王都屋敷
翌日、俺達はオージルの案内で旧クリフロード家の王都屋敷へ向かった。
その屋敷は、王宮の北西にある野原のような場所にぽつんと立っていた。
周りにも貴族の屋敷はあるけれど、まばらにポツポツあるだけで非常に寂しい場所だった。
「この辺りは余裕のない新興の貴族が安い土地を買い求めるのです。大領地貴族のほとんどは貴族街と呼ばれる一等地に屋敷を構えているのですが、クリフロード家は最後の大領地貴族。少し遠慮してこの様な地に屋敷を構えたのかもしれませんな」
と説明を受けた。
クリフの王がジルべリア王に領地を差し出したのは200年前。
ジルべリア王国が北の大陸と呼ばれる現在の版図を全て併合してから200年が過ぎた頃だ。
人口が増え慢性的な食料不足を抱えるジルべリア王国と、肥沃な大地を魔物の暴威に曝され続けるクリフの地。
そんな時、川渡りの魔道具が発明された。
いち早くその魔道具の有用性と危険性を理解したクリフの王はジルべリア王国に使者を送り、自ら併合されることを望んだという。
川渡りの魔道具は、テリーヌ大河川を越えてジルべリアの大軍を送り込むことができる。それは侵略、救援を問わずである。
また大量の穀物をジルべリアへ輸送することも可能になる。
最後のクリフ王は無駄な侵略を回避し、緊急時にジルべリアで余っている戦力を借り受けるために敢えてジルべリア王国の下に降ることを選んだのだった。
しかし、クリフの民は“蛮族”と呼ばれ蔑まれた。
大陸の王族諸侯からすれば、クリフの民は辺境の蛮族に過ぎない。
それは200年経った今でも囁かれ続ける別称だ。
その別称には強い一族という意味も込められている。
平和に腑抜けた王国は辺境蛮族の強さを恐れ、起こる筈のない反乱を危惧しているのだ。
だからクリフロード家は敢えて中央から距離を置いて目立たない様にしてきた。
その策の一つが大領地貴族でありながら子爵位というへりくだった爵位であり、この辺鄙な場所に構えた控えめな王都屋敷という事なのだろう。
こうしたことは最近、王国史の授業で学んだばかりだ。
先祖の苦労と英断に俺は感激したし、何より領民を思うクリフ王の思いが伝わって来た。
因みに、クリフロードのロードとは主とか支配者という意味なのだそうだ。
クリフロードの家名は、クリフの民の王という意味だと知った。
その控えめな王都屋敷の門前に立ち俺は今屋敷を見上げている。
庭に草がはびこり凄いことになっていた。
エントランスまで石畳が敷かれているけど、両脇に背の高い草が茂っている。
人の住まない、管理もされていない屋敷はこうも不気味な雰囲気が出るのだろうか。
お化けでも出そうだ。
例え草叢の奥でゴブリンが営巣していても俺は驚かない。
控えめと言っても大領地貴族の屋敷だ。
最低限の威厳を保つために庭は広いし屋敷もでかい。
ただ、以前訪ねたリンドベル侯爵邸やアーシェル侯爵邸に比べればみすぼらしい。
エントランスへ来ると、オージルが鍵を使って大きな扉を開け放った。
光が差し込んで埃が舞う。
エントランスは広い通路になっていて右に扉が二つ、左にも二つ。
中央奥に大きな階段がありその向こうにも扉が見える。
「私の案内はここまでです。使用人候補を明日の午後こちらへ伺わせます。では」
とオージルはそれだけ言うと鍵を置いて帰って行った。
エントランスに俺達は佇んでいる。
「どうしよう。まずは間取りの確認して、草を刈って、部屋を掃除しないと」
「誰がどこの部屋にするかも決めないといけないわ」
「返却品を受け取って、並べて、あ。壊れてるところがあったら修理しないと」
「ちょっと、雨漏りとか勘弁してよ。はぁ。やること多すぎない?」
「キースは使用人のお給料の分も稼がないといけないね」
「ていうか、パーティーで稼いだお金とごっちゃにしないでよ?」
「・・・大変だ。こりゃ」
「せっかくの休みなのに・・」
リファもアリアもげんなりしている。
当然俺もだ。
王都屋敷は俺達にはまだ早い。
領地を復興させて、稼ぎが出来てからでないととてもじゃないけど維持なんてできない。
はぁ~
とんだお荷物を返却されてしまった。
「貰っちゃった物は仕方ないよ。ひとまず間取りを確認しよ?」
リファの提案で俺達は一つ一つ部屋を確認して回った。
まず右側二つの扉は、どちらも応接室のようだ。
左側の扉は、食堂とリビングかな。
おっと、そのさらに奥にもっと大きなリビングがある。
これは、主一家用と使用人用なのかもしれない。
或いは、屋敷内でパーティー開く時なんかは重宝するとかか?
1階には他に客室3部屋、洗濯やらなんやらの下働き用の部屋だったり厨房だったりがあった。
浴槽も3つあった。これも主一家用と使用人用だろうか。
更に使い道の分からない大部屋が二つ、奥にもう一つ階段があった。
2階に上がると、家族用の寝室になりそうな部屋が7つ、使用人の小さな部屋が12。
執務室?になりそうな大部屋が4つもある。うち二つは日当たりが悪い。
そこは会議室とか資料室や書庫なんかに使えそうだった。
更に倉庫なのか広い地下室まで。
でもさすがに屋敷でか過ぎだろ!
部屋数多すぎだろ!
一通り回って俺は頭を抱えた。
「ちょっと!庭が滅茶苦茶広いわよ!」
アリアに呼ばれて2階の窓から見下ろせば、家の左手側に大きな庭があった。
随分と広いそこも一面草に覆われている。
畑でも薬草園でも好きなだけ作ってくれって感じだ。
管理は大変だけど、鍛錬場としてはありがたいかもしれない。
けど、鍛錬ならギルドでも学院でもできる。
やはり、俺たちには広すぎるようだ。
民家サイズで十分なんだが・・
俺は庭を見下ろしながら、屋敷に入って何度目か分からない深い溜息をついた。
「キース、私庭を担当するからアリアと部屋の掃除して」
「仕方ないわね。手伝ってあげるからため息ついてないでキースも働きなさい」
「あぁ、ありがとう。二人がいて助かるよ」
俺は1階と地下。アリアは2階。リファが庭を担当して大掃除が始まった。
俺は風魔法でとにかく埃を外へ追いやる。
埃を出したところでクリーン!
床や壁、天井にも掛けると、なんとまぁ、ピカピカじゃないのさ!
全ての部屋に掛けると、それなりに見違えた。
凄く良い屋敷じゃないか。
痛みの出ている個所を確認しながら一通り掃除を終えてリファの手伝いに行くと、そこは刈り取られた草が山になっていた。
「キースこれ邪魔だから収納して」
言われて次元収納する。後で魔境のどこかへ捨ててしまおう。
草がなくなって見晴らしが良くなると、庭の隅にある小屋が目に入った。
目隠しの木々の後ろに庭師の住宅、使用人家族の住居と思える建屋と、物置小屋があった。
使用人様住居は2階建て8世帯が入居可能になっている。
俺達にはその1世帯分でちょうど良いいと感じるのは俺だけか?
そこも一通り綺麗にして、馬小屋、守衛室、御者の待機所と綺麗にしてゆく。
日が暮れる前に何とか一通りの掃除を終えて俺達は宿へと戻った。
肉球亭でアリアが駆け付けの一杯をグイっと飲み干した。
「プハー!最高!労働の後のエールは命の水だわ。生き返る!」
いつにもまして今日はいい飲みっぷりだ。
「キース、あのお屋敷どうするの?住むの?」
「あら、せっかくだもの住みましょうよ。もったいないわ」
「じゃあ、私、庭の端っこに畑作りたい。魔草を育てたいの。」
「いいんじゃないか?使い道がないほど広いんだし。俺も小屋建てて魔道具の研究したい」
「じゃあ、そこで一緒にポーション作って良い?」
「いいよ」
「じゃあ、私もお酒の貯蔵庫が欲しいわ。あの地下ならいっぱい置けるわね」
「うっ、構わないけど・・あまり飲み過ぎるのは良くないと思うよ」
「どんだけお酒溜めこむつもりよ?アリア太っても知らないよ?」
「うっ!気にしてるんだから言わないで」
まったく太ってるように見えないけど気にはしていたんだ。
ちょっと驚いた。
翌日、朝から屋敷へ行きリビングに買ったばかりのソファーセットを出した。
座るところがないと落ち着かない。
3人でくつろいでいると、オージルがやって来た。
「いやはや。見違えるようにきれいになりましたな」
庭も屋敷の中も全てさっぱりしている。
というか何も無さすぎてガランとしすぎなんだが。
「本日は執事候補、侍女候補、守衛候補がこの後訪ねてきます。順次面談をしていただいて決めていただければ宜しいかと。なお、全員素性もしっかりしており人格、器量に問題ない者ばかりですので、どなたを選んでも差し支えないと思います。加えて、本人が承諾すればそのまま雇い入れることも可能です。それから、期間は学院卒業まで。その間給金は王国でお支払いすることになっております。では早速ですが、一人目の執事候補を呼びましょう」
それから執事候補と面談が始まった。
50代、40代、40代のおじさんだった。
俺はシュベールと言う名の50代のおじさんに決めた。
決め手は、なんと、クリフロード家王都屋敷に長年勤めていた家令執事だったからだ。
対面時、「キース・ロブ・クリフリードです」と名乗った途端、そのおじさんは顔を両手で覆い、肩を震わせた。
「おおお!キース様!生きておいででしたか!何と喜ばしい・・私はてっきりもうお亡くなりになられてしまったとばかり・・」
そこからは面談にならなかった。
泣いて、泣いて、泣いて、ほとんど会話にならなかった。
でも、この人はきっと信頼できる。
シュベールというその老紳士は30年近くにわたり当家の王都屋敷で働いていたそうだ。
父様の騎士学院時代もずっとお世話をしていたらしい。
「皆、喜びます。今は散り散りになりましたが、侍女も料理人も騎士もきっと戻って来るでしょう」
真っ赤に腫らした目をまだ潤ませながらシュベールは「万事お任せください」と言い切った。
だから、人選についてはシュベールに任せることにした。
基本は以前働いていた者から採用する。
でも、主が俺みたいな子供でいいんだろうか?と疑問も感じる。
面談を一通り行って、後日結果をシュベールからオージルに伝えるという事になった。
シュベールは今、王宮で執事として働いているという。
指定期間まで派遣、その後は辞去して当家に来てくれるそうだ。本当にありがたい。
翌日は返却リスト品の運び込みがあった。
馬車10台が連なって到着すると、ベッドやら家具やら色々な物が運び込まれた。
シュベールがわざわざやって来て、配置の差配を振るってくれた。
他に不足する必需品はシュベールが手配してくれるという。
俺は金貨100枚を預けてそれも任せることにした。
もう見ていなくても任せられるので、俺達がくつろいでいる内に配置作業は終わり、こうして王都屋敷の返還は無事終了した。
その翌日、庭師兼御者のイザム、その妻でメイドのマーム、コックのベンジャムが訪ねてきた。
「坊ちゃま・・」
マームはエントランスで俺の顔を見るなり泣き崩れてしまった。
「これこれ、ちゃんとご挨拶をしなさい」
イザムに促されて立ち上がるも、声にならない。
そうたしなめるイザムもベンジャムも目元が真っ赤だ。
「キースのことを知る人たちがいて良かったね!昔は誰からも忘れられてるかもって不安がってたじゃない。キースの無事をこんなにも喜んでくれる人たちがいて私も嬉しい」
「そうね、この人たちなら安心して屋敷の管理を任せられるわね。あなたの家族は使用人から余程愛されていたのね。本当に良かったわ」
リファもアリアも少し潤んだ目で3人の使用人を見ていた。
この人たちは、お爺様とお婆様が俺に残してくれた掛けがえのない遺産だ。
お金より屋敷より何よりもこの出会いが一番うれしかった。
「さぁ、皆さん中へ入ってください。ゆっくりお話ししましょう」
俺は皆を中に誘って、昨日運ばれたばかりのソファーに座ってもらった。
調度品もない、どこか間抜けた部屋だけど久しぶりに戻って来た3人は喜んでくれた。
「坊ちゃま。お見苦しい所をお見せして申し訳ございません」
それからマームは恥ずかしそうに自己紹介をした。
ここにいる全員が成人後からこの屋敷で働いていたという。
シュベールとイザムにいたっては父親もこの屋敷で働いていた為にここで育ったそうだ。
話をしていればどうしてもスタンピードの起きた日の出来事になる。
俺の5歳の誕生日だった。
王都屋敷からも、俺の5歳を祝う贈り物が届けられていたそうだ。
俺は、一通りの話を語って聞かせた。
父様が騎士団を連れて街の防衛に行ったこと。
お爺様とお婆様が屋敷に残り、大勢の領民を避難させていたこと。
母様は危険な夜の森を抜けて、隣の領へ救援を求めに行ったことなどを。
そして俺は独りはぐれて隣国へ流されてしまった話を。
母様の埋葬地が見つからず今も探していること、ジュリアが王都にいるかもしれない事も話した。
マームはハンカチがぐっしょり濡れるほど泣いていた。
イザムは震える程に両拳を握りしめていた。
ベンジャムは何度もかぶりを振って、ため息をついて、最後は嗚咽を漏らしていた。
それでも、俺は生きて帰って来た。
こうしてこの人たちに会えたことは間違いなく幸せな出来事だ。
だから、領主一族をここまで慕ってくれるこの人たちに希望を伝えたい。
「嫌な事ばかりじゃない。3千人以上も領民が生き残っていたんだ」
真っ先に生き残った者たちがいて俺の帰還を待ってくれている話をした。
「それに陛下からは、学院卒業後に、領地の復興の許可と子爵位の復活をお約束していただいている。すでに、陛下から“ロブ”の称号を名乗ることを許されているんだ」
称号名は領地貴族に許される特別な名だ。その名の使用を許されたという事は、既に陛下が俺を王国貴族として認めていることに他ならない。
その話は知らなかったのか、シュベール以外の3人は驚きで固まった後、またしても泣き出した。
当たり前か。公表はつい3日前のことだった。
でも今度は喜びの涙だ。
リファがクスンと鼻を啜る。アリアも目元をそっと拭っている。
イザムがこれまでの王都屋敷の様子を話してくれた。
「私達は突然、クリフロード領は壊滅したと聞かされたのです。それでも私達は決して信じませんでした。しかしすぐに領主一族は全員亡くなられたと知らされてお屋敷は没収されました。爵位は取り消され、領地にいたっては王国領にあらずと。もう何が何だか・・お屋敷を追い出されて、それぞれ別の職についても、定期的に集まって情報を交換し合っていたのです。何年も目ぼしい情報がない中、ほんの一週間ほど前に、旧クリフロード邸にどなたかお移りになられる、その使用人の募集があると聞いてシュベールが偵察に行くと言い出したのです。それがまさか、キース様であったとは。その話を聞いた時は嬉しいやら驚きやらでひどく混乱いたしました」
そう話すイザムは半泣き、半笑いでひどい顔をしている。
マームもひっきりなしに鼻を啜りながら夫の話に相槌を打っていた。
余裕を見て二週間後の聖の日の夜に俺達は屋敷へ引っ越すことに決めた。
引っ越すと言っても、週末泊まりに来るだけだ。
ただ、感覚的にはここが我が家になって、そこから学院へ学びに出ているという感じかな。
その間に、皆が手分けをして生活できるよう準備を整えてくれる。
こうして、お爺様に仕えていた使用人達が戻ってきてくれることになった。
そこまでは良い。
ただ、俺が個人的に雇い入れる形になってしまった。
シュベールはともかく、マームたちは王国から派遣してくる使用人でないため補助が出ない、と思う。
俺は個人の稼ぎで彼らに給金を支払わなければならないという現実的な問題にぶち当たった。
返却された資産に、陛下から賜ったばかりの金貨1500枚があるからひとまず困ることはない。
アリアの分を抜いて、リファの分も手を付けない様にすると、俺の個人的なお金は少し心もとないか。
さて、どうしたものか・・
「私がポーション作るよ」
リファが快い提案をしてくれた。
「私も家賃くらい払うわよ」
アリアも協力的だ。
でも足らない気がする。
そもそも給金っていくらだ?
屋敷の維持費に幾ら掛かる?
俺はどれだけ稼がなけらばならないんだ?
さっぱり分からない・・
難しいことは後でシュベールに聞くことにしよう。
その日も夕食を肉球亭で食べてから俺とリファは学院へと戻ることにした。
学院に戻っても俺の頭の中はどうやって稼ぐかという事ばかりを考えていた。
恒常的に稼がなければならない。
他の領主たちは自領で農業なり採掘なり何らかの事業を展開しているし、税収だってある。
しかし俺の場合、領地がお金を生み出すという事は今のところない。
毎週ギルドの依頼をこなせば給金くらいは稼げるかもしれない。
でも、できれば何か商売を始めたい。
依頼をこなしつつ学院にも通いつつ稼げる商売を。
俺にもできる都合のいい商売、何かないかな・・
ぼーっと考え事をしていたら、リリアティナが隣に座っていた。
今は昼飯時だった。
「キース?今日はずっと上の空のように見えますけど、どうかしたのですか?」
顔をあげると、リファのチームメンバー含めて皆が俺に注目していた。
「あぁ、すみません。ちょっと考え事をしていました」
「深刻な事ですの?」
「まぁ。何か商売でもして稼がないといけないことになりまして・・」
「学院に在学しているのに?」
「はい。王都に屋敷を賜ったものですから給金やら維持費やら何かと入用になりそうなんです」
「まぁ・・」
リリアティナは驚いて口を押えた。
先日莫大な報奨金を賜ったばかりで、もうお金の心配をしなければならないのですか?
本来ならそんなことは領主の考えることですよ?
それを今、キースが考えなければならないのですか?
幾らキースが凄いと言っても、わたくしと同じ年ですよ?
12歳の子供が悩まなければならないことなのですか?と。
「あの、もしかしてお屋敷の返還は迷惑でしたか?でしたら父に言って取り下げてもらう事も可能と思います」
「いや、すごく感謝してます。このままでいいです。ただ、どうにかやりくりしないといけなくなったというだけの話です」
「そうですか。わたくしにできることがあれば力になります。いつでも相談してくださいね」
少し心配そうにリリアティナが告げた。
そう言われても王女に商売やらお金やらの相談なんてできない。
されても困るだろう。
その日の夕方、鍛錬の後リファと談話室で話をした。
今の俺は色々なことが中途半端な感じがしていた。
強くなる事を第一目標に掲げていたけど、屋敷が手に入ってやりたい事とやらなければいけない事が一気に増えたのだ。
少し整理をしなければ、ズルズル何も手にできない気がする。
そう思った理由は今日の鍛錬に集中力が欠けていたからだ。
だから、このままじゃまずいと感じた。
「リファ、目標を整理したい。何を先に手を付けて、何を後回しにするのか。順番を決めたい。リファのやりたいことにも関わるからしっかり話合おう。でないと、俺、集中できない」
「うーん、キースの好きなようにすればいいよ?私ついてくだけだし」
「それじゃダメ。リファも自分の目標を明確にした方がいいよ」
「私はいつだってキースが最優先だもん」
ふぅ。全くブレないないな。リファは。
とにかく強くなる。その鍛錬を頭の中心に置く。それが一番大事だ。
でないといつか殺される。この間の本部長との稽古で俺はまだ弱いってよく分かった。
次に・・母様とジュリアの捜索と言いたいけど、こっちは後回しにするしかない。
学院もあるし、今探しても時間の無駄になる可能性が高い。
心情としては最優先事項なんだけど。
次に、魔人族の斥候の捜索。これも後回し。手掛かりもなく探せないし、今戦ったらきっと敗れる。
次に魔道具の空飛ぶ船の製作。これは俺一人じゃ無理だ。誰か、協力者が欲しい。その誰かを探さないと。
思い浮かぶのは、サイガ・キトリ夫婦とドルド師匠だ。どちらも遠くて簡単に行けやしない。
でも学院にいる内に、構想くらいは確立しておきたい。
次に冒険。ギルド依頼はどんどんこなして稼がないと。実戦は強化に直結するし。だから、極力休みは依頼をこなしたい。
最後に厄介なのが、どうやって稼ぐかだ。
いずれ領を復興させるからその資金作りも兼ねたい。これは優先順位が割と高い。
リファがポーションを作ると言ってるけど、時間が確保できない。そんな時間があったら鍛錬したい。時間と手間がかからず大儲け出来る何かないか。
でもそれがまったく思い浮かばない・・
「これだけやることがあると、午前中の授業が煩わしいな。早く終わらないかな」
「王国史と地理が終わったら、貴族の嗜みを学ぶんだって。私達もいずれ夜会とかに出ることになるから恥ずかしくない様にしっかり叩き込むって言ってたよ」
「え?そうなの?」
「うん。ハーニッシュ先生が言ってた」
「まじかよ・・」
「キース。シュベールにも相談してみよ?だってずっとお爺様の領運営を見てきた人でしょ?頼らなきゃ。それに、私早くポーション作りたい。早ければ早い程お金になるし。依頼の合間にチャチャっと作るよ?」
「うん。ありがと。だとするとポーションの作成小屋が欲しいか」
「空き部屋がいっぱいあるからひとまずいいよ。毎週、依頼のついでに薬草の採取がしたい。キースは売り込み先に話をつけてよ」
「あぁ。始められるところから始めるしかないか」
「キース!頑張って!私もアリアも精一杯頑張るから」
俺の手に自分の手を添えてにこっとリファが微笑む。
うっ、可愛い・・
リファと別れて、ちょっと鼻の下を伸ばして俺は寮の部屋へと戻っていった。




