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引越し

 アトーク商会からあすなろ工房への慰謝料は金貨100枚で決着がついた。

 これはあすなろ工房の借金の殆どを返済できる額という事で、アレクセルは喜んだ。

 ただ、父親は疲れ切った顔で表情を失っていた。

 ずっと精神的な苦痛を強いられてきたのだろう。

 可哀想に。

 100枚ぽっちの金貨で済む話ではないけど、ぜひ元気を出して欲しい。


 アトーク金融商会とトーキン商会の始末は、俺がその日の内に将軍へ報告をして後のことは任せることになった。

 悪巧みはしたけど、実際に事を起こしたわけじゃない。

 未遂という形だからそれ程重い罰を受けることはないだろうという話だった。


 そして、また俺の日常が戻って来た。

 アレクセルに泣き付かれない寮生活の夜だ。

 それが苦痛だったから、無事落着して俺も心から嬉しい。

 あいつは少ししつこい性格なんだと思う。

 助けてくれと泣き付いた時も、礼を言った時も何度も何度も繰り返すから鬱陶しかったのだ。



 気を取り直して、週末の休日。

 今日から王都屋敷に俺達は引っ越すことになっている。

 といっても、俺とリファは学院寮に住んでいるから週末に寝泊まりに来るだけだ。

 その週末も殆ど冒険や鍛錬に出かけているからこの屋敷で過ごす時間は少ない筈だ。


 代わりにアリアはここが生活拠点になる。

 住み慣れたジャンゴ亭、大好きな3匹の子猫たちとの別れを惜しんで涙ぐむアリアの背中を押して俺達はクリフロードの王都屋敷へ向かった。

 アリアは褒章で得た王家宝物品の魔道弓とエレシアのバックを背にしている。

 引越といっても全員で荷物がその二つしかない。

 だって、俺とリファは手ぶらだし。


 途中、屋台で買ったホロホロ鳥の串焼きを齧りながらのんびりと歩いて屋敷へ辿り着いた。

 門脇の守衛所にいた一人の若い男が緊張した面持ちで俺達を出迎えてくれた。

「御当主様お帰りなさいませ!お連れの皆さま、お待ちいたしておりました!」

 胸を張って大声を張る。

 なんてくそまじめでお堅い出迎えだ。正直面食らった・・

 それにこの人誰?

「ではご案内いたします!」

 高々10メトルも満たない石畳をその若い守衛が先頭に立って屋敷の玄関まで案内してくれた。

 帰る屋敷を間違えてしまったか?なんか変な感じだ。

 扉が開き、中からシュベール、マーム、イザム、ベンジャムが列を作って迎えてくれる。他に、多数見知らぬ顔が並んでいた。


「キース様、お帰りなさいませ。本日より我ら使用人一同誠意を以てお仕えさせていただきます。ご友人のお二方もようこそいらっしゃいました」

 シュベールが執事らしい一礼をすると、皆が頭を下げた。

 人数の多さに驚いた。10人以上いる。どこから連れてきた?

「うん、なんだかこうゆうの慣れなくて照れ臭いな。皆よろしく頼む。こちらの二人は俺の冒険者仲間でアリアとリファーヌだ。二人共騎士爵位で今日から同居するから。客人ではあるけど俺の家族と思って接してほしい」

 その客人二人もなんだか緊張してるみたいで「よろしくお願いします」と一言だけ言ってそそくさと中へ入ってゆく。


 エントランスには生花が飾られ、返却された絵画が壁に掛かっていた。

 思わず目を止めると、「これはかつてのクリフロード領の風景画です」とシュベールが教えてくれた。

 穏やかな農村の風景画。

 地味っちゃ地味だけど、ノスタルジックな感じの良い絵だ。

 一つ目のリビングにも家具やソファーが置かれ、奥の広間には調度品まで設えてありしっかりと住空間が出来上がっていた。

 そこそこ落ち着いた雰囲気で居心地は良さそうだ。

 その広いリビングで、新たな使用人の紹介を受けた。


 家令兼執事のシュベールと妻アルバ、息子のレリオとその妻ミオン、孫娘のレベッカ。

 騎士フォスターとその妻ユーリ、息子のデリック。デリックは門衛の青年だった。

 庭師兼御者のイザムとメイド長のマーム、娘のミゼッタ。

 料理長のベンジャムと妻イリス。


 使用人とその家族は4世帯13人もいた。

 えらいこっちゃ・・、俺こんなに養えるのだろうか・・

 先日の4人だけかと思っていたのに。アリアもリファも茫然としている。



 アルバは裏方経理担当。

 レリオは第二執事兼家令見習い。

 デリックは騎士見習いで、ミオン、ユーリ、ミゼッタ、イリスはメイドという役割があると。

 家令は商務、公務の事業経理、屋敷運営の統括を行い、執事は主の補佐をするらしい。

 正直商務はないし、俺の補佐も要らないんだけどな・・

 アルバの裏方経理とは屋敷内の入出費を管理するのだとか。

 メイドが多すぎる気がするけど、それも広い屋敷を維持するだけでも大変なことの様だ。

 まして屋敷でパーティーでも開こうものならこの人数では到底回らないらしい。

 騎士は昼夜門衛をする必要があり、護衛まで考えると本来10人は雇いたい。

 という丁寧な説明を受けた。


 思わず出そうになる溜息を飲みこんで堪えた。

 使用人の前で主が情けない姿を見せる訳にはゆかない。


「キース様、使用人とその家族が増えてさぞ驚かれていることかと思いますが、これでもまだ人手は足りておりませんぞ。騎士をもう3名ほど雇わねば何かと不都合が生じます。屋敷を運営するだけであればこの人数でも多すぎる位ですが、いざ爵位を得て領運営や商取引も行うことになればもっと人手が必要になりますぞ。貴族とはそうした物だとご承知願います。しかし、王宮からこの屋敷の使用人の経費に関しては当面補助していただけることになりました。キース様が学院在学中という期間ではございますが非常にありがたいことと存じます」

 シュベールが真面目な顔でそんな事を言う。


 食費やら屋敷の維持費やらは補助してもらえない。

 やはり早急に稼ぎのネタを見つけるより他はなさそうだという事が良く分かった。

 とは言っても、王宮から返却されたお爺様の資産がある。

 ジュダの屋敷には金貨が山積みされていた。最悪それを取りに行くこともできる。

 お爺様の資産を食いつぶすのは忍びないけど今は仕方ないのかもしれない。

 まずは王都屋敷の維持に入用の金額を割り出してどれほど余裕があるのか確認しなければ・・

 忙しくなりそうだ・・



 俺はシュベールを連れて執務室へ移動した。

 リファとアリアはそれぞれ自分の部屋を確認がてら屋敷内を案内されている。


 執務室にはお爺様、お婆様、父様、母様、幼い俺とジュリアの描かれた肖像画が1枚掛かっていた。

 俺が3歳ころのものだろうか。ジュリアはまだ赤ん坊だ。

 思わず懐かしさに見入ってしまった。


 寄り添うように描かれたお爺様とお婆様を想えば、領地の復興の決意を新たにする。

 でもその前に、手っ取り早く儲けて復興資金を集める方法はないものかと思い悩む。

 父様が幼い俺の肩に手を置いて微笑んでいた。

 あの日、甲冑を着込み厳しい顔をしていた父様。

 元凶は魔人族だった。奴等との闘いに備えて少しでも強くならなければ・・

 母様は赤ん坊のジュリアを抱いて幸せそうに見える。

 母様の埋葬場所を今すぐにでも探しに行きたい。

 母様はきっと寂しがっている筈なんだ。早く皆の下に連れて行ってあげなくちゃ。

 ジュリアは・・ジュリアを想うと胸が潰れそうになる。

 すぐにでも見つけ出してあげたい。

 きっと待っている。もう少しだけ待ってて。すぐに見つけ出してあげるから。


 黙って肖像画を見つめる俺に、躊躇いを含んだ声がした。

「もしこの絵が苦痛にお感じであれば取り外しますが」

 少し悲しそうな顔でシュベールが言った。

「いやこのままで」

 色々と急き立てられるけど、俺の家族だ。

 取り外すなんてとんでもない。

 何よりお爺様や父様が俺を見守り励ましてくれている気がするんだ。


「で、屋敷の管理に不足しているものはある?」

 沈んだ空気を振り払う様に俺が聞くと、シュベールは一枚の羊皮紙を出してきた。

 そこに購入が必要なもの、いずれ必要となるもの、余裕があれば必要なものと分けられ、それぞれ予算が書かれている。


 購入が必要なものは馬車を筆頭に屋敷の修繕や騎士の鎧、俺達のよそ行き衣装などが書かれていた。

 いずれ必要なもののリストには使用人用の馬車、騎士用の馬、パーティー用の陶器類など、余裕があれば必要なものというものは護衛騎士と装備類、空間収納袋などの魔道具類に調度品だ。

「金貨100枚をお預かりしておりましたので、そこから購入も可能でしたが、高額なものについてはキース様のご意向含め確認してからといたしました」

 そう言って馬車の金額リストを見せて来る。

 馬車というのはピンキリらしい。

 安いものは金貨2枚、高い物は100枚を超える。

「ちなみに子爵家の格式を考えますと2頭立て4人乗りで金貨10枚~30枚ほどが目安かと存じます」

 ふんふん。なるほど。

 そこにはおおよその金額も記入されていて分かり易い。

 何を優先しどこまで揃え、何を諦めるか・・

 騎士は3人雇おう。

 馬車は金貨20枚ほどで一つ、使用人用に小さいのを一つ。

 馬はひとまず3頭でいいか。

 他所行きの服はいらない。都度自分たちで買いに行けばいいし。

 応接室用の調度品だけはよく分からないからシュベールに任せるしかない。

 それで問題ない筈だ。


 そうした細々とした購入品の話をまとめたあと、俺はフォスターを呼んだ。

「フォスター、バートンという名の騎士を知らないか?クリフロードの騎士だった男だ。スタンピードの際こちら側へ来ている。最後の足取りはその数か月後、ボスコートの街で王都に向かうと言っていたというんだ。母様の侍女カタリアの夫で妹ジュリアを養ってる。俺はジュリアを探し出したい。その手掛かりがバートンという騎士なんだ」


 フォスターとシュベールが顔を見合わせた。

「いえ、存じまん。カタリアは良く知っておりますが・・バートンは知りません」

「そうか・・だが騎士繋がりで何かバートンに関する情報がないか聞きこんで欲しい。それから、シュベール。クリフロード家の再興は王国軍の祝賀会で確約された。その噂を聞いてバートンかカタリアがここに顔を出すかもしれない。その時は引き止めて学院まですぐ知らせて欲しい。俺は何としてもジュリアに会いたいんだ」

「かしこまりました」


 シュベールとフォスターが一礼を持って応えた。

 バートンの情報が得られなかったことに若干失望したけどそこまで期待していたわけじゃない。

 それに、希望はある。カタリアなら噂を聞きつけてきっと会いに来るはずだ。

 その時が一日も早く訪れることを願うしかない。


 気付けばもう昼になっていた。

 マームとミゼッタの給仕で初めての食事を摂った。

「なんか・・私達お貴族様みたい」

 アリアが浮かない顔をする。

「うん。見られてると落ち着かない・・」

 リファも戸惑っていた。

 俺もマームたちが気になって仕方なかった。

 給仕なんてしなくてもいいから一緒に食べようよって思うけど、それは主と使用人の線引きで絶対にダメな事らしい。

 これは慣れるまでに時間が掛かりそうだ。


 途中、調理場から出てきたベンジャムから料理の説明を受けた。

 タルトという木の実入りのスープで、独特な香りがする。

 薄茶色のスープ表面に浮かぶ丸い実は嚙み潰すと果汁が口いっぱいに広がった。

 それがコクの利いたスープによく合っている。

 もう一つ、ボアの肉を特製のタレに付け込んでから焼き上げた焼きボアだ。

 一見良くあるステーキなのだけど、ピり辛で肉質が非情に柔らかかった。

「これらはクリフロードの郷土料理でございます。アッシュ様の大好物でございました」

 多分幼い頃俺も口にしている。

 でもまったく気づかなかった。

 ほかにもある郷土料理はまたいずれということでベンジャムは下がっていった。


 午後、リファが薬草園を作りたいという事で庭の端までやって来た。

 庭の隅に場所を決めてひとまず10畝の畑を土魔法で作ってあげた。

「ねぇ、もっと黒っぽいというか森の土みたいにならない?」

 無茶な!土壌改良を求められても俺にそんな力はないぞ。

 せいぜい石ころを退けて土を畑っぽく剥きだしにするくらいしかできないよ。

「うーん・・」

 リファが不満顔だ。

 指先で畝に穴をほじほじ、そこに一粒種を取り出すと、草魔法を使った。

 すぐに発芽し茎が伸びると葉が茂る。事情を知らない人が見れば奇跡の所業だ。

「おおぉー!?これは一体どういうことですか!」

 その辺で庭をいじってたイザムが驚嘆の叫びをあげて走って来た。

 どうやら俺達のことを見ていたらしい。

 土魔法は世間的に広く知られているけど、草魔法の使い手は殆どいない。

 イザムの目は一茎の薬草に釘付けになっていた。 

「私の草魔法よ。ここで薬草を育ててポーションを作るの。それを売って少しでも収入を増やしてしてキースを助けたいの」

「おぉ、リファーヌ様は何とお優しい。キース様はとても良いお嬢様を見つけられましたな」


 イザムの一言に思わず俺もリファもつい顔が赤くなる。

「しかし、土が良くありません。これではせっかくの薬草も十分に育たないでしょう。畑の土は馬糞と落ち葉や藁を混ぜて時間をかけて作るものでございます。少し時間は掛かりますが私が堆肥をお作り致します。が、まずは馬がいないと始まりませんが」


 馬なら馬車の購入に合わせて買う。

 それを伝えてるとイザムは嬉しそうに顔をほころばせた。

 良い庭を造るには良い堆肥が必要らしい。

「庭師の腕が鳴ります」と意気込みを語っていた。

 でも、リファはすぐに薬草園に取り掛かりたがっている。

「じゃあキース、魔境から土を持って来てここの土と入れ替えよ!」

 とリファの提案で急遽、西の魔境から土を持ってくることになった。

 リファ曰く、魔法で薬草を育てるのではなく普通に栽培したいらしい。

 でなければリファの負担が大きくなってしまう。

 平日は学院に籠りつつ、週末はギルドで稼ぎながらその片手間に栽培とポーションを作るのだ。

 せめて種を植えたら自然に育ってくれなければ大変すぎる。


 その日、魔境へ土を取りに行き畑へ移して種をまいて菜園作りの作業を終えた。

 畑の管理はイザムに任せることにした。

 来週末にはきっと芽吹いていることだろう。

 その夜、俺とリファは寂しがるアリアを一人残して学院へと戻った。


 学院で一つ変化があった。

 それは放課後の鍛錬に騎士見習いの見学者が増えたことだ。

 リオナルド・ターナーに完勝したことで騎士院からの注目度が一気に跳ね上がったようだ。

 腕に覚えのある見習い生があわよくばと俺に挑もうとしてくる。

 しかし、俺達の鍛錬は半端じゃない。

 リファの繰り出す2本の茨蔦のムチは超高速で俺を責め立てる。

 恐らく見切れている奴はいないだろう。

 呆気に取られる騎士院生の前でムチが轟音を立てて地面を抉る。

 それを俺は素手でさばいているのだ。

 挑みかかって来れる筈がない。


 騎士院の先生も見学に来た。

 現役騎士と言ってもおかしくない引き締まった体躯。はち切れそうな太い腕を組んでじっと俺達の鍛錬を見ていた。


 翌日、ハーニッシュ先生から騎士院へ編入の打診があったと告げられた。

 勿論丁寧にお断りをしてもらった。

 が、その日騎士院の教職棟へ呼び出しを受けてしまった。


「お前達は王国騎士だろう。ならば騎士院で学ぶべきだ。お前達がいれば弛んだ見習い生たちも真剣になる。どうだ、明日から編入してこないか?騎士は良いぞ?少年のあこがれの職業No.1だ。少ないが女性の見習生もいる。皆脳筋だからきっと仲良くなれるだろう」

 だって。

 しつこく食い下がるその先生に何とか断りを入れて解放されるまでに1時間も掛かってしまった。

 いっそ決闘でもして、リリアティナの立ち合いで「2度と編入の打診をしない様に」と確約してもらおうかと真剣に考えてしまった。


 そんな煩わしい一週間が過ぎ、週末となった。

 学院終了後すぐに外泊申請を出して屋敷へ戻る。

 順調に芽吹いた薬草を確認してリファはほっと息をついた。

 そのままリファと屋敷の庭で鍛錬を始めると、イザムが真っ青な顔でボロボロに捲れあがる庭に頭を抱えてしまった。

 アリアが冒険から戻って来て俺達の様子を見てヤレヤレと頭を振っている。

 終了後は俺とリファでしっかり整地して元通りの状態まで復元するとイザムがあからさまにほっとした顔をしていた。


「あんた達ね、毎日学院であんな鍛錬してるの?全くぅ、正気じゃないわ。脳筋にもほどがあるわよ。私まで同類に思われたらどうしてくれんのよ!」

 アリアがいらない心配をしていた。

 というかその良い草が気になった。

 もしかして自分は俺達と違うとでも思っているのか?

 だとしたらとんだ勘違いをしているみたいだ。


「大丈夫、脳筋なんて大したことじゃないんだから。俺達は脳筋ってより戦闘狂?に近いよ」

「え?」

 リファがキースは何を言ってるの?みたいな顔で俺を見ている。

「いや、だって俺達魔人族を想定して強くなろうとしてるんだよ。そんな奴他にいないじゃん。でもその位でないと強くなれないよ」


 リファが複雑そうな顔をする。

 隣でアリアは思いっきり顔をしかめた。

「ちょっと!私は戦闘狂になったつもりはないわ!」

「アリアだってオーガとかグリフォンを単独討伐出来たってすごく喜んでたじゃん。リファもだけど。その時点で脳筋はとっくに通り越してるよ。普通は単独で挑もうなんて考えない。まして喜ぶなんてアリアも脳筋族で戦闘狂の証だよ。間違いなく俺の仲間だ」

「うっ・・でも、私は脳筋でも戦闘狂でもないから。それだけは認めないわ!」

「でも、アリアはもっと強くなりたいでしょ?」

「そりゃなりたいわよ・・」

「もっとすごい魔法覚えて、魔人族に勝ちたいんじゃない?」

「・・えぇ」

 もの凄く苦い顔で認めた。

「じゃ、俺と同じじゃん」

「くっ・・でも認めない。私は風の旅団の知的部門を担当するわ。脳筋の戦闘狂なんてキース、あんたに任せる。リファーヌもそこだけは認めちゃだめよ!そうね、リファーヌは風の旅団のマスコットを目指しなさいよ。可愛い部門担当。キースの同類になっちゃダメ!そこを認めたらあのアマゾネス軍団みたいになっちゃうわよ」

 うわぁ・・いやな事を言う。

 一瞬で巨乳マッチョなお姉様たちを思い出した。

 セレントのギルドで俺が巨乳をガン見してリファとアリアに凄く怒られたっけ・・

 リファがあんなマッチョ戦士になったら俺、どうしよう・・困る、嫌だ、絶対にダメだ!


「分かった。リファもアリアも脳筋と戦闘狂じゃないから。だからあんな風にはならないでくれ」

 俺は早口で言いのけた。

「ふん、分かればいいのよ」

 アリアが勝ち誇った顔をした。リファは納得してない様なほっとしたような・・


 夕食を食べながらアリアの報告を聞いた。

 ボトムスヘブンはミザリックダンジョンの30階を越えたところで休暇に入っているらしい。

 来週から再アタックを開始する。それまで休養と自己強化に努めるそうだ。

 それまでアリアは単独で行動しながら新技の開発を目指しているとか。

 でも、その開発に行き詰まりを感じて新しい刺激を求めている。

 そこで、ギルド本部地階の鍛錬場に行きたがっていた。

 俺もリファもいい刺激をいっぱい貰ったと知ってアリアは悔しがっていたのだ。

 楽しみにしている感満載の顔でアリアはリファの話を聞いている。

 そんな顔をしていて良く自分は脳筋じゃないとか一緒にするなとか言えたもんだ。

 まったく。

 という事は口に出さず黙って俺もリファの話に相槌を打ちつつ耳を傾けた。


 翌日、張り切るアリアに急かされてギルド本部へ向かうと、すぐに地階へと降りた。

 シューレイという人の青い燐光がとんでもない魔法と聞いている。

 俺はその模擬戦を見学することにした。

 どうやらシューレイは風使いらしく、自在に燐光を飛ばして相手を翻弄している。

 相手はオレンジ色のポニーテールの双剣使いだ。

 小柄な女剣士は素早く動き接近戦に持ち込もうとしているけど一歩間合いに届かない。

 小さな燐光を正確にスパスパ切り裂いて消滅させているけど、数が多すぎて焼け石に水的な感じに思える。

 最終的に、剣士が追い詰められたところで苦し紛れの剣を投げつけ、シューレイが風魔法で弾くと当時に燐光が女剣士を襲って決着がついた。


 おおぉー、すげぇ。思わず拍手をするとシューレイと目が合った。

 ランクSの大先輩だ。

「初めまして、風の旅団のキースです。こっちはアリア。リファーヌから貴女と対戦した話を聞いてすごく感銘を受けました。ところで・・」

 こちらから挨拶をするとアリアが割り込んできた。

 ちょっと!その魔法どうなっているのか聞きたかったのに。

「シューレイ、私と対戦してくれないかしら。私も風魔法には少し自信があるの。今のあなたに勝てるとは思えないけど、胸を貸して欲しいわ」

「・・」

 物凄い無口な人らしい。

 けど、また闘技場へ入ってゆく。その背中がアリアを誘っているからオッケーってことだろう。

 アリアが闘技場へ入ると戦いは始まった。

「アリア頑張れー!」

 隣でリファが拳を突き上げて応援をしている。


 シューレイは無数の青い燐光を浮かべて小さく頷いた。

「ウィンドカッター!」

 アリアはいきなり大きな風刃を3つ飛ばす。

 でも、燐光に触れた途端に風刃は霧散した。

 リファからシューレイの魔法の話は聞いていた筈だけど、それでもアリアが驚いた顔をした。

「ブリザードアタック!」

 アリアが手持ちの中で一番の大技に切り替えた。

 冷気を纏った暴風がシューレイを襲う。

 しかし、燐光が束となってその先頭にぶつかると勢いは見る間に衰えてしまった。

 それでも、冷気の暴風は多少届いたらしくシューレイの羽織っているローブや青い髪を凍らせた。

 これにはシューレイが驚いた顔をした。

「・・ずるい。氷結魔法使えるって聞いてない・・」

 シューレイがボソッと呟いてアリアがドヤ顔をした。


「凄いじゃない、おたくのエルフ。あのシューレイに攻撃を当てるなんて」

 いきなり話し掛けられて振り向けば先ほど闘っていた女剣士がいた。

「あ、私フェアリーブルーのリーダーでセリカ。あのシューレイは仲間よ」

「私リファーヌです」

「キースです」

「フフフ、よろしく。ね、キースあなたと戦ってみたい。この試合の後どう?」

 近くで見れば齢は20代半ばくらい。でも少女の様に微笑むからもっと若く見える。

 白い道着とポニーテールが良く似合っている。

「魔法無しで闘うけどそれで良ければ」

 俺は格闘術を極めたい。だから、今日は魔法を使わないと決めていた。

「えぇ、いいわ。じゃ宜しく」

 そう言ってセリカはそのまま俺の隣で観戦を始めた。

 反対側にいるリファがじろりと俺を睨んでいる・・

 その視線に気づかないふりをして俺もアリアに視線を戻した。

 ちょっと話しかけられただけでそんなに睨むなよ・・


 アリアは今、シューレイの放った燐光を風魔法で吹き飛ばそうと必死になっていた。

 自分の周囲を風の渦で巻きあげて鱗粉を弾き飛ばしている。

 大量の青い光がアリアへ殺到し弾かれてまた殺到する様子はちょっと幻想的だった。

「綺麗・・・」

 リファの呟きが聞こえた。


 アリアがしゃがんで床に手を当てると、氷の道が床面を這って一直線にシューレイへと向かった。

 シューレイがその軌道上から移動すると氷の道がその後を追う。

 こんな技初めて見た。

 アリアはしっかり新技を開発し続けていたようだ。

 あの氷に捕まった時、シューレイの身体が凍るのだろうか?

 シューレイが移動しつつその氷の道を跨いだ瞬間、そこに氷柱が数本突き上がってシューレイを襲った。

 氷柱が形を成す間にコンマ数秒の時間が掛かった。

 遅い・・もっと早く構築しなければ身体能力の高い相手には通用しない。

 でも、意表を突いた良い攻撃だ。


 案の定シューレイは一瞬で燐光を押し出して防御し、無傷で床に降り立った。

 そして左手を軽く振るうと燐光が飛び出して氷の道を霧散させた。

「あー惜しかった」

 隣でセリカの残念がる声が聞こえてきた。

「アリア!まだまだ!頑張れー」

「アリア!もう少しで届いてたぞ!頑張れ!」

 俺達も声援を送る。

 少し照れたようにアリアが笑った。


 一気に3本の氷の道が走り、別方向からシューレイを襲う。

 余裕をなくした顔でシューレイが手を振り下ろした。

 すると未だアリアの周囲を舞っていた燐光が床面に落ち、氷道の魔力が遮断されてしまった。

 その直後、待っていたかのようにアリアがブリザードアタックを仕掛け、同時に風刃を3枚軌道をずらして一気にシューレイに向けた。

 シューレイも床に落ちた燐光を再び浮上させてアリアに殺到させて・・遂に決着がついた。


 攻撃の為に防御を捨てたアリアは全身を燐光で青く染め、魔力が尽きたのか両膝をついた。

 いかにアリアと言えど、魔素返還で生み出す以上に魔力を燃やされてしまえば、さすがに枯渇したようだ。

 一方、シューレイは辛うじて攻撃を避けて立ってはいるけど、左腕が凍り付いていた。


「いい勝負だったわ。あのエルフ凄い才能ね。ぜひうちに欲しいわ」

「ダメ!アリアは私達の仲間なんだから!」

 リファが食ってかかって俺も頷くと、「ふふ、冗談よ」とセリカが軽く笑った。


「・・手古摺った。でも楽しかった・・」

 シューレイが呟く。

「私もいい経験をしたわ。シューレイありがと」

 真っ青な顔をしたアリアにリファが魔力回復ポーションを渡すと一気に飲み干した。

 そしてアリアは満足そうな笑顔をみせた。


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