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クリフの民

 俺達はクリフロードの屋敷に暫く滞在することにした。


 まだ学院入学まで半年近くはあるし、時間は気にしなくていい。

 早く魔人族の侵攻を王都に報告すべきだけど、遠すぎるから諦めた。

 そもそもそれは、騎士団とか魔術師団の仕事でしょ。


 それよりも、街中に散らばっている人骨を埋葬してあげたかった。

 煤けた瓦礫の下にも壁沿いにも、壁外にもいっぱい骨が転がっている。

 その一つ一つが、あの日生きていて成す術なく死んでいった領民だ。

 それを思うとどうしても放っておけない。


 それから、早いとこどんな力を得たのかを知っておきたかった。

 ここは鍛錬するには良い環境だ。

 魔物は多いし、人はいないし。

 しっかり自分の力量を把握しておかないと土壇場で困ってしまうからさ。


 という事で、先に力の確認だ。

 草原に向かって3人並んで魔法をガンガン撃ってみた。

 どれ程消費すれば、魔力が尽きるのか。

 自分の切り札となる魔法を何発撃てるのか知るのは大事なことだ。

 

 俺は魔力消費の激しい雷魔法を撃ちまくっていたら、「うるさい!」とアリアに怒られた。

 仕方なく浄化付き極大旋風弾を放ち続けた。

 少ないとはいえ魔素が取り込まれるから、中々魔力が減らない。

 さすがに途中で諦めてしまった。

 要するに、ここでは魔力は尽きず、何発でも放てると分かった。


 他に火球や分散型の粘着式火矢を放って、イメージとつぎ込む魔力量の確認をした。

 分かったことは精度が上がり、威力も底上げされている感じがした。

 例えば、火矢一つでも燃焼温度は跳ね上がったし、発動時間も0.0秒に近づいた。

 加えて、分散させたときの数や威力も、複数軌道やその命中精度も自在だ。

 その上で魔力が枯渇しない。

 俺の切り札の雷撃魔法もタメが要らない。しかも連発で放てる。

 

 こうしたレベルアップは3人共通していた。

 これはもう3人そろって大魔法師を名乗ってもいいかもしれない。

 それ程の実感を得た。

 古代竜の加護、恐るべし・・という感じだった。


 確認を続けていく内に新技が出来た。

 岩に向かって拳を突き出す。

 殴るのではなく、拳の先に硬質の魔力を発生させる感じだ。

 拳が対象に当たった瞬間、その硬質の魔力を捻る様に押し込むのだ。

 すると岩の中で内部破壊が起きる。

 これは格闘術にそうした超絶技があるとビオラ師匠から聞いていたけど、これまでできなかった。

 まだ岩の様に動かない物体でしか試せてはいないが、それでも出来るようになったのだ。


 更に身体強化のレベルも上がった。速力や瞬発力、筋力など身体レベルがかなり上がった。

 強化を剣に付与すれば、岩が抵抗なく両断できた。

 その時自分が一段階強くなったことを自覚した。


 リファは、植物に強化魔法を掛けることができるようになった。

 茨蔦をキトリに切り裂かれていたけど、もう無理じゃないか。

 鋼のような硬度を持った柔軟な蔦だ。まず爪如きで断ち切れるとは思えない。

 他にも草魔法のレベルが上がってできることが増えたようだ。

 これから草魔法を使った新技開発に勤しむらしい。

 それに加えて、一度に出せる風刃や火球の数も数倍に増えたそうだ。

 この能力をリファはすごく喜んでいた。

 何でも、いつか俺について行けなくなる日が来るんじゃないかと恐れていたらしい。

 でも、これでリファなりに自信が持てたんだと思う。

 でも、それ以前に俺は古代竜の里へ行くとしても、リファを置いて行く気はないんだけどね。


 アリアはリーフボードで魔力切れがなくなった。

 ついでに、前面に風防を置くことで抵抗を減らして、背後から追い風を当てることでスピードアップが可能になったらしい。

 つまり早く、長く飛べるようになったと。

 これまで魔力量でアリアは劣っていたからすごく喜んだ。

 これで足を引っ張らないで済む!ってそりゃもう大喜びをしていた。

 足を引っ張られていたと思ったことはないけど、本人は気にしていたみたいだ。

 風魔法は元から凄かったけど、弓矢を使うアリアは矢に強化魔法を付与することで威力も上がったし、水魔法も得意な風魔法程に威力が上がったらしい。

 これからは氷魔法の大技を開発すると意気込んでいる。


 ここまでは、竜の加護の影響だ。

 それとは別に、俺に与えられた竜の力に気付いた。


 一つは竜眼だ。

 知りたいことを見るだけで理解することができる。

 例えば、魔力が見える。相手の強さも何となく分かる。

 見て知りたいことは識別できる能力らしい。

 初めて見る木の実を食べれるのか?と思った時に、食べられることを理解した。

 或いは、食べられないけど油が取れるとか。

 虫を見て毒があるとかないとかが分かるし、草を見れば薬草でその効能まで分かる。

 遠視もできるようになって、その方向に魔物がいるのかいないのかも分かる。

 魔力感知眼、識別眼、遠視眼、気配察知眼。俺の目にその能力が宿った。

 気付いていないけど、もしかしたらもっと他の能力もあるかも知れない。

 でも、そんな能力が、果たして古代竜の里へ行くのにどう役に立つのかは不明だ。


 二人に竜眼の話をしたら、アリアが真っ先に胸を隠した。

「まさか透視までできるの?」って。

 できないよ!

 見る気もないよ!

「それって私がペッタンだから見る価値もないってこと!?」

 物凄くきっつい目で睨まれた。

 って、こうゆう時の女の子はめんどくさい。

 ペッタンって言う程でもないけど、ミルケットに比べたらペッタンかなぁ。

 ちなみにリファは、キースが見たいなら・・ってもじもじしていた。

 リファはリファで、そこでもじもじされても困ってしまう。

 見たいなんて言えないし、見たくないと言えば角が立つし・・

 この面倒くさい状況のあしらい方を今すぐベックに聞いてみたい。


 もう一つ分かったのは、空間収納だ。

 以前、アリシアの魔道具の鞄に古代竜の魔石を入れようとして違和感を感じた。

 それが気になっていた。

 そこで違和感が何かを突き詰めた結果、感覚的に空間の把握ができることに気付いた。

 収納鞄と同じものを魔法で再現できる気がした。

 試しに虚空に掌を突き出してそこに魔道具と同じ収納袋があるようにイメージをしてみると、間違いなく見えない空間がある。

 そこに、木の実を入れてみた。すると、手品師の妙技の様にパっと消え失せた。

 もう一度イメージして取り出すことを考えると手に張り付くように出てきた。


「おぉ。なんかすっげえ・・」

 それから色々と入れてみる。

 そして出してみた。

 分かったことは、生物は入らない。というか、入るけどかなり強引に押し込む形だ。

 角兎一匹押し込めるのにバカみたいな魔力を必要とする。

 野兎はちょっと抵抗を感じたけどすんなりと入った。

 どうやら魔力があるかないかで抵抗が全然違うらしい。

 そして取り出した時には死んでいる。


 植物は入る。

 根に着いた土は一緒に入れることもできるし植物だけでも取り込める。

 薬草採取では、根っこ毎で良ければ触れるだけで取り込むことができる。

 これは便利だ。一々土を掘らなくてもいい。

 ただし、花や葉っぱだけを取ろうとするとできなかった。

 そこは千切るなり切り落とす必要があるらしい。


 水の様な液体も入るし、空気も入る。

 四方に霧を発生させて入れてみたら入ったし取り出すこともできた。

 取り込むことのできる大きさの限界はよく分からない。

 生えている大木をそのまま取り込んだら入ってしまった。

 無限とは思わないけど、余程大きな物も入るのだと思う。

 収納した空間の中では時間の経過はない。

 氷を長時間放り込んで確認したから間違いないだろう。

 

 これはとても有りがたい便利魔法だ。

 ならば、収納以外にも使い道があるのかもしれないと思ったけど、他の使い方が全く思い浮かばない。

 せいぜい、戦闘中に相手の武器に触れて収納してしまうくらいか。

 ま、今後ゆっくり検証しよう。

 でも、大物が入るという事はありがたい。

 エレシアの収納鞄は最大ボア3匹分しか入らなかった。つまり体積で満載の荷馬車1台分と見ていた。

 そこに3人分の荷物を収納するとなんだかんだ結構な物量で2匹しか入らない。

 これまで、荷物が増えない様に気を使っていたのだ。

 これからは荷量を考えなくて済む。

 ベッドやソファーを収納しておけば、夢の家具付き野営小屋も実現できる。

 いや、家そのものをしまっておくことだってできるじゃないか。

 俺は歓喜した。


 この収納魔法を“次元収納”と名付けた。

 亜空間収納、時空間収納、異次元収納と色々悩んだ結果の次元収納という呼び名だ。

 理由は短く呼べてしかもカッコいいからだ。

 でも、次元収納が古代竜の里へ向かう事とどう関係するかが分からない。

 旅の荷物が多くても問題ないようにという古代竜の親切心だろうか?

 うーん・・違う気がする。


 でも、遺骨を拾う作業では非常に重宝した。

 とにかく触れて次元収納しまくる。

 そして、一ヵ所場所を決めて大きな穴を掘って領民の共同墓地として遺骨を納めて行った。

 ついでに瓦礫も収納してゆく。

 いずれ街を再建したい。その時の手間を今の内に省いておきたかった。

 その収納した瓦礫は土魔法に使える。

 空を飛んでいる最中は土の魔素がないから土榴弾は放てなかった。

 それが、次元収納から引き出すだけで放てるようになった。

 これだけでも使い勝手がいい。


 土魔法で分かったことがもう一つ。

 これまでは、石小屋や石壁を作っても魔力が抜ければ原形が崩れてしまった。

 それは、土の魔素をベースに俺の魔力で造形していたからだ。

 崩れない物を作るためには、十分な石を用意して、俺の魔力で変形させれば崩れない様にできる。

 しかしその場合、多くの魔力と繊細な魔力操作が必要だった。


 でも今は、同じように石小屋を造っても、魔力が抜けても崩れず、状態と強度を維持できるようになった。

 勿論依然と同じく崩れるようにもできる。

 これは、土の魔素と俺の魔力から本物の石を作ることができるという事なのか?

 そうゆう事なのだろうか?

 とにかく、恒久的な建造物を創造する力を得た。


 他にも瞬間移動とか、できればよかったのにそれはさすがにできなかった。


 と言う訳で、ある程度新たな能力の把握ができた。

 そこで俺は連日、せっせと遺骨収集と瓦礫撤去に勤しんでいる。

 その間、アリアとリファはそれぞれ自己鍛錬をして過ごしている。


 そんなある日、アリアが突然文句を言い出した。

「ちょっと!キース。暇だわ!」

「アリアはそろそろ旅に出たくなった?」

「そうじゃなくて、キースもたまには息抜きしなさいよ。というか、東に海があるんだって!行ってみましょ!私、海ってみたことがないの」

 文句口調での息抜きのお誘いだった。


 その翌日、俺達は東の海へと向かった。

 通常より早いペースだけどアリアも問題なく付いてくる。

 上空から見た海に、俺達は感動した。

 広い!青い!奇麗!

 青い海がキラキラ光って、波が白くて、透き通ってる。

「はわー!凄―い!海って空みたいに果てしないよ!」

 リファもすごく感動している。

「世界ってこんなに広くて美しいのね・・森しか知らない母さんに見せてあげたいわ。この世界のすばらしさを教えてあげたい」

 うん。ミトに見せるのは俺も賛成だ。いつか、見せられたらいい。


 俺達は浜辺に下りて、砂を掌に掬ってみた。

 波打ち際を歩いて、水を掛け合ってキャッキャしたりもした。

 ここは大きな入り江になっているから波がとても静かだ。

 不思議な形の貝を見つけてリファが鞄に収納していた。

 アリアは海面を飛び回って、魚を捕まえようとしている。

 竜眼で見る限り、遠浅になっていて浜辺付近には大きな魔物はいない。

 ジュダーグの森も豊かな実りがあるけど、この海は魚がとても多いみたいだ。

 ちょっと水流を操って魚を一匹捕まえた。


「あ!私が先に捕まえたかったのに!」アリアが吠えた。

「竜眼があるから俺には魚の気配が分かるんだよ」

「それってずるいわよね」

 なんて文句を言っていたけど、焼き魚にして食べたらもうご機嫌になった。

「美味しい!ね、もっと捕まえて保存食にしましょうよ!あ、キトリ達にも食べさせてあげたいわ!」


 群れごと浜辺に追い込んで、次元収納に放り込んでいった。

 魚は抵抗も魔力消費もなくホイホイ放り込める。

 魔物でないからなのだろうか。であれば、動物はほぼ取り込み放題という事になる。

 100匹くらい捕まえて、良しとした。

 そのまま海岸線を散歩して、ゆったりした時間を過ごすことができた。



 2ヵ月が過ぎ、ジュダの街と周辺の村で大方の遺骨は埋葬できたと思う。

 北の街壁傍でクリフロード騎士団の甲冑をいくつも見つけた。

 そこには多くの武器と遺骨が散乱していて、激戦が行われたことが分かった。


 ・・・この中に父様もいるのかもしれない。

 もしいなくてもこの骨の主達は領民を守るために立ちはだかった英雄たちだ。

 一片残さず、全て屋敷裏の花の小山に埋葬した。


 一通りのことをし終わって、そろそろケシャルへ戻ろうという話になった。

 母様を早く見つけ出したい。

 でもその前に、領の南側を一度見ておきたい。

 南北に細長い領だから何日掛かるのか分からないけど、まずは行ってみよう。


 翌日、サイガ、キトリ、アギト、カリンに別れを告げて南へ向けて飛び立った。

 今まではアリアに合わせて4時間、150~200キロルの飛行だった。

 ところが、大気から魔力を補給できるから魔力量に関係なく、体力の限界まで飛べる。

 速度も倍以上早くなった。


 ところが、点在する村で遺骨を収集し、埋葬していた為に中々先へ進めない。

 結果、ゆっくりのんびり南下する事になった。


 眼下に魔物の群れを捉えた。

 この辺は、Dランクが多い。オーク、灰色狼、ワイルドボアなんかだ。

 後はどこにでもいるゴブリンと草原狼がいる。

 北の魔境から離れるほど魔物は弱くなっている。

 上位ランクが魔境へ帰ればこうした下位ランクの魔物も自然といなくなるのだろうか。


 そんなことを考えている時、畑を見つけた。

 近くに、小さな小屋もある。まるで人に管理されているかのような光景だ。


「キース!あそこ!」

 リファが叫んだ。

 見ると、遠くの畑らしき場所に人が見える。30人以上も。

 慌てて向かってみれば、確かに人族だった。子供までいる。


「生き残ってた?嘘でしょ?」

 俺は疑ってしまった。

 何度も絶望させられてきたのだ。

 自分の目で見ているのにも関わらず、信じることができなかった。

 でも、確かに人が農作業をしている。


「おーい!」

 俺は嬉しくて思わず声を掛けた。

 すると、人々が顔をあげて驚いて逃げまどい始めた。

 あれ?なんで?


「キース、私達魔物に間違われてるんじゃない?」

 リファの的確な指摘に納得した。確かに・・今空を飛んでるしね。

 慌てて、地上に降りて駆け寄ると、その内の男連中が警戒心露わに農具を構えている。

 俺は喜びが過ぎて抱きつきたい気分なのに、相手は若干震えながら威嚇してくる。


「驚かせて済まない。俺達は怪しいものじゃない」

 手のひらを見せて武器を持っていないことを主張しながら、にこやかに話しかけたのに・・

「空を飛ぶ人族がいてたまるか!怪しさしかないわっ!お前ら何者だ?儂らを取って食おうたってそうはいかんぞ!」

 と怒鳴り返されてしまった。

 後ろで、女子供が怯えている。

「ばぁちゃん怖いよー」

「人族に化けて言葉まで喋られたら見分けがつきゃしないよ・・あぁ恐ろしや」

 と聞こえてくる。


 ・・・・・

 ・・・・・

「・・いや、俺達は人間族だよ。魔法で空を飛べるだけで」


「そんな事信じられるか!」

 怖がらせるつもりはないのに、怯えと警戒心を解けない。

 俺達が魔物ではないとどう証明すればいい?

 なんか、面倒くさい。

 もういいや、勝手ながら俺の聞きたいことを訊いてしまうことにした。


「生き残った領民は他にもいるのか?何人くらいいる?あ、俺は領主の孫のキースだ。やっとこの地に帰って来たんだ。代表者は誰だ?話がしたい」

「な、な、な、キース坊ちゃまだと?」

「坊ちゃま?あぁ、あの時は5歳だったからな。でも、坊ちゃまは止してくれ」


「しかし、空を飛ぶ人間なんているとは思えない」

「俺は飛べる。見ただろ。そんな事より代表者に会わせてくれ」

「お、襲わないか?」

「襲う訳がないだろ!お爺様がこの領をどれだけ愛していたか、父様は領民を守ろうとし命を落としたんだぞ。俺はこの地に生き残っている者がいると知ってすごく嬉しいんだ!」

 つい叫んでしまった。


「しかし、人が空を飛ぶなど・・」

 しつこい。まだ言うか・・

「風魔法と木の板を使えば飛べる。それより質問に答えてくれ。他に生きている者はいるのか?」

「あぁ。村が7つある。全部で3千人を超えている」

「そ、そんなに生き残っていたのか・・長と話がしたい。案内してくれ!」

「分かった。だが、本当に襲わないでくれよ」

「襲わないよ!!」

 その村人はどこまでも疑り深い奴だった。


 そして案内された村はノース村という村民400名弱、分厚い木板や木杭で囲まれた集落だった。

 家屋が立ち並び、畜舎、農具小屋などもあちこちにあって小さな街の様に思える。

 広い割に防衛手段を整えた立派な集落だ。


 俺達が案内されていると、注目を集めた。

 冒険者風の俺達は明らかな余所者だ。

 余所者がこの村を訪れる事なんてないから皆遠慮のない目でジロジロ見てくる。

 麻地の服を着ている者が多い。ちょっと独特な雰囲気だ。


「あなた様がご領主様のお孫様であられるキース坊ちゃまでごぜぇますか」

 村長の屋敷。長のイズマというご老人の挨拶を受けた。

 周りに屈強な若者が何人もいる。皆、警戒心が露わだ。

 子供3人に警戒する必要ないだろうに。まぁ、アリアは子供じゃないけど。

 屋敷の周りにも村民が大勢集まって来ていた。


「あぁ。証拠を見せよう」

 俺は父様の形見の剣の紋章を見せた。

「確かに、これはご領主様の紋章。それに貴方様はアッシュ様の子共時分のお顔にそっくりじゃ・・おぉぉ、ご領主様の御一族が生きておられた・・おぉぉ、これ程嬉しいことはない」

 イズマ老人は顔を覆い泣き出してしまった。


 それを見た若者たちが騒めいた。

「本当にご領主様のお孫様か!ジュダの街が壊滅した時にお亡くなりになったとばかり思っておった」

「おぉ。生き延びておられたとは!これは早う他の村へも伝えねば。皆喜ぶぞ!」

 一人の若者が屋敷を飛びだして行った。

「ご領主様のお孫様が生きておられた!ご領主の一族が生きておられたぞ!」

 大声で表に集まっていた村人に告げると、大きなざわめきが聞こえてきた。


 大喜びする領民の姿に、思わず眼がしらが熱くなる。

 俺は村長に問いかけた。

「領主一族の者として、皆に謝りたい。そして、あの日何が起きたのか、今どうゆう状況なのか、今後どうするかを話したい。各村の代表者を一同に集めることは可能か?」

「勿論でごぜぇます。七つの村の代表者は度々会合を設けております。連絡を入れますのでしばらくこの村にご滞在くだせぇ。十日後にセント村に皆集めておきます。それまでどうかごゆるりとお過ごしくだせぇ」


 という事で、しばらくノース村で滞在することになった。

 俺達は付近の魔物を狩り、畑周辺に柵の囲いを作ったり、魚を捕って振舞ったりして過ごした。

 この村では、衣服は麻と魔物の毛皮で賄い、食料は畑と森の恵みで十分なのだそうだ。

 木材が豊富にあるから家屋にも困らない。


 完全に自給自足ですべての生活に事足りていると言っていた。

 その話を聞いた時、生き残った人々の力強さに涙が零れた。

 よく挫けずに、自分たちだけでここまで環境を整えられたものだ。

 本当に人とは凄い。

 お爺様の領民は皆頼もしく、めちゃくちゃ誇らしかった。


 十日後、荷馬車で二日間の移動を経てセント村へやって来た。

 そこはさらに大きな集落だった。

 7つの村の中で一番大きく村人も多いという。


 村には広い会合所があって、そこで俺は各里の代表と対面した。

 ノース村、ニーノ村、セント村、ミトセ村、サース村、ミグレ村、ハージュ村からの代表が各3人。

 まず、村の現状を聞いてみた。

 話に聞いていた通り、3千人以上が七つの村に住んでいるという。

 その内、2千人以上はスタンピードから逃れてきた人たちなのだそうだ。

 七つの村はその避難者を全員受け入れ、慌てて防衛の柵を立てて魔物に備えたという。

 この辺りはランクEのゴブリン、草原狼、オークと言った比較的対処可能な魔物しか現れなかったらしい。

 それでも数が多く、当初は犠牲になる者も多かったのだとか。

 そこで、戦える者を最北のノース村へ集め防衛を強化し、農具を潰して武器に変えてと色々対策を行って何とかしのぎ切った。

 2年前から魔物の数も落ち着いてきたから、穀物の収穫に力を入れ始めたという説明を聞いた。


「我らはクリフの民です。過酷な環境には慣れております。我らの土地を魔物などに奪わせるなどさせません」

 そう言ったのはセントの長だった。

 この人も目を赤く腫らしている。


 大勢が死に、未曽有の危機に領主一族は何もしてやれなかったというのに。

 それでも尚こうして俺の生還を泣いて喜んでくれる姿には申し訳なさに胸が痛んだ。


「みな、よく生きていてくれた。俺は、ずっと信じていたんだ。必ず家族も領民も皆無事でまた会えると。だが、異国より国に戻れば、領は全滅、生存者はいないとしか聞かされなかった。実際、ジュダの街では大量の遺骨と魔物ばかり。それがこれほど大勢生きていてくれたとは。俺は凄く嬉しい。クリフロード家は今や取り潰された。だが、こうして生きている者がいれば、きっとまた立て直せる。俺が必ずこの土地から魔物を一匹残らず追い出して見せる。いつか皆が安全に暮らせるようにして見せる。王国からも協力を取り付けて見せよう。時間は掛かるけど、必ず立て直すと約束しよう」


『おお!』

 と歓喜のどよめきが起きた。


 それから、俺は領主一族として、領を守れなかったことを詫びた。

 勿論、領主であってもあんなものは防ぎようがなかった。

 でも、お爺様は絶対に詫びたいと思っていたと思う。

 だから、俺が一族の代表として謝罪した。

「止めてください。儂らは恨んでなどいません。あれはどうにもならない不幸な出来事だった。それを領主様のせいになどしません。それより、今後どうしていくかを皆で考えましょう」

 セントの長は七つの村の引っ張り役であるらしい。

 その言葉に皆がうんうんと頷いている。


 俺はこれまで知ったことを皆に話して聞かせた。

 ここは、海と森と魔物に閉じ込められた閉鎖空間だ。

 何が起きたのか、外はどうゆう状況なのか誰も知らなかった。


 7年前に北の魔境に竜が突然住み着いたことで、魔物が逃げ出しスタンピードがおきた事、王国からは生き残りはいないと思われていること、領主夫妻、両親が死に、妹が行方不明だという事を話した。


 そして今後の話になった。

「俺は、母様と妹を探さねばならない。貴族籍を取り戻すために王都の学院へも通わなければならない。数年、我慢してくれ。その後、俺は必ずここへ戻って来る」

「キース坊ちゃま。あまりお気になさらずとも我らは大丈夫でございます。それより奥方様とジュリアお嬢様の捜索にご専念くださいまし。我らはいつまででもご領主一族のお戻りをお待ちしています」


 領主なくとも村は存続させられるらしい。

 今の俺は領主一族でもなければ苦難を共にした仲間でもない。

 貴族ですらない。

 それでも俺を領主の一族と認め待っていてくれるという。

 俺はその気持ちがとても嬉しかった。

 そして、その気持ちに今は甘えることしかできない。

 心苦しさを感じる俺の気持ちを察したのか、セントの長は静かな口調で俺を諭すように語り掛けた。

「クリフロード家は代々この過酷な土地と民を守り抜いた王の一族なのです。我らもまた代々クリフ王を支えることに誇りを持っておりました。その一族が皆亡くなられたと聞いてどれほど絶望したか。しかしあなた様は生きておられ、こうしてお戻りになった。それが我らにとってどれほどの喜びであるか。お若いあなた様にはきっとご理解できないでしょう。しかしあなた様は既に我らの主なのです。我らの希望なのです。いずれこの地にお戻りくださいませ。それまではあなた様の成すべきことを為されれば宜しいかと。我らはこの地であなた様のご帰還をお待ちしております」


 せめてもの償いに、俺達風の旅団は周辺の魔物を狩りまくった。

 少しでも安全に過ごせるように。少しでも皆が安心して暮らせることを願って。

 一通りの駆除を終えると、俺は各村を回ってケガ人を癒した。

 村々には、ケガ人が結構いた。

 リファは軟膏、毒消しの丸薬を中心に日持ちのする薬を作ってセント村の長に預けた。

 アリアは風魔法を駆使して木板や木杭を作り、俺は石垣を築いたり、砂鉄を取ったりと働いた。

 村には鉄が不足していたから、砂鉄はとても喜ばれた。

 鍛冶師はいても、鉄が無くて武器や農具が作れなかったらしい。


 一通り、納得できる形になるまで村に滞在して、俺達は村を去ることにした。

 大勢の領民に惜しまれつつ、俺も去りがたい気持ちを堪えて一時の別れを告げることにした。


 この地に戻って来てから4か月が過ぎようとしていた。


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