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ゴスベールの谷 2

 俺はリファーヌの手を引きながら、ミルケットと共に走って逃げた。アッガスが傍についてきている。

 とにかく谷の奥へ奥へと逃げるしかない。ゴロゴロと転がる石に一々足を取られて走りにくい。


 バルトとビーク、次いでベルナルデが先頭を行く。

 その後をエバが追いかけ、ケイパを抱いたミラルダが続く。

 俺達の足が遅く、見かねたミルケットがリファーヌを抱えて最後尾を走った。


 エバとベルナルデが後ろをしきりと気にしている。


 ミルケットが逃げる者の背中に叫んだ

「みんな逃げな!他の者を気にかけるな!とにかく走って各自逃げ切れぇ!」


 ロベール達とデールが敵兵5人と交戦に入った。

 敵兵と向き合い剣を打ち合っている。

 その後ろから続々と敵兵が迫ってきている。

 見える範囲に20人はいる。


 アッガスだけはミルケットを護衛するように並走していたが、アッガスもまたすぐに敵兵と交戦に入った。


 護衛の手がふさがったところで、その脇を抜けてきた敵兵3人がミルケッット達の前に立ちふさがった。


「ここまでだ。大人しく捕まるか、死ぬかのどっちかを選べ」

「・・・・・」

「お!いい女だな。殺す前に楽しもうぜ!」

 兵士たちは下卑た笑みを浮かべている。


「キース!頼めるかい?」

 ミルケットに言われて3発同時のファイヤーボールを兵士たちの顔にぶつけてやった。


 ついでにアッガスやデールたちを囲む敵兵にもファイヤーアローを打ち込み、近づいてくる敵兵たちにはファイヤーボールの爆散タイプを投げつけた。


 それで隙が出来たのか、アッガス達は敵を切り伏せ後を追ってくる。

 デールが俺を、アッガスがリファーヌを抱え上げて走り出した。

 これで逃げ足が速くなった。


 ロベール達3人に囲まれるようにしてとにかく走った。

 途中でミラルダに追いつき、ミラルダの赤ん坊をロベールについてきた護衛の一人が抱えて走った。


 それでも追手はついてくる。


 途中何発か魔法攻撃を加えながら、徐々に引き離したが、エバが足を挫いてしまった。足首が見る間に腫れを増し青く変色してゆく。

 エバはもう走れない、ここでの別れを決意した。

 バルトとビークがエバの腕を引っ張って何とか立たせようとしていたが、振り払われてしまった。


「あんた達は逃げなさい!ゲイドみたいな強い男になるのよ!ミルケットお願い!この子達を連れてって!早く行って!」


「お母さん・・」

 縋り付く息子たちに「母さんのことは諦めなさい。強く生きるのよ・・」と優しく声を掛けて抱きしめた。

「さぁ行きなさい!」


 ミルケットは目を赤くしながら、兄弟を急き立てて先へ進んだ。



 次にミラルダの体力が尽きた。


「ケイパをお願い!ダンクに愛していたと伝えて!」

 膝を付きゼーハーしながらミルケットに懇願している。


「いえ、ここで踏みとどまろう。もうみんな体力の限界よ。このまま逃げても最後は追いつかれてしまう。あそこの切れ込んだ谷の隙間に入って応戦するの!入口が狭いから立て籠りやすいはず」


「そうだな。それしかねえ。おい!ベルナルデ!こっちだ!あそこに立て籠るぞ!」

 アッガスが右手の谷の切れ込みを指した。


 ベルナルデとバルト兄弟はそこに走り込んでいった。


 動けないミラルダをロベールが背負い走り出した。

 俺は背後の敵兵に数発ファイヤーボールを撃ち込んで時間を稼いだ。


 皆疲れ切っていた。

 谷の横道の入り口にとどまって近づく敵に魔法攻撃を浴びせる。

 何人かは倒せたのか動かない。

 何人かは引き返していった。


「お前がこんなに頼りになるとはな」

「あぁ。ガキのくせにすげぇ奴だぜ」


 アッガスが水の入った革袋を差し出してきた。

 ロベールと仲間も俺を見て頷いている。


「とにかくここを死守しよう。なに、直に仲間が助けに来るさ。それまで粘るんだ」


「ほんとに助けは来るんですか?」


「あぁ。こっちのことは向こうに伝わっているはずだ。あれから何日も経っている。ま、そうであったらいいなって位の楽観的希望ってやつだが、絶望しかないよりはいいだろ?」


 傭兵5人と俺とベルナルデが入り口付近で警戒に当たり、ミルケットとリファーヌ、バルト兄弟とミラルダ親子は奥に下がっていった。


 敵が近づけば魔法を放つ。

 ベルナルデも今回は入口の防衛に加わってくれた。ベルナルデはアイスボールばかりを使っていたが、命中精度も高いし威力も中々強烈だった。


 強行に突っ込んでくる敵もいたが、5人の傭兵がすかさず倒していく。

 厄介なのは敵の魔法師と弓隊だった。

 シールドで防御しなければならず、そのたびに魔力は減ってゆく。

 でも、俺たちが谷の奥に退けば一気に突撃されて乱戦を招きかねない。

 だからこの狭い入り口を死守する必要があった。


 だけど、俺とベルナルデの魔力が切れた時が詰みという予想が立った。

 そしてその現実が近づいてきた。

 夕方近くになって魔力が残りわずかとなった。


「大丈夫だ。お前の魔力が回復するまで俺たちでここを死守するさ」

 アッガスは何でもないように言ったが、それがどれだけ大変なことかは俺にだって分かる。


 いったんアッガス達に任せて魔法組は少し奥に下がり休息を取った。

 腰を下ろすと身体中の疲れが押し寄せて来る。猛烈な眠気が襲ってきた。

 そして知らない間に眠っていた。


 あまりの騒がしさに目を覚ますと、もう辺りは暗くなっていた。

 入り口付近でアッガス達が敵兵と戦っていた、

 暗くてよく分からないが大勢を相手にしているようだ。


 俺はすぐに魔法で援護に入った。

「ファイヤーフレア」

 敵兵が密集していたから全体を炎で包み込む。

 お母様に色々な種類の魔法を教えてもらったことが幸いした。


「ぐぎゃあぁぁぁ~」

 火だるまになった敵兵が目の前でのたうち回った。


(もう今日だけでも人を何人殺しただろうか)

 ふとそんなことを思った。

 それでも執拗に追い詰められ、体力が削られ疲労が蓄積されると感覚がマヒしてしまう。

 余り心は痛まなかった。


 その直後、敵兵は下がっていった。

 魔力はほんの少し回復できたみたいだ。

 でも、まだ眠り足りないし疲れも残っていた。


「助かった。だがまだ寝とけ。危なくなったら起こすからその時に援護を頼む」

 アッガスにそう言われまた深い眠りについた。


 その後、何度か起こされてその度に援護をしてまた眠りについた。

 そんな事を繰り返しているうちに夜が明けた。


 魔力はあまり回復しなかった。

 度々起こされて魔力を消費しているのだから当たり前なのだが、今日一日を乗り切れるのか不安しかない。


 ベルナルデはある程度回復したみたいだけど、もともとの魔力総量か少ないらしい。


「もちろん頑張るけど、あまり期待しないで」

 そう言って入口の防衛に当たってくれた。


 アッガス達の疲労がひどかった。

 皆、怪我も負っている。

 そろそろ本当に限界が見えてきていた。


 アッガス達も交代で僅かばかりの休息を取っていたけど、どれほど休めるのか。


 持ち込んだ物資には水も食料も少量しかなかった。

 かさばる物は極力置いてきたのだ。


 かけらのようなパンを頬張り、奥でバルトが捕まえたトカゲを皆で分けた。

 水もなくなった。

 生活魔法で水くらい出せるが、その魔力すら惜しい。

 そこからは忍耐の時間になる筈だった。



 敵が攻勢に出たのは夜明けから3時間ほど経ってからだった。

 魔法師と弓使いの応援が入ったのだろう。


 昨日までとは比較にならないほどの圧倒的な手数の魔法攻撃と弓矢を放たれると、入り口を死守することができなくなってしまった。

 一晩守り通した入り口をついに捨てて俺たちは谷の最奥まで駆け込んだ。


 そうなると次は乱戦になる。次々と敵兵が押し寄せてきた。

 最奥は広間のように少し開けていた。その広間の入り口を5人の傭兵が守る。俺はベルナルデと共に奥壁まで下がったミルケット達を背後に庇った。


 そこから広間に侵入してくる敵兵に石を流線形に固めたストーンバレットを放って倒して行く。

 ベルナルデも次々とアイスボールを放っている。



 しかし、まずベルナルデの魔力が尽きてしまった。

 そして、遂に俺も。

 援護が出来なくなると、ロベール達黒豹傭兵団の3人が次々と倒されていった。


 アッガスも左腕を失い、噴き出す血が止まらない。遂に膝を折って剣を手放したところで首を落とされてしまった。



 デールがたった一人奮戦しているが、腕も足もあちこちから血を流し、重そうに斧を振るっている。もうデールも限界なのだろう。

 敵兵たちはデールの周囲を取り囲み、いたぶるように剣を突きだし傷をつけてゆく。遊びのつもりか囃し立てて傷をつけるたびに歓声を上げている。


 そんな光景を俺は腹ばいに押さえつけられて、身動きできない状態で見ているしかなかった。


 ミルケットもベルナルデも同じように押さえつけられていて身動きできない。

 恐怖に顔がこわばり流れそうな涙を必死に堪えている。

 ミラルダは泣いている子供たちと一緒に少し離れたところで震えていた。



 これが戦争、これが現実なのか。共に戦い守ってくれた仲間が殺される様を見ているしかない現実。

 スタンピードも、ジュダーグの森での別れも、今目の前で行われている惨劇もすべてが非情極まりない現実の出来事だった。


 俺は改めて命の脆さを思い知り、その理不尽な暴力に押し潰されそうになっていた。


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