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6人旅 2

あらすじを変更しました。

今後の流れを少し書き加えております。

 草原を抜け街道へ入って数日が過ぎた。もうずっと一本道を西へと向かっている。今のところ追手の気配もない。

 という事で今日も今日とて増々幸せそうな二人を乗せる馬の尻を眺めている。


 そしてやっと、もうすぐドワンゴの街に到着する。

 ドワンゴの街から進路を北に向けて街道を上ると3日でレドリアの街に着く。

 ここまでは農村にも泊まらず野営を繰り返していた。


 話は少し遡る。

 

 南の街道に入った日の野営、アンナが水浴びをしたいと言い出した。

 俺達はこれまでクリーンの魔法で汚れを落としていたが、それでは満足できないという。

 ベックから願いを叶えてやれと言われて、土製の大きくて深い桶を作り、それを高温の火魔法で焼き固めた。水を入れ熱して人肌のお湯を生成して、さらにそれを覆う小屋まで作った。


 野営の水浴びにそこまで希望するか?というレベルだったけど、アンナを始めキャシーにリファーヌまでも大喜びをしていた。

 ま、リファーヌがそんなに喜ぶなら小さな手間でしかない。


 俺も入ってみた。確かにさっぱりして気持ちよかったけど、それにしてもそこまで喜ぶ程の事かとよく分からなかった。

 ベック曰く「女は男と別の生き物だ。時に男には理解不能なこともある」と言っていた。

 ?さっぱりわからん。

 でも、ベックがアンナに甘くなったという事は分かった。


 翌日は、朝から大雨となり昼過ぎまで降り続いた。雨の中移動して風を引くのもつまらない。大人しく雨が止むのを待ってからの移動となった。

 その日の夜、いつものように野営をしているとアンナがベックを呼びに来た。

「いつもより星がとても綺麗だから一緒に眺めませんか?」と。

 満天の星空など見飽きるほど見てきたはずなのに、ベックはその誘いに乗ってアンナと出かけて行った。


 そして更に翌朝、二人の距離がまた近づいている気がした。

 これはウフフとアハハの掛け合いだ。見ている俺の歯が浮くというか甘ったるいというか見ていてとにかく疲れる。



 これまでにゴブリンが数回現れた。だが、ベックの敵ではない。ついでに草原狼という小型の狼が現れたりもした。それは俺とリファーヌで対処した。

 

 変わったことと言えば、瘴気の湧き点の傍を通り過ぎたことか。結構な量の瘴気が街道を覆っていた。そして屍人や屍狼が黒い瘴気を(まと)って周囲に突っ立っている。

 俺が聖魔法の結界を張り、3頭固まって馬を進めた。

 この時初めてオークを見た。豚鼻の大柄な魔物だった。でも、オーガに比べたら全然大したことはない。

 アンデッドたちは俺が聖魔法で排除して無事通り抜けることができた。


 後は、奇麗な湖の傍を通り掛かって長い寄り道をした。

「早くレドリアの街に入ってキャシーとビッケの安全を確保したい」とか言っていたアンナが、お花畑がとても奇麗などという理由でまだ陽が高いうちからそこで野営が決まった。


 そして二人の歯の浮く時間帯に突入だ。安全な場所だし寄り道しても俺達は問題ない。だが、二人が作る桃色の空気は少し勘弁してほしかった。

 気にしないように剣の鍛錬に集中してやり過ごしたけど、改めてキャシーとビッケには同情する。その二人は、半日でも二人の空気から離れられてほっとしていた様子だったとリファーヌが言っていた。

 良い大人が子供に苦労を掛けるんじゃないよ!って心の中で説教しといた。


 そのキャシーとビッケが、なぜか俺達のところへ来た。

 リファーヌがビッケを怒鳴り付けて貴族のプライドをへし折って以来、俺達には余り話しかけてこなかったのだが、その日は俺が鍛錬を終えるのを見計らうようにして話しかけてきた。


 まさか移動のペアの変更を頼まれるのかとつい身構えてしまった。

 絶対にベックとアンナの馬には乗りたくない。それなら自分の足で走った方がまだましだ。

 なんて思ったのだが違った。

「ねぇ。あなた達とお話がしたいの。ここ数日ベックからあなた達の話を沢山聞いたわ。キースが傭兵団に来た時からどんな扱いを受けて、どれだけ頑張って来たか。そして死んでもおかしくない戦いを生き残り、居場所を作って最後には信頼されていたって。リファーヌのことも色々聞いたわ。お父様を亡くし、続いてお母様までも。仇を見事に取ったこととか。キースから魔法を教わってメキメキ上達してここに来る途中オーガを倒したことも、子爵の騎士たちだってリファーヌがいっぱい倒したのでしょう?」

 キャシーの俺達を見る目が以前と違っている。なんか眩しい物でも見ているような目だ。

 峠を共に越えたジェルゴとカニカも同じような目で見ていたっけ。


 ベックとアンナの甘い雰囲気にただ参っているのかと思いきや、意外にも二人は興味を持って話を聞いていてらしい。


「教えて欲しいの。あなた達はどうしてそんなに強くいられるの?ふつうは逃げるか諦めることをあなた達は立ち向かっている。私達もこんな状況だからお二人の話を聞いて参考にしたいの。この先、無事お爺様の下に辿り着いてもそれで終わりじゃないわ。まだ危険は潜んでいるかもしれないし・・私達はあなた達に出会うまでただ宿の部屋でびくびく震えていたの。なんでこんな怖い思いをしないといけないの?子爵なんかいなければ良かったのにって。ただ怯えて文句を言って震えているだけ。でもね、この短い旅の中であなた達は私たちにとっての脅威を何度も払い除けてきたの。私と同じ年のあなた達がよ。魔物一匹でも普通は泣きたくなるほど怖いのに、あなた達は・・」


「分かった分かった。で、具体的に何を聞きたいんだ?」

 キャシーがあまりに熱く語り始めたから途中で遮ってしまった。


「僕はキースに聞きたい。なんで文句を言って怒らなかったんだ?貴族の子ならそんな雑用なんてしなくても良かったはずだ。なんで断らなかったんだ?」

「それは、俺が傭兵団に助けられた直後のことを聞いているのか?」

 ビッケが頷いた。


「感謝していたからさ。命を助けてもらった。生きてさえいれば家族を探しに行ける。その恩に少しでも報いたかった。それに、追い出されたら俺は間違いなく生きていけなかった。生きる(すべ)を何も持っていなかったんだ。水汲みでも洗濯でも仕事をすれば必要とされる。そこに居場所ができるんだ。居場所があれば生きられる。生きるか死ぬかの瀬戸際に貴族とか子供だとか関係ないよ。そんなことは5歳児の俺でも理解した」


「お前はすごいな。僕はそれが中々理解できなかったのに」

「私はどうすればそんなに心が強くなれるのか知りたいわ」

 次はキャシーの番だ。

「強い心の意味が分からないよ。何を見てそう思ったんだ」

「オーガとか、圧倒的な人数相手に平気で立ち向かえることとか」

 そう聞くキャシーはリファーヌを見ている。


「それはキースがいたからよ。どんなに絶望的な状況でもキースがいれば何とかしてくれるから」

 リファーヌがまたよく分からない論法で俺を持ち上げる。

「リファーヌ。それは全く答えになってない気がするよ」

「あら、本当だもん。私キースがいればいつかバルバドール王だって倒せるって思ってたわよ」

「・・・」

「それで、キースはなんで立ち向かえるの?」

「うーん、オーガの時は、俺達が倒さなければ他の人が殺されるって分かってたからな。怖かったけど、戦って見たら以外にあっさり倒せた。あ、倒したのはリファーヌね。あと、子爵騎士団の時はベックがいけるって言ったからかな。その前に盗賊団を相手にして大体戦い方とか分かってたし。ベックが言うことは間違いないから心配も恐れる必要もないんだ」


「ふーん。じゃあすごいのはベックってこと?」

「うん。ベックはすごいよ」

 俺とリファーヌで頷き合う。


「でも、ベックはキースが凄いって言ってたわよ。どこかの谷底に追い詰められた時があったって。その時はベックはいなかったんでしょ?」

「あぁ。あの時は必死だったからなぁ。仲間が助けに来のるを信じてとにかく逃げ回ったよ。それでも何人か殺されちゃったしね。俺自身もだけど、リファーヌとミルケットだけは死なせたくなかった。でも最後の方は魔力切れと疲労でよく覚えてないんだ。ただ、死にたくないって思いと、最後の最後まで足掻いて足掻いて絶対に諦めないって決めていたことは覚えているよ」


「最後の最後まで足掻いて足掻いて絶対に諦めない・・か。それがあなたの強さの秘訣なのかしら」

 キャシーはビッケを見た。

 ビッケにはそういう所が全くない。ビッケも難しい顔をしている。


「もっとお話しきかせて」

 とキャシーにせがまれた。それから、俺達の旅の目的とか、初陣の話とか、魔法をいつ覚えたのかとか色々と聞かれた。

 夜になってもまだ話が終わらず、翌日に持ち越し、俺達と姉弟の距離も随分と近づいた。


 そして今に至り、今日も今日とて増々幸せそうな二人を乗せる馬の尻を眺めている。

 馬の尻ばかり見ているのはアレだ。二人を視界に入れると歯が浮いて疲れるからだ。


 俺は馬の揺れる尻尾を眺めながらドワンゴの街へ入った。


 ドワンゴの街は思ったほど大きくはなかった。

 東西南北を走る街道の交差する場所にある街で、この辺りの大きな街は北に3日離れたレドリアの街だけだ。


 南北の門を貫く中央通りは馬車も行き交える程に広い。その両側には多くの出店が軒を連ね、香ばしい匂いを辺りに振りまいている。

 この匂いはずるいと思った。

 やっと一日の旅を終えて辿り着いたら宿に入る前に買い食いをしたくなってしまうではないか!

 宿に辿り着く前に食欲が抑えられない。

 今俺達は馬を降りてこの中央通りをゆっくり北上しながら宿を探している。

 そこでこの匂いに釘付け状態に陥っている。


 俺は腹の虫が大騒ぎだ。リファーヌは足を止めてしまったし。キャシーは物欲しそうに人差し指を咥えている。そしてビッケは、ふらふらと誘われるまま店に向かってしまった。

 その襟首をベックが掴み引き戻した。

「離せ!僕はあれが食べたいのだ!アンナ!あれを一つ買って来てくれ」

「ダメだ。先に宿を探す」

「まぁ良いではないですか。串焼きの一本くらい。すぐ買ってきますのでちょっとだけ待っててください」


 アンナはそう告げると串焼き屋へ向かった。ビッケもその後を追う。ついでにキャシーが、そしてリファーヌも。という事で、じゃあ俺も。

 馬の手綱をベックに預けると仕方ねぇなという顔をしていた。


「串を6本お願いします」

 アンナが注文するその脇で俺達が(よだれ)を垂らさんばかりに見つめている。

「あいよ!」

 おっちゃんが気軽く応え新しい肉を焼き始めてくれた。

 ジュージューと音を立てて視覚と聴覚と嗅覚を刺激してくる。

 焼き上がりが待ち遠しくてたまらない。


 ベックも内心同じ気持ちなのだろう。だから警戒を怠っていた。

 そしてそんな俺達を遠くから見ている者がいたことに気づかなかった。


 串焼きは絶妙な味加減で実に美味しかった。

 ホロホロ鳥の肉に甘タレと甘塩を降りかけたもので、匂いも最高、味も最高、見た目も最高の絶品だった。


 それを頬張りながら宿を探し、今夜の逗留場所を決めた。

 “憩いの宿”という宿屋に決めた。

 二部屋を取り、早速移動する。

 ベックは落ち着く間もなく一人冒険者ギルドへ出かけて行った。

 明日以降通る街道の情報を集めるためだ。盗賊や魔物の出没や瘴気の湧き点の有無など聞くべき情報はたくさんある。


 俺は、いつも通り剣の鍛錬だ。もうすぐ日没だが少しでも体を動かしたい。

 俺は木剣を抱えて宿の裏庭へ出た。

 型の素振りを延々と繰り返し、型から型への連撃を繰り出している時だった。


 誰かが怒鳴っている声が聞こえた。

 ん?と思う間に声が近づいてきた。

「キースどこだ!キース!キース!」

 ただ事じゃない。声に焦りが混じっている。慌てて声のする方へ叫び返した。

「裏庭だよ!」

 そこにアンナを横抱きにしたベックが現れた。アンナは血の気が無く真っ青な顔色だ。当然意識もない。

 そして腹部が真っ赤に染まっていた。

 


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