶対心の中で謝っている筈だ。

 まったく。最初から嘘なんてつかなきゃいいのに。


「お袋、長いこと心配かけてごめんな。俺よぉ、この国を出て死に物狂いで頑張ったんだ。そこに嘘はない。今は旅の途中に立ち寄っただけなんだが、こいつらを安全な場所に送り届けたらまた戻ってくる。それで今度こそちゃんとするからよ。一年後には一緒になると誓った女性もいるんだ。また改めて紹介しに戻ってくるからよ、楽しみに待っていてくれや」

 少しもの悲しい雰囲気だったけど、ベックはしっかりお袋さんに挨拶をしていた。

 俺とリファも形ばかりの挨拶をして旅の無事を見守ってくれるように頼んだ。


 その帰り道、中心街を歩いているとやたらと目にする看板?いや、伝言板を目にした。


 木造りの枠が立派な大きな伝言板だ。

 そこに、懸賞金の文字が書かれた一枚の紙が貼ってある。


 《近頃ブルジェールの街を荒らすフレア盗賊団の情報を求む》

 捕縛もしくは懸賞首の提供  

 首領       金貨50枚

 他一人につき   金貨10枚

 直接捕縛につながる情報            金貨20枚

 有益情報(内容による)            金貨1枚~10枚


 ブルジェール騎士団“



 犯罪者に厳しいこの国でも盗賊団が存在するのかと少し驚いた。

 街の様子を見る限り、騎士をあちこちで見かけるし平和そうに見えたからだ。


 その日の夜、その盗賊団の話題が夕食の席で上がった。

 何でも何年も前からこの盗賊団が街の豪商の屋敷に押し入り金品を盗んでいるらしい。

 人を殺めることはしないけど、以前に貴族の屋敷も狙われたことがあるそうだ。

 いつしか、フレア盗賊団と人々から呼ばれるようになったという。

 騎士団が躍起になって捜索をしているにも拘らず、まるで尻尾が掴めない。

 そして、事件が起こるたびに街中の大きな話題となり騎士団の面目が潰れると。


 そうした事件は年に一度か二度しか起こらないらしいけど、盗まれた金が貧しい者に配られているらしく、下層の民衆からは正義の味方のように思われているらしい。

 勿論、ベックの実家は小さくても鍛冶屋でお金に困っていないから、盗賊団の恩恵に与ったことはないそうだ。だけど、事件が起こるたびに騎士団の見回りや臨検が厳しくなり、町全体がピリピリして居心地が悪くなる。ついでに高圧的な尋問に反抗的な者は容赦なく牢へ入れられてしまう。

 ハワードさんの心情としては盗賊団に思う所はないが、取り締まりが厳しくなることは歓迎できないそうだ。


 言葉にはしていないけど、やはりこの街はとても住みにくいという事が伝わって来た。

「なぁ、親父。レドリアの街へ越さねぇか?あそこはここよりずっと暮らしやすいぜ。何せ領主様が良いお方だ。俺は一年後に帰ってくるからよ、それまでに考えて見てくれよ。バリアンだってもっとましな環境で子供を育てたいはずだ。店ごと引っ越せばいい。金なら俺も少しは出せるからよ。考えてみてくれ」

「一度バリアンに相談してみるか・・」

 二人は酒を酌み交わしながら話込み始めたので俺とリファは部屋を移った。


 このまま半月もの間、何もせずにいても退屈なだけだ。そこで明日はリファと二人で出かけることにした。

 冒険者ギルドで依頼をこなしてもいい。近場で鍛錬できる広い場所も探したい。

 リファは散歩とか途中で店を覗いたりしたいみたいだけど、ギルドに寄る位はいいだろう。

「ふふ。明日が楽しみだね。キースお休み」

 

 リファの嬉しそうな声を聞いて俺も目を閉じた。



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