表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/194

メタルアント 2

 俺達はまず地形を把握するために簡単な地図を作ることにした。

 範囲は現在地を起点に北に向かっておよそ50キロルの半円。


 地図が無ければ、仮に巣を見つけても具体的な場所の説明が難しい。

 逆に地図さえあれば、移動日程や進軍ルートなど話が進めやすいからだ。

 王都西の魔境調査を行ったばかりだし、そんなに難しい話でもない。


 昨日のアリアの(あお)りのせいで、リファとまた微妙な関係になってしまった。

 ギクシャクというよりは、俺が勝手に意識しているだけなんだけど。

 リファってとにかく可愛いからさ、見ていて飽きないというかいつまでも見ていたいというか。

 だから、何かと意識がリファに向いてしまう。


 とそんなことを考えつつ、リファを見ているとまたリファと目が合った。

 ニコリ

 ドキン!

 リファと目が合うくらいでこんなドキドキしてたら身が持たないよ。

 俺の心臓はどうしちゃったんだ・・


 内心戸惑いつつ、地図を書き込むことに集中する。

 その作業に二日掛かった。

 地形は、300~500メトル級の低い山の山岳地帯。

 山合もびっしり木が覆い茂っているところもあれば背の高い草に覆われていたり、川が流れていたり沼地になっていたり。

 そこにぽつぽつ岩山が突き出たりしている。

 竜眼で見れば多くの魔物の魔力を感じる。

 姿は見えないし種類も分からないけど、いることは分かる。


 その日の夕方、作成したばかりの地図を見ながらパルマの情報と照らし合わせた。

 どこでメタルアントが目撃されたのか。

 俺達がここに来る前は僅か2匹の目撃情報だった。

 それがこの3日間で更に4匹見つかったそうだ。

 その全部が働き蟻。

 働き蟻は体長1.5メトル弱。強い顎と強酸毒を持っている。

 単体討伐であれば難しくない。


「とにかく魔境には魔物が多すぎて調査どころじゃないようだ。怪我人も増えている。今本部では更に北へ20キロル現地本部を移動しようかという事が検討されているらしい。しかし、それも現実的ではないと思うのだがな。確かな根拠もなくあてずっぽうに動かしてもケガ人が増えるだけと思うのだが・・」

 パルマは軍の苦しい状況を聞かせてくれた。


 俺も上空から探索する難しさを報告した。樹木が茂るばかりで地表が見えないのだ。

 魔力感知を使ってもメタルアントかどうか判別のしようがない。

 メタルアントが好んで巣をつくる場所の情報が欲しい。


「知る限りでは、平原、密林、山岳、岩山、どこにでも作るそうだ。水辺の傍以外はな」

 軍はまったく参考にならない情報しか持っていなかった。

「ともかくだ、魔物の遭遇率が高すぎて調査は難航している。空から見えないというのは分かるが、魔物に遭遇しないで遠隔地へ行ける君達に期待している」

 そう言い残してパルマは去って行った。


「うーん、討伐軍は苦労してるんだね。でもさ、おかしいよね。だってそこら中に魔物がいるなら何でその辺をウロウロしてたんだろ。もっと巣の近くで獲物取ればいいのに」

 リファの疑問はもっともだ。


「魔物が多い理由は、もしかしたらメタルアントの巣が出来たしわ寄せかも。竜が住み着くと周辺の魔物が一斉に逃げ出すみたいにさ。でもなんでこの辺にアントがいるのか理由がわからないな」


「キース、リファーヌも理由なんていいじゃない。メタルアントの巣が必ずこの辺にある。その事実で十分よ。この辺で目撃された理由は、例えば魔物と戦闘で負けて逃げてきたからとか、もっといい繁殖地を探しているとか、ただ迷って巣に戻れないだけとか、アントにでも聞かなきゃ分からないわよ。ただ、そのはぐれアントを尾行しても巣は見つからないかもね」

 何かアリアが尤もなことを言い出した。

「なるほど。さすがアリア!じゃあ、集団でいるアントを探すのが次の目標だね!」

 そう言う有意義な話を作戦会議でしたかったのに。


「それで私達は明日からどうやって探すの?」

「キース?どうすんの?」

 二人して俺を見る。

「うーん、竜眼でもそれがアントなのか他の魔物かまでは分からないからな」

「そう。竜眼って使いどころが難しいのね。魔力で見るとか感じるってどうゆう状況で使うのよ?」

「そりゃ・・最近は魚の群れを探したけど。あと、湖の中でエビの居場所探ったり」

「魔力のない魚やエビは探せて、魔力のあるメタルアントは探せないの?」

 なんかアリアに責められてる。多分もっと重要な使い方あると思うよ。今は知らないだけで・・

「気配を探るんだ。魚は動きが分かり易かったし、エビは逆に全く動かないで底に留まっていたから分かり易かった」

「魔力の動き方でアントってまでは判別できないのね。ふぅ。じゃ、どうすんのよ」

「アリア、キースの竜眼はきっとすごい力なんだよ。でも、こうゆう捜索には向いてないだけだよ」

「そうね、変なたとえだけど火球を光源にしろって言ってるようなものかもね」

「そうそう、そうだよ。でもキースに任せとけば大丈夫。だってキース、いつも何とかしてきたもん」

 そしてまた二人して俺を見る。

 プレッシャーを掛けられてるみたいだ。


「とりあえず、30キロル付近で適当な場所に下りて辺り一帯を探してみよう。それでだめならさらに奥で探そう。今は他に方法が見つからない」


 そう方針を決めたはいいものの、それから3日間探し回って見つからず、更に60キロル付近まで範囲を広げたけどメタルアントの集団は見つからなかった。


「みつからないね・・」

「不毛な努力をしている感じがするわ」

「同じく・・」



 俺達は何の手掛かりも得られないでいた。

「ねぇ、他に方法ってない?」

「うーん、無いかな」

「キース、魔力視で魔物の多い少ないは分かるんだよね?それなら少ない所を探すってのはどう?巣の周辺はアントに狩られて魔物なんていないんじゃない」

「リファーヌ!それよ!それを探せばきっと見つかるわ!」

「あ。それなら一ケ所あったかも」

『え?あったの?』

「うん。でも、魔物の魔力ばかり追ってたから、つい無視しちゃった」

「キース!」

「ちょっと!しっかりしてよね。まったく・・」

「面目ない・・」

 はぁ。リーダー失格だ。


 しっかり呆れられた翌日、気持ち新たに俺達は空へと飛び上がった。

 確か、初日の昼過ぎ位に通った記憶がある。

 山に囲まれた広い草原みたいな場所だった。

 まったく魔物の気配を感じなくて通り過ぎてしまった場所だった。


「ここだ」

 そこは、北北東に35キロル地点。6キロル×10キロル程の盆地だ。

 足の長い草に覆われていて、ぽつぽつと木が生えている。

 全体的に見晴らしがいい。


「はぁ。ここって探索初期に通った場所よね」

 アリアの俺を見る目が痛い。

「うん」

「しょうがないよ。キースも完璧じゃないんだから。でも、無駄な努力をした分は何かで返してね」

 リファの見る目も痛い。


「あぁ、ごめんって。でも、まだここって決まったわけじゃないから。まずは巣を探そう」

 俺は魔力視を使って地表を探査すると魔力的な反応はあるけど極めて少なかった。

 更に土の中を探ってみた。

 すると、地中に反応をみつけた。

 地表にばかり気を配っていたから俺の魔力視には全く引っ掛からなかったみたいだ。

「うわっ!ウジャウジャいる」

「ほら!やっぱりここじゃない。まさかこんな近くだったなんて。ちょっとショックだわ」

 まだ言うか・・今日もアリアが容赦ない。


「とりあえず焼き払うね」

 リファが巨大な火焔旋風を巻き起こした。

 草原が一気に焼き払われてゆく。

 すると、草陰で見えなかった大きな巣穴がいくつも姿を現した。

 盆地中央部、2キロル四方に固まって20ケほど、3~5メトルサイズの穴が点在している。

 そして、焼かれた大地の上に、ぽつぽつとメタルアントの焼けた死骸が転がっていた。


「あったわね」

「あったね」

「ごめんなさい」

 俺が謝っている傍から、メタルアントが大量に湧きだしてきた。

 攻撃を受けているのだから湧き出てくるのは当然でも、数が凄まじい。

 それを上空から唖然と見ていた。

 いずれあの中に騎士達が突貫してゆくと思うと想像もしたくない。

 騎士の身になって考えると身震いがした。


 少し観察を続けて、俺達は討伐隊拠点に帰還した。

 パルマにメタルアントの巣穴発見を報告するとすぐに副司令官の幕舎へと連れて行かれた。

 自分たちで作った詳細な地図を示しながら巣穴の場所を説明する。

「北北東へ35キロルの盆地か。そこで間違いないのだな?ご苦労だった」

 そう言う副指令の声は掠れ、顔は疲れている。

 酒の飲み過ぎじゃないか?


「で、規模は如何ほどか?」

「魔力視で見た限りでは、地中にウジャウジャいます。巣穴の出入り口は盆地中央付近2キロル四方の範囲にまとまっています。巣の大きさは、よくわかりませんが、少なくとも中央巣穴から4キロル四方くらいは確認できました。深さは分かりません。女王の位置も分かりません。話に聞くメタルアントの巣穴としては規模が小さいようには思います」


「なるほど。そこは救いか。だが・・はぁ。これから俺は部下に死んで来いと命令せねばならんのか」

 副指令は頭を掻きむしった。

 フケが地図の上に落ちる。

「ひっ」

 リファが小さな悲鳴を上げた。


 その夜、パルマが石小屋を訪ねてきた。

 リファ達二人が仲良く風呂に入っている時だった。

 今日は会議でパルマと顔を合わせたから来ないと思っていたのに。


「君達のおかげで随分早く巣が見つかった。礼を言う。我々は数日したら巣穴付近まで移動を開始する。副指令から君達は帰っても良いと伝言だ。おや、アリアたちはいないのか?」

「今風呂に入っています」

「なに?ここには風呂があるのか?」

「え?えぇ。入ります?」

「ぜひ入りたい!」

 食いつきが良すぎて思わずのけ反ってしまった。

「いや、私だけが入れば顰蹙(ひんしゅく)を買う。女性騎士が他にもいるのだが、彼女たちにも入らせてやってはくれないか?」

 真剣な目で頼まれれば断りづらい。けど、そしたら俺達の石小屋にぞろぞろと知らない人が入ってくることになる。

 それは困る。


「それなら別の場所に風呂を作りますよ」

「いいのか?」

「えぇ。大した労力じゃないですから。ただ、二人が出てきてからにしてください」

「いや、助かる。では、場所を検討してこよう。また来る」

 パルマは凄い勢いで帰って行った。


 その後、野営地の外れに俺は大きな石小屋を建て、10人くらいが入れる風呂場を作った。

 パルマはじめ女性陣から感謝され、移動先でも作って欲しいと懇願された。

 笑ってごまかしてその場を去ったけど、あの女性騎士たちもメタルアントの巣に攻め込むのだろうか。

 恐らく皆死ぬのではないか。

 そう考えるとその程度の願いくらいは叶えたやりたくなってしまった。


 数日間休養をした後、討伐軍はメタルアントの巣の近くに移動するという。

 役目を終えた俺達は、セレントの街に寄ってサルファス指令に報告をしてから王都へ帰還した。

 そしてその翌日、王国軍本部のディグリーム将軍を訪ねた。


「ご苦労だった。やはりお前達を遣わして正解だったな。しかし、ここからが大変だ。メタルアントの巣を攻略して女王を殺すまで一体どれほどの犠牲が出ることか・・」

「副指令も随分やつれていました」

「だろうな。あれは優しい男だから辛かろう」

「討伐軍はどうやって女王蟻を殺すんですか?」

「ふむ、まずはできるだけ巣穴の外に誘き出して一匹でも多く殺す。その後巣に兵を送り込む。しかし、それでも女王に届くかは分からない。剣や槍を振り回せるほど広くも無かろう。大勢犠牲が出るだろうな」

「もっと簡単にピンポイントで女王を狙う方法ってないかしら」

 アリアがふとそんな事を口にした。

 あれば、騎士団ですでに検討されてるんじゃないか?

「例えば毒とか?」

 リファも考えている。

「それは我らも考えた。だが、女王に届く前に働き蟻が食って死ぬ。それで気付かれる」

「そっか。エルフの知恵で何かないの?」

「・・遅効性の毒ならあるけど、でも南魔境のずっと深いところにある植物よ」

「一応聞くけどなんて植物?」

「カウリン花って知らない?きつい紫色の花びらで根っこに毒を溜めるのよ」

「あ、私その種持ってるよ」

 リファは収納袋から小瓶の一つを取り出した。

「これよね」

 そう言って種を一粒取り出して魔力を注ぐと手のひらの上で種が芽吹き花を咲かせた。

「おぉ、すごい」

 将軍や側近の騎士までが目を瞬いた。


「リファ、これだと毒が弱い気がする。多分メタルアントは殺せない」

「竜眼か。そんなことまで分かるのだな。ならば遅効性のもっと強い毒はないか?」

「私は毒なんて持ってないよ。薬草ならいっぱいあるけど。これも薬草の一つだし」

「ここは南の魔境と植生が違うから私にも分からないわ」

「よし、宮廷の薬師の意見を聞いてみよう」

 将軍の目配せで側近が一人部屋を出て行った。


 毒と言えば最近ベルシア湖で劇毒の果実を見た。

 あれは美味そうだった。あの大きな島に魔物の姿がなかったのは、あの果実を食べたからかもしれない。モモガリスだけがあの果実を食べても平気なのだろう。

 そんなことをふと思った。

 あれは身体の内部を凍り付かせる毒。

 もしかして遅効性じゃないか?


「ベルシア湖にある島でちょうどいい毒果実があります。内臓を凍らせて死に至らしめる毒で、もしかしたら遅効性かもしれません」


「では、それも毒候補の中に入れよう。だが、それをどうやって女王に食わせるかだな」

「群れ全体を飢えさせれば良いのでは?」

 その発言をしたのは側近の参謀将だった。

「強制的に巣全体を飢餓状態にさせるんです。恐らく巣にはかなりの数のアントがいるはずですから、貯蔵されたエサは数日でなくなります。女王は産卵のために栄養を必要としていますから、頃合いを見て毒入りのエサを放り込んでやれば真っ先に女王の下に運ばれるかと」


「なるほど。だがどうやって巣全体を飢餓状態にするのか」

「それは、全軍を以てエサを運び込むメタルアントを阻止するしかないかと」

「あら、そんなことしなくてもいい方法があるわ。ガマモドキがその島に群生してるの。強烈な魔除け草よ。乾燥させて燃やすだけでいいから、巣の周りにバラまいておけば絶対に出入りできないはずよ。私とリファーヌの風魔法で乾燥させればチョチョイのチョイよ」

「とすると、何日燃やし続けるかだな。それ程の量が採取できればいいが」

「多分大丈夫ね。だっていっぱい茂っていたから」

「ふむ。しかしそんな大量の草をどうやって輸送するんだ?」

「あ、それなら俺の次元収納に幾らでも入ります」

「お前達・・本当に便利だな」

 将軍が呆れ顔だ。


「良かろう。やみくもに突撃して兵を損耗するより余程良い。それで作戦を立て直そう。うむ。希望が見えてきたな。風の旅団、頼りにしているぞ」

 将軍から改めてメタルアントの討伐を依頼されて俺達は再び野営地へと向かう事になった。



 2日ぶりの討伐軍駐屯地は何も変わっていなかった。

 副司令官が将軍からの書簡を読んだ途端、大きく目が開かれて喜びを爆発させた。

「これで部下を死地に向かわせずに済む!おぉ!何と素晴らしい作戦か!」

 俺達がいるというのに涙を流さんばかりに喜んでいる。


「君達の全面協力が必要だな。済まぬが頼む!我らもできる限りのことをさせてもらう。何でも言ってくれ」

 この副司令官は偉ぶらないし、身形もだらしないからお偉いさんに見えない。

 冒険者であるとか子供だからと以前馬鹿にしてきたどこかのバカ騎士団長にこの人を見習わせてやりたい。


 リファも同じことを思ったらしい。

「副指令はあまり威張らないのですね。今までの方は威張り散らしていたからちょっと調子が狂います」

「おや、威張り散らした方が良かったかい?でも私は元がしがない男爵家でね。威張ることに慣れないし嫌いなんだ」

「そうですか。威張られるよりはこっちの方が全然いいです。協力するのも気合が入りますから」

「そうかい?君達に威張った人物はと・・あれか。ロゼムのブフカルク団長だね。彼はもう騎士ではない。何でも横領が発覚して身分剥奪の上、今は鉱山で強制労働させられてるそうだよ」

『え!そうなんですか?』


 衝撃のニュースだった。

 あの、ひん曲がった口で「功績は個人でなく騎士団のものだ」とか言ってたくせに、結局は自分の懐に入れてやがった。

 今思い出しても腹の立つ奴だ。

「あぁ。まったくひどい男が軍にいたもんだ。それも騎士団長とは、呆れてしまう。あ!これは軍内部の極秘事項だ。君たちがあまりに良い知らせを持って来てくれたせいで、つい気が緩んでしまったようだ。ゴホン、今の話は聞かなかったことにしてくれたまえ」


 この情報は個人的にスッキリした。

 やっぱり悪い奴は自滅するんだ。

 ちゃんと見てくれている人はいる。

 とにかく、あの騎士団長が罰を受けたことが俺は嬉しかった。


 翌日、ベルシア湖に浮かぶ島へと向かう。

 島の存在も知られていないらしく、ひとまずベルシア島と呼ぶことになった。

 そのベルシア島は位置もよく分かっていないこともあって辿り着くのに丸二日を要した。

 早速、岸辺に生い茂るガマモドキを採取する。

 欲しい部分は水面から飛び出している茎の様な穂の部分。

 赤黒の長い穂先は中にびっしりと胞子の粒が詰まっている。

 それを燃やすと独特な匂いがするらしくそれを魔物は嫌うというのだ。


 アリアが水面ギリギリに風刃を飛ばすと、バサバサバサッと茎と切り落とされた。

 水流を使って岸辺に寄せて拾うのだが、これが中々な大変だった。

 途中、グレートアリゲーターが襲ってきた。

 魔力視で見えていたから事なきを得たけど、邪魔されて作業が止まってしまった。

 やっぱり、リドルがやっていたように湖面を凍らせてから伐採するのが正解らしい。

 数を集めるという事で苦労したけど、目に入る一帯のガマモドキの穂を9割方刈り尽くした。

 1割残したのは絶滅させないためだ。

 ただ、島の沿岸至るところに生えているし、根っこを引っこ抜いたわけではないから無用な気遣いの様な気もするけど。

 それをすべて次元収納に放り込む。

 次に、白い毒の実を採れるだけ採集した。

 こっちは風魔法でリファとアリアがホイホイ収穫してゆく。

 香りが良くとても美味そうで思わず食べたくなるのを堪えて収納していった。


 4日間の作業と往復4日の移動を経て、野営地に戻ると騎士団の人数が倍増していた。

 パルマの話では既に一千人規模で巣穴の傍に部隊が出動したという。

 その上で新たに二千人がここに派遣されてきたという。

 更に更に、何と今の倍の兵力がこの後移動してくる予定なのだとか。

 そしてこの計画の如何によっては、予備兵力3万人がセレントの街に集結する予定なのだそうだ。

 なんか大ごとになって来た。

 どれ程の犠牲を出してもメタルアントを討伐するという王国軍の本気度が見てとれる。


 計画が上手く行かなかった場合、当初の予定通り正面から巣穴を攻略することになる。

 その為の動員という事の様だ。


 頑張らねば・・計画の如何によっては何万人もの兵士が犠牲になる可能性がある。

 俺はパルマの話を聞いて気を引きしめた。


 俺達は採集の際に襲ってきたグレートアリゲーターと赤毛蟹をパルマを通して討伐軍に提供することにした。

 クレートアリゲーターは白身の弾力ある肉質が食い応えがある。野営食に飽きた騎士や兵士達には喜ばれると思ったのだ。

 赤毛蟹は気になって食べてみたらこれがとんでもなく美味しかった。煮ても焼いてもいい感じでプリップリの蟹身と濃厚な蟹ミソが堪らない。

 疲れ切った副指令とお世話係のパルマへのお土産のつもりだったが、上級士官から非常に喜ばれてしまった。

 二千人の分量には少なすぎたけど、指揮官クラスには行き渡ったらしくとても喜んでもらえた。

 因みに、意図したわけではなかったけど蟹ミソは酒のつまみに合ったらしい。

 メルボンド副指令の酒が大いに進んだとかなんとか。

 翌朝そんな話をパルマからちらっと聞いた。



 さて、肝心のガマモドキを加工しなければいけない。

 燃やす部分はしっかり乾燥させる。

 でもそれだけでは、1時間と掛けず燃えつきてしまう。

 たくさん刈り取っては来たけど、もっと長時間維持できる工夫が必要に思えた。

 でなければ採集量と乾燥の手間が膨大過ぎてとてもじゃないけどやってられない。

 そこで俺の発案で蠟燭(ろうそく)の様に加工することにした。


 丸太を繰り抜いて、その中に王都から手配してもらった蝋と乾燥して細かく砕いたガマモドキを混ぜて溶かして流し込む。

 冷えたらブロック状の固形物を取り出す。それだけだ。

 燃やせば中々強烈な匂いの赤黒い煙がモクモク立ち上がった。

 試しにそのガマ入りブロックを巣穴近くをうろついていた働き蟻に仕掛けてみた。

 すると、そのメタルアントは脱兎のごとく逃げ出した。

 時間も5時間ほど燃え続けることを確認して、検証を終了。

 副司令官に報告した。


 次に、白い果実の検証をした。

 アントを一匹、落とし穴で捕まえて逃げられない様に石壁で囲む。

 白い果実を一欠片落とすとすぐに食いついて、翌日になって死んだ事を確認した。

 解体すると、氷の結晶の様なものが内臓を覆っていた。

 これで1日の遅効性が確認できた。

 それだけあれば十分なはずだ。

 こっちも満足な結果になった。

 魔術師団から提供を受けた遅効性の毒物もフルに使用して毒エサを大量に準備することになった。


 ちょうどそのタイミングで新たに3千人の兵が駐屯地に到着した。

 早速その戦力も活用する。

 ガマ入りブロックは作製が手間なので、騎士団に任せた。

 リファとアリアがやり方を教えただけで、全員がキビキビシャキシャキと動き出した。

 軍隊式の生産方法はすごい。

 ガマ入りブロックがどんどん積み上がってゆく。

 それを俺は収納してゆく。

 でも材料が足らなくなってすぐに調達に出かけることになった。


 時に蝋を調達しに王都の軍倉庫へ行き、ガマモドキを大量に採取しにベルシア島へも飛んでゆく。

 でもそこに騎士も兵もいない・・

 このガマモドキの採集にこそ王国軍に手伝ってほしかった。

 俺達だけで動くからその作業で1週間もかかってしまった。

 帰ってみれば大量のブロックと魔物の死骸が積み上がっている。

 採集したガマモドキと白い果実、それに蝋を渡してまた作業が始まる。

 出来上がったものを俺は収納してゆく。

 そうしてメタルアント討伐準備は着々と進んでいった。


 考えてみれば、あと1週間で学院が始まる。

 俺達は王令で騎士団に協力しているわけだから、入学に間に合わなくても仕方ない。

 一応、将軍から学院側に事情を説明してもらう様、伝令鳥を飛ばして頼んでおいた。


 ようやく全ての準備が整った。

 メタルアントの巣の南方5キロル地点に拠点も出来た。

 ガマ入りブロックも数を揃えたし、大勢の騎士が巣穴を囲むように山の中に潜んでいる。

 彼らはガマモドキのかけらを携帯しているから、魔物に出会っても避けられる筈だ。

 それに、腹の中に毒の実を仕込んだ魔物も十二分に用意した。


 後は、作戦開始の合図を待つだけとなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ