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マタタビ病

 休日初日、俺達は王都北門を飛び立ってセレントの街へ向かった。

 そこで、騎士団本部のサルファス司令官を訪ねた。

「よく来てくれた」

 嬉しそうな笑みで出迎えられると、今回の依頼の詳細を話してくれた。


「メタルアントは実に良い鎧の素材なんだ。それで騎士団総出の剥ぎ取りをしていたのだがあまりにも膨大な量でな、それを王都に運んでもらいたい。報酬は金貨10枚だ。キースの次元収納であれば可能と思うのだがどうだ?」

「分かりました。引き受けます。ただ、せっかくですからセレントのギルドで何か依頼を受けたいと思ってます。そのついでという形でも宜しいですか?」

「構わない。メルボンド副指令が現地にいるからその指示に従ってくれ」

 俺達は快諾した。


 副指令宛ての書簡を預かり、すぐにセレントギルドの門を潜った。

 ここは王都近郊の魔境沿いのギルドで規模が大きい。

 冒険者もケルンギルドの様な猛者ぞろいという感じだ。

 雰囲気だけで稼げる場所だとすぐに分かった。


 ランクAの掲示板の前にも結構人がいる。

 高ランカーが多く所属しているらしい。

 その筋肉達磨の一団に混じって俺達も何かいい依頼がないかと掲示板の前に立った。

 そこに子供がいれば変に思われるのはいつものことで、声を掛けられるのにも慣れた。


「邪魔だよ、ここの掲示で子供は受けられないから向こうへ行きな」

 見ればビキニアーマーのアマゾネス集団だった。

 全員背が高くてムキムキボインだ。

 すげぇ・・

 俺が呆気に取られている横でリファとアリアが応対していた。


「私達風の旅団です。私達ランクAは受けられるんです」

「そうよ、屍竜を倒した私達ならまったく問題ない依頼だわ」

「あ、魔境はもう家の庭並みに慣れてる場所なので心配不要です」

「そうそう。いざとなったら空を飛んで逃げるわ」


 ポンポンと返事をしてゆく女性陣。

 これは予定していた返しだ。

 絡まれたらさっさとパーティー名を出して納得してもらうのが手っ取り早い。

「何だって?お前達があの風の旅団だと?」

 一番体格の良いというか大きい女性が驚いている。

 向こうからしたら俺達なんて頼りない子共にしか見えないだろうな。

 それにしても見事だ・・。

 女マッチョと言えばビオラ師匠だ。

 筋肉的にはまぁ負けてないと思う。

 でも、体格はこっちのアマゾネスの方がでかいし、何より胸が半端ない。

 自己主張が激しすぎて嫌でも目がいってしまう。


「ってことは、リーダーのキースってのは私の胸をガン見しているそこの少年かい?」

「え?」リファが振り向いて、俺は慌てて視線を逸らした。

「むぅ!キースってば!キースも大きい胸が好きなの!?」

「キース!その視線は私への嫌がらせ!?その女を見た後に私を見ないで!変態!」

「い、いや、あまりに見事で・・じゃなくて、ちょうど目線の高さにそれがあるというか・・」

「キース、見苦しい言い訳しないで!」

「最低!」

「いや、あの、その、なんかごめん・・」


 俺たちは無事?アマゾネスのお節介をやり過ごして依頼を受けることができた。

 今回は、ロックルロックと呼ばれる石の魔物の素材採集と、リファの希望でグリフォン討伐を受けた。

 ロックルロックは1~2メトルの丸い岩の魔物で、集団で転がって襲って来る。

 硬いわ重いわ危険だわで不人気の依頼だけど、魔法衝撃を吸収する壁素材や、硬度を必要とする魔道具や部品には欠かせない素材だ。

 グリフォンはリファが腕試しをしたいらしい。


 この上なく不機嫌な二人の後ろをしょぼくれて俺はついて行く。


 理不尽だろ!あれは絶対見せびらかしていた。だから見てもいい筈なんだ!

 じゃなくて、不可抗力だったんだ。別にでかいのが好きとかじゃないんだ!ただ気づいたらガン見してたんだ・・


 精いっぱいの弁解を心の中で叫びながら、魔境を北へと飛んで行く。

 メタルアントの巣穴地点、騎士団の駐屯地に着くとそこはメタルアントの外殻でいっぱいだった。

 剥ぎ取った外殻はサイズごとに山積みされている。


 すぐにパルマがやって来て、メルボンド副指令の元へ連れて行ってくれた。

「お!助かるよ。この素材の山を持って帰ると考えただけでげんなりしてたんだ」

 副指令は相変わらず、偉ぶらない。

 副指令と世間話をしながら、俺は言われるままに素材を収納していった。

 なんでも、来月末に戦勝祝賀会が王宮で開かれるそうだ。

 俺たちも参加する可能性が高いらしいから準備しとけよという話だった。

 それならリファとアリアにドレスくらいは買っておいた方がいいかもしれない。

 ドレスの話でほんの少しだけ機嫌を取ったかなと胸を撫でおろしたところで、全ての素材を収納し終わった。


 のんびり昼食を取り、請われるままにお手伝いしている内に長居をしてしまった。

「さぁ、依頼品を狩りにいこう!」

 もう昼下がりだけど、ここは二人にガス抜きをしてもらいたい。

 そう思ったのだが、却下されてしまった。

「今日は止めましょ。なんだか行く気がしないわ」

「もうすぐ夕方だし。明日にしよ」

「いやでもグリフォンは夜、巣に戻ったところを叩かないとまた苦労するよ?」

「だから、これは空中戦の練習なの。巣にいるところを襲っても何も得られないよ」

「いや、わざわざ危険を冒さなくてもさ・・」

「キース、分かってないわね。いずれ魔人族と戦うんでしょ?リファーヌはそのための鍛錬をしたいって言ってるの。もう、今日はイライラしてるからこれ以上言わせないで」

 本当にこの二人は怒らせちゃいけない。

 イライラしてるときにグリフォン相手に戦闘なんてしたら命取りだ。

 だから今日は諦めた。


 どうやって二人のうっ憤を発散させればいいんだ?

 そこにパルマが来た。

 久しぶりに風呂を作って欲しいと言われて俺はその話に飛びついた。

 この気まずい雰囲気から少しでも逃れられるのならば何でもいい。

 その空気を察したパルマが「何かあったのか?」と聞いてきた。

 パルマの胸元をちらりと見てアリアが「あなたには理解できない話よ」と素っ気なく応えている。

 非常に気まずい・・


 風呂を作りがてら、パルマに事情を話してみた所。

「なるほど、それは二人が怒るのも分かるが、そう言う事なら無理に機嫌を取る必要もない。ただ不貞腐れているだけだ。下手に機嫌を取ろうとすると墓穴を掘るぞ。こうゆう時はほっとくのが一番だ」

 なるほど、なるほど。ありがたい意見を頂いた。


 その日は会話も少なく野営をしていると、ちょっと酔っぱらってきたアリアに絡まれた。

 パルマの指南にあやかってほっとこうと思ってたのに。

「男って子供でも大きい胸が好きなのね!」

 アリアが睨み、リファがじっと俺を見ている。

 なんてシチュエーションだ・・はぁ。


「アリア。そんなことないよ。ただ、あれはでかすぎてびっくりしただけだ。好きか嫌いかと聞かれたらどっちでもない。そんな事より、性格がいいとか気が合うとか笑顔が可愛いとかの方がよっぽど重要だよ。って俺は思う。アリアもそう思わない?」

 無理やり言葉を捻りだした。ベック的思考を真似てみたのだが・・


 こんなバカげたことで頭を悩ませたくないよ。

「そうね、その通りだわ」

「・・・・」

 リファはまだ俺をじっと見ている。

 黙って何も言わないリファが怖い。

 でも若干場の空気が軽くなった気かした。さすがベック。ありがとベック。


 翌日は朝からグリフォンを狩りに行った。

 以前地図を作った時に見つけたから居場所は分かっている。

 アリアとリファが二人で立ち向かって行った。

 俺は見ているだけだったけど、二人共危なげない戦い方で連携して空中戦を制した。


 アリアが(つがい)の一匹の牽制役になっている。

 以前に比べて小回りも速さも段違いの技術を身につけたようだ。

 グリフォンの攻撃を器用に躱してもう一匹から巧みに引き離してしまった。

 その間に、リファがもう一匹を風魔法の防御でも弾けないほどの大きな網を投網の様に放って拘束して落下させてしまった。

 そしてすぐにアリアの下に向かって、もう一匹も同じ様に討伐してしまった。


 二人が満面の笑みで帰って来た。

「私、確実に強くなってる!これでキースについて行ける!私嬉しい!!」

「見た見た?私、あのグリフォンを余裕であしらえた!風のアリアの復活よ!あぁ、エルファリア様ありがとう!」

 二人共興奮気味で顔が上気している。

 前回手も足も出なかった相手に完勝したのだ。

 それだけ強くなったってことだし、そりゃ嬉しいよな。

 お陰で昨日の険悪な雰囲気が霧散して俺は晴れて許された気がした。

 良かった、良かった。俺も嬉しい。


 そして、次のロックルロックを倒しに岩場地帯に向かった。

 この場所は木々がない。何故なら、ロックルロックが転がるために木々は押しつぶされてしまうのだ。

 そんな岩場地帯には大小の丸っこい岩がゴロゴロしている。

 どれが岩でどれがロックルロックなのやら。

 上から見下ろしながら平地っぽい場所に降りた。

 試しに、目の前の岩に火矢を放ってみた。

 すると、ゆっくり動き出しかと思うと一気に加速して突っ込んできた。

 ドッガーン!

 別の岩に当たって、そいつも動き出した。

 連鎖的に次々と岩が動いて転がって収拾がつかなくなってしまった。

 次々と大小の岩が高スピードで転がり跳ね返り、あらぬ方向からいきなりぶつかって来る。

 瞬く間に100を超える丸岩が転がりぶつかり跳ね返る。

 見切って避けた先に待ち構えたように突っ込んでくるし、破片が飛び散って当たるし、もう標的を絞るとか無理。

 というより、避けるだけで何もできない。

 これはもう採集どころじゃない。


 上空からアリアとリファが攻撃をしている。

 しっかりと命中して表面を砕いたけど、それだけだった。

 動きを鈍らせることさえ出来てない。

 俺も一旦上空に逃れて魔法を浴びせるけど効きゃしない。

 燃やそうが、凍らせようが、石榴弾をぶつけても全く動きは変わらない。

 雷撃も通用しなかった。

 少し表面が砕けただけだ。

 丸きり歯が立たない・・

 様々な魔法を繰り出しては見たものの、どれも通用しない。


 ただ、素材となる欠片だけはいたる所に落ちている。

 勢いよく互いにぶつかり合っているから大きな欠片も落ちているのだ。

 一見ただの岩とも見える素材は竜眼を使えばすぐに見分けがつく。

 俺はまだ静かな一帯からそれらを拾い集めることにした。

 しかし、俺が動けばロックルロックも転がって次々と集まって来る。

 何度か場所を変えて、リファ達に牽制役を頼んでササっと拾い集めてを繰り返して何とか依頼された量をかき集めることができた。

 魔力と時間ばかりを食ってまったく割に合わない。そんな手強い魔物だった。

 今回は俺一人良いとこ無しの悔しい仕事になってしまった。


 一度駐屯地に戻って、副指令に挨拶をして魔境を出る。

 セレントの街へ戻りギルドで換金、その後サルファス指令から報酬を受け取ると、一泊して翌日王都へと戻った。


 軍倉庫にメタルアントの素材を放出して依頼完遂。

 休みは明日まで。

 今日は寮へ帰らず、肉球亭で宿を取るつもりだ。


 はぁ~疲れた。

 ジャンゴの肉球亭の扉を開けると、知った顔が俺達を待っていた。

 ブラックパンサーの双子猫だ。

「あ!やっと帰って来たにゃ!ずっと待ってたにゃ!」

「困ってるにゃ!助けて欲しいにゃ!」

 突然何なんだよ!

 こいつらの顔からは面倒事の嫌な予感しかしない。


「何に困っているのか知らないけど、あなた達ランクSじゃない。私達を拉致る程強いんだから自分達でなんとかしなさいよ!」


 アリアは今でもしっかり怒っているみたいだ。

「それは謝るにゃ。ごめんにゃ」

「だけど本当に困ってるにゃ。助けて欲しいにゃ」

 猫耳をペタンと萎れさせて姉妹が謝った。

「嫌よ!だったら大好きなギルマスにでも頼めば?」

「ジャックさんにもどうにもできないって言われたにゃ」

「子供達の命が危ないにゃ!お願いだから助けて欲しいにゃ!」

「!そ、それでもだからって助けてあげる義理がないわ!」


 頑なに突っぱねるアリアに、眉尻を下げるリファ。

「キース、私アリアの気持ちわかる。でも、子供の命が危ないって言われたら話くらいは聞いてあげてもいいんじゃない?」

 その一言で俺に視線が集まった。

 縋る目の姉妹と困り顔のリファ。そして何故か俺を睨むアリア。

「なぁ、俺からも頼む。こいつらの力になってやってくれないか?」

 ジャンゴまで。それにミーアもウル目で訴えてきた。


 俺だってまだ怒ってる。リファに手をあげたんだからな!お前らのリーダーは。

 でも、リファじゃないけどこんな必死にお願いされたら何とかしてあげたい気持ちになってしまう。

「話を聞くだけだ。話を聞いてから判断する。それでもいいなら話せよ」

「礼を言う」

『ありがとにゃ!』

 ジャンゴが渋い声で礼を言い、双子姉妹にパっと笑顔が差した。

 猫人族は同族意識が高いのだろうか?

 話を聞くだけって言ってるのにジャンゴもミーアもあからさまにほっとしていた。


 食堂奥の席に座り、話を聞くことにした。

「私らは孤児院の出身にゃ」

「今でも孤児院に出入りして子供たちの様子をみてるにゃ」

「その孤児院で猫人族特有の奇病が発生したにゃ」

「5人の子供たちが高熱でうなされてるにゃ。血を吐いて苦しんでるにゃ」

「ジャックさんの紹介で治癒院には連れて行ったにゃ」

「でも病名は分かっても治療できないと言われたにゃ」

「お金でも解決しないにゃ。それに獣人族の患者は真剣に診てもらえないにゃ」

「その奇病に掛かると殆ど助からないにゃ」

「風の旅団は国王様にも伝手があると聞いてるにゃ」

「王宮の治癒師ならきっと治す方法を知ってるにゃ」

「国王様に頼んで偉い治癒師を紹介してほしいにゃ」

「お願いするにゃ!」


 アリアを見れば苦渋に満ちた顔をしている。

 リファは心配しすぎて泣きそうだ。

「俺からも頼む。まだ小さい子達なんだ。何とかして助けてやりたい」

「私からもお願い。うちの子達と同じ位の子もいるみたいなの。他人事に思えないのよ」

 今気づいたけど、ジャンゴとミーアは語尾に“にゃ”をつけない。

 客商売だからだろうか。

 そんなしょうもない事がふと頭をよぎった。


「キース、ここは助けてあげようよ。小さい子が苦しんでるって聞いて見捨てられない」

「アリアはそれでいい?」

「えぇ。ブラックパンサーの願いってのが嫌だけど、子供の命には代えられないわ」

 アリアの答えに姉妹が手を取り合って喜んでいる。


「でも、陛下に頼む前に俺たちで診る。子供の病人は王都中にいっぱいいるよ。子供だからって理由で王宮の治癒師に診てはもらえない。俺達が頼んでも多分無理だ」

「あんた達が診れば治療方法が分かるにゃ?」

「ヒールでは治せないにゃ」


「俺の竜眼で見れば何かわかるかもしれない」

「原因が分かれば私が薬を調合できるよ」

「私も手伝うわ。リファーヌ程じゃないけど、その辺の薬師より知識はある筈だもの」


「竜眼だと?キース、お前はそんなすごい能力を持っているのか?」

 ジャンゴが驚きに目を見張った。

「うん!キースは凄いの!」

 ここぞとばかりにリファがドヤ顔で胸を張った。

「それでリファーヌは薬を作れるの?」

「えぇ、私の母さんの直弟子よ。母さんはエルフ族一の凄腕薬師なんだから」

 ミーアの質問にアリアが答えて、何故かアリアもドヤ顔で胸を張った。


「凄いにゃ!それなら今すぐに診て欲しいにゃ!」

「希望が見えたにゃ。やっぱり風の旅団に相談して良かったにゃ!」

 双子姉妹は目を輝かせてぴょんぴょん跳ねながら抱き合って喜んだ。

 ここまで喜ばせたら期待に応えるしかない。

 俺達は双子姉妹の案内ですぐに孤児院へと向かう事にした。


 孤児院は以前アリアが拉致られた倉庫の傍にあった。

 貧民街だ。

 小さな教会があって、その裏に少し大きな建物の孤児院があった。


「この孤児院はブラックパンサーが建てたにゃ」

「育ててもらった恩返しをしたにゃ」

 だそうだ。

 中に入ると、人族、獣人族の子供達がいた。

 全員で30人くらい。その半分が獣人族だ。

 人族との比率からすると獣人族の孤児は意外と多かった。

「冒険者の子供が多いにゃ」

「獣人族は前衛職が多いし人族は無茶を言うから死ぬことが多いにゃ。仕方ないにゃ」

 死んだり、怪我をして働けなくなって子供を手放す親が多いのだそうだ。


「あら、ジュジュにシュシュじゃない。そちらの方達はどなた?」

 奥から優しそうな人族の女性が出てきた。

 ここで俺は初めてこの姉妹の名前を知った。

 でも、名前を知ったところでどっちがどっちか見分けがつかないんだが。

「紹介するにゃ。この3人は風の旅団にゃ。こっちはシスターのイリーナにゃ」

「俺はキース。こっちはリファーヌとアリアです。今日は猫人族の子供が掛かった奇病を治療しに来ました」


 用件を伝えると、まずイリーナから詳細を聞くことになった。

 なんでも、猫人族の子供の5人が一週間前から咳が出始めたらしい。

 咳が酷くなって風邪を疑っていたけど、三日後に吐血。同時に呼吸が苦しそうになって見てられない程になったという。

 この時点で治癒師に見せた所、猫人族特有の奇病、マタタビ病と診断された。

 極稀にマタタビを齧った猫人族に現れることがあることで知られている。

 一旦発症すれば致死率60%。子供、老人にいたっては更に高くなる。

 普通はマタタビを齧ってもそんな病気にはならない。

 そしてなぜマタタビ病を発症するのかも分かっていない。


 伝染するかもしれないから、ジュジュとシュシュの姉妹は傍に近寄ることはできない。

 俺たちは隔離された子供たちの部屋へ案内された。

 そこには、3歳~8歳くらいの猫獣人の子供たちが寝かされていた。

 皆、苦し気に息を吸い込んでいる。

 呼吸も随分早い。高熱で顔が赤く腫れぼったい。

 とても苦しそうだ。


「キース」

 リファに促されて俺は竜眼を使った。

 肺全体に黒い淀みが見える。

 まるで肺の内側に黒い塗料をまぶした様だ。

「これは・・カビだよ。マタタビに寄生する虫が死ぬとこのカビが生えるんだ。それを(かじ)ったんだと思う」

 竜眼から伝わる情報を俺はリファに伝えた。

「カビってことは寄生してるってことよね。それならモモガリスの薬が有効かも」

「だったらベルシア島に行けばモモガリスは手に入るわね」

「ううん。ミトからモモガリスの薬効の粉末を分けてもらってあるから取りに行かなくても大丈夫。でも、調合はこれからだからちょっと大変かも」

「すぐに作りましょ!リファーヌ、他に何か必要な物はない?」

「えっと、清潔な作業部屋と、白斑茸、ライラ草、シシロの球根。あと聖の魔力。この中で足りないのは・・シシロの球根が欲しい」

 リファがメモを見ながらアリアに伝えた。

「それなら薬師の店ですぐに手に入るわ!買ってくる」

 アリアは子猫好きだ。

 ジャンゴの子供達にもメロメロだからとても見ていられないのだろう。

 部屋を飛び出して行ってしまった。


 その間、俺は子供たちの胸にヒールを掛けた。

 ヒールは効かないと言われていたけど、ほんの少しだけ呼吸が落ち着いたみたいだ。

 それから食堂の机を借りて部屋中を綺麗に浄化した。

 必要な道具は俺が次元収納しているからすぐに並べ終わった。

 そこにアリアが駆け込んできた。

「買って来たわよ!」

 乾燥されたシシロの球根がアリアの手に握られている。


 リファがすぐに作業に取り掛かった。

 俺とアリアはジュジュとシュシュを連れて子供たちが齧ったと思われるマタタビを探しに出かけた。

 せっかく治しても放置していたらまた齧って再発してしまう。

 近くの茂みや川沿いの樹木を見て回る。

 マタタビは蔦を這わせて樹木に絡みついている。

 その中で何本か僅かに黒っぽいカビに汚染されたマタタビの花を見つけた。

 汚染は葉の裏や花弁の中を見れば、黒く変色しているから簡単に分かる。


「よーく見れば安全か危険か判断できるんだ。それを猫人族に教えてあげればいい」

 汚染された現物を示して俺は説明をしてからしっかりと燃やした。


「キース、あんたは猫人族の救世主にゃ!」

「急いで皆に知らせるにゃ!ありがとにゃ!」

 この知識が広まればマタタビ病に掛かる猫人族は激減するだろう。

 ジュジュとシュシュは大喜びをしていた。


 孤児院に戻ればリファの調薬作業は大詰めを迎えていた。

「あ!キース。ここに浄化魔法を掛けてほしいの」

「それは私がやるわ。浄化が強すぎると薬効が落ちるの。微妙な加減が必要でしょ?私なら母さんの手伝いで慣れてるから失敗しない」

 アリアが慎重にじわっとリファの作った薬液に浄化魔法を掛けた。

 確かにこれはアリアの方が適任だった。

 俺がやってたら一気に浄化して失敗してたと思う。

 アリアの作業を俺達は静かに見守った。


「出来たよ!これを飲ませれば多分大丈夫!」

 リファの明るい声が部屋に響いた。

 すぐに子供に飲ませる。

 暫く様子を見て症状が大分落ちついたことを確認した。


「明日、様子を見に来るよ。もし万一急変したら肉球亭に連絡して」

 シスターイリーナ、ジュジュシュシュ姉妹、それに孤児院の他の子供達からも散々お礼を言われて少し照れ臭い思いをしながら肉球亭へと足を向けたのだった。


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