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トルティア山の戦い 1

 バルバドール王国は今から25年前、即位した前王が重圧政策を行い始めた。

 “すべての家臣・王国民は王家の繁栄の礎となれ”と国是に掲げたのだ。


 王国民に課せられた重税はそのまま領主貴族の財政に多大な影響を与え、領主貴族の中に反王家・反王国の機運が生まれることになった。


 特に王国の北部から西部にかけ、テリーヌ大河川の肥沃な土地を有する領主貴族達が団結し、国王に政策の転換を訴えたが受け入れられず、遂に反乱を起こすに至った。


 それが20年前になる。それ以降戦乱の時代が続いている。


 10年前、第一王子が王位につくとそのまま重圧政策を引き継いだ。

 これまでにも幾度か王国軍は大規模な討伐隊を編成し、北部・西部地域に攻め入っている。


 兵数で劣る領主貴族達は、多くの傭兵を雇い王国軍に対抗し続けてきた。

 何度かは勝ち何度かの敗北を経て、今現在に至る。



 バルバドール国王、ダストレフ・ゼフ・バルバドールは業を煮やしていた。


「いつになったら反乱貴族どもを討伐できるのか!?いつまでこんな不毛な戦いをせねばならぬのか!?早くビストハイゼの首を我が面前に供えぬか!」


 軍議の席上、拳を机にバンッ!と叩きつけ並み居る重臣たちの顔を睨みつけた。


「しかし陛下、傭兵どもが地虫のごとく湧き出て参ります。奴らを何とかしない内はどうにもなりませぬ」

 応えたのは宰相だった。


「そんなことは分かっておる!どう何とかするかを聞いておるのだ!」

 並居る重臣は苦々しい顔をする者、項垂れる者、目を背ける者と様々だ。

 暫しの沈黙を破って一人の老人が立ち上がった。


「おそれながら申し上げます。私に一つの策があります。しかしその策は消極的すぎると我が王に於かれてはご非難召されることでしょう。また相応の費用が掛かります。しかしながら、現状を打破するには試すに値すべき良策と信じ献策いたします」

 口を開いたのはブリート・デル・ゼオス将軍だった。


 一斉に皆の視線が彼に集まった。

 八の字形の口ひげをたたえ、齢60を超えてなお服を引き千切らんばかりの筋肉の鎧を纏う偉丈夫。数々の軍功を誇る歴戦の将軍である。


「ほう。策はあるか。ならばひとまず聞かせよ。中身の吟味は話を聞いてからだ」

 バルバドール王の口調がやっと落ち着いた。


「では、申し上げます。王はアガシ一族なる者をご存じでしょうか?暗殺を生業にする者共にございます」


「ふむ。耳にしたことはある。たいそうな腕前だが高額だそうだな。その者達に任せるという話か?」


「いかにも。しかし、ただ任せると言う訳ではございませぬ。ビストハイゼ領に向け軍を送ります。そうですな、1万ほどで良いでしょう。うち5千をトルティア山へ展開します。事前に情報を流し、ここに傭兵団をおびき寄せます。視界が悪く隠れる場所も多い山地であれば、アガシ一族も本領を発揮できましょう。標的は黒豹、赤獅子の首領2名です。この2つの傭兵団の頭を殺せば傭兵団の戦力を大幅に削ぐことができるでしょう。確実に傭兵団をおびき出すために、残り5千の兵をダミル平原に展開します。さすればビストハイゼの騎士団は平原に、傭兵団は山地に対応してくるのは自明のこと。トルティア山では兵を深くまで進軍させて先端が開いたら頃合いで撤退させればよろしい。深追いしてきたところをアガシ一族に暗殺させます。平原の兵はただの足止め役ですから戦う必要もありません。これならばこちらの兵力を削ぐことなく敵に打撃を与えられます。暗殺が成功したならば、そのまま混乱している傭兵団に攻め込むも良し、ダミル平原に集結して一気に騎士団を叩くも良し。どうにでも料理が出来ましょう。いかがですかな?」


「ふむ・・・なかなかの良案に思えるが。宰相、お前の意見は?」


「はい。策としては試してみるのも宜しいかと。しかしながらアガシ一族への報酬が如何ほどかをまず聞いてから判断すべきかと」


「首一つにつき王国札10枚にございます。つまり20枚。先に手付で10枚。成功したならば残りの10枚を払います。失敗しても手付の支払い分は戻りません」


「なんと!それはあまりに高額な・・王国予算の1割に達しますぞ」


「額だけ聞けばそう思われるのも無理はありませんな。しかし、黒豹傭兵団は今や2000人を超える規模の大戦力です。束ねる男は泣く子も黙る爆炎のダリ。炎の大魔法で一面を焼き尽くす実力と巧みな用兵術でこれまでどれほどの兵を殺されたか!また赤獅子のドミークの突撃を止められる者はわが軍にはおりません。一度切り込めば、天に向かう首と血潮が土砂降りの雨の如し!そんなものを戦場で見せられてはわが軍の兵とて人であれば恐れもしよう。その二人を殺せるのであれば相応の額と私には思えますが?」


「・・・まぁ良いではないか。それでこの長きに渡る戦いを終わらせることができるのならば安いとも思える。傭兵団の力を削ぐことができれば反乱軍などすぐに打ち勝てるだろう。良し!そのアガシ一族なる者を雇え!ゼオス、貴様に今回の作戦の指揮を執らせる。見事反乱軍の戦力を削ぎ落して見せよ!」


「ははっ!」


 こうしてドミークの暗殺計画が王国の軍議で決定された。

 ゼオス将軍は早速暗殺ギルドに渡りをつけ、アガシ一族に依頼を行うことに成功した。


 今から3か月前の出来事である。



 ビストハイゼ伯爵のもとに王国軍の進軍情報がもたらされた。

 早速軍議が開かれ、傭兵団への出兵要請がなされた。


 赤獅子傭兵団は領主軍騎士団や他の傭兵団と共にトルティア山へ向かった。

 総戦力は、凡そ4000。領主軍の歩兵騎士団100と傭兵団4000であった。

 わざわざ山の中を戦場にする意図は騎士団と傭兵団を分断し、主目的は騎士団を叩くためと推測された。


 こうした騎士団と傭兵団の各個撃破を狙った作戦はこれまでに何度か行われてきている。

 しかし、その作戦が王国軍の狙う各個撃破に至ったことはなった。


 今回も同様、騎士団も傭兵団側もその阻止に自信をもって、それぞれの戦場へ赴いていった。



 トルティア山は、起伏の激しい森林地帯と言ったところだ。

 魔物もいるため、敵は王国軍だけではない。


 この連合軍を率いるのは旧ドリス領の騎士団で部隊長をしていた騎士だ。

 今回の主戦力は傭兵団になるため、その検分役として100名の連絡員と護衛を連れてきている。


 傭兵団とは団結や連携をしても、他の傭兵団の指揮下に入ることは無い。その為、軍のような一律の組織にはなりえない。

 従って、傭兵団の中から代表という形で先導役が選ばれる。

 今回もまた黒豹傭兵団のダリがその代表に付いた。


 森の手前で連合軍は陣を設置すると、ダリは主だった傭兵団の団長を集め軍議に入った。

 ダリは既に戦友とも呼べる他の団長・頭目たちを前に具体的な配置や連携の確認、本陣とダリへの伝達方法など諸々の指示を行った。


 ダリ率いる黒豹傭兵団は中央、ドミーク率いる赤獅子傭兵団は左翼方面を受け持ち反乱軍は森の中へと進軍していった。



 ドミークはベック他数名の斥候を送り出し、前方の索敵を行いながら順調に進軍した。

 この山はD級クラスの魔物が出るが、問題なく進んでゆく。


 ほぼ中央部の少し手前まで来たところで進軍を止めた。

 もうすぐ陽が暮れるため、幕舎を張り野営の準備に取り掛かった。


 翌日も進軍を続け、まだ陽は高くない時間帯から王国軍と戦闘に入った。

「突っ込めー!!」

 ドミークの合図とともに傭兵達が木々の隙間を駆け抜けて行く。


 剣を振るうには十分な間隔があるとはいえ、立ち回れば幹やら枝やらで動きが制限される。

 当然視界も悪く全体の状況が掴めない。

 あちこちで剣戟と怒号が響き血しぶきが舞い始めた。

 ドミークも目に入った敵兵に躍りかかり首を斬り飛ばした。


 見えないが遠くから魔法攻撃による爆音も聞こえてくる。

 黒豹傭兵団はじめ他の傭兵団も戦闘を始めたようだ。

 敵側は指示を太鼓で行っているらしく、前方から太鼓を激しく打ち鳴らす音が聞こえてくる。


 気づけば戦い始めた位置よりかなり前進していた。

 全体的には傭兵団が押していると判断した。


 ペッグが近づいてきた。

「ちょっと気になったんだが、こいつらあまりにも弱すぎねぇか?片腕がない奴までいたぜ。多分正規兵じゃねぇな。何か裏があるかもしれねえ」

「あぁ。俺も思ってた。だがやることは変わらねぇ。何か変化あったらすぐに知らせろ」


 その後も歯ごたえの無い敵を屠りつつ前進してゆく。


 いきなり前方で大きな炎の柱が立ち、敵兵もろとも数人の仲間が火だるまになった。

(何かのトラップを仕掛けてやがる!)


 枝葉の隙間に隠された矢が頭上から飛んできた。 

 ドミークは剣の一振りで弾き返したが、同じ罠で何人かが怪我を負ったようだ。


 周りから複数の爆発音や発射音、それに続く悲鳴も聞こえてくる。

「くそ!面倒な真似をしやがる!」


 負傷者を後退させ、いったん停止の指示を出すことにした。

「ドミーク、罠は嫌がらせみたいなもんだ。よく見りゃ発動の魔法陣があちこちに刻んである。斥候を前に出して進めば問題ねぇ」


「そうだな。ペースは落ちるが仕方ねぇ。罠は任せた。このまま日暮れまで進むぞ!」

 斥候が魔法陣を見つけ壊す。襲い来る敵兵も蹴散らしつつ前進を続けた。


 太鼓の音がさっきより大きくなっている。

 敵本体に近づいている証拠だ。


 大きく開けた場所に出た。膝高の草が茂っている。

 まるで待ち構えていたように茂みの向こうに敵兵が並んでいた。


「我らはバルバドール王国青龍騎士団第十二歩兵騎士隊!我が名はビルゲード・ジャフマン!王命により貴様らを討伐する!放て!」 


 赤獅子傭兵団が茂みから現れるや一人の大きな男が名乗りを上げた。

 兜に派手な鳥の羽を付けている。一人だけ赤マントでこれまた派手な鎧を着込んだ男だった。


「馬鹿なのか?」

 一瞬ポカンとする赤獅子の面々に向けて自信満の表情で指をさしている。

 その派手な出で立ちのビルゲートなる騎士の号令と共にボウガンが一斉に放たれた。


 傭兵達は盾を使い、或いは身を伏せて躱したが何人かは餌食になったようだ。


「シモン!!」

 ドミークが叫ぶと間髪入れずにシモン率いる魔法部隊から飛弾系魔法が飛んで行く。

 バシュ!バシュ!と乾いた音と共に火矢や氷弾、魔力弾など様々な魔法攻撃が王国軍のいたるところに着弾した。


 爆音に交じって怒号と悲鳴が上がった。


「魔法部隊を集中的に狙え!」

 ビルゲートはさらに大声を張り上げる。

「怯むな!王国を食い散らかす害虫どもを殲滅せよ!突撃!!!」


 ドミークも声を張り上げた。

「野郎ども!行けっ!」


 ドミーク達は魔法部隊の援護をもらいつつ互いに草叢へ駈け込んでいった。

 しかし、数歩進んだところで悲鳴を上げて倒れる者が続出した。


 傭兵団側の草むらの中に魔物捕獲用の罠が仕込まれていたのだ。

 結構な人数が引っかかったようだ。


「クソ!卑怯な!」

 それでもドミークは止まらない。


 大きく飛び上がると敵陣の中へ突っ込んでいった。

「怯むな!怯むな!歩兵如きに我らが止められるものか!」


 着地と同時に剣を一閃し、血しぶきが舞う。

 (ようやく戦いらしくなってきたぜ)


 ドミークはやっと歯ごたえのある敵の登場に歓喜していた。

 数舜遅れて傭兵団の強者の面々も敵陣に躍り込んできた。


 ここから赤獅子傭兵団による殺戮の時間が始まる。

 此処まで、弱すぎる敵と姑息な罠で皆イライラしていたのだ。


 向こうでゲイドが雄叫びを上げた。


 別の場所ではデールが口の端を持ち上げて斧を振っている

 デールも喜々として戦いを楽しんでいるのだ。


 ビルゲードは将軍ゼオスより、ある程度戦ったら逃げろと命じられていた。

 彼にも騎士としての矜持がある。その時は、敵を前に逃げるなどと不満を押し殺した。

 しかし、赤獅子の奴らはまさに悪鬼羅刹。今はすぐにでも逃げだしたいと思った。


 見る間に次々と兵が倒されてゆく。

 これ以上は戦ってはならない!兵を無駄死にさせてしまう。

 もう少し渡り合えると思っていたが、全くの思い違いであった。

「鼓を鳴らせ!退却だ!全員退きゃーく!!」


 ビルゲードは一目散に逃げだした。

 王国青龍騎士団第十二歩兵騎士隊500名は赤獅子傭兵団に背を向け、隊長のビルゲード自ら先頭に立って逃げだした。


 見事な敗走ぶりであった。


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