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リファの想い

 女性陣が勝手に盛り上がる中、俺達もお互いの情報を交換することにした。

 ロッゾは大剣使いの前衛、狼獣人ボルガはナックル拳、バッファは盾と斧を使う。ベルは斥候、セシルが弓と魔法の後衛職なのだそうだ。

 少し前衛職に偏り過ぎている感があるけど、それぞれがランクに相応しい実力を持っていると分かる。


 長年、ディグリーム領のケルンダンジョンに潜っていて2年前に王都そばにあるこのミザリックダンジョンにやって来た。


「それで空ってどうやって飛ぶんだ?俺達でも飛べるのか?」

 目を輝かせてロッゾが聞いてきた。どうやらロッゾは空を飛んでみたいらしい。

「いや、風魔法を使えないと無理だよ」

 というと、ロッゾもバッファもボルガさえも目に見えてガックリしている。


 俺は、他にも飛べる奴はいると思っていた。でも、実際はいないらしい。

 だとしたら、風の旅団は超特殊技能集団で珍しいことこの上ない。

 こうして強者達から質問攻めにされるのも分かる気がしてきた。


「じゃあ、屍竜討伐の話を聞かせてくれ」

 国王も王子もこのロッゾも聞きたいことは皆同じらしい。

 どうせすぐ隣で女子会開催中だし、俺も今日の依頼は諦めてじっくりボトムスヘブンに付き合うことにした。


 気付けば、アリアとセシルは酒を飲み始めている。

 それを見てロッゾとベルも飲み始めてグダグダになって結局、俺とリファ以外は皆飲み始めてしまった。


 まったく・・なんだかなぁ。

 でも、こんな嬉しそうなアリアは初めてだしセシルに会えたことは良かったと思う。

 いずれ機会があったら一緒に冒険しようと約束までした。

 ロッゾ始めボトムスヘブンのメンバーとはいい関係を築くことができたと思う。


 翌日、朝からギルドに行って今度こそ依頼を受けた。

 受けた依頼は西エリアの魔境奥地の調査と地図作成。

 もう一つは現在分かっているオーガ集落3か所の監視調査だ。

 魔境調査は、未踏地帯の地形の把握と、新たな脅威や資源の発見を目的として長いこと掲示板に張り出されていたもののようだ。

 報酬 金貨40枚プラス出来高


 それから、オーガ集落の監視については危険な個体が生まれていないかを確認する目的がある。

 ごくたまにオーガキングみたいな強力な個体が生まれることが知られている。

 現在の脅威度を知るために定期的な調査が行われているらしい。

 報酬 金貨35枚


 どちらも長期間危険な魔境に入り浸る必要がある事から不人気かつ高額の依頼となっていた。

 ただ、俺達にとっては美味しい依頼だ。

 早朝、王都西門を飛び立って一路西へと向かう。

 20キロルの草原地帯を挟んですぐに魔境が見えてきた。

 眼下に魔境へ向かう冒険者たちが見える。


 西側の魔境は低い山岳地帯のようで起伏ある密林が延々と続いている。

 魔素も濃いし、竜の恩恵で魔力に変換できる俺達は大して疲れることなく指定地域へ到着した。

 魔境に入って凡そ200キロルの地点。

 これからオーガ集落を探す。地図を貰っていたから地形の把握はすぐにできた。

 陽が傾く頃、一つ目の集落が見つかり適当な岩場に潜んで様子を確認することにした。


 その集落は5つの家屋があった。

 石と木と泥土を上手く組んでそれなりの家屋になっている。

 と言っても大きめの小屋に毛が生えた程度だけれど。

 古代竜の力を譲り受けた俺は遠視が使える。その能力が子供のオーガを捉えていた。


「感じる魔力は全部で5。内3つは子供だな。デビルオーガの様な脅威は全く感じない。おそらく狩りに出ているオーガもいるから今日はここで野営をしよう」


 ササっと小屋を建てて、周りを石壁で囲った。

 久々の魔境での野営だ。そのまま夜を待つ。

 ぽつぽつと戻って来るオーガを確認しながらその魔力を確認していった。

 結局確認できたのは15匹。

 戻って来たオーガの中にジェネラルクラスが1匹。他に特別強いタイプはいなかった。

 ただ、斧や剣といった武器を持っていた。

 これで一つの集落の観察は終わり。次を目指す。


 南西に凡そ120キロル。

 二つ目の集落は少し大きいけど、大した規模という程ではなかった。

 家屋の数だけ確認をして南南東150キロルを飛んだ。


 その日は3つ目の集落付近に野営した。

 家屋数6、計26匹、うちジェネラルクラス1、メイジ1、通常個体24。

 深夜、俺達は闇に紛れてその集落へ向かった。

 そっと集落傍の大木に身を潜めて中を伺う。


 ここでも狩りから戻って来た個体は皆武器を持っていた。

 それが気になったのだ。

 集落裏は切り立った崖になっていて、2匹が夜番で警戒をしている。

 そいつらもしっかり大剣を持っている。


 俺達は崖の上から音を立てない様に集落内に降り立った。

 アリアが風を吹かせて俺達の匂いを上空に流してくれている。

 家屋は頑丈だけど、隙間だらけで雑な造りだった。

 そっと覗けば、床板もない土間に毛皮を敷いただけの寝床で5匹が眠っている。

 家具はなく壺や器が部屋の隅に転がっているだけだった。

 そして臭い。イビキもうるさい。


 次の家屋を覗きこむ。

 そこも全く変わり映えしない光景で、俺達は全ての建物を確認して小屋に戻った。

 結局、武器の出所は分からなかった。


 翌日、遠目にごつい斧と剣を提げた2個体をつけ回して戦闘を仕掛けることにした。

 ここはアリアに任せる。


「ブリザードアタック!」

 アリアの新技が炸裂した。

 氷結魔法というべきか。雪と氷の混ざった暴風が2匹を襲い、ものの数秒で凍らせてしまった。

「どう?私の新技。なかなかのものでしょ」

 ドヤ顔でアリアが鼻を鳴らした。

「凄ーい!アリアってやっぱり魔法の天才!」

 リファが拍手までするからアリアが胸を張ってエッヘン見たいな感じになっている。

「うん、さすがアリアだ。クールでかっこいい技じゃん!それに瞬殺だし見事だった」

 俺も褒めちぎる。

 実際凄い技だったし。不意打ちとはいえ素材を傷めず、オーガ2匹を秒殺は凄い。

 アリアはちょっと照れたような、でもすごく嬉しそうだ。


 ひとしきりアリアを褒めて、俺達は武器を確認した。

 どう見ても、人族の作った武器には思えない。

 理由は武骨すぎる。

 剣も斧も柄は皮を剥いだ枝そのもの。

 刃は金属で研ぎが甘い。それに、形も歪だ。

 ただし、重量があって頑丈そのものという感じがする。


「キースどう思う?」

「まるでオーガが自作したみたいだ」

「そうね、確かに。でもそんな事ってあるのかしら」

 今まで見た3つの集落で鍛冶を行うようなところはなかった。

 これは、この武器を持ち帰って報告する必要がある。


 そう話をまとめて、俺達は2つ目の集落に戻った。

 夕方には野営を始めて監視作業に入った。

 そこでも集落に戻るオーガは武器を携えていた。

「どうゆう事?」

「なんか嫌な予感がするわ。もっと大規模な集落がどこかにあるんじゃないかしら」

「うん。この後地形確認をするときに探してみよう」


 家屋16 個体数計39 ゼネラルクラス2、メイジ4、通常個体35。

 ここで鍛冶を行っている様子もない。

 それだけ確認をして、オーガ集落の調査をいったん終了した。



 翌日、魔境調査の為に、更に西へ向けて飛び立った。

 ギルドでは、200~250キロル地点までを把握している。

 その向こうは更に険しい山岳地帯となるため調査が行えなかったという話だった。


 ただ、魔境の250キロルと言えば人族には厳しくとも、魔物にとってはその限りではない。

 個体によっては一日で100キロルを移動することがあっておかしくはないというのが通説だ。

 であれば僅か3日で王都まで押し寄せることが可能になってしまう。

 だからギルドは魔境の奥深くに潜む危険な種族に監視の目を光らせたいのだろう。


 俺達は、互いに豆粒に見える距離間で指定された一帯の上空を飛びまわった。

 その作業にも危険はあった。

 どこかから現れたワイバーンにリファが突然襲われたのだ。


 ゲエェェー

 久しぶりに聞いた苛つく声に振り返った時、リファはワイバーンの突撃を躱した所だった。

 何事もなく順調に進んでいたから油断していた。


「リファ!」「リファーヌ!」

 すぐに俺とアリアはリファの元へ向かった。

「大丈夫か!?」

「平気!キース、こいつ私にやらせて!」

 リファが大きな声で応えた。

 リファは風と火の適性がある。

 そしてそれはワイバーンも同じだ。ワイバーンに風魔法は全く効かない。

 風魔法が避けられてしまうのは以前エルフ族の勇者の試練で俺が実体験している。

 リファとは相性が悪いのだ。


 リファもそれくらい知っている筈なのに。

「大丈夫!私に任せて!」

 やたら自信満々の返事が返って来た。

「アリア!俺達はフォローできるように準備だけしてリファに任せよう」

「了解」


 ゲエェェー

 体長5メトルの巨体がリファの後を追う。

 それを俺とアリアは距離を取って見守った。

 気が気じゃないんだけど!!すぐに助けに入りたい!

 そんな思いをグッとこらえてリファを信じる。


 ガバっと大きな口を開けてリファを食おうとするワイバーン。

 それをヒラリと躱して嘲笑うかのように蛇行して急旋回してと焦らしている。

 かなりきわどいタイミングでリファが躱す。

 風の操作に長けたリファだからこその芸当だけどとても見てられない。

 引き付けて引き付けて、寸前で避けてまた引き付けて。

 リファからは攻撃を一切しないし、何を考えているのか分からない。

 焦れたワイバーンの怒りが伝わってくる。

 それをリファがヒラリと躱した。ガチンと歯が鳴る音が聞こえてきた。


 散々焦らしてリファはいつの間にか上空高く誘導し、高高度から一気に真下へ落下を始めた。

 ワイバーンがすぐ後ろに迫った時、リファから大きな網が放たれた。

 それはリファの魔力で広がった蔦の網。

 ほんの一瞬の出来事だった。


 その網に絡まると勢いそのままに落下してワイバーンは地面に激突した。

 俺とアリアは急な展開に唖然とした。

 リファには冷や冷やさせられたけど、終わってみれば相性の悪い相手に余裕の圧勝だった。

 落ちたワイバーンの元に下りると、やはり大きい。見事な成体だ。

 エウロの里だったら今日はお祭りになっていた筈だ。


 そこにニコニコ顔のリファがススーっと寄って来てどや顔をする。

「どうだった?私でもワイバーン単独討伐できたよ!エへへ」

 誉めて誉めて!と顔に書いてある。


「やっぱりリファーヌは凄いわ!焦らせて怒らせて完全に誘い込んでからあの決め技は避けられないわよ。ちょっとハラハラしたけど、それも作戦だったのよね。すごい戦いだったわ!」

 興奮するアリアにリファが照れながらも満面の笑みを浮かべている。


「うん、確かに凄かった。でも、すごく冷や冷やしたよ。俺は心配で仕方なかった。他にも討伐方法があるんだから、二度とあんな危険なことはしないで欲しい」

 本気で心配したから、褒めるよりも文句になってしまった。


 すると、俺が話す傍からリファの顔から笑みが消えて不満の色が出てきた。

「なによ!アリアの時はあんなに褒めたのに、何で私には文句ばっかり言うの!」

 顔を真っ赤にして俺を睨んで、プイッとそっぽを向いてしまった。


 リファが俺に褒められたいって気持ちは分かっている。

 でも、ほんの少しミスがあれば食われてもおかしくなかった。

 それ程ギリギリの攻防だったんだ。

「リファ。リファが頑張ってたのは知ってたけど、ここまで草魔法が上達していたとは知らなかった。あんな余裕のない状況で何本もの蔦を編んで網にしてさ。本当に凄いと思ってる。でも・・」


「でもじゃない!!」

 でも、と口にしたとたんに怒鳴られた。拳を握って、リファが俺を睨みつける。


「キースが無茶ばっかしていつも死にかけるから私必死で頑張ったんじゃない!屍竜の時、キースは私に何て言ったか憶えてる?飛んでる竜を草魔法で何とか落とせないか?ってそう言ったのよ!でもあの時の私はそんなことできなかった。見ていることしかできなかったの!私が未熟なせいでキースが死ぬとこだったの!だから飛んでる竜でも落とせるようにこの技を頑張って練習したの!もう二度とキースをあんな目に合わせないために。それなのにキースひどい!うぅ~・・」

 リファが肩を震わせて泣いている。

 その姿がとてもいたたまれない。

 でも、それ以上にリファがあの時のことに責任を感じていたことに驚いた。


「リファ、ごめん。そこまでリファが気負ってたなんて知らなかった」

 リファが顔を背けて、俺に背中を向けてしまった。

「キースはいつもそう・・自分は平気で命を賭けて死にかけて・・私は全くついて行けなくて死にそうなキースに死なないでって祈る事しかできない・・グリフォンの時だって私何にもできなかった!もうそんなの嫌!キースが命を賭けても私がフォローして、最後にキースには無事でいて欲しい!そのためなら危険なことでも何でもする!私は・・私は・・キースに死んでほしくない!私の力が足りないせいでキースを失いたくない・・私・・独りぼっちになりたくない!」


 リファは抑えきれない感情を必死に耐えてるみたいだ。

 なんて声を掛ければいいのか分からない。

 リファが無茶をしたのは、全部俺のせいだった・・


 そんな俺にアリアがジェスチャーをしてくる。

 言葉にできないから抱きしめる仕草と口を尖らせて、何か伝えようとしてくる。

 抱きしめてやれと?ギュー?チュー?どっち!?


 リファは俺に背を向けてシクシク泣いている。

 身振りで早く!とアリアに急かされて、俺は後ろからリファの肩をそっと抱きしめた。

 ギューなのかチューなのか分かんないから、リファの頭に唇を押し付けた。

 ピクリとリファが固まったのが分かった。

 少し汗臭い、でもいつものリファの匂いが鼻腔をくすぐる。

 俺はいつの間にかリファより少し背が高くなっていた。

 そんなことも気づかなかった。


「リファ、ありがと。リファがそこまで思い詰めてたなんて知らなかった。俺、馬鹿だな。いつも一緒にいるのにリファの考えてること分かってなかった。ごめん・・」

 リファの細い肩が震えている。

 それから、感極まったように俺の方に向き直ると、俺の鎖骨におでこをゴツンとぶつけてきた。

 痛っ!

「バカバカバカ!キースのバカー!」

 そう言って俺にしがみついて「うわーん」と泣き出してしまった。

 俺は黙ってリファの頭を撫で続けた。


 どれ程かして、顔をくしゃくしゃにしたリファが俺から離れた。

「キースはずるい・・私、本気で怒ったのにそんな風にされたらもう怒れないじゃん」

 凄い不満顔で、少し赤い頬を膨らませて睨まれた。


「リファーヌ、男なんていつだって女心を理解してないものよ。そこに期待しちゃダメ。でも言いたいこと言ったらすっきりしたでしょ?さ、ここは魔境の奥地で危ないんだから、もうここから立ち去りましょ。キースは早くそのワイバーンを収納して。リファーヌは顔を洗いなさい。すぐに飛び立つわよ」

 アリアが水を出してリファがパシャパシャと顔を洗った。

 俺は言われた通りワイバーンを次元収納する。


 そして俺達はすぐに飛びたった。

 また、地形調査を再開する。

 でも、ギクシャクしてるし、俺は集中できない。

 リファの思いがずっと胸に響きっぱなしだった。


 その夜、野営の焚火をリファはずっと見つめていた。

 俺はどう声を掛けていいか分からない。

 アリアは、長風呂から出てこやしない・・

 気まずい・・


「キース、さっきはごめん。少し言い過ぎた。でも分かってほしかったの。キースはきっとまた命懸けで無茶をする。その時に後悔したくないの。だから私、もっともっと強くなる。今日以上に危険なことだってするから」

 リファは炎から目を離さない。

「・・うん」


 リファは、本当に心が強い。

 いつも俺だけを見て、赤裸々に想いを告げて、危険も顧みない。

 俺に何かあれば、リファはためらうことなく後を追ってくる。それが分かってしまう。

 だから、俺が強くならないと・・

 俺の命はリファの命でもあるのだから。


「はぁ。アリアお風呂遅いな。もぅ、気を利かせすぎ・・」

 呟いて、リファは腰を上げて小屋の奥へと入って行った。


 そんな事のあった翌日も調査は続いた。

 俺達は言葉少なに地形を確認して帳面にまとめて行く。

 見れば見るほど険しい山岳地帯だ。


 ワイバーンの営巣地も見つけた。

 新たなオーガの大規模集落に、湖、岩石地帯、怪しい洞窟、それに古代遺跡。

 色々と見つかって、この一帯は危険と謎に満ちた興味深い場所という事が判明した。


 足かけ5日間の調査を終えて俺達は西ギルドへと帰還した。

 ギルドでは報告書を精査したうえで支払いは後日になるという。

 オーガから奪った剣と斧もしっかり提出した。

 討伐したワイバーンを解体場に出すと職員が騒ぎ出した。

 それを聞きつけた冒険者が集まってきて余計に騒ぎをでかくする。

 止めてくれよ!と心の中で叫びつつ、俺達は足早にその場を離れた。


 ワイバーンの素材持ち込みはそれ程珍しいことではない。

 ランクBだし取れる素材が多く、報酬も高額だから狙う冒険者は多い。

 超絶品の胸肉は当然、全身の肉が食用だし、皮膜は装飾用、鱗皮は防具、爪と嘴は武器にも日用品にも幅広く使える。火焔袋や内臓は魔道具や薬剤の貴重な素材になる。

 そんなわけで、人気の魔物なのだ。

 ただ、丸々一体を持ち込む者は皆無だ。

 5メトルの巨体を魔境の奥から簡単に持ち帰れるものじゃない。

 

 騒がれた後、リファがすぐに次の依頼を受けたいと言い出した。

 今度は、ベルシア湖という王都北西150キロル先に広がる巨大湖での採集だ。

 王国領から緩衝地帯の草原を抜けてさらに魔境深くまで広がる大きな湖がある。

 そこで赤毛蟹の卵と白エビを捕まえる。


 アリアは少し休みたそうにしていたけど、もう少ししたら俺達は学院が始まる。

 そうなれば簡単に依頼も受けられない。

 王都の滞在費を今の内に稼ぐだけ稼いでアリアがお金に困らない様にしてやりたい。

 採集対象の詳しい情報を求めて資料室に寄った後、肉球亭に戻った。


 翌日、早朝に出発して昼にはベルシア湖上空を飛んでいた。

 昼、真っ青な湖面が全周囲広がって陸地が全く見えない。

 でか過ぎるだろ!

 でかいとは聞いていたけどここまでとは思わなかった。

 魔力切れは心配ないけど、休息が取れないから体力的に厳しい。

 アリアとリファに疲れが見えて焦り始めた頃、やっと陸地が見えた。


 さすがに採集は明日にして、ゆっくり休むために土小屋を造った。

 薪を拾うために少し歩くと、随分と植生が変わっている。

 竜眼で見ると、その一帯に生えている草が薬効の高い解毒剤で、その傍の木の実は猛毒であると分かった。

 どちらも初めて見る植物だ。

 その青白い木の実は食べると体の内部を凍り付かせてしまうらしい。

 でも、見た目は凄く美味しそうで、思わず齧りたくなる。そんな木の実だ。

 リファとアリアに絶対この木の実は食べない様に伝える。


 夜、月が上がると湖面の波にキラキラと反射した。

 食事の後、俺達は3人並んでその幻想的な景色に魅入っている。


「ねえ、リファーヌはキースを許してあげたんでしょ?」

 ぶっ、ちょっと!アリア、なんて話題をぶっこんでくるんだ!

「うん。とっくに許してるよ」

 リファはアリアのとんでもない質問に、いたって普通に答えた。

「じゃあ何でいまだにキースとギクシャクしてるのよ」

 アリア・・頼むからもう止めてくれ。

 俺は居た堪れない。そんな俺にリファがいつもの口調で聞いてくる。

「うーん・・わかんない。キースなんで?」

「えぇ?・・ギクシャクなんてしてないよ」

「してるわよ!早く仲直りしてくれない?」

 アリアが容赦ない。そんな事言われたら余計にギクシャクしちゃうじゃないか。


「もう、しょうがないなぁ。キース!リファーヌの手を握ってあげなさい。リファーヌはもう少しキースの傍に寄りなさいよ。せっかくこんなロマンティックな状況なのにギクシャクしてたら勿体ないわ!ほらほら、早くする!」

 アリアが何故か仕切り出した。


 俺の差し出した手をリファが握るとリファがピタッとくっついてきた。

 何でだろ、ドキドキする。

 リファと手を握る位なんでもないのに・・

 リファの手のひらが異様に熱い。いや、俺の手が熱いのか。

 とにかく、ドキドキする。なんか、変だ。

 これは一体なんなんだ!


「暫く二人はそうしてなさい。そうすれば嫌でも明日からはいい雰囲気になってるから」

 そしてアリアはどこかへ行ってしまった。

 俺は、前にアンナとベックが星を見に出かけて行った翌日、やけに距離感が近づいていたことを思いだした。

 もう随分前の記憶だ。あの翌日から二人が桃色オーラを出していた。

 俺とリファもそうなってしまうのだろうか・・

 それはそれで不安なんだけど・・俺達のせいで周りの人の歯を浮かせてしまうかもしれない。


「ねぇ、キース。お願いがあるの」

「うん?」

「ほっぺにチューして」

 ・・・なぜに?

 でも、断るとかそういう雰囲気じゃない。ウダウダ言うのもまずい気がする。

 ドキドキが止まらない。

 今日のリファは特別可愛く思えてしまう。

 大きく深呼吸をして、息を止めて、俺はリファのホッペにそっと口づけた。

 リファが「えへ」と笑って俺の肩に頭を乗せてきた。

 服越しにリファの体温が気になって仕方ない。

 俺は一人ドキドキして落ち着かない。

 幻想的な景色なんて魅入ってる場合じゃない。

 でもリファはいたって普通に俺に寄り添っている。


 そして、しばらくの間、俺達は湖岸に寄せる波音に耳を傾けたのだった。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

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この後も新たな展開が続きます。

どうぞ、お楽しみください。

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