決闘
皆が去って1日経ち、2日が過ぎ、3日目の夕方。ゲイドが来た。
何をしに来たのか知らないが、とにかく何人か引きつれてこの場に現れた。
バルト兄弟もいる。バルトが13歳になった一年前に兄弟揃ってゲイドの下に移っていた。バルト兄弟とはリブラル要塞攻略前に少し見かけた以来だった。
ついでにベックもいる。
ゲイドはものも言わず残されていた物置用の幕舎に入っていった。
ベックが苦々しい顔でその幕舎を睨みつけながらこっちへ来た。
「キース。リファーヌはどんな具合だ?」
俺は無言で首を振る。リファーヌは泣いてばかりだ。泣き疲れて眠って目を覚ましたらまた泣いて・・食事は食べさせているけどもうずっと会話もない。リファーヌは心にどれ程の傷を負ったのか。
「いいから全部積み込め!ここにある物全部持っていくんだ!置いてくのは馬のクソだけだ」
ゲイドの大声が幕舎の中から響いた。
部下数人が慌てた様子で荷物を運び出し始めた。
その声を聞きつけたのか、リファーヌが出てきた。目の下に隈ができ真っ赤に腫れている。ひどい顔だ。
「ゲイドの奴の声がした。どこ?」
目に決意の光が見える。嫌な予感がした。
ゲイドの居場所はすぐそこだが、教えるのが躊躇われた。
(何をする気だ?)
と迷っているうちにゲイドが幕舎から出てきた。
その姿を見たリファーヌが急に駆けだした。
「ママの仇!死ね!!ウインドカッター!」
リファーヌの翳す右手から風の刃が連続して放たれた。
「ウィンドカッター!ウインドカッター!」
着弾の確認もしないで次の魔法を放つ。
ゲイドは突然の攻撃のはずなのにリファーヌの風の刃を剣ではじき、易々と身を躱した。
でかい図体のくせに滅茶苦茶動きが速い。
その速いステップのままリファーヌに近づいてくる。
(殺すつもりだ)
俺も咄嗟に駆けだして魔法を放った。
「ファイヤーアロー!ファイヤーアロー!」
10を超える火矢を作り出し、風魔法で軌道を操作してゲイドに向けて爆散させた。
一瞬だが足を止めさせることができた。
「リファーヌ!止せ!ゲイドは倒せない!やめるんだ!!」
しかしリファーヌは引くつもりはないらしい。
風の刃でダメならと火球を複数個浮かべてファイヤーボールを次々と放つ。
爆散型で広範囲に火焔が飛び散ったところに風を操り炎に威力を与えている。
熱風が吹き荒れ後ろの幕舎も炎に包まれた。それどころか次々と燃え広がってゆく
黒煙の壁の中から、怒気を発したゲイドが飛び出してきた。
少し火傷を負ったようだがほぼ無傷だ。少し身体から煙が出ている。
「ガキども!何してくれやがる!」
殺気が飛んできた。目に見えない威圧の風がぶつけられたみたいだ。
たったそれだけで身体が硬直して次の行動がとれない。
「さすが親子だな。俺に楯突く愚か者が!」
ゲイドはリファーヌの前に立ちドミークの剣を振りかぶった。
もう間に合わない。
最上段から振り下ろされた剣を、リファーヌを突き飛ばして現れたベックが受けた。
「邪魔をするな。ベック、お前も殺すぞ」
「もとはと言えばミルケットを殺したお前が悪い。ここはそのドミークの剣に免じて手を引け」
鍔迫り合いの最中睨み合う二人の視線が交差する。
ミルケットの名に反応したリファーヌが両手に魔力を集めた。
俺は全速力でリファーヌの元へ駆け寄りその手を抑えた。
「ダメだ。俺達ではゲイドは倒せない。諦めるんだ」
「離して!キース離して!ママの仇なの!離してぇ!」
リファーヌは俺の手を振り払いまだ攻撃をしようとする。
その間、ベックがゲイドの前に立ちふさがり邪魔をしてくれていた。がそれも僅か数舜
だった。
ゲイドは剣圧を一瞬ほどくと身体が泳いだベックの腹に拳を一撃、横腹に蹴りを入れて吹き飛ばした。
「そうだな。命なら助けてやってもいいぜ。ただし条件次第だ」
また威圧が始まった。
思わず硬直する俺達に剣先を向けながらゲイドは続ける。
「リファーヌ、お前は奴隷商に売り飛ばす。キース、お前は隷属の首環を付けてもらう。俺の戦闘奴隷としてこき使ってやる」
(そうだった。こいつはミルケットを汚し殺した糞野郎だった。生かしておけばリファーヌが不幸になる)
実力の差からゲイドは倒せないと思い込んでいたけど大きな間違いだった。
そういう問題じゃない。ゲイドを倒さなければ俺とリファーヌの人生が奪われてしまう。
リファーヌを奴隷になんて絶対にさせない。怒りで目の前が真っ赤に染まった。
俺が糞野郎をぶっ倒す!
怒りで威圧が解けた。
足の裏から地中に魔力を通して攻撃に転じる。
「ロックパイル!」
数本の岩の杭が地中から飛び出しゲイドを襲った。同時に身体強化でリファーヌを抱え背後に飛び下がり距離を取る。
しかし既にゲイドの横薙ぎ一閃でロックパイルは砕け散っている。
目の端にベックがよろよろと立ち上がる姿が見えた。
「二人とも止せ!リファーヌ、お前たちではゲイドを倒せないぞ!逃げるんだ!」
ゲイドはベックに目もくれず、剣を横に引いた。
斬撃が飛んでくる!
「グランドウォール!」
地面に両手をつき大量の魔力を込めた土壁を展開する。
土壁ができる瞬間を待たず斬撃が飛んできて爆散した。
ドミークの斬撃に比べたら威力が数段落ちている。助かった・・
「ゲイドやめろ!キース、リファーヌを連れて逃げろ!早くしろ!」
眼前の土煙を割ってゲイドが突っ込んできた。
既に剣を振りかぶっている。
動きを読んでいた俺はまたリファーヌを抱えて大きく背後に飛び退いた。
同時に無詠唱でファイヤーボールとストーンバレットで迎え撃った。光球の目くらまし付きだ。
そのどれをもゲイドは正確に切り裂いてしまう。
ドミークと同じか同等の実力を持っているのかもしれない。
「リファ!」
叫ぶとリファーヌも我に返ってファイヤーアローを複数生み出して放った。
「死ね!死ね!死ね!」
リファーヌの恨みも籠った火矢がゲイドによって簡単に断ち切られる。
今は近づかせないために手数で圧倒する。
「聞いて。あいつが近づいたら俺が一瞬だけ動きを止める。合図したらリファーヌは全力の火力を叩きつけるんだ」
隣でリファーヌが小さく頷いた。
「お前ら!呆けっとしてるな!後ろに回り込め!逃げ道を塞げ!」
火魔法の弾幕で近づけないことに苛ついたのか、ゲイドが部下たちを怒鳴りつけた。
慌てて部下とバルト兄弟が走り出した。
それを見たゲイドはニヤっと笑い、攻勢を仕掛けてきた。
俺は意図して弾幕を少しずつ減らした。
相変わらず早い動きで魔法攻撃を躱しながら一直線に向かってくる。
「ウォーターボール!」
爆散型の水球をいくつか混ぜ込むとゲイドに頭から水を浴びせた。
ゲイドの間合い迄後10歩
リファーヌが最大の一撃の為に魔力を溜めに入った。攻撃は俺だけになる。
できるだけ油断させて近づけさせるために少しずつ弾幕を薄くする。
バルト達はまだ回り込めていない。
あと5歩。
わざと顔を苦痛に歪めて魔力切れをアピールする。
そうそう。ゆっくり近づいてこい。
残り4歩
魔法を打ち止め、掌に魔力を溜めに入る
魔力馬鹿食いのこの技は発動まで少々時間が掛かる。
一気に距離を詰められると事だから、片膝を付いて“もう限界です“とアピールする。
残り3歩
ゲイドが立ち止まった。
「この人数相手にまだ戦うか?本気で殺すぞ?」
僅かばかりの無言の時間が訪れた。睨み合う俺とゲイド。
俺達の魔法を警戒したのか、余裕綽々なのか。
おかげで魔力が溜まった。
背後にバルト兄弟と部下たちが回り込む気配がした。これで後ろに飛び下がることはできない。
一瞬ベックと視線で言葉を交わした。
俺が何をするかベックは理解している筈。前に使い勝手の悪いこの技について相談したことがあるから。
「どうしようもない時の一手として使えばいい」と言っていた。
「そうか。そんなに死にたければ死ね!」
ゲイドが剣を振り上げその瞳に殺意と愉悦の色が浮かんでいる。
「雷撃!」
青白い光に包まれ耳をつんざく轟音が響いた。
それがリファーヌへの合図となった。
「ファイヤーブレード!」
リファーヌの放った魔法は炎の風刃。
三日月形の大きな炎が、雷撃で硬直しているゲイドを斬りつけた。
振り上げている左腕から右腰に掛けての袈裟切りだ。
攻撃の当たった処から炎が吹き上がりゲイドの上半身を包み込んだ。
左腕は燃え尽きてしまった。
金属鎧は中半溶けかかっている。
「ぎゃあぁ~」
断末魔の叫びをゲイドが上げた。
そしてそのまま後ろに倒れてのたうち回った後、静かになった。
炎風刃は未だ激しい炎を吹き上げゲイドの身体を焼き続けている。
それを見たバルト達が雄叫びを上げて切りかかってきた。
ベックがすかさずナイフを数本投擲した。
全員肩や足にナイフが刺さり動きが止まったところに俺は火矢を浮かべ威嚇する。
リファーヌは魔力が尽きたのか膝を付いて燃えるゲイドを眺めていた。
「おい!もう決着はついた。これ以上やるなら俺も相手になる。 “死んだ奴に義理立てしてどうする?”これはゲイドの言葉だ。もう終わりにしようじゃねぇか」
ベックが剣で牽制しながら大声で言った。
バルト兄弟は歯ぎしりをして睨みつけてきた。あんな奴でも父として慕っていたからな。でもリファーヌを殺そうとするなら俺も容赦する気はない。
睨み合いの末、一人の男が応えた。
「あぁ。分かった。お前達はさっさと出て行け」
「クソ!キース、リファーヌ、お前たちはいつか必ず俺がこの手で殺してやる!必ずだ。それまで怯えて生きるがいい!」
バルドが叫んだ。
俺はすぐにバルトを殺そうと思った。リファーヌを狙うなら容赦しない。
「好きにしろ」
攻撃しようと構えた俺の手をベックが抑えて応えた。
元々俺の荷物は少なかったがそれも幕舎と一緒に焼けてしまった。腰に差した形見の短剣と魔法杖、それに懐の金貨が入った巾着だけだ。
リファーヌも荷物はない。
形見の品も生活の道具もすべて燃えてしまった。ドミークの剣は回収したが。
ベックが2頭の馬を引いてきた。
馬には毛布や鍋やらがぶら下がっている。そこにドミークの剣もしっかりと括り付けた。
「この傭兵団ともおさらばだ。居心地よかったんだがな。結局ドミークが死んだらあっという間だった」
ベックはボヤキのような呟きと小さなため息一つで、踏ん切りよく馬の背に飛び乗った。
俺はリファーヌと同じ馬の背に乗った。
「さて、行こうか」
俺達は西に進路を取った。
赤獅子傭兵団に拾われて4年と半年。
こんなに早く去ることになるとは思わなかった。
最悪に近い旅立ちだけど信頼できる二人の仲間がいる。
どこに向かうのかまだ決めてないけど、とりあえず出発だ!
ここまでお読み頂きありがとうございます。
この作品を面白いと思われた方はぜひ☆評価やブックマーク登録などをお願いいたします。
今後場所を変えて新たな展開が始まるので、どうぞお楽しみください。




