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戦勝祝賀会

「では行くぞ!」


 言葉だけを残して、視界から本部長が掻き消えた。

 と思った次の瞬間、横から腰を蹴り飛ばされていた。

 派手に吹き飛び結界壁にぶつかった。

 痛くはない。ただ衝撃が強すぎて咽た。

「今のに反応できんようではまだまだだな。ところでお前は闘気を扱えぬのか?強くなるためには闘気をまとうことは必須だ。ほれ、このように」

 そう言った本部長の雰囲気というか周りの空気があからさまに張り詰めた。

「分かり易い様に威圧入りの闘気をまとったぞ。分かるか?」

 目の前でピリピリと伝わる威圧に思わず顔をしかめる。


 闘気とは身体から滲み出る魔力オーラの様なものなのか。

 薄すぎて良く見えないけど、わずかに本部長の身体周辺の空気が揺らめいている。

 このとんでもなく強いものなら見たことがある。

 エルベス山頂で戦ったスノーマンがまとっていた魔力だ。

 あれは最悪だった・・

 似た感じで言うと、古代竜が放っていた竜の波動も闘気になるのだろうか?

 白コングやデビルオーガ、赤竜の纏っていた身の竦むような強者のオーラを思い出す。

 あれらも闘気だったのだろうか。

 目の前の本部長とでは桁が違い過ぎてよく分からんが・・


 ただ、似た様な事なら俺でもできる。霧を纏えば俺の魔力が薄く広く展開される。

 霧を無くして魔力だけ展開してやれば・・

「む?違う!それでは魔力をダダ洩れさせてるだけだ。その魔力を凝縮して身にまとわせろ」

 むむむと魔力を自分の身体にまとわす感じで集めてみると、「阿保か!全然違う!」と怒鳴られた。


「良いか、闘気とは覇気だ。内なる闘志が魔力をまとって身体から噴き出したものだ。それを高密度・高濃度に練り上げたものなのだ。お前のその魔力には覇気が全くないではないか!」

 俺は首を傾げた。

 よく分かんねぇ。


「よし、手伝ってやろう」

 本部長はそう言うなり、俺を睨んだ。

 次の瞬間、ツン。

 おでこをつつかれた。

 ツンツンツンツン

「ほれほれどうした?避けんかい!」

 俺はバックステップで逃げる。

 ツンツンツンツン「ほれほれほれほれ!」

 前後左右どう避けようがおでこを突かれる。これはなんか屈辱的だ。

 身体を強化して避けるまくってやる!

 ツンツンツンツン「ほれほれほれほれ!」

 全然避けられねぇ・・けど、無茶苦茶腹立つ!

 本部長の嗜虐心に満ちたニヤケ面と頭のテカリがやたらむかつく。

 ツンツンツンツンツンツンツンツン「ほれほれほれほれほれほれほれほれ!」


 さすがに頭に来た。

「うぜぇんだよ!このハゲ!」

 俺は渾身の蹴りをその禿げ頭に放った。

 しかしそれをひょいと避けられてたたらを踏む。


「それだ!今一瞬闘気が混じったぞ」

 どうやらこの禿は俺を切れさせたかったのだと気づいた。

 だが、俺の怒りは収まらない。目一杯睨みつける俺に本部長は、「なんだそのチンケな威圧は。それで良く騎士団に認められたな」とうそぶく。

「あ?切れたら闘気が混じるのか?ならば戦闘中はずっと切れ続けろと?そんなことできるか!ボケ!」

 教えを請うているのについ言葉が乱暴になった。

「良いか、怒気とは覇気の片鱗だ。威圧は覇気の一部だ。さっきのお前の怒気は内なる闘志がただ膨れ上がっただけだ。今お前の発しているその威圧には魔力が籠っていない。故に覇気にすらなっておらん。怒気にも威圧にも魔力を込めろ。そして制御しろ。お前ならできるはずだ」


 カッカしてる俺には何を言ってるのかさっぱり理解できない。

 そんな俺に本部長のヤレヤレと言った感じが伝わってくる。

「では、お前が一番怒れることは何だ?想像してその怒りに魔力を乗せて見ろ」

 俺は想像する。

 俺の怒りはいつだってリファに害を成す者に向かう。


 かつてリファを殴った警邏隊の男がいた。

 あの時は怒りで我を忘れて、魔力が暴走して嵌められていた手枷が消滅した。

 深く考えなかったけど、魔力で枷が消し飛ぶなんて普通ありえない。

 怒りの籠った魔力が邪魔に感じた手枷を消し飛ばしたとしか思えない。

 そう考えると魔力の持つ可能性は俺の想像以上に凄いのかもしれない。

 俺は顔を腫らして泣くリファを思いだしていた。

 今思い出しても腸が煮えくり返る。その時と同じ魔力が自然と俺の身体から怒気となって発し始めた。


「それだ。その怒りの魔力だ。それをしっかり覚えておけ」

 本部長がようやくニヤケ面を引っ込めた。

 教え方はともかく、俺は闘気というものを知った。

 闘気は自分の周囲に纏わす魔力で、戦闘時は感知機能の役割を果たす。

 攻撃を受けた際の緩衝材の役割も持ち、闘気の密度を上げれば数分の一にまで衝撃を抑えることが可能らしい。

 更に打撃力も底上げするし、武器に纏わせれば切れ味も上がる。

 攻守ともに能力が爆上げすると考えれば、身体強化の上位版と言えるだろう。


 これはしっかりと練習する必要がある。

 自分のモノにできればロックルロックを容易に倒せるかもしれない。

「どうだ?感覚的に掴めそうか?」

「はい」

 未だむかついてるけど、俺は素直に答えた。


「うむ。では次は組手だ。遠慮なくかかって来い!」

 俺は全身に強化魔法を掛けて突っ込んでいった。

 俺の連撃はまるで小枝でも掃うかのように軽くいなされてしまう。


 この禿強すぎだろ!

「ふむ、筋は良い。基礎もできてる。部分強化の切り替えも完ぺきではないか。ふむふむ。だが遅い!」

 踵落としを脳天に食らって地べたに突っ伏す。そこを踏みつけられそうになって転がると、タイミングを合わされて蹴り飛ばされた。

 再び結界壁まで吹き飛ぶ。


「素速さとは、力強さとは何ぞやと考えたことはあるか?身体強化の使い方がまるでなっておらん!なまじ魔力が多いだけに魔力に頼り過ぎだ。魔力を込めればいいというものではない。質を求めろ!」


 俺は立ち上がって全速力で飛び込み、目いっぱいの力を込めて拳を叩きつけた。

 ウオオオオ!

 その拳はあっけなく受け流されて、腹に重たい一発を貰ってしまった。

 再び吹き飛ばされる俺。


「遅い!お前の実力はこの程度か?お前に格闘術を仕込んだ師は力の使い方を全く理解していない人物の様だな。今のお前の突っ込みは最速か?今の一撃は最大なのか?違うだろ?体が小さいとは言えその魔力量だ。もっと早くもっと重い拳を繰り出せるはずだ。即ち力の使い方をまったく理解していないということだ。まずはそれを覚えろ」


 それからは休憩も取らず延々と殴り合った。

 やり方はビオラ師匠と同じだ。

 ただ、俺が一方的にぶちのめされた。


 本部長が俺の渾身の拳を片手で掴む。

「違うと言ってるだろう!」

 パカーン!と頭をはたかれた。

 むかつく~!

 パカーン!

 血が上って攻撃パターンが単純になった俺をまたはたく。

「そうじゃない!こうだ!」

 本部長の拳に魔力が乗る。

 それをわざと見せるようにしてからの張り手が来た。一瞬の出来事だ。

 バチーン!

 思いっきり頬を平手打ちされてまた吹き飛ばされる。


 攻撃を感じることはできても避けることができない。

 それを分かっているのか本部長が怒鳴る。

「常に闘気を纏え!筋肉じゃなく筋繊維に魔力を流せ!目がおろそかだ!攻撃されると理解してからじゃ遅い!先を読んで避けるんだ!直感を信じろ!」


 拳や足への魔力の乗せ方。それが肝ということだ。

 身体全体、筋肉全体に目一杯纏わせるんじゃない。

 筋肉の繊維の一本一本に魔力を通すような繊細さが重要という事らしい。

 余分な筋肉にまで魔力を通す必要はない。それをすれば速度も威力も落ちる。

 必要な個所にだけ魔力を通す。

 その魔力を自在に収束させて解放させる。その切り替えも大事だ。

 その上で直感的に、すなわち格闘センスを磨けと。

 最低限それが出来なければ、本部長の相手にはならないし勝てない。


「おい、素早く動くためには体中すべての筋肉に最低限の魔力を通しとけ。その上で、攻撃や防御に必要な部分の筋肉に魔力の通り方を覚えさせるんだ。基本だぞ、これは。今日から寝る時間以外は筋繊維を魔力で鍛えろ。分かったか!?」」

 バチーン!ガチーン!ゴチーン!!


 最後に特大の平手と拳骨の3連撃で締めくくられた。

 いくら痛みも負傷もない無傷結界とはいえやり過ぎだろ・・

 むっかつく~!

 ハァハァハァハァ


 これで、特訓は終わりらしい。

 だが、俺は納得してない。

 散々やられっぱなしで悔しくて仕方ないから一発でいい。ブン殴りたい!


「ハァハァ、もう一手だけ付き合ってください。最後に俺の戦い方であんたに一発放り込みます」

 大の字の体勢で、結界を出ようとする本部長の背中に声を掛けた。

「ほぅ?良いだろう」

 ニヤリと笑って本部長が構えを取った。

 俺も起き上がって呼吸を整えた。


 今日は体術の特訓で魔法は使っていない。

 だから、最後に魔法と体術の連携でこの禿オヤジをブチのめしてやる・・


 俺は火矢を二つ放つ。

 それが分裂してそれぞれ10本に分かれて本部長の周囲と本人に向かった。

 逃げ道を塞いで、且つ対処している間に俺は突っ込む。


 はじける炎で視界が塞がれる中、眼前に迫ったところで魔力弾を放った。

 しかし本部長は火矢を避けつつ、拍手一つで魔力弾を圧しつぶしてしまう。

 でも想定内だ。ここまでは目くらましだ。

 同時に放ったロックパイルを避けようと飛び退いたところを狙って、雷撃を放った。


 ドガーン

 結界がビリビリ震え、轟音が耳をつんざいた。

 そこに俺はもう一度突っ込んで渾身の右拳を動きの止まった本部長の左頬に叩きこんだ。

 黒豹ジュードを倒した技、俺の十八番だ。

 それに僅かな時間の指導とはいえ、闘気と身体強化の新しい魔力の通し方は学んだ。

 さっきよりは威力が格段に上がった本気の一発は本部長を結界壁まで吹き飛ばした。

 一矢報いてスッキリした。

 これで帰ってからも悔しがらずに済む。


「おおぉ~!」

 パチパチパチパチ

 いつの間にかギャラリーが俺達の闘技場の周りに集まっていた。

 皆、強者だ。

 集中していたからというか、やられっぱなしで周りが全く見えていなかった。

 まさかこんなに見物人がいたとは。


「はははは!良い攻撃に良いパンチだったぞ!」

 愉快そうに笑いながら本部長が立ち上がった。

「お前はまだまだ強くなる。もっと精進しろ」

 そう言って俺の肩を叩いた。

「ありがとうございました」

 礼を言って闘技場を出るとリファが駆け寄って来た。

「キース、何かヒントを掴んだのね?最後は動きが見違えるように良くなってたよ!」

 リファの目がキラキラしている。

「はぁ、すごく疲れた。けど得た物は多かったよ。来て本当によかった」

 俺は腰を下ろして、大きく息を吐いた。

 そこに見物の強者達が気さくに声をかけてきた。

「おい、また来いよ。次は俺とやろうぜ。あ、俺はフェアリーブルーのクインズだ」

「俺はジョーカーズのピーキーってんだ。お前は見所がある。俺も鍛えてやるよ」

「俺はブースターラビットの・・」


 俺は疲れ切ってるんだ。

 ・・とても覚えきれん。


 帰り道、リファの話を聞いていた。

 リファも何人かに稽古をつけてもらっていたらしい。

 その一人が青い燐光をいっぱい浮かべていた謎めいた魔術師だったそうだ。

「あの青い小さな光は全てあのシューレイって人の魔力で、相手の魔力を燃やすんだって。でね、私、手合わせしてもらったんだけど、私の攻撃全部燃やされちゃった。火魔法も風魔法も全部燃やされちゃったの。全然歯が立たなかった。それに、私の身体に張り付くと、魔力が抜けてくの。あの人の魔法って凄かったよ。あとね、闇魔法の人とも闘った。そっちもさすがSランクって感じだった。地力が違うの。私の茨鞭はレイゼンって人の影鞭に全部はたき落とされちゃった。何もさせてもらえないんだもん。私まだまだだった。少しは強くなったって思ってたのに勘違いしてたみたい。自信なくなっちゃったぁ。はぁ~」


 溜息をついている割には表情が上気して目がキラキラしている。

 きっとリファも楽しかったんだろう。

 俺も・・まぁ楽しかった。


 翌日、俺とリファは草原に出てお互い学んだ事の復習と自分のモノにするための鍛錬に一日を費やした。

 俺たちは、より強くなるための切っ掛けを掴んだ。

 これは大きい。

 リファの茨蔦の攻撃は以前より見違えるほど攻略難度が上がっていた。

 これまでの様に簡単に弾いたり叩き落とすことができない。

 しっかり弱点となる一点を抑えなければならなくなっていた。


 俺は俺で、肉体強化魔法の正しい使い方を学んだからリファの早い攻撃はちょうどいい練習相手だった。

 目で捉え、直感で見極めて最速最強の力で一点を叩く。

 これをしっかり極めれば、ロックルロックの討伐を成し遂げることができる気がする。

 それ程に本部長の稽古は俺にとって有益だった。

 陽が暮れるギリギリまで鍛錬をして、俺達は学院へと戻った。



 そして、平和な学院通いを続けている内に月末となり、戦勝祝賀会当日がやって来た。


 俺はリファとアリアと共に、王宮を訪れた。

 もう何度目かになるので緊張はしなくなったけど、やはり慣れるものではない。

 例のごとく、待機室でアリアはむしゃむしゃと茶菓子に手を伸ばしている。

 見た目は深層のご令嬢。美しく着飾って、おしとやかに見える。

 見えるだけで、実際は森の民の食いしん坊。そう、中身は残念美人なのだ。

 本当に残念だなぁ、何て事を考えながら美味しそうに頬張るアリアを見ていたら時間が来た。


 今回は謁見室ではなく、とても大きな広間だった。

 大勢の騎士、貴族がひしめいている。何人いるのか見当もつかない。

 大人ばかりの中に、俺達だけ子供だからひどく場違いな感じがした。

 壁際に大きなテーブルが据えられていて、豪勢な料理が並んでいる。

 宮廷侍女が酒杯を配り、アリア以外の俺達は果実水を手に取った。

 そして会場の端っこにひっそりと立っていたら、執事風の侍従に呼び出された。

 前方で待機しておきなさいと。


 壇上に陛下が立ち、今は貴族や騎士に褒美を与える褒章の儀の最中だ。

 何に貢献したのか簡潔に述べられて、勲章やら何やらが渡されてゆく。


 そして俺達の名前が呼ばれた。

「風の旅団、登壇しなさい」

 の一言で俺達も壇上へと上がった。どうやら最後の出番だったらしい。

 これは最後のおまけ的な感じなのかと思いつつ、コケない様にゆっくりと上がった。

 今日は俺も着飾っている。リファが選んでくれたジャケットだ。

 今日の俺はちょっとだけ貴族っぽい。

 アリアとリファも買ったばかりのドレスに髪飾り、そしてネックレスで着飾っている。


「諸君、ここにいる冒険者パーティー、風の旅団を皆に紹介しよう」

 それまで褒章を与えていただけの陛下が、突然そんなことを言い出した。

 拡声の魔道具を通しているから、会場中に陛下の声が響き、ざわめきが止んだ。

 会場中の視線が俺達に集まった。

「彼らはここ1年余りで王国に対し多大な貢献をしている。屍竜討伐は皆の記憶にも新しいと思う。が、それだけではない」

 シンと静まり返る会場。集まる視線。滅茶苦茶恥ずかしい・・

 俺達おまけじゃなかったのかよ!心の中で俺が叫んだ。


「皆も知っているように先日、王都北方の魔境にメタルアントの巣が確認された。メタルアントと言えば過去には国をも滅ぼした凶悪な魔物だ。我が王国騎士団も計り知れない犠牲を覚悟していたわけだが、巣穴の発見、討伐作戦の立案、その作戦遂行すべてにおいて貢献したのが風の旅団だ。彼らのお陰で、討伐戦では一人の死者を出すことなく完遂しその脅威を取り払うことができた。故に、異例ではあるが、風の旅団に騎士爵を授けるものとする」

 騒めきが大きくなった。


 俺達は片膝を付いた。そして俺の肩に陛下が剣の腹を置いた。

「キース・ロブ・クリフロード、アリア・エウロ、リファーヌ・ザビオン。其方達に護国の剣を授ける。ジルべリアの危機に其方らの命を賭けることを誓え。王家に仇成す者に其方の剣を向けよ。そして王国民の為にその生涯を捧げよ」


『はっ!我が剣は王国を護るために、我らが力を王家と王国民の為に、我らは命を賭してジルべリアに忠誠を誓います』

 一応さっき練習させられたのだ。何とか噛まずに言い切って一安心した。


 これで綬爵の儀は終わった。

 ゆっくり立ち上がると陛下は満足そうに頷いた。

「さて、其方達の貢献に褒美を取らす。が、その前にいくつか皆に話しておく事がある。将軍」

 ディグリーム将軍が出てきた。

 今日もまた軍服にいっぱいの勲章を付けておっかない顔をしている。


「王国統合軍将のディグリームである。諸君、メタルアントの危機は去ったが未だ王国の危機は続いている」

 その一言で、会場がまた静まり返った。

 将軍は会場をおっかない目で睥睨した。

「まず、王都西方に大規模なオーガの集落が見つかった。オーガキングの存在と1000匹に近いオーガ、加えて鍛冶に依る武器の精錬まで行われていることが判明している。事前にこの大規模集落を察知できたことは僥倖であった。だが、問題は今一つのさらに深刻な脅威だ。魔人族なる国が我ら人族の領域に攻め込まんとしていると判明した。実際に先の屍竜、ロゼム金山の瘴気、バース領の大王亀騒動では瘴気毒で作られた黒い杭が見つかっている。この意味するところは既に魔人族の尖兵が王国に潜入しており、密かに侵攻を始めているという事である。魔人族はその瘴気毒の黒杭を使い、屍竜と共にいずれ我が国に攻めて来るであろう」

 会場の騒めきが再び大きくなった。

 中々収まりそうにない。


「だが、諸君。危機だけが訪れているわけではない。先日、風の旅団により極大魔石が献上された。古代竜の魔石だ。これがあれば王都防衛がより堅固になる。王都全てを網羅できるわけではないが、王都中央部は確実に防御結界で覆う事が可能となった。悪戯に恐れる必要はない。王国騎士団全軍を以て魔人族なる輩を殲滅して見せよう。我々は既にその準備に着手し備えを始めている。だが、諸君には王国が現在そうした危機の下にある事実を認識しておいてもらいたい。いざその時が来ても慌てぬよう心構えをしておいてもらいたい」

 将軍の演説が終わった。


 そして再び陛下が話す。

「風の旅団は、オーガ集落の発見、魔人族侵攻の情報、そして巨大魔石献上という貢献を成した。これに見合う褒美を授ける。まず、メタルアント討伐素材に金貨500枚。巨大魔石献上に金貨1000枚。オーガ集落、魔人族情報については望みの魔道具を取らす。また、リーダーであるキース・ロブ・クリフロードは今は無きクリフロード家の生き残りである。本人の意思により、王立学院卒業と同時に子爵位を授け、クリフロード領の復興を許すものとする。それにあたり、クリフロード王都屋敷を返還する。以上だ」

 パチパチと拍手が送られる中、俺は陛下から目録を渡された。


 そこからはただの宴になるらしい。

 ゆったりとした奏楽が鳴り、皆がくつろぎ始めた。

 俺達は料理を楽しもうとしたけど、あまりに場違い過ぎて気後れがする。


「ベルシア産高級白エビのテルミドールでございます」

 見れば、俺たちが提供したと思われる白エビが会場へ運び込まれるところだった。

 次々と引かれて来るワゴンカートには大皿の上に巨大エビが乗っている。トロリとした焦げチーズがグツグツしていい匂いが漂ってきた。

 ぜひ、一口と思ったけど周りの大人たちがすぐに取り囲んで近づけもしない。

 はしたない・・あれで貴族か?子供を優先させろよ!と心の中で毒づく。


「ベルシア産高級赤毛蟹キャビアのブルスケッタにございます」

 次に来たカートは、カットされた白パンの欠片にトマトやバジル、チーズが乗って、その上に赤毛蟹の卵がこれ見よがしに盛り付けられていた。

 美味そうだ!

 今度こそは!と思っていたらアリアが突貫していった。

 俺も!と思ってついていくと、大人たちの背中で前が見えない。割り込む隙間もない。

 暫く奮闘して、諦めて部屋の隅でリファと大人貴族の争奪戦を眺めることにした。

 そこに、アリアが帰って来た。

 せっかく整えた髪がボサボサになっている。

「ひどいわ・・こうゆう時大人って子供に遠慮しないのね。私、子供じゃないけど」

 気の毒になる位にアリアはがっかりしていた。

 今話題の食材とあって運び込まれた傍から人がたかって大皿から料理が消えて行く。

 力づくで排除するわけにもいかず、これでは俺達など太刀打ちできない。


 はぁ。世の中の世知辛さを知ったところで、さて困った。

 俺たちは帰ってもいいのだろうか。

 こんな場所は居づらくて仕方ない。


 アリアでさえもう料理に手を伸ばさず帰りたそうにしている。

 どうしようかと考えていたら、また侍従が来た。

「お三方はこちらへお越しください」

 そして連れて行かれた場所は、宮廷の奥を行った部屋だった。

 そこに、謁見の司会役をしていた老人がいた。


「来たか。私はキャニング。副宰相であり、陛下の補佐官でもある」

 言葉とは裏腹に、物凄く柔らかい表情で話しかけてきた。

 こう見ると、要人というよりはその辺にいる感じの良いお爺ちゃんだ。

「アリア殿とリファーヌ殿は褒章として授けられる魔道具を選ぶように。では説明を」

 すすっと一人、宝物の担当官らしき人が前に出た。


 机の上に10個の魔道具が並んでいた。

「まず、こちらは火魔法専用の魔法杖、次いで水魔法、風魔法。そしてこちらが魔法剣、魔法槍、魔法弓、さらに、空間収納バッグ、魔力玉、結界魔道具となります。どれも古代遺跡もしくはダンジョンの深い階層より発見された逸品です」

「キースはどれにするの?」

「キース殿は受けとることは出来ない。代わりに爵位と領地の確約を賜ったからな」

「じゃあ、私とリファーヌの二人ってことね」

 アリアは魔法弓と空間収納バッグで悩んでいる様だった。

 それをリファがじっと待っている感じだ。

「アリアはその弓にしたら?そしたら私はバッグにするから、アリアに今のバッグあげるよ?」

「あら、ほんとうに?いいの?」

 エレシアのバッグは今アリアが使っている。学院にいる俺達には不要だからだ。

 それに、アリアは弓も使える。

 最近は魔法ばかりで弓を使わないけど、出会った頃は弓を背負っていたし。

「いいよね?キース」

「うん、勿論」

「じゃあそうしましょうか」


 アリアが魔法弓、リファが空間収納バッグを選び、報奨金1500枚を俺が受け取った。

 更に、食材提供の対価もしっかりと受け取った。

 そして次の部屋へ連れて行かれた。

 そこには影の薄い、頭の毛も薄いおじさんが待っていた。


「私はオージル。王都貴族区域の空き屋敷や土地を管理する担当官です。今回、旧クリフロード家の空き屋敷をキース殿に返還する旨の連絡を受けております。接収当時の屋敷内にあった物は分かる範囲でお返しいたします。また、使用人についてはご紹介できますのでご希望を後程お伺いいたします」

 そう言ってオージルは数枚の紙を差し出した。


 “クリフロード家接収品リスト”とある。

 そこには、金貨、宝飾品から始まり、家具や調度品、食器類や生活用品、書籍類に更には馬に馬車までリストアップされていた。

「これはクリフロードの屋敷を接収した当時、王国が引き取った物品リストです。この中から返せるものはお返しいたします。ただし、一度王国の管理品となった時点で王国の備品として抜かれている物が多々あります。残っていたものを返却という形になりますので、このリスト全てが返却されるものではありません」

 オージルの説明では、例えば馬などは真っ先にどこかへ引き取られたために返せないのだそうだ。

 その上で新たな馬を王国で用意してくれるとかはないらしい。

 金貨や宝飾品など金額や査定がはっきりしている物は返してくれるという。


 ただ、返してもらっても俺達は学院寮に住んでいるし、アリアもダンジョンに潜っていることが多く、俺達は屋敷の管理などできない。

 人のいない屋敷など不用心で安心できない。

 かと言って信頼できる執事やら侍女などに知り合いはいない。

 どうしたものか・・

 と悩む俺にオージルは解決策を提案してきた。


「家令、執事、侍女、護衛騎士は素性のはっきりとした者を当面派遣することは可能です。勿論、王宮に努める方々ですから信頼のおける者ばかりです」

 と説明があった。

 ならば陛下の好意に甘えようと思った。


 今日は4連休の一日目。

 明日早速、旧クリフロード邸を見に行きそのまま返還されるという。

 その後、使用人の紹介もしてくれるらしい。

 屋敷返還の話を終えた時点で夕方になっていたのだけど、まだ呼び出しがあった。


「リリアティナ王女殿下より、お呼び出しでございます」

 侍女に呼ばれてついて行くと、リリアティナが待つ一室へと案内された。


「綬爵おめでとうございます。わたくし、本日中に直接お祝いを申し上げたかったのです」

 とにこやかな挨拶を受けた。

「そのお祝いにというのも変ですけど、晩餐をご一緒いたしませんか?本日の祝賀会では宮廷料理を楽しむことなどできなかったでしょう?こちらでゆっくりと堪能してはいかがですか?」

 とありがたい提案を頂いた。


 別室には祝賀会で見かけた豪勢な料理の数々が所狭しとテーブルに乗っている。

「わぁー!」

 アリアから歓声が上がった。

 リファは涎が落ちないように慌てて唾を飲み込んだ。

 俺は、料理を見た瞬間グーっと腹が鳴った。

 そんな俺達をリリアティナが微笑ましいものを見るような目で眺めている。


「実は兄と弟も参りますので少々お待ちになってくださいまし」

 と言って料理を目前にして待てが掛かった。

 王子たちも一緒に会食するらしい。

 若干緊張する。粗相がなければいいけど・・

 アリア大丈夫かな。既に目が料理に釘付けされてるし。

 暫くして、高等騎士院の2期生、ジークベルト第二王子16歳、それに以前会ったルイスビーク王子と王妃様もやって来た。


 それぞれ挨拶を交わして席に着いた。

「君達は既に王国騎士の爵位を得られたのだな。さすがは世間で噂に名高い風の旅団だ」

 と言ったのはジークベルト王子だ。

 鍛えまくっているのだろう、体つきがもう大人の騎士と変わらない。

 故に食べっぷりも見事で話をしながら手と口を止めることがない。

 そのくせしっかり飲み込んでから喋るから器用な人だと俺は思った。


 ルイス王子は相変わらずで、今回はメタルアントの討伐の話を聞きたいとせがまれた。

 軍倉庫に保管されている女王の彫像を見て、腰を抜かしたのだそうだ。

「あんな凄い敵をどうやって倒したのだ?」と。

「戦ってはおりませんよ」

 と言ってるのに、王子の頭の中では俺達が巣穴の中を自在に飛び回って女王を討伐する光景が浮かんでいるらしい。

「絶対に英雄伝として本にするべきだ!」と叫んで王妃様にたしなめられていた。

 何でも、吟遊詩人なる人たちが王都のあちこちで俺達の活躍を唄っているらしい。

 そんな場面見たことはないけど、アリアは聴いたことがあったようだ。

「本人の前で歌わないで欲しかったわ。あれは恥ずかしいってもんじゃないから。もう顔から火が出るかと思ったわよ」

 脚色か何か知らないけど、ギリギリの戦闘をした挙句女王に勝利したという事になっているらしい。

 それを侍女からルイス王子は聞かされて鵜呑みにしてしまったと。

 冗談じゃないよ。

 俺がその場に居合わせたら耳を塞いで逃げ出しただろうな。


 そんな会話で盛り上がりつつ、祝勝会では食べられなかった蟹卵と白エビの絶品料理を堪能したのだった。


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