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ミルケ隊 2

 目覚めてから4日目、今日から朝晩の食事は外で食べるように言われた。

 リファーヌがとても残念そうな顔をしている。

 きっと今日からあーんしなくても良くなるのだろう。


 ミルケ隊では食事は基本みんなで食べるようだ。

 早朝、まだおぼつかない足取りで焚火の前に座らされると、ミルケ隊の面々を紹介された。


 まず、ミルケットとリファーヌがいる。改めてみるとこの親子はよく似ている。リファーヌはきっと将来すごく美人になるだろう。

 次にエバ。傭兵団の副長をしているゲイド副長の奥さんだ。カタリアと同じ位の年に見える。

 そのエバの子供の10歳のバルトと8歳のビーク兄弟。腕白が顔に出ている。

 次にミラルダと赤ちゃん。ケイパという女の子だ。ミラルダはダンクという槍士の奥さん。

 少女のようなベルナルデ。シモンという魔法師の恋人だ。僕の怪我を直してくれたのがシモンだったらしい。


 他に、護衛として傭兵二人がついている。護衛は入れ替わりで一仕事終えて傭兵団が帰ってくるまで同じメンバーらしい。


 リファーヌは傭兵団の団長の娘という事が分かった。

 赤獅子傭兵団の頭はドミーク・ザビオン

 団員は35名。それ以外の家族や恋人が8名。傭兵団としては少ない方だが、猛者ばかりを厳選して揃えているという事だ。


 ミルケットは元貴族の令嬢で10年前に王国側に家族を殺されたそうだ。その後生きるために酒場で働いているところをドミークに口説かれたとか。


 リファーヌは4歳。冬の初めに5歳の誕生日を迎える。僕のお姉ちゃんになると言っていたが、先日僕が5歳になったと知るとショックを受けていた。殆ど同じ年じゃないか。そんなに僕のお姉ちゃんになりたかったのか?少し変わった子だと思う。


 女性中心の隊だからとにかく喋る喋る。訊ねなくても教えてくれるから楽でいい。

 数日も過ごせば傭兵団の内情に詳しくなりそうな気がした。


 今後の予定は、後10日程この場所に留まって仕事を終えた傭兵団と合流するらしい。

 この国は全域がほぼ戦場で、ミルケ隊は戦地への移動と野営が基本行動となっている。

 ここは今の戦場から離れてはいるが、非力な後方部隊とはいえ、いつ敵王国軍に攻められるかも分からないらしい。


「いざという時は逃げるんだよ。ぐずぐずしていたら置いてくからね」

 最年長のエバに怖い顔で凄まれた。その目が「冗談ではなく本気だよ」と言っているようで、戦場で暮らす厳しさを垣間見た気がした。


 とにかく僕はミルケ隊の面々に受け入れてもらうことができた。

 これもミルケットとリファーヌのおかげで、命を救われたことを含め感謝しかない。

 もう少し体調が良くなったら、自ら何か役に立つ事をしようと心に決めた。


 夜、少し考えた。

 遠く故郷から離れてしまい今の僕は一人ぼっち。

 帰る道があると分かったが、お金も体力もない。今の僕では帰れない。

 だから、旅に出られる位成長するまでこの傭兵団のお世話になるしかない。

 このミルケ隊が新しい僕の居場所だ。

 カタリアのようなお世話をしてくれる人はいないけどリファーヌだって自分のことは自分でしている。

 なら、僕もそうすればいい。


 とにかく嫌われて追い出されないようにしなくては。

 そしていつか必ず帰るんだ!


 僕は強く決意して眠りについた。



 それから数日間穏やかな日々が続いた。

 戦場というのに長閑な時間が過ぎ、僕の身体もだいぶ癒えた。

 歩き回れるようになるとその辺をリファーヌと連れ立って散歩した。草花を編んで花冠を作るリファーヌを手伝ったり、寝転がって空を眺めながら話をしたり。


 リファーヌの話はドミークのことばかりだった。怖い風貌の強い戦士だと。僕を救う救わないでかなり揉めた事も聞いた。

 ドミーク率いる傭兵団とはもうすぐ合流する。

 リファーヌは心待ちの様子だけど僕は不安しかない。意識がなかったとはいえ、ドミークは僕を埋めようとしたのだ。そんな人はとても信じられない。

 話を聞けば聞くほどドミークのイメージが魔物図鑑で見たオーガに重なる。


 僕は魔法の話ばかりした。家族の話は泣きたくなるから敢えてしない。

 土魔法でいつものように魔物の彫像を作って動かしたらすごく驚かれた。

 それから魔法を教えてとせがまれてしまった。


 ふと見ると、視線の先に野兎が駆けている。

 晩の食事にと思い風魔法で仕留めると、リファーヌが僕をキラキラした目で見ていた。これは尊敬の眼差し・・なのか?

 お姉ちゃん宣言から僕の方が早く生まれたと知ってショックを受けていたが、ここ数日、魔法を教えるようになってからはそんな振る舞いはしなくなった。

 やっぱり僕がお兄ちゃん的な位置の方がしっくりくる気がする。


 兎を提げての帰り道、二人の護衛が剣を打ち合っていた。あの二人はいつも鍛錬をしている。そうでなければ生き残れないのだそうだ。


 幕舎ではミラルダが上半身を露わに体を拭いていた。皆から見える位置なのだがあまり気にしないらしい。


 ミルケットは洗濯物を干していた。

 エバが大きな鍋に何かを煮込んでいる。今日の料理当番はエバなのだろう。

 兎を渡すとすごく喜ばれた。

 普段のスープは固い干し肉入りなのだが、やはり新鮮な肉を皆食べたいらしい。

 毎日獲物を狩ってきたら、ここはもっと居心地が良くなるかもしれないなんて考えた。


 ベルナルデは木の下で本を読んでいる。なんだか分厚くて難しそうな本だった。邪魔しちゃ悪いので素通りする。


 するとエバの息子二人が話しかけてきた。


「おいキース!」

 兄のバルトがじろじろとした視線を向けて来た。

「お前魔物と戦ったことあるのか?」

「うん」

「嘘つけ!そんな小っこいくせに戦える筈ないだろ!」

「嘘つき!」

 素直に答えたのに即座に否定された。弟のビークもバルトを援護する。


「嘘じゃないよ。魔法で撃退したんだ」

「そうよ!キースは今だって野兎を魔法で狩ったんだから。私見てたもん」

 リファーヌが味方してくれた。こういう時は心強い。


 だけどバルトは信じてくれない。

「なら魔物を倒した魔法見せて見ろよ!できるんだろ?」

「いいよ。じゃああそこの岩に魔法放つよ」


 僕は水球を作り少し離れた場所に転がる岩にぶつけて見せた。

 高速で飛び岩にぶつかると派手な水しぶきが上がった。


 兄弟は驚きのあまり口を開けたまま固まった。

「・・なあ、俺たちにも魔法教えてくれよ」

 暫くして硬直の解けたバルトが言った。


 それから3人を相手に魔法を教えることになった。



 魔法は詠唱を唱えればすぐに出来るものではない。

 体内の魔力を感じ、まずそれを巡らせることから始める。

 魔力は血液と共に血管を通っているとされているが、解明はされていない。

 掌に意識を集中するとその部分がじわじわとしてくる。

 それが魔力だ。

 その感覚を強くすれば、じわじわした感じが集束して魔力の塊を感じ取れるようになる。

 そこまで行けば光球やウインド(そよ風)と呼ばれる簡単な生活魔法はイメージ次第で使えるようになる。


 込める魔力が強ければ着火やウォーターが使えるようになる。指先で火を灯し、掌からジョッキ1杯ほどの水が出せるようになるのだ。


 更に上達すればいろいろと幅が広がる。

 例えば、かすり傷を直すプチヒール、一部の筋力を増す部分強化、汚れを落とすクリーン魔法等々。


 俗にいう“火・水・風・土”の4属性についてはまた違う鍛錬が必要になる。

 丹田と呼ばれる人体の中心に魔力を集め増幅する必要がある。これは日々魔力を使えば増えやすい。次にその魔力を器用に操作する必要がある。丹田の魔力を自由自在に操り、魔法の大きさや威力、指向性などをイメージすることが重要だ。4属性魔法は誰でも使える訳ではない。適性が無ければ使えないし、人により得手不得手もある。


 4属性魔法は攻撃と防御に威力を発揮する戦闘特化の魔法と言える。

 しかし4属性の適性がなくても、丹田の魔力を筋肉に帯びることで肉体を強化したり敏捷性を上げることで魔物並みの肉体を手にすることができる。


 そこまで説明したのだが、バルト兄弟は理解できていないように見えた。特にビークが。

 二人とも大柄で体格は良いけど少し頭が悪そうに見える。

 大丈夫かな?理解できるかな?と心配になりつつも毎日午後から教える約束をした。


 ちなみに、リファーヌには朝から教えている。

 リファーヌはあの兄弟が苦手らしい。バルト兄弟に教える約束をしてから何となく不機嫌だ・・



 朝、僕たち子供は護衛を伴って薪を拾いに行く。

 朝食後、僕とリファーヌは見晴らしのいい場所に出かけそこで魔法の訓練をする。途中、ウサギや野鳥を狩って幕舎へ戻り雑用を手伝う。


 バルト達は朝から剣術の鍛錬をしている。そして午後に魔法を教えて夕方にまた一緒に薪を拾いに出かける。


 夜は食事を終えたら、魔力を使い切る迄土の彫像を動かして眠りにつく。

 ほんの数日だったけど、赤獅子傭兵団との合流日までそんな感じでのんびりと過ごした。


 この後大変な目に遭うとは予想もしないで。

 大きくなるまでずっとこんな感じのゆったりした日々が続くと思っていた。


ミルケ隊メンバー

ミルケット   ドミーク(団長)の妻 

リファーヌ   ミルケットの娘    

エバ      ゲイド(副長)の妻

バルト     エバの息子

ビーク     エバの息子

ミラルダ    ダンク(槍士)の妻

ケイパ     ミラルダの娘

ベルナルデ   シモン(魔法師)の恋人    


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