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オーガ討伐戦 4

 俺達はオーガ大集落を上空から監視している。

 眼下には大小複数の小屋が立ち並び、鍛冶工房と思われる小屋からは煙が上がっている。

 普通に人族の村と見間違うような景色だが、その住人は青っぽい肌をした半裸のオーガだ。

 そいつらが、木を運んだり獲物を捌いたり水を汲んだりと働いている。

 畑らしきものまである。

 まるで長閑な農村風景だ。


「こうしてみると普通の村なんだよね。幸せそうに暮らしてるところを攻め込むなんて私達が悪者みたいで嫌だな」

 リファはオーガにも優しい子だった。


「仕方ないわよ。将来こいつらが増え続けたらいつか王都を襲いに来るわ。キングが万に増えた軍勢を率いてね。そうならないためにも今のうちに潰す必要があるんだもの」

「うん、分かってるけど、ほら、あの小鬼達も殺されちゃうんだよ?なんか可哀想」

 見れば広場で小鬼が駆けっこをしている。

 どう見ても人族と大して変わらない。


「さ、ほら仕事するわよ!いつまでも眺めてたらリファーヌが情を移しちゃうわ!キース。ぼーっとしてないで早く指示出しなさいよ」

「はいはい」

 アリアに急かされて俺は仕事モードに切り替えた。

 隈なく偵察をして、報告をしなければならないのだ。



 俺達の持ち帰った詳細な情報をもとに、将軍は軍を再編し侵攻を告げた。

 今回は第一軍を5隊に分け、ギルド討伐隊をシャッフルしてその5隊に振り分けた。

 その5隊が別々のルートを進む。機動力を生かすため、包囲と攪乱のため、何より大軍勢で固まっていても意味が無いためだ。


 ゼットンとギャラン、それに3人の大隊長が率いて進軍する。

 右翼第二軍のサルファス指令にも同様の指示が出て、8千の軍勢を10の部隊に分けて北方面から取り囲むことになっている。


 俺達は15に増えた部隊の連絡役だ。

 扱き使われ過ぎだろ!

 これまでも迷った兵を探して、治癒部隊に協力して、敵地を監視して、進軍ルートを見つけて、更に川に石橋をかけたり、急峻な崖に網を這わせたり、ルート上にある邪魔な木や危険な魔物を間引いたりと、ルートを確保してきた。

 更に軍議にも参加して、犠牲者の後始末に、王都までお使いもした。


「こんな事なら最初からお前達も参加させとくべきだったな。いや、失敗した」

 将軍は俺の肩を叩きながらそんな事を言う。

「報酬期待してますから!」

 12歳の子供をどんだけ扱き使うんだ。

「ははは。今回は色々と失敗ばかりでな、戦費が掛かっている。悪いが期待するな」

 そんなことを笑って言う将軍が、俺にはオーガより非情に見えた。


 色々と積る不満を抱えながら、それでも将軍の顔を立てて俺達は奔走した。



 この作戦で、将軍は数による力押しの戦略を立てた。

 前回は数はいても戦闘域が狭すぎて、前線で少人数での戦いとなったが為に殲滅の憂き目にあった。

 今回は全方位から攻め立てる。

 いくらキングと言えど、15か所で戦端が開かれたら統率と連携の精度は落ちるに違いない。


 大集落からそれぞれ約10キロルの距離を置いて全軍が配置についた。

 それを俺達が確認して、侵攻開始の合図の火球を各所で何度も打ち上げた。

 盛大な爆裂機能付きだ。オーガたちもさぞ驚いたことだろう。


 一斉に、王国軍が大集落に向けて動き始めた。

 対して、オーガも一部部隊を率いて討って出てきた。

 その進軍ルートに魔除けガマモドキブロックを投げ落とす。

 背後に回り込まれたり、各個撃破の奇襲を防ぐためだ。

 これは油壺や矢の補充と一緒に王国軍の倉庫に取りに行かされたものだ。

 結構在庫が残っていたから全部貰って来た。

 だから遠慮なくばらまいてやった


 概ねオーガ軍の行動を制御しながら、各部隊の進軍速度を見守っていると、合図から3時間後、最初の戦闘が始まった。

 第一軍大隊長の率いる部隊でファイナルアタッカーもいる部隊だ。

 俺達の中ではアマゾネス部隊と命名されている。

 魔法師無しの肉体強化型の部隊編成でオーガ軍とは相性が悪い。とはいえ、600人もいる。

 それがメイジの魔法を撃ち込まれて苦戦を強いられていた。

「私が行く!」

 見かねたアリアが、援護に向かった。

 50匹規模の敵軍だけど、アリアに任せておけば問題ない筈だ。


 次に、ピーキーのいる部隊が戦闘に入った。

 あの人の実力を知っている俺は援護などいらないと他を監視する。

 そうこうしている内に、西側へ大きく回り込んだ第二軍が大集落裏手の森林地帯に入った。

 まだ敵に気付かれた様子はない。

 完全な背後からの奇襲が成立するだろう。

 ブラックパンサーのいる部隊と、ギャラン・イライザのいる部隊は順調に大集落へ近づいている。


 そこかしこで戦闘が始まり、現在6か所が森の中で闘っている。

 あちこちで油壺がはじける音が聞こえ、煙が上がった。

 喊声が木々の間に響く。

 分の悪そうなところに俺達がフォローに入ると、形勢が一気に逆転する。

 もう大丈夫かなと思えたら次の戦闘場所へすっ飛んで行く。

 そうやって、今のところは大きな損耗もなく順調に戦況は動いていた。



 その頃になって、2つの部隊が東と南側から大集落に取りついた。

 一つはブラックパンサーのいる部隊、もう一つはギャランとイライザのいる部隊だ。

 大集落攻略戦が始まったことを知らせる花火がお付きの魔法師から打ちあがった。

 それを確認したリファが、より大きな合図を打ち上げた。

 これで将軍のいる本部にも戦況が伝わったはずだ。


 また2つ、西の方で第二軍が交戦に入った。

 そのすぐ後に、ゼットンの部隊が大集落に踏み込んだ。

 さすがファルコンの騎士。これでファルコンの騎士3人が大集落の中で闘い始めたことになる。


 その後次々と王国軍が大集落に入り込んで戦闘を始める。

 その中には、ボトムスヘブンやフェアリーブルーの面々もいた。

 ここまでは優位に攻め立てていたが、遂にオーガ軍に動きが出た。


 GWOOOOW!

 キングが吼えたのだ。

 3メトルの黒い体躯、赤い目、長くねじれ気味の角。明らかに別格の強者だ。

 その姿はエルフの村で闘った、デビルオーガを想起させる。

 でも、デビル程凶悪な感じはしない。デビルはもっと強烈な禍々しさが溢れ出ていた。

 キングも強いのだろうけど、十分討伐は可能だと俺はみた。


 オーガキングの一吼えは、仲間を呼び寄せるためだったらしい。

 集落の周囲で闘っていたオーガたちが一斉に戻り始めた。

 そして現在集落で闘っている王国軍部隊を背後から襲い始めた。

 さすがキングというべきか、これで戦況が一変した。


 そこそこ広い大集落とはいえ、オーガ約500匹、王国軍1万人を超える部隊がそこで戦闘を始めれば、それはもう大混雑となってしまうだろう。

 魔境奥地で人口密集地が出来上がってしまう。


 しかしその事態も将軍は読んでいた。

 というより、集落内を戦場にすることは王国軍の本意だった。

 俺は再び合図を打ち上げる。すると、兵の2/3が大集落の外へ展開し始めた。

 密集を避けるため、余剰戦力を休めるために元から決められていた作戦だった。


 ここからはゼットンが指揮を執り、俺達は伝達役になる。

 兵の損耗具合を見てゼットンの指示で部隊を入れ替える。

 その合図と、攻撃部隊の援護が俺達の仕事だ。


 上空から劣勢な状況に追い込まれている部隊へ援護を始める。

 まず、ボトムスヘブンのロッゾが3匹に囲まれていたから、火矢をその3匹の腹に撃ち込んで援護した。

 上を見上げたロッゾが手を振って喜んでいる。

 次に、護衛に囲まれている大隊長が、団体で包囲されつつあるところを見つけた。

 こりゃヤバイ。

 あまり好きな人じゃないけど仕方ないから、炎弾を派手に打ち込んで気づかせてあげた。

 何匹も燃え上がって混乱し始めたから多分逃げ切れるだろう。


 眼下の端でジュードが派手に暴れまわっているのが見えた。

 記憶では、ブラックパンサーは先ほどの合図で待機する部隊にいた筈だ。

 なのに、そこで戦闘しているのはおかしい。軍規違反か?とも思ったけど奴は軍人じゃなかった。

 ああいうのは放っておいて俺は俺の仕事をする。


 ジュードは俺がこの戦場にいると聞いたらしく、探していたらしい。

 だが俺達は忙しくて殆ど陣中にいないし、会う事はなかった。

 それにどうせ禄でもないことに決まっている。

 だから、奴の視界に入る事さえ俺は嫌だった。


 今は8ケ所で戦闘が起きているけど、その内の一つにキングがいた。

 十数匹の上位種と雑魚オーガ5、60匹に守られて、キングが戦況を見守っている。

 対するのはギャラン、イライザの部隊600人だ。


 俺が駆け付けた時、10倍の戦力差があっても苦戦を強いられていた。

 さすがキング直属のオーガ兵だけある。

 個々の強さに加え巧みな連携に翻弄されてこちらは死者怪我人が増すばかりだった。

 そこに、リファが現れた。

 俺とリファが上空から火矢をビシバシ放ち始めると、オーガ兵が傷つき倒れて行く。

 そこを兵たちが止めを刺す。

 すると敵の連携に大きな隙が生まれ、ギャランに勝機の道筋が見えた。

「このまま一気に押し込め!」

 戦闘というよりは乱闘に近い混乱の中、ギャランがキングに斬りかかった。


 オーガキングは巨大な鉈の様な曲刀を持っていた。

 身長と同じ位だから長さ3メトル、とにかく分厚い刃物だ。

 それをブンと一振りする。

 ギャランは身を屈めて避けたけど、互いの間合いが違い過ぎる。

 そのまま二振り三振りと繰り出しながら、一歩二歩と前に出ると一匹のオーガが巻き込まれて背を割られ両断された。


 GRuru!

 邪魔だと言わんばかりに唸る。

 キングとギャランでは大人と子供ほどの体格差があり、持つ獲物も肉厚の大鉈に対してギャランの剣はあまりに貧弱に見えた。


 ギャランに集中するキングの視覚外からイライザがその背に剣を叩きつけた。

「ウォリャー!」斬!

 GuO?

 傷はつかず、痛みすら与えられていない様子にイライザが唖然とした。

 そこを振り向きざまに一閃が走る。

 その直前、俺とリファの火矢がキングの顔面で弾けた。

 あっぶな。あの女騎士迂闊すぎる。


 GWoo・・

 大鉈は振るわれず、顔面を抑えて苦しむキングだったが、その闘気なのか魔力が膨れ上がった、と思ったら火は消えてしまった。

 そして俺達を見上げて睨む。


「おい!お前の相手は俺だ!」

「貴様の相手は我だ!余所見をするな!」

 ギャランとイライザが同時に叫んだ。

 それに反応することなく、キングはさっき斬り捨てた雑魚オーガの死体を俺達に向けて投げつけて来た。

 はみ出る贓物と共に上下の半身が宙を舞い「わきゃー!」とリファから悲鳴が上がった。

 それを俺は強風で払い除けた。


 GWOOOO!!

 キングも咆哮を上げる。

 降りて来い!ぶっ殺してやる、この野郎!!とでも言わんばかりに、その分厚い胸板を叩いた。


 それを見たオーガメイジ達が一斉に俺とリファに火球や氷弾を放ってきた。

 俺達を叩き落とそうとしているのだ。

 だが、俺達の役割は援護だ。

 だからこっちから積極的に討伐する気はないのだが、狙われたらならやり返したい。

 でも、王国軍の仕事を取るなと将軍から言われていた。どうしようかと迷っていると、「火焔旋風弾!」とリファが叫んだ。

 熱い風が吹き、リファが十八番をぶっ放していた。

 火焔が渦を巻いて一直線にメイジに迫りその火球や氷弾を飲み込んで、地面ごと焼き尽くす。

「もう!汚いもの投げないでよ!」

 リファは贓物を投げつけられて怒っていた。


 一瞬茫然と立ち尽くす両軍。

「ほら、チャンスなんだから今攻撃しないと!」

 イライザにリファが苛つきを隠さず怒鳴った。


 そう、リファはずっと苛ついているのだ。

 最初に将軍に呼ばれた時、俺達の仕事は捜索と治癒だったはずだ。

 ところが軍議が終わるたびに仕事が増えて行った。

 それを言いつけるのが将軍だったらまだ分かる。でも大概は大隊長達なのだ。

 俺達を空飛ぶ便利屋とでも思っているのか、次々と仕事を押し付けてきて報告させては文句を言う。

 正直嫌気がさしていた。

 将軍も呼んだ手前、申し訳ないと謝ってくれたし、ファルコン騎士からも謝罪があった。

 そうした多少の気遣いがあったからこそ、俺達は我慢した。


 しかし、ある日の軍議でリファは死体の焼却と遺品の回収を命じられたのだ。

 空を短時間で移動できて、高火力の火魔法が使えて、なおかつ敵に遭遇しても戦える。まさにうってつけの人材として、大隊長達から命令されてしまった。

 その席にたまたま将軍がいなかったのが不運だった。

 俺が代わると言ったけど、そこは王都に使いに行けと却下されてしまった。

「リファに変な仕事をおしつけんじゃねぇ!」と怒鳴ったが、上官命令に背くことは即ち王国に背くことと同義らしい。

「馬鹿モーン!」と怒鳴り返されて、謝罪させられた。

 勿論、さっさと王都から戻ってリファの手伝いをしたけど、連日の遺品回収はきつかった。

 遺体は数千体もあるのだ。腐っていて気持ち悪いし。


 その日からリファの機嫌は直らない。

 せめて、この怒りをオーガ討伐で晴らしたい!と思えば、目に入ったのは小鬼が戯れる長閑な農村だったわけだ。

 それに、オーガ討伐は王国軍の仕事で、ギルド討伐隊はともかく臨時で雇われた俺達は戦力にすら入ってないらしい。

 あまり目立つな、軍人の仕事を奪って恨まれるなと将軍からも散々言われていた。

 だから、うっぷんが溜まっていたのだ。

 それでついリファは怒鳴ってしまったのだろう。

 気持ちは分かる。

 だが、それでもキングは譲ってもらえない。


「おい!お前達、我らの援護を頼む。キングに集中したいから雑魚オーガを近づけさせないでくれ!」

 イライザがまた新たな仕事を頼んできた。


「ああ、もう!こんな事なら先に私達が討伐しとけばよかった!魔人族戦のいい練習相手だったのに!」

 リファが悔し気に叫んだ。


 さすがにファルコンの騎士は二人揃っていい動きをしていた。

 だが、キングの皮膚が硬すぎるのか傷一つ付けられない。

 だから見ていてイライラするのだ。

「リファ、ここは良いからどっかその辺でオーガをやっつけてきなよ」

 どこかで鬱憤を晴らさせないと今晩愚痴が多くなって大変なことになる。


「うん。じゃぁちょっと行ってくる!」

 リファは素直にどこかへ飛んで行ってしまった。

 そして代わりと言っては何だけど、ジュードがやって来た。いや、飛び込んできた。


 こいつ・・休憩無視してファルコン騎士の戦いに堂々水差しやがって。


 俺の中ではらわたが煮え立つ。

 お前がやるなら俺がやりてぇんだよ!つうか、リファに殺らせてやりてえ!


 ジャンピングパーンチ!とでも名付けたくなるようなムカつく登場をしやがった。

 それはしっかりキングの顔面を捉えて膝を付かせると、一気にひざ蹴り、肘打ち、打撃連打からの回し蹴りと華麗にラッシュを決めて見せた。

 しかし、それでやられるキングでもない。

 そして黙って獲物を奪われるファルコン騎士でもない。


「おい、貴様!突然現れて我らの獲物を横取りするな!」

 イライザが怒声を上げた。

「うるせえ!モタモタしてるお前らが悪いんだろうが!」

「あ?お前持ち場が違うだろ!自分の仕事をしに戻れ!」

 ギャランも食って掛かる。

 GWOOOO!

 キングだって黙っていないようだ。


 いかん、グダグダだ・・

 ここにリファがいなくて良かった。こんな場面に居合わせたらそれこそブチ切れしたと思う。


 キングが一瞬ブレたように消えて、ジュードが吹き飛ばされた。

 敵も味方も巻き込んで30メトルばかし転がってゆく。

『ざま見ろ!』

 ギャランとイライザの声が被った

 俺もでかい声では言えないけど、ちょっとスッキリした。


 そこに現れたのがゼットン、続いてピーキーが現れた。

 もう、先ほどまで相手をしていたオーガ部隊を倒してきたのだろう。

「チッ!」イライザから舌打ちが漏れた。

 もう、自分たちの獲物だとか言って我儘を言ってられない。

 ここからは彼らとの共闘になりそうだ。


 まずゼットンが斬りかかった。

 しかし、巧みに大鉈を避けて斬りつけてもその肌を切り裂けなかった。

 次に、ピーキーがミスリルワイヤーで腕の拘束に成功したが、千切ろうとしてそれが叶わず逆にワイヤーを掴まれて振り回されてしまった。

 キングはキングだけあって洒落にならない頑丈な身体を持っているようだ。

 4人で猛攻を仕掛け、合間にジュードが飛び入りするという展開が続いた。


 その内、クーロがやって来て、ジョカーズのメンバーも加わって取り巻きだったオーガ兵がやられてゆく。

 何部隊も集結して人がごちゃごちゃしてきた。

 そろそろ交代時間の筈が、ゼットンは夢中過ぎて部隊の入れ替えの合図を送ってよこさない。

 仕方ないから俺は勝手に合図の花火を打ち上げた。

 ドーン!と大きな音がしたのにも拘らず、オーガキングを囲む連中は動かない。


 なんだよ!皆して命令違反してんじゃねぇか!

 俺は怒れた。

 そこに、フェアリーブルーも加わって来た。

 気付けばアリアが向かいの屋根に座って見物している。


「お疲れ。なんかグダグダね。キース苛々してるでしょ」

「俺よりリファだよ。怒ってどっか行っちゃった」

「そう。もうあらかた片付いたわよ。今は残党狩りって所かしら」

「あの小鬼達どうなった?」

 小鬼のことはちょっと気になっていた。

「みんな殺されてたわ。可哀想だけど仕方ないわよ」

「そっか。リファがその死体を見ないと良いんだけど」

「うん、そうね」

「俺ちょっと残党狩りに参加してくる。リファ程じゃないけどストレス溜まってるんだ」

「行ってらっしゃーい」


 俺は上空から大集落を見渡した。

 まだあちこちで戦闘をしている。

 けど、もう大勢は決まったという感じだった。


 一回りして小屋の中の気配も探って隠れ潜んでいる奴がいないか入念に調べた。

 周囲の森の中も捜索して数匹討伐をしてからキングの現場に戻ってくるとまだやっていた。

 アリアの隣にリファが座っている。

「どう?倒せそう?」

「うーん、分かんない。でも私達お呼びじゃないみたいだし。それよりもう帰りたいよ」

 リファは完全に不貞腐れていた。

「そうね。お腹も減ったしもういいんじゃないかしら?」

「ダメだろ。さすがにキング残して報告に戻ったら叱られちゃうよ」

「やっぱそうよね・・はぁ、お腹空いたわ。キース何か出して」


 仕方ないなと俺は買い込んであった串焼きや焼き菓子を出してあげる。

 3人でムシャムシャ齧りながら見学していると喉も乾いてきた。

 果実水を出せば、アリアはお酒がいいと言い出した。

 どうせグダグダしてるしまぁいっか。

 アリアが買い置きしていたエールを樽から木杯で掬った。

 自分でキンキンに冷やすと「クピクピ、ぷはー。旨いわね」と呟く。


 暫く無言で戦闘を見ているけど、きりがない。

 明らかに決定打に欠けているのだ。

「ふわぁー。いつ終わるのかしらねぇ」

 もう何杯目だ?延々続く戦闘に飽きて、アリアはゴロンと横になりそうな雰囲気がある。


 ゼットンとギャランは明らかに疲れ切って動きが鈍っている。

 イライザは剣が折れて片膝を付いて悔しそうにしている。

 クーロは足を引きずっているし、ジュードは腕を折られたのか肩も上がらないみたいだ。

 シューレイは魔力切れ。

 頑張っているのはピーキーとレイゼンとセリカ。

 キング以外のオーガは全て討伐された。

 大勢の騎士や兵士、冒険者が見守る中まだキング討伐の決着がつかない。


 オーガキングも少し動きが鈍くなった。

 青い血が地面に点々としているから傷は負ったのだろうけど、多分自己治癒している。

 身体の頑強さは健在で決定的な攻撃が通らず膠着しているといった感じだ。


「ねぇキース。魔人族の戦闘部族ってどのくらいの強さなんだろ。あいつより強いのかな」

「うーん、多分あれよりは弱いと思うけど、ファルコンの騎士やあの冒険者達よりは強いと想定していいと思うよ」

「だとしたら、今戦ってるメンバーでは倒せないってことよね。彼らは王国軍とギルドの筆頭株よ?ちょっと、それってヤバくないかしら」

「ヤバいかもね」

 なんて会話をしながらアリアがクピクピと杯を傾ける。

 多分、疲れてる中で呑み始めたから酔いが早かったのか?

 いきなり野次りだした。


「もう、焦れったいわね!こらー!あなた達もっと頑張りなさいよ!そんなんじゃ魔人族相手に勝てないわよー!」

「そうだそうだー!ヘバッてないで気合入れろー!」

 リファまで悪乗りしだした。

 ヤバイ!二人共何してんだよ!だがもう遅い。


「なんだと!貴様らっ・・!?なっ!酒飲んで観戦か!?ふざけるなー!」

「貴様ら今戦闘中だぞ!不謹慎にもほどがあるだろ!」

 ゼットンとイライザが怒った。


「お!?アリアじゃないか!会いたかったぜ。治癒ポーション分けてくれ!」

 ジュードが駆け寄ってきた。

「あ!キースてめぇ、この野郎!散々探したんだぞ!あとで面貸せ!」

 俺の顔を見ていきなり文句を言ってきた。

 そこにクーロ迄ついて来た。

「俺にも寄こせ!」

「嫌よ!」アリアがすげない返事をしている最中、キングが何かこっちへブン投げてきた。


 バシャーン!

 危うくシールドを張って難を逃れたけど凄い勢いで青い液体が飛び散った。

 転がってたオーガの頭部でも投げつけてきたのだろう。

「のわっ!」っと驚いたジュードが屋根から転げ落ちる。

「あぶねーじゃねーか!馬鹿野郎!」と、元気に言い返してるから大丈夫なんだろ。

 リファも一緒になって「だから汚いもの投げるな!」と怒鳴る。

 オーガは何故か俺達に怒ってる気がする。

 もしかして高みの見物が気に入らないのか?だとしたら妙に人族臭い奴だ。

 そんなことを考えていたらまた怒鳴られた。


「貴様ら良い身分だな!俺達は命張って戦ってるんだぞ!恥を知れ恥を!」

 再びゼットンが怒鳴った。

 そこまで言われる事か?だったら最初から俺達にも討伐を任せりゃ良かったじゃないか。

 腹立ってきた。というか、ずっと俺は怒ってる。


「こっちのこと気にしてないで早くやっつけなさいよ!」

 とアリアが言い返した。

「なんだと!」とイライザが目を剥いた。

「貴様ら!安全な場所で見ているだけの者が我らを愚弄するか!」

 とゼットンが怒鳴れば、キングもGRWOO!と吼える。


 なんか俺達が悪者みたいじゃないか!

 だったらもう自重するのはやめた。俺達だって戦いたい。

 俺は立ち上がった。


「それなら、そのキング俺達で始末しますよ!あとから騎士の面子がどうのとか、獲物を取られたとか文句言わないでくださいよ!」

「何を!貴様らみたいなガキがこの化け物を倒せるものか!できるものならやって見せるがいい!」

 その言葉を待っていた!ゼットンから言質は取った。


「よし!任された!リファ、アリア!お持ちかねの戦闘だぁ!」

『やったー!』

 俺達は木杯を放り出して空へ飛び上がった。

 上空から下にいる全員に叫ぶ。

「大魔法を使うから全員もっと離れてくれ!」


「待て、キース!あれは俺の獲物だ!横取りすんじゃねぇ!」

 ジュードが喚いてるけど無視無視。


「俺が奴の動きを止める。次にアリアが全力で凍らせて。締めはリファに任せるから!」

 俺達は各自魔力を練り込んで、キングの隙を伺う。

 俺達を見上げ睨むキング。

 GRWOOO!やれるものならやってみよ!とでも言ってる様だ。

 二人の準備が整うのを待って、俺は両手を振り下ろした。


「いくぞー!雷撃ぃーっ!」

 ドゴーンという大音量と共に巨大な稲妻がキングに落ちた。

 自重無しの一撃で大気がビリビリ震え、振動で俺達の座っていたぼろ小屋が倒壊した。


 しかしさすがはキング。雷撃を受ける直前、腕を交差して胸から顔面をガードしていた。


「ブリザードアターック!」

 アリアの一撃は暴風雪の渦となって周囲を白く染めながら身動きのできないキングをカチカチに凍らせる。

 腕も足も凍り付いた。ただ、ガードの奥の急所は防ぎ切ったように見えた。


「ファイヤーブレード!」

 リファが放ったのはかつて母ミルケットの仇を討った時の大技だった。

 三日月状の火焔の刃が袈裟斬りにキングの頑強な肉体に食い込む。

 火焔旋風弾は威力は凄いけど、渦を巻く分ある程度魔力が分散してしまう。

 だから切れ味に全振りしたこの技にしたのだろう。

 激しく燃え上がる炎はかつての何倍、もしかしたら何十倍もの威力を感じさせた。

 高温過ぎて白炎となった炎がその体を焼き尽くす。


 GYAAAA!!

 断末魔の叫びがキングから上がった。

 ズズズと上半身がずり下がり、ボトリと落ちてなお燃えている。

 勝負は呆気なく付いてしまった。

 何だよ、弱いじゃねぇか・・


 ・・・・・

 ・・・・・

 ・・・・・

 茫然とするゼットンたち。


「なんか呆気なかったね。もっと粘るかと思たのに、あーぁ、もう終わっちゃった」

「まぁでもこんなもんじゃないかしら。って言うよりリファーヌのあの技何よ!すご過ぎじゃない?あれ食らって生きていられるわけないでしょ!」

「確かに、すごかったな!間違いなく最強技じゃないか?リファ、やったな!」

「えへへへへ」

 赤くなってデレるリファ。


 戦場に俺達の会話だけが良く響いた。

「じゃあ、俺達将軍に報告しに戻ります。皆さんお先でーす!」

 後始末はゼットンに任せることにして俺達はすぐ飛び立った。

 だって、その場に留まっていたらジュードが絡んできそうだったから。



 こうしてオーガ大集落討伐は多大な犠牲を払いながらも無事完了したのだった。

 そして、帰陣した幕舎で・・怒られた。


「馬鹿もん!!何をやってるんだお前達は!あれ程目立つな、騎士の手柄を取るなと言っただろう。加えて飯食って酒を飲んで見物してただと?一体何を考えてるんだ!」

「それがお腹が減って・・」

「だって中々終わんないし帰りたくなっちゃって・・」

「仕方ないじゃない。グダグダしてるんだもん。飲まなきゃやってられなかったわ!」


「馬っ鹿モーン!腹が減った位我慢しろ!子供の言い訳かっ!?」


 将軍はずっと覇気がなかったくせに、討伐完了報告と同時にいきなり元気になった。

 髭もピンピン上向きになった。

 はぁ。なんてこった・・


 その後、後片付けもそこそこに俺達風の旅団だけは早々に王都へ帰されてしまった。

 何でも、これ以上要らんもめ事を増やさないためだそうだ。


 散々こき使われて、文句を言われて怒られて・・


「飯食ったぐらいいいじゃないか!」

「グダグダしてる方が悪いじゃん!」

「お酒ぐらい飲ませなさいよ!」


 と、ブリブリ愚痴を吐きつつ、俺達は数週間を過ごした西の魔境を後にした。

 その帰り道、俺は気づいてしまった。

 うっかり騎士団の前で雷撃魔法を使ってしまったことに。

 メタルアントの巣穴や、ジュードやゼファール本部長と対戦した時にも使っていたからついうっかりしていたけど、あれは伝説級の魔法だった。


 今更な気もするけど、面倒なことにならなけりゃいいけど・・

 ちょっと心配になった俺だった。


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