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学院入学

 メタルアント討伐達成の翌日、王国軍統合本部の将軍を訪ねた。

「よくやってくれた」

 とお褒めの言葉を頂いて、また謁見を許されることになると言われた。

 将軍を訪ねる度に謁見をしている気がする。


 何でも今度は、風の旅団全員に騎士の爵位が与えられる予定だという。

 でも、騎士になるわけではないから肩書だけなのだそうだ。

 本来は騎士院を卒業して初めて得られるものらしいけど、俺達は騎士以上に活躍しているから今更なのだという。

 一応、今の段階で王国と王家に忠誠を誓う意思があるか確認を受けた。



 その後、制服を受け取りに行って後は学院に行くだけだ。

 少し慌ただしいけど、俺達は今日の内に入寮することにしている。

 陛下の私費で通わせてもらう以上、一日たりともさぼるわけにはいかない。

 その日の夕方、俺とリファはジャンゴの肉球亭の前でアリアに見送られて魔術学院へと向かった。

 アリアは「ボトムスヘブンと一緒に活動してるから、何かあったらジャンゴに伝言しといて」とあっさりしていた。


 魔術学院の事務所で入学手続きを行って、寮棟へ向かう道すがら。

 男子棟と女子棟の分かれ道、リファが立ち止まってしまった。


「キース・・本当にここでお別れなのね?」

「いや、お別れではないよ?」

「でも、キース私といつも一緒にいてくれるって言ったじゃない!」

「うん。けど、ここは学院だから寮は別々。仕方ないだろ?」

「キースは私と離れ離れになっても平気なの?」

 冗談で言っているのかと思いきや、すごく真剣な目をしている。

 目元に涙が溜まっていた。

 そんな目で見られたらちょっとドキッとする。けど、それ以上に困ってしまう。

 こんな事を言いだすリファは俺に依存しすぎてるいるのかもしれない。

 今やっと、アリアが呆れる理由が少しわかった気がした。


「リファ、俺達は同じクラスなんだし明日の朝までの辛抱だよ。それにリファも友達作らないと。そんな泣き顔してたら、同じ部屋の寮生がびっくりしちゃうよ」

「うぅ、分かってるもん。むぅ・・もういい。バカ。じゃぁまた明日。おやすみ」

「うん、おやすみ」


 涙を浮かべてた。リファは大丈夫だろうか・・

 大きな荷物を抱えて去ってゆくリファの後姿にツキンと心に刺さる痛みを覚えた。

 あの様子だと心配で仕方ない。

 そりゃ俺だってリファと同室がいいけど、規則なんだから仕方ないじゃん。

 でも、あの泣き顔が頭から離れない。

 はぁ。

 大きくため息をついて、俺は男子棟へと向かった。

 因みに、案内をしてくれた職員は何をやってんだ?こいつ等、みたいな冷めきった目で俺達を見守っていた。


 王立学院の敷地はとにかく広い。歩きながら職員が説明をしてくれた。

 見上げれば木々の向こうに男子棟、女子棟の大きな寮が見える。

 途中、池や東屋まで置かれて静かで落ち着いた雰囲気があった。


「この寮を囲むように貴族院、騎士院、魔術学院、工学院、商学院が立地しています。そこに通う全ての学生がこの寮で生活をしています。あなたは平民区画への入寮になります。生活区域は分かれていますが、貴族のご子息が多くいらっしゃいますから、トラブルにならない様注意してください」

 そう言って立ち止まったところにこの王立学院の見取り図があった。

 寮区域を中央に、各院が囲むように並んでいる。

 他に職員棟、研究棟、教員棟、図書館も。

 騎士院には闘技場に馬場、魔術学院には魔法訓練場や温室、貴族院にはダンスホールなどの大施設がある。

 更に、寮区画には共用パーティー会場や接客室、団欒室のある別棟まであった。

 凄いな・・まるで一つの街だ。

 少し見取り図に魅入ってしまった。


 寮は、大きな円筒の建物だった。

 石造りの重厚な雰囲気の建造物には数多くの窓があり、明かりが漏れている。

 肉球亭と比べちゃ悪いけど、あまりに豪奢だった。

 心が躍ると同時にこんな凄い施設に住む自分が全く想像できない。


 平民専用のエントランスに入ると寮母が俺を待ち構えていた。

 恰幅のいいおばちゃんだ。

「あんたかい?時期遅れの新入生は。まったく、こんな遅刻してきた子は初めてだよ。いいかい、私が平民寮の寮母マルサだよ。寮には寮の規則がある。それを破ったら罰として外出禁止や便所掃除やら色々罰を与えるからね。分かったら返事をする!」

「はい!」


 という一幕もあって、部屋に案内された。

 この領は上級貴族寮と中下級貴族寮、平民寮と別れている。

 それぞれエントランスも違えば階も食堂も違う。

 身分違いの者たちが一緒にいることでいらない軋轢が生じる。

 そこで発生するトラブルを避けるために、一つの建物に3つの階層をわざと設けてあるそうだ。

 そして俺が案内された部屋は5階の平民の部屋だった。


 俺に友達ができるのか、話は合うのか、上手くやってゆけるのかと不安が過った。

 そんな期待と不安の同部屋には、工学院のアレクセルと貴族院侍従コースのフォルタスという二人がいた。

 個人部屋はかなり狭いけど3部屋あって、共同部屋にはソファーや本棚がある。

 風呂はなくシャワー、トイレ、食堂も共同だった。


「俺はキース。よろしく」

 軽く挨拶をして、一緒に食事をしながらそれぞれの自己紹介をすることになった。

 大食堂に移動して好きなものを注文して席に着く。

 俺はボア肉のがっつり丼と野菜スープのセットを選んだ。

 ボリューミーでとても旨そうだ。


 アレクセルは王都にある中堅規模の木工細工屋の次男だった。

 少し寄り目がちで神経質そうな雰囲気がある少年だ。

 初等学院で優秀だった為に王国の奨学金で通わせてもらえてると言っていた。

 フォルタスはどこかの貴族家の執事の家系らしい。

 どこの貴族かは教えてくれなかった。

 少し大人しい感じの子だ。

 二人共俺と同じ年、同じ新入生だ。


 俺は、冒険者とだけ名乗っておいた。敢えて風の旅団という名前は出していない。

 それから、寮の規則について聞いた。

 門限は21時。外泊は申請すればいいらしい。

 部屋の掃除は自分たちで行い、洗濯は寮でしてくれる。

 俺はクリーンで済ませるから必要ないけどね。

 厳禁事項は貴族の階層へ迷いこまない事だそうだ。


 ざっくりと聞いて規則は理解した。

 そこに、ぞろぞろと偉そうな雰囲気の一団が入って来た。

 ここは平民の階層だ。

 なのに真ん中にいる少しぽっちゃりした生徒は貴族の様な雰囲気を醸し出している。


「あれは誰?」

 不思議に思って聞いてみると、ブリオン大商会の子息なのだそうだ。

 王都の各区域に大店を展開している、王都民でなくとも知る天下の大商会様だ。

 俺でも知ってる。

 周りの取り巻きはブリオン大商会の傘下にある商会の子息たちなのだとか。

 10人近く引きつれているから目立ってしょうがない。

 お山の大将か?阿保なのか?

「あいつの実家は金持ちだからそこらの貴族より力があるんだ。この階層全てが自分の傘下位に勘違いしてる奴だから関わらない方がいいよ」

 話を聞く限りやっぱり阿保なのだろう。

 忠告通りなるべく関わらないでおこうと思った。


 翌日、いよいよ初登校だ。

 時間に間に合う様に魔術学院校舎へと向かった。

 勿論新調した制服を着ている。

 魔術学院生の制服は白シャツに紺色基調のブレザーだった。

 王国の次代を背負うにふさわしい格調高いお洒落なデザインだ。

 あと、背中に学院のロゴを刺繍したフード付きの紺色ローブ。


 少し緊張しながら教室に入ると、リファがもう来ていた。

 そして何やら絡まれている。

「いい加減にして!いやだって言ってるでしょ!」

「私の誘いを断ることがどういうことか分かってないようだね。君を学院から追い出すこともできるんだよ?それでもいいのかい?」

「おい、あんた何言ってんだ?」

 聞き捨てならない。俺はつい口を挟んでしまった。


「あ、キース!おはよ!」

 リファが満面の笑みで近寄ってくるからつい俺も顔が綻んでしまう。

 うん。リファは今日も可愛い。制服が良く似合っている。

 思わず見つめ合う俺とリファ。

「貴様は誰だ!ニマニマするな!誰に向かってその口の利き方をしている!私はアルシオン家だぞ!」

「キース知ってる?」

「いや、知らない」

 実は知ってる。有名な家名だ。リファだって知ってるよ。

 ただ、素直に知ってると言いたくなかっただけだ。


「なっ!アルシオン侯爵家を知らないのか!どこの田舎貴族だ!」

「俺はクリフロード家だ。だが、この学院内で身分や家柄は関係ないと聞いてる」

「そんなものは建前だ!クリフロード家など滅びた一族ではないか!なぜ亡家の者がここにいる?もはや貴族ですらないでなないか!いや、それ以前に滅びた一族を貴様は騙っているのか?それは重罪だぞ!」

 うっさいなぁと辟易していたら、リファが魔力暴走を起こしそうになっていた。

 いつかの俺みたいに髪が逆立って全身を魔力が揺らいでいる。


「リファ、怒るな、抑えて。この程度で怒ってたらこの先持たないよ」

「だって、キース。私こいつ許せない!」

 そこに、女生徒が入って来た。

「なにを騒いでいるのですか?あら、キースにリファーヌじゃありませんか。やっと通えるようになったのですね!うふふ。今日からよろしくお願いします」

 空気を読まないおっとりした美声の持ち主は凄い美人だった。


「はぁ、こちらこそ」

 と言ってから気付いた。

 リリアティナ王女殿下だ・・ってなぜここにいる?てっきり貴族院の方に通っているのかと思っていた。


「ところで、何をもめていたのですか?」

「それは、何でもありません・・」

 アルシオン家を名乗る生徒は気まずそうにそっぽを向いた。

「私にデートをしつこく誘ってきたんです。断ったら家名を出して学院にいられなくしてやるって。それにキースの家を馬鹿にしたんです!」

 リファが眉を吊り上げてその生徒を睨んだ。

「あら、ジクターヌはそんなことを?それは問題ですね」

「いや、それは違うんです。私はそんなことは言っていない!そいつが無礼な口をきくから窘めていただけです」

「無礼はそっちだろ。嫌がるリファーヌに強引に迫っておいて・・」

「分かりました。ジクターヌ、貴方の言動に問題があったと判断します。ここでは皆対等です。王家も貴族も平民も関係ありません。ですが、これだけは言っておきます。この二人に権力や身分を盾に何か強要しようとすれば、貴方は破滅しますよ。この意味わかりますか?」

「・・どうゆう意味ですか?」

「分からなければアルシオン侯にお尋ねなさい」


 その頃にはたくさんの生徒が俺達のやり取りを見守っていた。

 なんか、居心地が悪い。


 ガラッと扉が開いて教師が入って来た。

「お!キースにリファーヌだったな。やっと出てきたか。という事は、向うは無事片付いたんだな。そうか、なるほど。では、皆席に座りなさい」

 何やら一人納得した教師は30代半ばのイケメンだった。


 でも、俺とリファはどこに座っていいのか分からない。

「キースは窓側の後ろの席だ。リファーヌはその隣に座りなさい」

 先生はそれぞれの席を指さした。


「今日から新たに二人の生徒が加わった。私は、担任のハーニッシュだ。キース、リファーヌ。このクラスは特級クラスだ。ここでは5、6人で一つのチームを作り今後、様々なことに取り組むことになる。君たち以外は全員王族か貴族だ。大変かもしれないが頑張って慣れなさい。また、分からないことはチームメンバーに聞く様に。では、キース。君から自己紹介をしなさい」


 俺は立ち上がって、皆を見た。甘えた顔の坊ちゃん嬢ちゃんばかりだ。

 俺、やっていけるかな・・

 無理かもな・・


「えっと、キース・ロブ・クリフロードです。数年前に領は滅びましたが俺は生き残りました。今は冒険者をしています。いずれ領を再興しようと思ってます。これから魔術を学ぶ仲間としてよろしくお願いします」

 続いてリファーヌが席を立った。

「私は、リファーヌ・ザビオン。バルバドール王国出身です。キースと一緒に冒険者をしています。皆さん仲良くしてくれると嬉しいです」


「彼らは優秀な冒険者だ。先日まで騎士団のオファーを受けていて入学が遅れた。魔法の実力はピカ一だ。皆も色々教えてもらうと良い。それでは、授業を始めよう」

 授業の内容は、魔法の基礎理論だった。

 この辺りは傭兵見習い時代にベルナルデから教わっている。

 あまりに退屈で欠伸が出てしまった。


 座学は午前のみ。

 昼に1時間の昼食を挟む。

 そこで俺は王女からチームメンバーを紹介された。


 リリアティナ=ジルべリア第一王女

 ナタリーゼ=エルバーグ侯爵家令嬢

 デューイ=ヒルブライド侯爵家子息

 ウィスカル=インフェリアス伯爵家子息

 それに俺を加えた5人がチームなのだそうだ。


 少し離れた席でリファのチームも食事をしている。

 リファはこっちが気になるらしくチラチラと視線を感じる。

 うつつ抜かさないから大丈夫だよって伝えてあげたい・・

 ていうか、そっちの話に集中しなきゃダメだろ。


 特級クラスは全部で5チーム25人。

 このクラスは、中級以上の魔法を扱える子共ばかりが集められている。

 故に、魔力量の多い上級貴族、それも特に才能に恵まれた者ばかりが集まっているとか。

 その説明だけで、もううんざりしてきた。

 だから、我儘で自尊心の高そうな顔の子共が多い気がしたんだ。

 本当にこの中でやっていけるんだろうか?

 早速リファにちょっかい掛けてきた馬鹿タレがいたし。


 そんな俺の心配を他所に、王女の説明が続く。

 チームではお互いに切磋琢磨しつつ、各種イベントでは行動を共にするのだという。

 例えば、野外訓練とか、武闘大会とか。

 他に研究を共同でしてもいいらしい。

 でも、イベント以外は強制されるものではないから好きにしていいと。

 ちょっとほっとした。


「それで、キース。あなたはこの学院で何をしたいのかしら?」

 ニコニコ顔で突然そんな質問されても困る。

 何も考えてなかった。

 でもまぁ、そうだな・・

「色々あるけど、まずは死なない程度に強くなる。それから魔道具の作り方を覚えたい・・です」

 うっかり、タメ語で応えてしまった。

 その瞬間に、デユーイとかいう侯爵家の男児から睨まれた。

「あら、あなたは既に強いではないですか。まだ足りないのかしら?」

「はい、今のままでは生き残れない。そう思います」


 魔人族のキトリは強かった。

 キトリがギルド認定のランクA上位ぐらいと仮定して、戦闘部族とやらはどれ程強いのか?

 普通に考えればランクS以上だ。

 そいつらがいずれ攻めてくる。

 その時が来たら王国軍から協力要請が来るに決まっているし、俺達は絶対に戦う事になる。

 だから、俺はもっともっと強くなる必要がある。

 でないと、俺もろともリファが死んでしまう。


 少し思考に耽って真剣な顔つきになってしまったらしい。

「急にそんな怖い顔をして、誰か倒さなければいけない相手でもいるのですか?」

「え?あ、はい。詳しいことは言えません。ですが、必ず大きな戦いが起きると思います。皆さんも備えておくといいですよ」

「・・・・」

「おい!リリアティナを怖がらせるなよ!」

 またデューイに睨まれた。


 学院内では敬称呼びはしない原則となっている。

 だから同じ教室ともなれば、王女と言えど皆から呼び捨てにされたりもする。

 上級生や明らかな身分差がある場合はその限りでもないらしいけど、このクラス内では全員呼び捨てと決められていた。

 平民の俺からすると少し違和感があるけど致し方ない。


「いえ、いいのです。キースがそう言うのならきっと不幸な未来が訪れるのでしょう。何が起きるのか教えてはくださらないのですか?」

「しかるべき時に王国軍が発表するはずです。それ以上は言えません」

「そう。では先ほど言っていた魔道具とは何を作るのですか?」

「まだ何とも。荒唐無稽な発想なので」

「そうですか。では話せるようになったらぜひ教えてくださいね」

 そう言って王女がふわりと笑顔を見せる。

 さすが、王族。笑顔一つに気品が漂っている。

 思わず見とれてしまった。


 そして、その俺に刺すような視線を送るリファ。

 まったく。気品を感じただけでうつつ抜かしたわけじゃないからな!

 と心の中で必死に弁明をした。


 他のメンバーは、もっと上級の魔法を撃てるようになりたいとかそんな感じだった。

 上級貴族であれば、それなりの実力を持つ必要があるらしい。

 まさに名実ともにという奴だ。それで将来的に組織の上位者を目指すのだと。

 なるほど。彼らは何も考えてないようでしっかりと将来を見据えていた。

 今は入学直後という事もあり、それぞれのチームの方向性や、各人の進むべき専攻を検討する期間なのだとか。

 もうしばらくすれば基礎的な座学は終わり、それぞれが自分のテーマに沿った専攻を取って研究なり鍛錬が中心になるという。


 午後は体術や実践魔法を磨き上げる授業になる。

 ここでの実践魔法とは、戦闘で使われる攻撃魔法、防御魔法を言う。

 間違っても生活魔法は含まれない。

 本来は卒業までに中級魔法を使えるようになればいいらしい。

 俺もリファも上級まで使えるから、正直学ばなくてもいいのではと思わないでもない。


「せっかくだ。キースとリファーヌに手本を見せてもらおう」

 魔法練習場の的場を前にして、ハーニッシュ先生からご指名を受けた。

 それで、皆の注目が集まる。中には睨んでくる者もいた。

 侯爵家男児のデューイとか、ジクターヌとかだ。


「得意なものを一つ見せてくれればいい」

「じゃあ、ファイヤーアローを撃ちます」

 俺は一言告げて、的場に向かって立った。

 片手を突き出して・・・

 何か注目されていると意識しちゃう。やりづらくて仕方ない。

「ふぁ、ファイヤーアロー!」

 緊張して思わず噛んでしまった。

 皆さんが長ったらしい詠唱をしてるから、技の名前位は言った方がいいかなと思ったけど、噛むくらいなら言わなきゃよかった。

 俺の後悔をよそに、火矢は1本、それが10本に分裂して的にすっ飛んで見事ヒットし爆炎をあげた。

「おおー!」

 歓声と拍手が起きた。


「私も火魔法をやります!」

 リファが元気に宣言して、「火焔旋風弾!」と叫んだ。

 俺よりサマになっている。

 リファの両手から明らかに高温の炎が渦を巻いて的を襲った。

 俺の旋風弾に炎を纏わせた感じだ。

 ゴーっと風を逆巻くような音を発しているところは赤竜の火焔砲に似ている。

 恐らく、威力は相当なものだ。

『おおおぉー!』

 と俺の時より明らかに周りが騒めいた。


「えへ。どうだった?私の技」

「うん!いつ見ても凄いよ。ちょっとカッコ良かったし。これならランクAの魔物でも一撃じゃないか?」

「えへへへへ」

 照れて笑うリファをジクターヌとかいう馬鹿タレが驚愕の表情で見ていた。


 午後の授業が終わると、担任のハーニッシュに呼び出された。

「君たちは明日から座学に参加しなくてもいい。正直、魔法に関しては教えることはないだろう。君たちが学ぶべきことは王国の地理と歴史、それに貴族のたしなみだ」

 早くも補習の話がやって来たのだった。


 明日から俺達に別の教師が個別指導をしてくれるという。

 期間は覚えるまで。


 夕方、リファと別れて寮へと向かう。

 そこに、一人の少年が取り巻に囲まれて立っていた。

 俺を見ている。

 昨晩大食堂で見かけた大商会のぽっちゃり子息だ。

 関わらないと決めたのに、早くも向こうから絡んできやがった・・


「おい、お前が冒険者のキースか?」

「あぁ。お前は?」

「俺はブリオン商会のエモックだ。商売の話がしたい」

 そう言われて、別館のソファーのある団欒部屋みたいなところへ連れて行かれた。


「お前が風の旅団のリーダーだという事は知っている。ずっと入学してくるのを待っていた。早速だが、我がブリオン商会と専属契約を結ばないか?そっちにもメリットはある」

 そう言うぽっちゃり君は物おじしない目で俺を見た。

 相変わらず貴族の様な尊大な雰囲気がある。貴族階級に憧れているのだろうか。


「俺達は専属契約に興味はない。他を当たってくれ」

 その一言で取り巻きが一斉に睨みつけてきた。

「まだ何も話していないだろ!お前達がギルドに持ち込んだ白エビと赤毛蟹の卵だ。あれを我がブリオン商会が定期的に買い取ってやる。少し色も付けてやる。それだけでひと財産出来る金額だ。ただし、ギルドにはもう卸すな。うちとの専属契約だからな。一介の冒険者には破格の提案のはずだ」

「断るよ」

「なぜだ!何が気に入らない!我がブリオン商会に盾突くとお前達が困ることになるぞ」

「お前のとこに売っても俺達のランクは上がらないだろ。それだけで大きなデメリットだ。それで、その困る事って一体何だ?」


 そこに取り巻きの一人が口を挟んできた。

「お前ブリオン商会を知らないのか?王都では貴族よりも偉いんだぞ!そこに楯突くという事はこの先お前は大勢の貴族や商業ギルド、職人ギルドまで敵に回すということだ。悪いこと言わないからブリオン商会の傘下に入れ。それがお前達の身のためだ」

 親切そうに言っているが、こいつの目が俺を見下している。

 そんな奴らの言いなりになる気はない。


「ふーん。だが断る。俺達、風の旅団はディグリーム将軍が後見人をしてくれている。ついでに冒険者ギルド本部の庇護も受けている。俺達に個別で依頼をしたいならまず将軍かギルドを通してくれ」

「な!将軍だと?」

「あぁ。俺達は王国戦力として認められているんだ。だから貴族や商会が俺達を囲い込もうとすれば罰せられるぞ。それに俺達は受ける依頼は自分で決める。脅し程度で言う事聞かせられると思うなよ」

 そう言って俺は一睨みして席を立ち部屋を出て行った。


 ドアを閉めた直後に、「ふざけるなー!」という声と共にテーブルを叩きつける音が聞こえてきた。

 その程度でブチ切れるとは、まだまだ子供だねっと思いつつ俺はその場を後にした。

 


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