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草原の戦い

 俺の冗談がビッケを大泣きさせた翌早朝、やはり敵は現れた。

 さすがに100人とまではいなかった。それでも目算で騎兵20人。ならず者50人ってところだろう。わざわざ5台も馬車を連ねてやって来た。


「ちょっと多いな・・」

 ベックが渋面を作った。

 俺達は土壁の内側に作った見張り台のような場所から全体を見渡している。


 夜が明けてまだ間もない。という事は街を夜明け前に出たのか?全くご苦労なことだ。

 弓を持った者までいる。昨日の4人も騎兵の中に姿が見える。皆お揃いの甲冑姿だ。


 一騎が進み出てきた。

「我らはエイドリアル・ロギナス子爵家臣団。我は騎士隊副長バスクである!その方等、昨日ロギナス街西門広場にて狼藉を働いたこと既に我々も知るところだ。大人しく縛につくならば命までは取らん。抵抗するならば全員その血もって草花を赤く染めることになるだろう!返答や如何に!」


 正義の騎士を気取っているが、あれは悪者だ。悪党の顔をしている。


 あわわわ。俺の隣でアンナが口を押さえてふるえている。

「本当にベックの言う通りでした。あんなに大勢引き連れてきて、どこまでえげつない腐った者たちなんでしょう」


「なぁ、あいつら殺したら俺達はこの国で犯罪者になるのか?」

「そんなことありません。エイドリアル子爵とモルディモア男爵の悪事の証拠の数々、それにロギナス伯爵直筆の軍派遣の請願書があります。それを無事にリンドベル侯爵様に届けることが出来ればむしろ感謝されます」


「まぁ、ならいいか。やっちまおう」

「でもさ、ちょっと遠いよ。ベックどうする?」

 敵の皆さんはここから50メトル以上離れた場所にいる。

 そこそこ威力のある攻撃を打ち込むにはもう少し近づいて来てほしい。


「ひとまず口上の返事を返す。騎士には礼を尽くさないとな。キース、この壁どのくらいの強度がある?」

「ボアの体当たりを一度は防げるくらい。けど魔力をもっと込めればこの間のオーガの拳3発は耐えられるかな」

「それなら強度はそのままでいい。高さをもう1メトル(かさ)上げしてくれ。壁の上部は丸くしろよ。指やフックが掛けられないようにな」


「ベック籠城するの?」

 リファーヌがワクワクした目で見ている。さすがドミークの娘だ。

「いや。まだそうと決めてない。ただ腹減ったから飯を食いながらゆっくり考えたい。飯の最中に攻め込まれるのも嫌だからな。その対策だ」


 さて、と言ってベックが立ち上がった。

 そして騎士に向かい返しの口上を大声で言い放った。

「我が名はベック!家族と旅する者だ。昨日の一件、4人のならず者が我が家族に手を上げようとした為に追い払っただけの事。斬りかかられたゆえに手軽くあしらった。そのならず者共が貴殿のお仲間ならば、我が家族に向けた非礼は許してやる故そうそう立ち去るがいい!」

 堂々と、そして朗々とした見事な口上だった。

 アンナがポカンとしている。昨日散々口喧嘩した同じ相手と思えないのだろう。その気持ち分かる。ベックはちゃんとする時はちゃんとしているのだ。


 ベックの口上に副長さんがまた何かを言い出した。がベックは無視して見張り台を後にした。俺達も続く。

 俺はすぐに土壁を嵩上げした。防壁としては見上げるレベルだ。魔法で身体能力を上げても簡単に飛び越えることはできまい。


「さて、飯にしよう。おっと、矢が降ってきてたら敵わん。キース、(かまど)の上に屋根を作ってくれ」

 言われて屋根を被せた。ついでに馬を繋いでる場所にも矢避けの壁と屋根を作る。


 朝飯はすぐに出来上がった。

 昨晩あれ程焦らされたのは何だったのかと思わずにいられない。ビッケがすごく微妙な顔をしている。でもな、味が違うのだよ。おいしさ的には格段に落ちている。その差がベックのこだわりなんだが、まぁビッケには分からないだろうな。


「さて、どうするか対応を決めたい」

 手早く食事を終えるとベックが全員を見回した。

 ビッケがオドオドして泣きそうな顔になっている。まだ見捨てられると思っているのか?

「戦うってことでいいのよね?」

「あぁ。勿論だ。だがどう戦うかが難しい。こんな場合は夜襲が効果的だがさすがに警戒されているだろうな。失敗したら目も当てられん」

 基本はベック、俺、リファーヌでの話だ。素人さんが加わるのは難しいだろう。

「あの、では3日位ここに留まって夜襲はないと思わせて安心したところを打って出るなんていかがですか?」

 キャシーがおずおずとしながら意見を言ってきた。伯爵令嬢で戦いなど縁の無い人なのに。

 少しベックが驚いている。俺も驚いた。


「・・そうだな、いや難しい。というよりも無理だな。馬が飢えちまう。ここには食わせる草がない。」

「あら、飼い葉なら持ってますよ。大した量ではありませんが。確か・・4束あります」

 アンナが収納袋をごそごそと漁って答えた。

 一束で馬一頭の一日分だ。つまり二日分。


「そりゃ助かる。だがどうしたもんかな。キースはどう思う」

「問題は魔法の射程距離なんだ。こっちから近づくなら夜襲しかない。けどそれは無理だよ。きっと夜は火を焚いて全周を見張っているだろうから。壁外に出た途端にばれて夜襲にならない。それよりも何とか向こうから近づけさせることできないかな」

「無理ではないな。というより用があるのは向こうの方だ。いっそ引き込んでまとめて倒せないか?」

「入り口を作っておいてご自由にお入り下さいみたいな感じは?」

「うんうん。良いね!それでいこうよ。あ、でも入ったきり出てこないと警戒して次は入って来なくなるよね。その時はどうする?」

「物見を何回か出して(らち)が明かなけりゃ一気に攻め込んでくるか、或いは包囲して食料が尽きるのを待つだろうな。一気に来てくれりゃこっちのもんだ。だが包囲されるとかなり厄介だな」


 うーんと考え込む俺とリファーヌ。

 一緒に考え込むキャシーと考える振りをするビッケ。

 そしてアンナは首を傾げながら疑問を口にした。

「あの、一気に来てほしいって言いますけど、普通は一度に大勢で押し寄せられたら困るのではないですか?」

「いや、その逆だ。理想はこの中に全員入って来てくれたらありがたい。一人も逃さず殲滅できるからな。俺達にはそれだけの火力がある。逆に遠巻きにばらけられるのが一番困る。自慢の火力が分散するしかなくなるからな」


「なるほど。大勢が一度にこの場所に集まればいいのですね・・・では、こういう作戦はどうでしょうか?」

 アンナも提案に加わった。

 皆で意見を出し合ってベストと思える作戦を立てることができた。

 そして俺達は早速準備に入ることにした。



 まず、入口を作るが中が見えないように壁を立てる。壁沿いは一方向にしか進めないように、且つ壁の上にリファーヌの攻撃場所を設けた。

 これで入ってくる者をリファーヌが倒し、倒しそびれた者をベックが相手をする。


 準備中、副長率いるエイドリアル子爵家臣団が攻撃をしてきた。ぽつぽつと矢が落ちて来る。土壁外部にも何かの魔法で攻撃しているらしく破砕音が響く。

 更に剣で斬り付けているようなガツガツと削るような音も響いてきた。音だけの判断になるがかなりの人数で壊しに掛かっているのだろう。結構うるさい。


 そんなに入りたいのなら入り口を作ってあげよう。ベックの指示で入口の穴を大きく開けた。これなら3人並んで通れるだろう。さ、いらっしゃい!

 すると外が騒がしくなった。と思ったら静かになった。さっきまでの喧騒がぴたりと止んでしまった。


 内壁の上でリファーヌがしっかり身を隠して待ち構えている。通路の出口にはベックがいる。アンナ、キャシー、ビッケは土小屋の中にいる。


 敵の始末は二人に任せて俺は自分の作業に取り掛かった。

 背後でバシュっと音がして何かが倒れる気配がした。ひとまず順調なようだ。


 暫くしてまたバシュっと音がした。

 その時にはもう準備は終わっていた。


 日暮れ近くまで同じことを繰り返し、荒くれ風の者ばかり20人は殺害した。

 そして俺が作った壁の中の空間にそれぞれ身を隠した。


 今夜はベックの料理はお預けだ。代わりに硬い干し肉を(かじ)りながらその時が来るのを待つ。



 時間が過ぎ、陽が沈んだのち暗闇に紛れるようにしてまた物見が入り込んできた。

 だが、その男に攻撃はしない。


 一通り中を見て回ったのだろう。そいつは走って出て行った。


 暫くして次は松明を持った者たちが入り込んできた。

 更に待つ。

 今度は団体さんだった。大勢来た。目論見が当たり内心ガッツポーズをする。


 彼らは壁内に鎮座する石小屋を発見し、壊しに掛かった。

 この石小屋は俺の魔力がたっぷり籠っている。簡単には壊せない。

 余程の土魔法の使い手がいれば別だが、そんな人物がいたら外壁はとっくに破られていたはずだ。だから土魔法師はいない。

 大変だろうけど物理的に壊すしかないのだ。


 篝火があちこちに焚かれ、内壁を照らし出す。

 今は何十人もの男たちが石小屋をぐるりと取り囲んで剣や斧を振るっている。まさに人海戦術だ。

 そんな連中の後ろから大声を上げて檄を飛ばす男がいる。多分副長のバスクだ。

 バスクはこう考えたはずだ。“奴らは魔力が切れを起こしたから頑丈な石小屋を作って籠城することを選んだ”と。

 カンカンガンガンと甲高い音を立てて荒くれ共が剣を振り下ろし頑張っている。


 実際、石小屋の中にはアンナ達がいる。囮役というかそこが一番頑丈で安全だから入ってもらうことにしたのだ。

 だが想像していたよりかなりうるさい。今頃耳を塞いで必死に騒音と恐怖に耐え忍んでいるんだろうな。可哀想に・・


 なんて考えていたらベックから合図が来た。

 “ピー!”

 ベックの口笛だ。壁に反響してよく響いた。

 ベックは頃合いを見て土壁の外へ抜け出し、壁外で待機の馬番やら見張りやらを始末しに行っていた。それが無事に終わった合図だ。

 俺はすぐに身を隠していた壁を壊して外に出ると入り口をふさいだ。

 これで袋の鼠だ。

 すぐにベッグと合流して外壁に階段をつくり駆けあがる。

 壁の中は既にリファーヌの攻撃で混乱していた。

 石小屋を壊していたら突然頭上から攻撃されたのだ。混乱もするだろう。


 ワーワー言いながら、リファーヌから身を隠せる石小屋の裏で押し合いへし合いしている。

 その背中に向けて俺が風刃を飛ばした。

 悲鳴が上がり、更に場が混乱する。

 だが逃げ込む場所などない。出口は塞いだ。そして約束通り命乞いをしても聞き入れる気はない。


「ま、待てお前達!こんなことをしてただで済む思っているのか!」

 それは昨日聞いた言葉だ。無視をして風刃を放つ。が、切り裂かれてしまった。そこそこの腕はあるみたいだ。ならば副長はベックの良い獲物だ。


 俺は別の目標を見つけて次々と風刃を放つ。優位な頭上からリファーヌと二人掛かりでやればサクサクと進む。

 それでもうまく逃げ続け(かわ)し続ける者もいる。対岸でリファーヌが躍起になっているのが見えた。横取りしたら悪いので別の奴を狙う。

 また一人また一人と倒れて行き、遂に最後の二人になった。


 そこで階段を作りベックと下に降りた。リファーヌも風魔法で衝撃を和らげて飛び降りた。前後を挟んだ形だ。


 辺りに死体がいっぱい転がり濃い血の匂いが充満している。

 戦場の匂いだ。



 


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