峠越え 2
翌朝、早めに起きて馬に草を食べさせて戻るとすぐに朝の食事となった。
ひと段落着いたところでクーパがベックに頭を下げた。
「ベック。俺達はあんた達に付いて先に進むよ。面倒を掛けるが頼む。戦いの最中はエルダと子供たちは身を潜めてる。邪魔にならないようにするから連れて行ってくれ。俺達はもう戻りたくないんだ」
エルダも一緒に頭を下げた。
ベックはやれやれという顔だ。予想していたのだろう。
エドガーもベックに「俺達も連れていってくれ。協力は惜しまない」と頭を下げた。
「あんた方が俺達を頼るのはいい。けど何度も言うが俺達も自分の身が危うくなればさっさと逃げる。あんた達を見捨てることになるかもしれん。それでも良いというのであれば構わない」
最後の念を押すようにベックが確認を取り出発となった。
商隊護衛のダナン達4人と別れを告げその背中を見送った。
クーパの荷車に合わせた歩みだからゆっくりと進む。
今日はベックとリファーヌが先頭を歩いた。次にエドガーと仲間、クーパとその家族が続き最後尾は俺だ。
後ろの警戒を怠れないとベックのご指名を受けたからだ。
出発して約3時間。
そろそろ野盗の待ち伏せる場所付近のはずだ。
手頃な場所で休息を兼ねた作戦会議を行った。
俺は土壁を造った。昨日よりも狭く頑丈なものだ。そこで俺達以外の全員に待機してもらう。
野盗をこちらから襲うことにしたのだ。
ひとまずベックが一人で周辺の地形や人数などの詳細を調べに出かけた。ベックは斥候職だからお手の物だ。
そして一時間が過ぎた頃、ベックが戻って来た。
「大体ダナンの情報通りだったな。何とかなりそうだ」
帰還直後にベックが言った。
ベックが大丈夫というなら大丈夫だ。リファーヌもその一言で笑みをこぼした。
「だが、不安がない訳じゃない。まずキース、お前の魔力量はどのくらい残ってる?」
「土壁で使った魔力量を心配してるの?1割も使ってないよ」
「それは、ファイヤーボール何発分だ?」
「ん~・・通常の威力で200から250発位かな」
「なんだと?前にシモンの奴が普通の魔法師は30発が限界とか言っていたぞ。お前は化け物か!」
「ベックひどい!キースは化け物なんかじゃないもん!」
俺が言い返す前にリファーヌが怒鳴り返した。リファーヌは俺のことになると怒りっぽくなることがある。
「あぁ。悪かったって」
「私じゃなくてキースに謝って!」
ついでに面倒臭い性格になる時がある。これはあれだ。ドミークをよくぼやかせた時のリファーヌだ。その後ドミークがグジグジと俺にしつこく当たるパターンの奴。
「はいはい。キースごめんよ。で、ついでに聞くがリファーヌはどのくらい打てるんだ?」
すぐに謝って済ましてしまうのはベックの要領の良さだ。ドミークとは大違いだ。
「私は150発位」
「お前ら・・」
お前らの後の言葉が気になった。毎日魔力切れになるまで鍛錬してれば誰でもそのくらいにはなるだろうに。
「分かった。一つ目の不安は解消した。二つ目はリファーヌだ。リファーヌは盗賊を殺すことができるか?罪悪感とか慈悲の気持ちが沸いたりしないか?」
「ベック、私これでもドミーク・ザビオンの娘よ。殺る時は殺るわ!任せて」
「まぁ、あんまり心配してないがな。一応確認したかっただけだ。だがもし、殺すのを躊躇うようなら即撤退する。その判断を誤るとリファーヌだけでなく、俺もキースも死ぬ事になるからな。いいな」
リファーヌは真剣な顔でコクリと深くうなずいた。
「さて、ここからは具体的な作戦会議だ」
そして俺は一人で森の中をかき分けて野盗の屯する場所を目指している。担当は道の左側の森だ。
ベックとリファーヌは組になって右側の弓士を制圧する。
最初は極力静かに、ばれたらど派手にというのがベックの指示だ。
道に沿って進むと弓を持った男が一人いた。薄汚い恰好をしている。
バレットをそいつの頭に狙って放った。パシュンと音がしてそいつは倒れた。
近づくと確かに死んでいる。
少し離れた場所で笑い声が上がった。そちらに向かうと掘っ建て小屋があり、中に5人いる。
全員机を囲んで何か賭け事でもしているのだろう。机の上に銅貨が積みあがっている。
俺は板壁の隙間から覗いているが気づかれる気配もない。
どう制圧するか少し考えたが、ここまで無防備なら考えるまでもない。
入り口のドアを開けて中に入った。そこでやっと向こう正面の男が顔を上げた。その男の額にバレットを打ちこむと血をチョロチョロ噴き出して仰向けに倒れた。その間にも一人ずつ頭を打ちぬいて行く。最後の一人が反応して腰の武器に手を掛けたが抜くことも無く死んでいった。
これで制圧は完了した。なんともあっけない。
自分たちが襲われる立場になることなど欠片も考えていなかったのだろう。
念のため辺り一帯に潜む者がいないか見て回ったけど誰もいなかった。
そこは峠道を見下ろす崖の上だった。ここからなら楽に矢を当てられる。魔法もしかりだ。
見える範囲には5人の見張りがいる。かなり大きくてごつい柵の傍、皆椅子に座って寝てるか武器を手入れしているかだ。全く異変には気づいていない。
ベックから一通り気配の消し方を学んだがあまりうまくできていないと俺は思っている。
にも拘わらず誰も気づかないのは奴らがその程度だという事だ。
向かいの茂みを見るとベックが手振りで合図をしてきた。
(あっちも問題なく制圧できたみたいだ)
俺はバレットで5人の命を絶つ。
リファーヌが道を塞ぐ木の柵にファイヤーボールを飛ばした。
派手に燃え上がり黒煙がもくもくと立ち上がった。
するとベック達の居る方の森からむさい男たちが大声で騒ぎながら飛び出してきた。
俺はこっそり彼らの背後になる場所に移動する。
30人以上か、燃え盛る柵を遠巻きに喚いている。
「ウインドカッター!」
リファーヌが風刃を何枚も飛ばした。
俺も続いて風刃を飛ばす。見晴らしが良く上から攻撃するには絶好の位置だ。
次々と人が倒れてゆく。逃れたくても両側は見上げる崖になっていて背後は柵が燃えている。
退路などない。俺の攻撃をかいくぐり道の先へ行けば逃れられるが、そんなことはさせない。
唯一可能性のある退路は彼らが飛び出してきた森へ入る一角なのだが、今そこにはベックが立ちはだかっている。
小柄なベックを侮った者が斬り掛かり返り討ちに合って倒れてゆく。ベックに掛かれば確かに野盗などゴブリンと大差ないのかもしれない。
そこに髭面の大男が現れた。
「なんだお前らは!こんな真似してただじゃおかねぇぞ!ぶっ殺して皮を剥いでゴブリンどもの巣穴に放り込んでやる!」
怒り心頭で顔が赤いのか、湯気を噴き出しそうなほどに激高している様子だ。
ベックが剣を構えた。ベックの落ち着き払った構えから問題なしと判断した。
全く心配ない。俺もリファーヌもベックの周りの者からその命を次々と刈り取ってゆく。
動く者がいなくなって目を向ければ、髭面の大男はでかい斧を振り回していた。俺の方から見ると背中ががら空きだ。ベックが射線に入らないように気を付けてバレットをその大きい背中に打ち込んだ。
一瞬ビクンとのけぞった男が俺を睨みつけてきたが、すぐにその首がゴロンと落ちた。
ベックが切り落としたのだ。ベックが俺を睨んでた。どうやら余計な事だったらしい。
燃える柵に水をかけて消すと、俺たちは野盗共が出てきた脇道に入った。500メトル程進むと門があった。二人の男が見張りをしている。
瞬殺して門を抜けると10軒の家が建ち畑まである。その周辺にも数人の野盗がいて女が何人か作業をしていた。
「なんだお前たちは。頭はどうしたんだ」
一人が近づいてきたからそいつもベックが殺すと周りにいた野盗が襲いかかって来た。それを3人で始末した。女たちは無視して、ベックは当然のように一番奥の造りの良い家に入っていった。
俺とリファーヌもベックの後ろをついて行く。
「私、誰かの家に入るの初めて。幕舎か宿しか入ったことないからすごく不思議な感じ。へぇ、家の中ってこんな感じになってるんだね」
適当に相槌をしながら俺はリファーヌと全く別の意味でドキドキしていた。
(野盗の家でも勝手に入るのはなんとなく後ろめたい・・)
そんな俺の考えに関係なくベックは家探しをするし、リファーヌは興味津々であちこち覗いたり開けてみたりと忙しそうだ。
「ベック。皆をここに連れて来るよ。心配してるだろうしさ」
「おう、それなら奴らの死体片付けさせてくれ。放っといてもいいが魔物が集まるからな。できれば穴掘って埋めてくれ」
「分かった」
それから俺は待機しているク-パの家族とエドガー達の待つ土壁まで戻り、予定通り殲滅が終わったことを告げた。
クーパとエドガー、ネスタ、トマスの4人を連れて戻り、散らかった遺体を処理した。
土魔法で穴を掘って埋め戻すだけだ。ただ、人数が多くて7つも穴を掘る羽目になった。
燃え止しの柵をもう一度焼き尽くしてから炭を脇にどけて道を開ける。
もう一度戻り馬とエルダと子供たちを連れて今度は野盗の集落まで戻った。
勿論、荷車は街道脇に放置だ。遅いから。
「遅かったな。待ちくたびれたぜ」
「死体が多くて手間取ったよ。で、ここでの用事は終わったの?」
「まあな。けどまたお荷物が増えちまった」
ベックの視線の先に畑で見かけた女たちがいた。5人の女性がみすぼらしい恰好で不安そうな顔をしている。
ずっと虐げられてきたのだろう。疲れ切って諦めて汚れて痩せている。
「彼女たちは捕まってもう何年も働かされていたんだって。もう解放されたんだし一緒にモルビア迄行きたいんだって」
リファーヌが彼女たちの意思を確認したのだろう。憐みの籠った眼差しを向けた。
「歩けるのかな」
まだまだ峠越えは序の口だ。急勾配の坂を上り下りするのはかなり疲れる。あの女性たちにそれ程の体力があるとは思えなかった。
「裏に馬が3頭いるの。きっと昨日襲われた商隊の馬じゃないかしら。荷馬車もあるからそれに引かせれば歩かないでも済むよ」
「おう、クーパ。お前んとこの荷物を荷馬車に移せ。馬に曳かせて峠を越せるぞ。モルビアで馬を売って荷車を買えばいい。これでもう少し早く進める」
クーパは喜んで荷車の荷物を荷馬車に移し替えた。
盗賊を討伐した者は戦利品を獲る権利がある。そこにあった金貨袋はベックが真っ先に確保したようだ。他に武器や調度品やらと多くの品物があったがベックは見向きもしない。
「俺たちは少ない荷物で旅をしなきゃならないんだ。だから俺たちには必要ない。あんた達が欲しいものがあったら遠慮せず貰ってくと良い。何を持ち帰ろうと誰も文句は言わないぜ」
クーパが選びたい放題の品物の分け前を貰おうとベックにお伺いを立てるとベックはそう答えた。
エドガー達も自分たち様に武器を選び、他にも目移りしながら漁り始めた。
女性たちはその気になれないのか疲れているのか、全く動こうとしない。
そんな女性たちに俺はクリーンの魔法で汚れを落としてあげた。ただ、汚れは落ちても擦り切れた布までは戻らない。
「あなた達も少しでも価値の高いものを持っていくと良いですよ。これから生きていくのに何も手元にないと苦労しますから」
一応勧めとく。もし手ぶらで行けばきっと後悔するだろうから。
結局、今日は大して進んでないがここに泊まることになった。皆、物色に忙しかったのだ。仕方ない。
でもおかげで俺は鍛錬が出来た。気持ちよく汗をかいた後、井戸で久しぶりに体を拭いた。
人を大勢殺してしまったからなのか、さっぱりした気がした
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この後も新たな展開が続きます。
どうぞ、お楽しみください。




