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鍛錬の日々

 赤獅子傭兵団はドリス伯爵領を去り、ビストハイゼ伯爵領へ拠点を移した。

 ビストハイゼ伯爵はドリス伯爵と並ぶ反王国の筆頭株である。

 王国軍との小競り合いは頻度を増しており、有名な赤獅子の名も手伝って快く受け入れられた。



 場所を変え、ミルケ隊での生活も一変した。

 まず、俺は正式に傭兵見習いになった。


 当面はシモンとベルナルデから魔法の指導を、ベックからは傭兵業に必要な知識を教えてもらう。あとミルケットから文字と算学。

 7歳になったら剣術の手解きをしてくれるらしい。


 それから、護衛兼雑用の奴隷が二人も入ったために一切の雑用から解放された。

 その代わりに傭兵団に貢献できるよう全力で強くなるよう言われている。

 そうは言っても日々食肉の調達だけはするつもりだ。食事が美味しいことは正義だし、皆が期待しているし。


 指導はリファーヌも一緒に受けることになった。

「キースと一緒にいたいだけじゃないのか?」とベックに言われてもリファーヌは否定しなかった。

 顔を少し赤らめて「そうよ。悪い?」と開き直ったものだからドミークが目を剥いて俺を睨みつけてきた。


「小僧、7歳になったら剣の使い方を俺が直々に教えてやる。(しご)き倒してやるからその時は覚えていろよ」と、ものすごく低い声で囁かれた。

 ミルケット曰く「キースが来てからリファが父親離れして落ち込んでいるのよ。“小僧にリファを取られた”って。馬鹿よね?気にしなくていいわ」だそうだ。

 だからミルケットの言う通りまったく気にしないことにした。


 シモンもベックも普段は戦場に出ている。だから帰って来たときに教えを受けることになる。そのあとはひたすら教わったことを体で覚えるだけだ。


 今日はシモンの日だ。人の居ない場所まで馬で移動し大きな木の木陰に敷き布を出して丸くなって座った。俺、リファーヌ、シモン、ベルナルデだ。良く晴れてそよ風が気持ちいい。ピクニック気分でワクワクする。


 シモンに言われて属性毎に魔法を空に向けて放った。

「ファイヤーアロー」

「アイスボール」

「ウィンドカッター」

「ストーンバレット」

 続いて風と土の複合魔術を放つ。

「サンドストーム」

 リファーヌが魔法を放つたびに拍手をしてくれる。

 この雰囲気はなんか新鮮でいい感じだ。


「なんだよ、俺より器用じゃねぇか。それだけできりゃ何も教える必要ないじゃないか」とシモンは少し不貞腐れていた。


 次にリファーヌの魔法を確認する。

 リファーヌはまだ手の平から魔力を浮かべるくらいのことしかできない。

 4属性の魔法は使えないし、その適正も分かっていない。

 まずはその適正な魔力の属性を調べることから始めた。


 魔法は基本“火・水・風・土・聖“の5属性になる

 適性のある属性は調べればわかるという事で早速調べてみた。


 ベルナルデは5つの魔法陣を用意していた。

 そこに枯葉を1枚ずつ乗せる。

 それぞれの魔法陣に手をかざして魔力を流してみる。 

 そうするとそれぞれの特有の反応が起きる。起きた現象が激しい程適正があり、微妙であれば頑張るだけ無駄らしい。


 例えば、“火“属性であれば枯葉は燃える。”水“は濡れる。”風“は舞う。”土“は崩れる。

 ”聖“であれば枯葉に青みが戻り、さらに欠けた部分が復元すればヒールが扱える。


 リファーヌは”火“と“風”に適性があった。

 激しく反応していたから、かなり適性が高い様だ。特に風魔法は素晴らしい才能がある。

 先生二人が羨ましがるほどに。



 と言う訳で、リファーヌは手始めに丹田の魔力操作を徹底的に習得することになった。

 それができなければ先に進めないからだ。

 要するに、今までしてきた鍛錬と何も変わらない。何か新しくて簡単な方法を期待していたリファーヌは不服顔だった。

 最終目標は“火”と“風”の複合魔法まで扱えるようになることと決まり早速瞑想に入る。体内の魔力を感じるには静かに瞑想する方法が一番やりやすい。地味なのだが致し方ない。



 続いて俺も一応適性を調べてみた。結果は全てにおいて激しい反応があった。

 全属性でここまでの反応を見せた者はシモンもベルナルデも会ったことがないらしい。


「これなら雷魔法も使えるようになる」とシモンは興奮していた。

 ベルナルデも「傭兵なんてもったいない。大魔術師になれる素質があるわ」と絶賛してくれた。


 と言う訳で俺はまず“雷”と“ヒール”の習得を目指すことになった。

 雷は“聖・水か土・風”が必要らしい。3属性を必要とする高等魔術で伝説級の魔法だ。

 これはシモンの夢?を叶えるために強制された。一度実物を見てみたいのだとか。

 ヒールは傭兵稼業では必須ではあるが同時に使い手の少ない魔法だ。

 どこの国でも教会や軍が高い俸給で雇う為わざわざ傭兵団に所属する者はいない。

 シモンは変わり者なのだろう。


 シモンはこの国の孤児だったという。魔法の才能を見出されて商家の後押しでシャーリア聖公国へ留学し、魔法学校でベルナルデと出会い恋に落ちたそうだ。

 卒業後に国へ戻りこの傭兵団に入った。1年前にベルナルデが卒業すると迎えに行き今に至ると。


「バルバドール王の悪政はひどいなんてもんじゃない。民は皆、王家が倒されることを願っているんだ。学費を出してくれた商家も王国に潰された。王都は死者の国かと思う程活気がない。その商家は俺に王国打倒の夢を託して学費を出してくれたんだ。もう生きてはいないけど義理だけは果たさないとな。義理を果たしたらシャーリアでベルナルデと幸せに暮らすつもりだ」


 そう語るシモンに寄り添うベルナルデはうっとりしている。今日もお熱い仲で結構なことだ。

 見せつけられる俺とリファーヌの顔も真っ赤になってしまう。

 そんな感じで初日の魔法講義は終了したのだった。


 翌日、ベックの授業だった。

「おう!俺が何でも教えてやるぜ。しっかり覚えねえとまた蹴り飛ばすからな!」

 ベックにそう言われると雑用でこき使われた頃の記憶が蘇ってくる。


 ベックは赤獅子傭兵団で雑用ばかりをしているが、実は斥候担当だ。器用でそつがなく、また面倒見が良いため雑用も進んでこなすうちに、それが仕事のようになってしまっていた。

 新しく購入した奴隷にあれこれ仕込むこともベックに任されている。

 一番忙しい筈なのだが俺たちの指導を進んで引き受けてくれた。


 雑用係をしていた時も学ぶことは多かった。馬の世話、武具の手入れ、馬車の修理、幕舎の設営等々。

 傭兵の中では一番厳しかったくせに今では一番親しく気安い間柄だ。

 当時余裕が無くて気づかなかったが、なんだかんだと世話焼きで面倒見が良かった気がする。

 奴隷落ちを免れた時も喜んでくれたし。


 そんなベックと今日は森へ狩りに来ている。食材調達だ。

 森の手前で馬車を降り、馬を繋いで森へ分け入る。


 食材用の狩りが目的だが、様々な知識と技術を養うためにはうってつけなのだそうだ。

 道々、食べられる野草から始まり、薬草や毒持ちの種類、匂いの嗅ぎ方、痕跡の見分け方、追跡の仕方、接近の仕方、気配の絶ち方と気づき方、動物や魔物や人の習性、など延々と説明を受ける。

 とてもじゃないけど覚えきれない。


「心配するな。今日覚えなくてもこの先何度でも説明してやる。ただ、次から森に入る時は今言ったことを少しでも意識するんだ。回数をこなせば自然と身に付く。それこそ意識しなくても気づくようになるさ。ま、時間はあるんだ。のんびり行こうぜ」


 やっぱりベックの人格のギャップが激しすぎる。怒鳴られて蹴とばされるよりは余程良いので言われた通りのんびり覚えていこう。


 角兎2匹とボア1匹を仕留めてその日は終わった。

 今日は一日充実して楽しかった。

 簡単に身につくとは思えないけどいずれ必要になりそうな知識と技術ばかりだ。

 のんびりと、でもしっかり身に着けようと決めた。

 

 

 2年が過ぎ俺とリファーヌは7歳になった。


 リファーヌは“火”と“風”の魔法を無事使えるようになった。

 連日魔力操作の鍛錬続けてだいぶ上達している。当初は木の葉一枚を浮かすところから始まり、今では丸盾を浮かし続けている。毎晩魔力切れを起こすまで続けた結果、リファーヌの総魔力量も順調に伸びている。


 俺は、折れた剣を火魔法で溶かしつつ土魔法で成形して相変わらず彫像を作っている。土と違い中々思い通りの形ができない。高熱を加えながら金属の形を整えると魔力を馬鹿食いする。魔力総量が増えすぎて枯渇状態になりにくくなってきたからちょうどいい。ついでに繊細で自然な曲線が難しく魔力操作の良い鍛錬になっている。


 雷魔法はとっくに覚えた。

 ただ、命中精度がよろしくない。音もうるさいからわざわざ森に出かけて練習しているけど、狙った場所に当たらないのだ。草原のような開けた場所なら目印に突き立てた剣には当たる。

 接近戦で戦う場合もすごく強力な武器になる。ただ消費魔力が大きすぎて戦場では使えない。雷撃1発の魔力で火球系なら30発は打てるのだから。

 状況と場所を選ぶ非常に使い勝手の悪い魔法と割り切ることにした。


 聖魔法は未だ習得中だ。ヒールと浄化は覚えた。

 ここバルバドールはアンデッドが多い。場所によってはうじゃうじゃいる。近くに瘴気溜りがあるのにこの国の貴族は放置しているからだ。

 動きの鈍いアンデッドは比較的簡単に討伐できるけど野営場所を間違えると大変な目に遭う。

 浄化魔法を覚えたと伝えたらミルケ隊の皆から想像以上に喜ばれた。気持ち悪いし臭いし数は多いしで女性陣は心の底から忌み嫌っているようだ。

 今は結界魔法を取得中だ。

「聖なる結界でアンデッドを私に近づけさせないで!」とベルナルデから頼まれた。リファーヌも大きく頷いて同意していたから頑張るしかない。


 その結界を長時間張り続けるために魔法陣の習得が必要となった。

 魔法式を魔法陣に組み込むことで個の魔法よりも大掛かりな術を展開できるようになるらしい。

 魔法陣は魔力を込めれば簡単に作成できる。必要なのは術式。つまり知識だ。

 聖なる結界の場合、結界の効果や時間、対象空間を術式に変換してイメージした聖魔法陣に魔力を込める。すると魔力消費は大きいが強力で持続可能な結界が出来上がる。


 ファイヤーボールでも火魔法陣を作っておけば時限発火的に対象へ攻撃を飛ばすことができる。その間こっちは別の攻撃を仕掛けられるので単純に手数が増えることになる。

 また、魔力の代わりに魔石を用いて、魔法陣を道具に刻んでおけば魔道具になる。


 と言う訳でベルナルデから魔法陣と魔術式を学ぶことになった。


 剣術の指南も始まった。ドミークが満面の笑顔で鍛えてくれている。

 笑顔の裏に「泣きごと抜かしやがったら承知しねえ!」の文字が見えるようだ。正直きつい。


 木剣を振り回すだけだが、体力が持たない。

 剣術は“最速で刃を的確に当てる”ことに尽きるらしい。要するに“速さ”と“正確性”のみだ。

 その為に必要なものが強靭な肉体という事だ。早く正確に振るために筋力と体力と関節の柔軟性がいるらしい。


 鍛錬方法は単純に走り込みと素振りと柔軟だ。

 素振りは13通りある型を最速で振ることを心掛ける。

 刃が傾かないように筋力で支える。力を籠め過ぎれば剣速は落ちるから程よい力加減を探しながら木剣を振るう。

 そうして13の型を組み合わせて流れるように剣を振るえば型は幾通りにも増える。


 どんな態勢からでも最速で正しい軌道で剣を振るう。

 狙った一線を狂うことなく断ち切る。

「正確無比の最速の剣を目指せ」と。

「とにかく正確な型を覚え、愚直に反復動作を繰り返すのみ」とドミークは熱く語っていた。


 剣に魔力を纏わせればよく切れるし、魔剣を使えば威力も上がる。筋力が付けば甲冑も断ち切れるほどになるという。

 フェイントや読み合いなど100年早い。

 今はただ肉体を鍛え素振りあるのみ!


 という事で朝から素振りと走り込みが日課になった。

 強くなるための苦行だ。これも故郷へ帰るために通らなければならない道と思えば幾らでも頑張れる。


 家族の元へ帰る。そう思い続けて更に2年の月日が過ぎていった。

 


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