6人旅 1
「昨日ぶりだね、おじさん。二度と僕たちの事追わないって言ってたのに約束破ったらダメでしょ。僕は約束を守るよ。おじさん達みたいな悪い大人になりたくないからね」
昨日ベックに謝った男だ。昨日と違い甲冑姿で凛々しいけどそれがあんたの死に装束だ。
「まて、約束を破ったことは謝る。だがこんな事をして子爵が黙っていないぞ。子爵は騎士団全軍もってお前たちを追い詰めるだろう。だがここで手を引けば改心したとみなし口添えくらいはしてやる」
「それがおじさんの遺言でいいの」
「!」
背後からリファーヌの一撃が飛んできておじさんの首が落ちた。
おじさんの体を支える力が抜けてばさりとそのまま倒れてしまった
まだお話中だったのに・・
その隣でバスクが恐怖していた。顔色が青い。足がガクガク震えている。
「さて、これで残るはお前ひとりだ。御大層な口上を述べるくらいには騎士の矜持を持ち合わせているんだろう?」
「お、お、おれ達が何をしたというのだ。ここ、こんなふうにこ、殺されるほどお前達にはな、何もしていないは、はずだ」
おっと、声はもっと震えていた。
「騎士団の副長様が随分とぶるっちまってるじゃねぇか。さっきまでの威勢はどうしたよ?お前たちは俺の家族に手を出そうとした。抵抗せずに投降していたら俺達を奴隷商に売り渡していただろう?だから殺したんだ」
「そ、そんなことはない」
「お前らが裏で難民を捕まえて奴隷に落としていることは知っているよ。ついでに伯爵家の乗っ取りを企んでることも、伯爵とその子供の命を狙っていることもな。そんな奴らから狙われて大人しく言うこと聞けるか?俺たちは敵対する者には容赦しない。」
「なぜし、知っている」
「それは、お前たちが殺そうとしている者から直接聞いたからだ。その時にお前らが絡んできたら容赦しないと決めていた。ところで、そんな屑みたいなお前でも、あの口上は良かった。ちょっとでも騎士らしく思えたからな、俺がきちんと相手をしてやる。構えろ!」
ベックは剣をバスクに向けた。
バスクも構えた。だが随分と剣先が震えている。
おいおい。大丈夫か?騎士の意地くらいは見せて欲しいね。
「かかってこい!」
ベックの腹の底からの気合が言葉になってぶつかった。
ビクっとして一瞬固まったが、剣先の震えが少し治まった。
ふーふー
息を整え心を落ち着かせている。呼吸音が整いそしてついにバスクが前に出た。
剣を振り上げ一気に間を詰めた。
「どりゃー!」
だが、ベックの敵ではなかった。レベルが低すぎた。動きが丸見えで鍛錬が足りていないことが俺でも分かる程に。
ベックはさっと半身で躱すと、首筋を軽くひと撫でしたかの様な軽さで剣を振り抜いた。
バスクは首から血しぶきを撒きながらゆっくりと崩れそのまま動かなくなった。
実にあっけない結末だった。
「草花を染めたのはお前の血だったな」
何てベックが恰好付けたことを呟いた。
まだ篝火が燃え盛っている。
幾十もの躯があちこちに転がっていた。
さすがに血臭に満ちた此処で夜を明かすつもりはない。
俺達は野営の場所を変えることにした。
石小屋の一部を崩し出てきた3人の顔は真っ青だ。キャシーとビッケがすかさず吐いた。アンナも気丈にしているが今にも気絶しそうだ。
さすがにこんな死体を見せるべきではなかったかと思ったが、全部埋めるのはしんどい。
ちょっとだけ我慢してもらってここをさっさと離れてしまえばいいだろう。
騎士隊の乗って来た馬がいたから1頭拝借した。
アンナは乗馬ができるけど、キャシーとビッケはできない。どう割り振るかで少し揉めたけど、結局ベックとキャシー、アンナとビッケ、俺とリファーヌで跨り出発した。
ビッケがベックと俺に拒否反応を示し、リファーヌが俺とキャシーが一緒に乗ることを許さなかったからだ。
「おいビッケ。早速昨晩聞かせてもらったお前の覚悟と誓いを見せてもらうぞ。今日はこのまま2時間ほど移動する。明日は夜明けてすぐの出発だ。途中仮眠の時間は取るが、それは馬を休ませるためだ。馬の様子を見ながら極力先を急ぐ。それでおそらく二日後の夕方にカデナの街に辿り着けるはずだ。そこで宿を取る。子供たちには辛い移動になるが、踏ん張れ。でなければ、俺達が疲れ切ったところをまた襲われるぞ」
「そんな。こんな遅い時間にわざわざ遠くまで移動しなくても・・」
アンナが不憫な目でキャシーとビッケを見た。
「キース、説明してやれ。俺が言うよりも納得いくだろ」
「うん。えっとね、もしこの近くに留まったら、明日の朝、俺達はロギナスに向かう商人とすれ違う。その商人はその後ここを通って大量の死体を見つけるんだ。そしてすれ違ったばかりの俺達を怪しいと思うはずだよ。その情報が2時間でロギナスの騎士団に伝わる。すぐに追手が掛かるだろうね。俺達がいつどの辺りでどのくらいの速度で進んでるか。騎士団に全部伝わるんだ。距離を埋めるためにどのくらいの速さで進めばいつ追いつけるかまで計算されてしまう。今俺達が移動すれば、俺達がどこにいるかの情報が伝わらない。これが重要。もしかしたら夜通し移動してるかもしれない、街道を外れて草原を北か南かに向かってるかもしれないし。相手に推測させないことが大事なんだ。その為にはこの近くで姿を見られるわけにはいかない。それに、街道を進むなら眠る時間を削って移動しないと追いつかれるよ。追いつかれる前に他領の大きな街へ逃げ込むしかない。他所の領地で騎士団も好き勝手出来ないだろうから」
「今はもう助かったつもりでいたけど、まだまだ襲われ続けると・・」
「あぁ、昨日そう言ったろ。昨日の時点で距離を稼げなかったツケだ。死にたくなかったら眠かろうが辛かろうが先に進むしかない。明日の夕方までの我慢だ。分かったら行くぞ」
馬が少し嫌がったがベックが宥めると歩いてくれた。
俺は光球で先を照らしながらついていく。
街道を西へ2時間、少しそれたところで野営の準備に入った。
もう深夜だ。夜明けまで5時間もない。
お腹が減っているが、急いで眠る。ビッケも大人しく我儘を言わなかった。
目覚めは眠気がひどく最悪な気分だった。リファーヌも寝ぼけ眼でビッケは半身を起こしているが目は閉じたままだ。キャシーがそんなビッケをゆすって起こしている。
まだ薄暗い中、ベックがすでに朝食を作っていた。
馬に水をやり、少しだけ飼い葉を与えたら俺も食事を急いで摂った。そしてすぐに出発だ。
ポクポクポクポク
3頭の馬が街道を進む。
こんな状況でなかったら割といい眺めだ。せっかくの旅なんだからのんびり景色を楽しみたかった。1度休憩をして、途中の村で飼い葉と薪を買い求めた。そしてすぐに出発。
だいたい2時間進んで半時間休憩のペースだ。
そのペースで日暮れまで進む。誰もが寡黙で殆ど会話をすることもなかった
陽が沈んでから街道を少し外れた場所で野営をした。もう眠くて仕方がない。というか、どうしようもなく疲れている。子供には今日一日は辛過ぎた。
ビッケとキャシーはそれぞれアンナとベックに抱えられて馬上で眠れたらしい。だが俺達には無理だった。
超特急で土小屋と土壁を作る。ベックも疲れているだろうに、俺達がすぐ食べれるように簡単で腹に溜まるスープを作ってくれた。
もう何も話す気も起きない。リファーヌも一言もしゃべらない。うっかりすると落としそうになる椀をとっとと飲み干して土小屋に潜りこんだ。
翌朝、快眠ですっきりした。よく眠れたし今日は辛くならない筈だ。
馬にしっかり飼い葉を与えるとすぐに出発した。
今日は昨日より休憩を少なくして進む。それでも夕方にはカデナの街に着く筈だ。
空は快晴、気分は上々。追いつかれないかと後ろが気になるが、ベックの計算?では多分大丈夫らしい。
リファーヌが俺の背中で鼻歌を口ずさんでいた。
これは傭兵が酔っぱらうとよく歌っていた曲だ。リズムが良くて楽しくなる。
ベックとアンナも今日は仲がいい。というか喧嘩をしない。何を話しているか知らないが、すごく会話が弾んでいる。アンナも笑顔で楽しそうだ。
うんうん。ベックやるじゃねぇか!もし恋が芽生えたりなんかしたらぜひからかってやろう。
そんなこんなで昨日とは打って変わった楽しい一日を馬上で過ごし、予定通りカデナの街に入った。
カデナの街もかなり大きい。宿屋もそれこそ何十軒もあるらしい。だけど、万一を考えて貴族御用達の高級宿を選んだ。今夜中に追手がカデナに入ってもおかしくはない。馬を繋げる商人用の宿を聞き込めば、俺達の宿泊先が割れてしまう可能性がある。対して貴族向けの宿は情報を漏らすことはないし、警護の従業員もいる。加えて高額な宿に騎士団員を全員泊まるなどしないはずだから偶然にもカチ合うなんてことにはならない。
アンナの支払いで二部屋を取り、食事を堪能した上、俺達はふかふかのベッドでゆっくり体を休めることができた。
翌日は朝を外し、昼前に宿を出た。
これも街門を出る際、追手と出くわすことがないように警戒してのことだ。
宿の選定も、出発時間もベックが提案し説明をしてアンナも納得をしている。
何かビッケが我儘を言わなくなった途端にベックとアンナが良い雰囲気になった。
アンナは色白美人でスタイルもいい。ベックは小柄だけど器用で強くて自信家で頼り甲斐がある。顔もまぁまぁじゃないか?少なくともブ男ではない。
そんな二人をリファーヌがニヤニヤした目で見ている。何か企んでいるのか?余計なことをして余計な邪魔にならなければいいが・・ドミーク譲りの血が疼くのか。否、ドミークはそんな性格じゃなかった。リファーヌの変な所が全てドミークのせいだと思うのはやめよう。
ここカデナの街からレドリアの街まで3つのルートがある。一番近道は北から進むルートで、馬車で6日の道のりだ。俺達はもっとも南側の道を選んだ。3つのルートの中で一番遠回りで10日掛かる。それでも安全には変えられない。多分一番警戒されていないルートのはずだ。
カデナの街で、冒険者協会に寄り、手紙を一通リンドベル侯爵へ届ける依頼をした。ビアンナ・アリエストルの名前でロギナス領の現状と、今キャシリアとビッケルトが追っ手を逃れレドリアの街へ向け南の街道を進んでいることなどを伝えるために。その手紙が届けば救援が差し向けられるかもしれない。一日でも早く安全な環境に二人を匿わなければならないのだ。そのアンナの強い想いがしたためられている。
監視の目を逃れるため、俺達は一度この街へ入った時に潜った東門から出た。東門はロギナス方面にしか向かわない門だ。門を出て草原の中を南に向かう。見晴らしが良いため、これで追手が付いてきているかどうかわかる。そのまま南進し、途中から西へ向かい南の街道に出る予定だ。
そこまでしてでも迂回すべきだとベックは主張した。ならばそれが一番の最適解なのだろう。
長閑な草原を3頭の馬が行く。
先頭のベックに並んでアンナの馬が、その2頭の馬の尻を眺めながら俺とリファーヌが続く。
時折アンナのクスクス笑う声が聞こえてくる。昨日からずっとこんな調子だ。ベックなんて一度もこっちを気にしない。
「ねぇ、キース。このままベックがアンナと一緒にレドリアに残るって言ったらどうする?」
リファーヌがそんな事を聞いてきた。
「それはないと思うよ。ベックは必ず俺達をジルべリアに届けるって言ったから。それでも、もしベックがそこまで本気になってアンナといることを望んだら当然祝福する」
「じゃあ、ジルべリアまで私達だけで旅をするの?」
「うん。あ、でもすぐには無理だよ。もっと大きくなってそれまでにお金も貯めて万全を期して再出発だね」
「ふーん。そんな遅くていいの?」
「良くないけど、今の俺達だけでは無理だよ。峠越えの時もこの間の子爵騎士団の時も、全部ベックが予測して対策を考えてくれたじゃん。俺達だけだったら峠すら超えられなかった。そんな危険な旅がまだまだ続くんだ。元々は予定が狂ってこんなに早く旅に出たんだ。ベックが幸せになるなら此処でしっかり鍛えて稼いでからでもいいよ。」
「そう。分かったわ。キースが良いならいいの。じゃベックのことは見守ってあげようね!」
「うん」
9歳児二人から温かい視線を背中に向けられているとも知らず、ベックとアンナは二人の世界に浸りきっている。
けど、俺は思うんだ。そんな世界に否応なく巻き込まれているキャシーとビッケは今どんな顔をしているのだろうと。
背中越しに甘い会話を延々聞かされるなんてある意味お仕置きだろ。
俺だったらとても耐えられない。
そこに巻き込まれているのが俺でなくて良かったと心から思った。
だって後10日間もこんな状況が続くんだ。
しつこい様だけどもう一度言うよ。俺でなくて本当に良かった。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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この後も新たな展開が続きます。
どうぞ、お楽しみください。




