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ゴスベールの谷 1

 夜になった。暗くなってから火をおこし、食事を摂った。

 暗くなってから火を起こしたのは煙でこちらの位置を悟らせないためだ。

 角兎がいたのでストーンバレットで撃ち殺して食材にしている。

 みんな喜んでくれて、飛弾系の魔法を使える俺が食料調達を任されることになった。


 リファーヌはそこでも「キースはすごい」と感心ばかりしている。

 自分的にはそれほどでもないと思っているが、

「やっぱり奴隷商になんか売らせないで正解だったよ」

 とミルケットも頷いていた。


 1日目の夜はミルケットに文字の書き方を教えてもらったり、リファーヌの魔法の練習を見たりしてのんびりと過ごした。


 夜の警戒は女性も含め大人6人が担当する。

 この森には小物系魔獣が出るらしい。具体的にはゴブリン、角兎、闇フクロウ、針モグラとか。

 結構大きな森なのに危険な大型の魔物がいないことが不思議に思えた。


 ちなみに、魔獣とは、獣型の魔物の総称を指す。

 野生の動物が強い魔素を浴び続けることで魔獣化したのだと言われている。

 魔物と魔獣の境目が分からなかったのだが、角兎を捌きながらアッガスが教えてくれた。


 魔物とは魔獣を含め体内に魔石という魔力の塊でできた石を持っている生物を指す。

 角兎のような獣型、トレントみたいな樹木型、ゴブリンのような人型、ヒュドラやドラゴンと言ったモンスター系も魔物と言う訳だ。

 ただ、魔物と一括りで呼ぶとどんな魔物か分からないため、一番多い獣型を魔獣と呼ぶことが定着しているという。

 アンデッドは魔石があったとしても、生物ではないためアンデッド(屍)と呼ぶそうだ。

 魔物系アンデッドには魔石があり、人や動物のアンデッドは魔石がないらしい。

 魔石は体内の魔力溜りが死ぬと凝固して魔石に変化する。人族には丹田という魔力溜りがあるが死んでも魔石化はしない。だから魔物ではないという。あくまで人族なのだ。

 世界には人族が何種族も存在している。戦場ではエルフ族や獣人族を見かけるらしい。彼らも人族だから姿が異形でも魔物ではないそうだ。


 なるほど。アッガスの説明は分かりやすかった。


 ついでに魔石についても教えてくれた。角兎は小さな青い魔石をしていた。

 魔石は赤、黄、青が多いという。俺の魔法杖は薄緑で、魔石としてはかなり珍しいらしい。

 いい魔石はより多くの魔力を包含できる。そうした魔石は高く売れる。

 強い魔物程大きく濃い色の魔石を体内に宿している。小さくても濃い色であれば高値が付くらしい。

 この杖に取りつけてある魔石は大きいけど薄いから、色の珍しいところ以外はそれ程の価値はないだろうと言われてしまった。


 魔石には魔法陣を使うことで魔力の出し入れが可能だ。それは知っている。

 魔道具には必ず魔法陣があり魔石をはめ込んで使用する。魔石の魔力を消費することで魔道具は温めたり冷やしたり灯したりすることができる。 

 魔力の無くなった魔石はチャージ専用の魔道具に組み込むことで魔力を補充できる。

 しかし、たくさんの魔力量を要する魔石は補充時間がかなり掛かる上に大型の魔道具となるため、使い勝手が非常に悪いらしい。


 アッガスはこの世界の常識だぞとそんな話を教えてくれた。

 昼間の活躍で余程気を許してくれたようだ。今夜のアッガスは親近感が半端ない。

 おかげでいろいろと為になった。


 2日目は特に何事もなく1日が終わった。


 3日目の昼、敵の追撃隊が近くに来たとアッガスが駆け込んできた。

 10人の小部隊で魔法使いもいた。

 魔法使いは甲冑を着ないでローブを羽織っているからすぐにわかる。


 森に踏み込んで来たところをアッガスとデールで殲滅した。もちろん俺も援護した。

 その日の夜、夕食を摂った後、その森を捨て、次の潜伏場所へ移動することになった。


 敵小部隊が帰還しないことで、この辺一帯に捜索が入るかもしれないからだ。


 夜の草原をガタゴトと馬車に揺られながら移動する。

 近くの廃村を通り抜けようとした時、ミルケットが知り合いの商人が野営しているのを見つけ情報交換をした。

 あの奴隷商だった。


 ドリス伯爵領輜重部隊はやはり全滅したそうだ。

 輜重部隊とその物資を失ったことで、エルカシム砦が陥落するのも時間の問題だろうと奴隷商人は予測していた。


 半月前、ドリス伯爵領の隣にあるスタンベール男爵領が王国軍に下ったことで、その攻略に当たっていた敵騎士団が迂回してドリス領を襲ってきたのだという。

 エルカシム砦が落ちればドリス伯爵領は丸裸同然で降伏するしかない。

 その前に逃げた方がいいと助言していた。


 この廃村にも30人規模の敵部隊が2度やってきたらしい。

 その辺にまだいる可能性が高いという話だった。


 その話を聞いているミルケットは不機嫌そうに顔をしかめていた。

 商人は利に聡い。この男も商人である以上、今はこちら側の立ち位置でも、明日は分からない。

 何しろ王国軍が優勢に傾き始めたのだ。この邂逅を王国軍側に知らせる可能性がある。


 その可能性を考慮して、予定していたこの近くの潜伏先を諦め、もう少し遠くにあるゴスベールの谷を目指すことにした。


 俺たちはまた馬車に乗って移動を続けた。

 夜中、荷台で寝ていたらミルケットに起こされた。


「今から森に入るの。魔物が出るところだからキースも警戒してくれない?」

 一度馬車を止め、森を抜けるための陣形を検討する。

「じゃあ、先頭は私。私の隣にキースは座って。私の方の荷台に全員乗って頂戴。ベルナルデは襲われた場合魔法で援護を頼むわね。続いてエバの馬車。その後ろにアッガスとデールの順でエバの護衛と後方の警戒を頼むわね」


 どうやらベルナルデも魔法が使えるらしい。知らなかった。


 もう真夜中に近い。


 馬車は森の中の街道を進み始めた。

 此処の森はジュダーグの森程危険ではないらしい。出て来る魔物がD、E級ばかりだ。

 ゴブリン、角兎、七色狐、闇フクロウ、ボアに赤角鹿。

 ゴブリン以外は食材にしか見えない。それでも魔法が使えなかったら少々厄介だっただろう。

 頻繁に襲われても足止めされることもなく対処をして順調に進んでいった。


 明け方、森の奥でその谷の入口に到着した。

 ここまで追撃隊に出くわすことがなかったことは幸運だった。

 入口から見る限り、ゴスベールの谷はかなり深くて広い。

 此処に潜れば、追撃隊も深追いはしてこないだろうと何となくだが楽観視できた。


「この谷はね、迷路みたいになっているの。隠れるには都合のいいとこなんだけど、入り口を抑えられたら出られないわ。ま、ドミークたちの到着をのんびり待ちましょ」


 谷の入り口を通りすぎて、だいぶ離れた場所にあった茂みに馬車を隠した。

 と言っても馬車は大きい。岩陰に寄せて木の枝を被せてある程度見えないようにしたのみである。

 必要な物資を馬の背に乗せ、歩いて谷を下った。

 馬でも何とか降りられる傾斜を探して慎重に下りて行った。


 谷底は川が流れ、見たこともないほどの巨大な石がいくつもある。

 足元にも大小の石が転がっていて非情に歩きづらい。

 子供がいるし、馬も歩きづらそうで進むのにはかなり時間が掛かりそうだ。

 奥に行くほど谷も川も深くなっている。


 谷底はかなり広い。両岸には木が生い茂り、魚の骨のように左右に深い谷が切れ込んでいる。


「おい、ミルケット!」

 大分進んだ頃、突然茂みの奥から声を掛けて来る者がいた。


「あら、あんたはロベールだっだかしら?黒豹傭兵団のとこの。ここに隠れてたのね」

「あぁ。半分やられちまったが、おかげで俺たちは何とか振り切れてな」


 黒豹傭兵団は400名の傭兵を抱える最も規模の大きい傭兵団の一つだ。

 輜重部隊から離脱する際に前方を走っていた10台の馬車がそうだった。


 せっかくなので遅い朝食を取りながらミルケット達は情報交換をしていた。


「で、お前らはまだ先に進むのか?」

「えぇ。待ち合わせのポイントがあるの。まだずっと先」

「そうか、しばらく滞在するならいろいろ融通しあおうぜ」

「そうね。また寄らせてもらうわ。じゃあそろそろ行くわ」


 エバに促されてバルト兄弟がしぶしぶ立ち上がった。俺達はまた歩き始める。

 そこから2時間ほど進んだところで右手に切れ込んだ谷に入り、その最奥まで進んだ。


 確かにここなら追手は来ないかもしれない。

 やっと荷物を下ろし、一息ついた。


 5日が過ぎた。

 その間、アッガスやデールは何度か黒豹傭兵団の野営地へと足を運んだ。

 他の傭兵団の後方部隊も逃げ込んできてあちこちに潜んでいるそうだ。

 すでに100を超える人々が此処に潜っていることになる。

 前線の状況はいまだに伝わってきていない。


 多くの者が集まった為に、敵追撃隊もここを嗅ぎつけた可能性が高いと見られている。

 しかし、戦えない者をそこまで執拗に追い回す意図が分からない。

 ここまでは攻めて来ないのではという楽観的な推測をする者が多かった。



 しかし、その二日後の早朝、王国軍は攻めてきた。


 全体の指揮を取っているロベールから、敵はおよそ300、歩兵が谷入口を通過したと伝令を送ってきた。


 ミルケットはすぐにもっと奥地へ逃げることを決断した。

 馬もそのままに、最低限の荷物をまとめると移動を始めた。


 ロベール達の戦力は護衛の15名。戦うには余りに少なすぎる。

 ロベール達も後退を始めた。

 しかし、女子供の逃げ足は遅い。


 瞬く間に追いつかれて戦闘が始まった。

 ロベール達も奮戦したが護衛は一人また一人と切り殺されてゆく。


 泣き叫びながら逃げ回る女や子供は殺されたり取り押さえられて一所に集められた。

 その脇を王国軍が前進してゆく。


 ロベールは守るべき者達が拘束されてしまうと生き残っていた2名の仲間と共にミルケ隊に合流してきた。


 ただ、そのすぐ後ろに王国軍が迫ってきている。


「すまん!全員やられるか捕まっちまった!ここからは同道させてもらうぜ!」

「ちょっと!冗談じゃないわよ!いっぱい引き連れて来ないでよ!別の方向に逃げなさいよ!」

 ミルケットが怒鳴り返した。

「ま、そう言うな!俺も必死なんだ。貸しにしといてくれ!」

「ちっ!」


 ミルケットは盛大な舌打ちで応えた。


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