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キャシーとビッケ

 ワンコ亭で待つ事一時間。

 ベックとアンナが二人の子供を連れて戻って来た。


 二人はフードを被っている。灰色のフードを被っている方がキャシーと名乗った。9歳で同じ年の女の子だ。青い瞳に腰まで長いブラウン色の髪をしている。可愛いというより美人な女の子という感じだ。


 紺色のフードを被っていたのは少年だった。瞳と髪の色はキャシーと同じ。好奇心に満ちた目をしている割にキャシーの後ろに隠れている。背が低い6歳児。弟のビッケと紹介された。


 俺とリファーヌも名乗りキャシーと挨拶を交わした。ビッケはまだ挨拶ができないお年頃らしい。露骨にそっぽを向かれてしまった。

(ベックがすでに何かやらかして、俺達まで嫌われたのか?)


「ねぇ、荷物が少ないんだけど毛布とか食器とかこの子たちの野営道具はどうするの?これから買いに行くの?」

 リファーヌの疑問はもっともだ。

 何しろ二人は手ぶらだ。アンナがバッグを一つ背負っているだけだ。旅に出る気があるのか?と思っていたらアンナが解決策をしっかり持っていた。


「この背負いバッグは空間収納の魔道具よ。この中にはテントに毛布に食器に食材、ポーションまで入っているの。まだ余裕があるからあなた達の荷物も入るわよ」


「へぇ。すごいものを持ってるんだな。初めてお目にかかったぜ。じゃあ魔物を狩っても荷物にならなくていいな」

 ベックが良いものを見つけた的な目でバックをしげしげと見た。


「あら、ダメよ。そんな汚い物は入れたくないわ」

「ん?詳しくは知らんが、死体を入れても中の荷物は汚れたりはしないだろ?」

「えぇ。汚れないわ。でもそういう問題じゃなくて気分の問題よ。食材とか衣類と一緒に魔物の死体ってあり得ないわ」

「・・・」「・・・」「・・・」

 気持ちは分からなくもないが俺的には全くどうでもいいと思う。多分ベックもリファーヌも。だが、アンナは俺達とは違う感覚の持ち主らしい。

 何となく価値観の違いに悩まされる旅になる気がした。


「おい、お前!魔物が来たら普通は逃げるんだ。わざわざ殺して持ち歩くわけないだろ。馬鹿なのか?アンナ、本当にこいつらは大丈夫なのか?」

 ビッケが突然ベックを指さして上から目線で(ののし)った。

 

 一瞬唖然としたベックだが、そこで怯むベックではない。

「・・・魔物は普通殺して食べるんだ。そして売って金にするんだ。商人の子ならその位の常識は知っておけ」

「何!おいお前、無礼だぞ!僕はー」

「ビッケ様!」

 アンナが強い口調でビッケを遮った。

「そこ迄です。この人たちに協力してもらわねば私たちはこの街を出ることもできません。我慢してください」

「分かった。アンナがそう言うなら・・」

「ビッケ。今の私たちは無力です。協力してもらうのにあまり失礼なことを言うのは感心しませんよ」

「・・うん。分かった」

 キャシーにも叱られてしょぼんとするビッケ。

 

 俺達のやり取りを見守っていた女将とマルシェは何か言いたげな目をしていたが口を開くことはなかった。


「まぁいい。とにかくまず、見張りに見つかった場合のことも含めて事前にすり合わせが必要だ。それからすぐに出発だ。まず街の西門を目指そう」

 ベックの仕切りで万一の場合の対応を考えた。


 そしてやっと出発だ。

 再度、馬を連れてワンコ亭の前。女将とマルシェに2度目の別れを言った。

「あの、私たちのことは誰にも話さないでください」

「えぇ。分かっていますとも。道中どうかお気を付けて」

 アンナが女将に念押ししていた。


 西門に向かい、途中にある古着屋で俺とリファーヌのフードを買う。

 こげ茶色でお揃いにした。

 そして西門前の広場に差し掛かった。


 この時間、旅行く者はとっくに出ているし、入り来る者はいない。

 閑散とした広場を俺達は突っ切って進んでゆく。


 周りから粘つく視線をいくつも感じた。明らかにこちらを凝視している。

 そして4人の男が俺達の前に立ち(ふさ)がった。


 傭兵風に見せているけど雰囲気が違う。提げている剣や軍靴(ぐんか)がお揃いでお行儀がいい。アンナは街の無頼者と言っていたけど絶対に違う。なんだこいつら?


「何か用?」

 俺から聞いてみた。

「お前の顔を見せろ」

「嫌だ。なんで知らない人に命令されなきゃいけないの?」

 男はいきなりフードに手を伸ばしてきたが、それをベックが遮った。

「おい、あんたら俺の子供に何しやがる」

「こいつらは本当にお前の子共か?」

 ベックと男が睨み合った。


「あぁそうだ。だがそれがお前に何の関係がある」

「今俺達は人を探している。9歳と6歳のガキだ」

「そうかい。じゃ人違いだ。うちに9歳と6歳の子供はいない。分かったら邪魔をするな」

 そう答えたベックに男が殺気をぶつけ、ベックも殺気で返した。

 

 重苦しい沈黙。その沈黙を破ったのは、まさかのリファーヌだった。

「パパ。怖いよう。その人たちだぁれ?パパの知り合い?」


 俺は噴き出しそうになって(こら)えた。

 この緊迫した雰囲気にリファーヌが笑いを投じてくるとは・・完全な不意打ちだ。

 演技へたくそ!いや、わざとか。絶対に楽しんでる・・


 男がゆっくりと剣に手を掛けた。続いて他の3人も剣を手にした。

 危険な雰囲気に広場周辺にいた人々が騒めき避難していく。

 広い空間に足止めするように立つ4人の男と俺達家族もどき。完全に注目の的になってしまった。


 そんな中、リファーヌの演技に乗じて俺も悪乗りすることにした。

 だって面白すぎる。


「父ちゃん、こいつらは父ちゃんの敵ってこと?喧嘩するなら僕も加勢するよ!」

「ぶっ」

 つい、僕と言ってしまった。でも演技だし。

 だがベックは噴き出した。ダメだろ。集中しろよ!って心の中で俺が叫ぶ。

 リファーヌも肩を震わせている。

 そういえば、昔ベックから僕と言ったら股間を蹴るって言われたことを思い出した。今更だけど・・


 俺は楽しくなってきて、大きな火矢を4つ浮かべた。一人一つ4人分だ。

 男たちの顔が引きつった。

「父ちゃん撃って良い?」

 一応聞いてみると、

「まだ駄目だ。こいつらが仕掛けてきやがってから殺っちまいなさい」

 なんだかんだベックも楽しんでるらしい。


「おじさん達さぁ、やるのやらないの?早く決めてよ!」

 とせがんでみた。


「お、お前達。俺達にこんな真似してただで済むと思っているのか!」

 男が虚勢交じりの一喝をした。


「さぁ?お前らが誰か知らねぇし。だったら名乗れよ。俺の家族に手を出そうとしているのはどこのどいつだ?教えてくれよ」

 またしても睨み合う。


 俺は火矢を前後に動かして、撃つぞ撃つぞと威嚇する。

 その間に、リファーヌとアンナが馬を誘導しキャシーとビッケもそれに続く形で門外へ向かいだした。予定通りの動きだ。

 火矢の背にキャシーたちを庇い、矢の先を男達に向けておく。

 キャシーたちに近づこうとする奴は遠慮なく火矢を鼻先まで近づけてやった。


「フードを取ればそれで済む。顔を確認出来たら俺達はこんな真似をしないで済むんだ」

「ふざけるなよ。うちの子は皆怖がりなんだ。そんな真似させられるか!」

 そんなやり取りの最中、リファーヌ達が門の外へ出た。


「お前達!走って先に進め!」

「あなた!あなたはどうするの?無茶しないで!」 

()()()。俺達は大丈夫だ。すぐに追いつく。行け!」


 とんだ三文芝居に苦笑いだ。

「で、おじさん達どうするの?」

「でりゃー!」

 一人が業を煮やし、火矢を断ち斬った。

 しかしその火矢は粘着タイプだ。剣にまとわりついて剣を燃やす。

「熱っ!熱っ!」


 伝わった熱で手を火傷したようだ。

 だがそれが引き金となった。

「この野郎!」

 と横から切り掛かってきた男の剣を巧みにあしらい、ベックの剣が男の首筋に添えられた。男は剣を取り落とし組み伏せられている。


「おい。いかげんにしねぇと本当に殺すぞ」

「・・・・」

「もういい。俺達は諦めた。そいつを放してやってくれ」

「嫌だね。まずきちんと謝れ。そして誓え。もう追わないと。ついでにお前らの雇い主の名を言え」


「雇い主の名は言えない。お前たちが我らの追う者と違うなら知る必要も無かろう?もうお前たちの家族を追わないと誓う。すまなかった。これでいいか?」

 フンと鼻息を飛ばし、ベックは組み敷いた男から離れた。

 そして門へと向かって歩いて行く。俺も後ろについて行く。


「おじさん達!」

 門を出たところで俺は振り返った。

 さっとしゃがんで、魔力を地面に向けて放った。

 無数の石杭が男たちの胸元に向けて突き上がった。

 体に当てないように、でも恐怖を確実に刻めるくらいに。


 俺はフードを脱ぎ、はっきりと顔を見せて言い放つ。

「次はないよ。もし約束を破って俺達を追うなら次は確実に殺す。その時に命乞いしても俺は許さないから。おじさん達の雇い主にしっかりと伝えておいて」

 それだけ言うと俺はまたベックの背中を追った。

 魔力を抜くと、背後で石杭の崩れる音がした。



 すっかり時間を食ってしまった。

 向かう先のリドア村まで1日半掛かる。

 旅慣れないキャシーとビッケの歩調に合わせたらそれ以上だろう。下手したら二晩を野営という事になる。


 と言う訳で急ぎ街道を西へ向かっているのだが。

「もう疲れた。歩けない!」

 ビッケが我儘を言う。


「なら置いて行く。魔物に注意して後から付いて来い」

 ベックが意地悪を言う。

「ちょっとベック様!ビッケ様はまだ6歳なんです。(ひど)い言い方はなさらないでください」

「いや、酷くはない筈だ。俺は本来もっと厳しい。口で言ってやるだけ親切だと思え」

「それは親切とは言いません。親切ならばその馬に乗せてあげてください」

「この馬の背には魔物の死体を乗せる予定だ。予約済みなんだよ」

「魔物などどうでもいいじゃないですか!そんなものよりもビッケ様の方がずっと大事です」

「ならばお前たちの夜食は肉抜きとしよう。それでいいか」

「お肉なら私のバッグに入っております。これで問題解決ですね!では乗せてあげてください」

「乗りたきゃ勝手に乗ればいい。何故俺がそこまでしてやらなきゃならん」

 と、こんな具合だ。

 掛け合いは見事なまでに息が合っている。ただベクトルが真逆だ。

 俺はリファーヌにそっと目配せをする。(助け舟ださないの?)

 リファーヌが首を振った。(無理。だってベックが正しいもん)

 だよな・・


「では私がその馬を買い取ります。お幾らでしょうか?」

「こいつらは長年の俺の相棒だ。売り物じゃねぇ。手放す気はない」

「ではどうしろとおっしゃるのですか?」

「ただ黙って足を動かせばいいだけだ。簡単なことだろ」

「もう疲れたと言っているではないですか。可哀想ではないですか」

「ただ甘えているだけだ。本当はあんただって分かってるはずだ。違うか?」

 と延々続く。


 そして、ビッケの歩調に合わせた旅は遅遅として進まない。

 これはクーパの荷車並み、いや、それより遅いのではないか?


ここまでお読み頂きありがとうございます。

もし宜しければ、☆評価、或いはブックマーク登録をお願いしたいと思います。


この後も新たな展開が続きます。

どうぞ、お楽しみください。

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