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あの日の真実

「僕とキトリが何故魔人族の国を逃げ出したかは、ひとまず置いておこう」

 サイガは俺達をゆっくり見まわしてから話し始めた。


「とにかく、僕とキトリはこの地の北の魔境の奥地に辿り着いた。でもそこには魔物の影すら見えなかった。代わりに巨大な圧力というか、恐ろしい魔力を放つ魔物が住み着いている様だった。そして僕の知る限りそんな魔物は一つしかない。多分皇帝竜だ。魔人族ではそう呼ばれている。通常の竜の5倍は大きい。竜族の頂点に立つとされるのが皇帝竜だ。そいつが魔境の奥に住み着いているんだ。今もたまにこの辺の魔物が震えあがって騒めきだす。多分、皇帝竜の魔力の波動みたいなものがこの辺りまで届くんだ。そいつが、おそらくその6年前の魔物の氾濫と関係している。推測でしかないが、皇帝竜が魔境に飛来した瞬間に、その周辺の魔物共が一斉に平原へ逃げだしたんじゃないかな。そして今だに魔境に帰れず平原に住み着いている。多分この推測は間違っていないはずだ」


 俺はサリフェリュジアを思い出していた。サリフェリュジアは赤竜のよりも大きかった。だが皇帝竜とはそんなものじゃないらしい。


 俺は当時の状況を思い返してみた。

 もう随分と古い記憶だ。でも今でも鮮明に覚えている。

 魔物の襲来を告げられたあの瞬間、そんな化け物が魔境の奥に来ていたのだろうか。

 そして、逃げだしてきた魔物がこの領に押し寄せてきたのだろうか。

 今更分かる筈もないのだけど。


「断言できるのは、あの皇帝竜と思われる魔物がどこかへ行かない限り、この平原の魔物は魔境には戻れないしここに住み続ける。何しろ行き場がないからな」

 サラっと難しいことを言ってのけた。

 領を魔物から取り戻すには、その皇帝竜を討伐するしかないという事か。


「だが、僕たち家族は、この溢れた魔物のおかげで安住の地に住んでいられる。それには感謝しているんだ」

「どうゆう事?魔人族は魔物が多くいた方が住み心地がいいってこと?」

「そうじゃない。魔物がいれば人間族が寄り付かないから安全だってことなんだ。僕達は、魔物なんかよりも他の人族を恐れているんだ」

 サイガはそんなおかしなことを言った。


「どうして?人間族が魔物よりも怖いわけがないじゃない」

「それは魔人族や人間族の古い歴史に関わる事なんだけど、君たちは何も知らないのかい?」

 アリア、リファ、俺と見回すが俺は知らない。二人共知らないみたいだ。


「人間族が古い記憶を忘れてしまったのなら僕達は怯えなくてもいいのかもしれない。だけど、知っている人間がいれば、僕達は迫害され殺されてしまうだろう。何しろ、僕ら魔人族は神々の怒りを買い、封印の地に閉じ込められた種族なのだから」


 それからサイガは魔人族の歴史を話し始めた。


 遥か昔、この世界には13柱の神々とそれぞれの眷属がいた。

 ヴァース神と人間族、エルファリア神とエルフ族、ドワーズワーフ神とドワーフ族、という様に。

 他に、獣人族、巨人族、小人族、天翔族、妖精族、手長族、海人族、妖鬼族、竜人族、そして魔神ルキファール神と魔人族。


 魔神ルキファールは破壊を好む神。

 世界を壊し、世界の種族を滅亡に導くために他の12柱の神々に争いを仕掛けた。

 そして激しい戦いの末に、いくつかの種族を滅ぼした。

 しかし、ルキファール神は神々によって滅ぼされて、ようやく世界は平穏を取り戻した。

 神とは眷属の祈りと感謝を糧に力を得る。

 故に、滅亡近くまで眷属を減らした神々の力は急激に衰え、地上へ干渉する力を失って世界から姿を消したのだと。


 しかし姿を消すその前に、神々は魔神の眷属である魔人族をある大陸へと封印した。

 そこは、この地よりはるか西に行った陸続きの孤島のような場所だ。

 雨が少なく、大地は干上がっている。

 西と南を海に、北は魔神の爪痕と呼ばれる深い谷に、東は深い魔境と谷に囲まれた閉鎖された過酷な大地。


 僅かな雨と深い井戸から少量の水を得て作物を育て、魔境で狩りをして肉を得る。

 そんな土地柄だから決して人口は増えず、常に飢えと乾きを強いられて何万年も暮らしてきたという。

 すぐ北にそびえる竜の山脈と広がる魔境は大量の水を湛えているけど、その全ては魔神の爪痕に流れ落ちて一滴たりとも魔人族の国を潤すことはないという。

 本来ならば魔境の深部と言える場所だけに魔素は凄く濃い。

 その為生命力だけは強く、それでも餓死者が後を絶たない国。

 それが魔人国なのだそうだ。


「かつてルキファール神と共に多くの種族を殺した我らは、封印の地から決して出てはいけないのだ。未来永劫苦しむことを宿命づけられた種族。それが魔人族で、神々が我らに下した罰なのだよ」


「で、神様から出てはいけないと言われてるのにサイガ達は出できちゃったんだ」

「あぁ。だから、他種族がその事実を知れば僕達を殺しに来ると恐れ、こうして人目を忍んでひっそりと生きている」

「そもそも何で逃げだ出したのよ?」

「それも長い話になるが・・」


 自分たちに不都合な話をこうして隠さず話すのは彼の誠意なのだろう。

 それは俺に対する誠意か、人間族に対する誠意かなのかは分からないけど。

 でも、このサイガという魔人族はとても謙虚で心の内に贖罪(しょくざい)(くさび)を打ちこんでいる。

 だからこそ、俺は彼の言葉と誠意を信じる気になった。


「僕もキトリも魔人国では研究者であり魔道具職人だったんだ。古い遺跡を発掘して研究したり、水を生み出す魔道具なんかを作ったり、そんなことをしていた。ところがある日、国王が宣言をしたんだ。“もう限界だ!魔人族は十分苦しんだ!いずれこの地を捨て他種族の土地を奪いに行く。その準備を整えよ。魔道具職人、研究者は侵略のための研究をせよ。奪い殺すための魔道具を作れ!”と。真っ先に反対したものは皆殺された。僕とキトリは同じ考えの職人仲間と共に命令に従う振りをして国を捨てる準備をしたんだ。僕は殺戮の道具など作りたくもない。魔道具は暮らしを豊かにするために使うものなんだ。だから逃げだした。逃げ道は東の魔境しかない。深い森を潜り、谷を越え、長い長い過酷な旅の末に、人間族の国へと辿り着いた。それからはひっそりと暮らせる安住の地を求めて魔境を彷徨い、平原に出てはまた魔境へ戻ってを繰り返した。そして東へ向かい続けて辿り着いた場所がここだ。共に旅した仲間は皆死んでしまった。辿り着いたのは僕とキトリだけだ。ここは魔物に囲まれているから人が来ない。作物も実っていた。川もあるし雨も降る。確かに魔物が怖いし命の危険はあるけれど、でも人間族の街に暮らすよりは余程安心できるんだ」


「魔人族はいずれこっちに攻めてくるという事か」

「あぁ。以前は深い谷に阻まれて魔境を越えられなかった。でも、大きく崩れた場所があったんだ。そこを僕達は越えてきたよ。いずれ魔人族の軍がこの国を襲いにくるだろう」


 とんでもない話を聞いてしまった。

 魔人族が攻めてくることを前提にしている国などないだろう。

 彼らの強さを目の当たりにしたから分かるけど、戦えば大勢が殺されてしまうだろう。

 これは陛下に報告せねば・・


「ところで、キトリって魔人族の中で言うとどのくらいの強さ?」

 敵の力量を知りたくて聞いてみた。

「うーん。私は軍人じゃないし、戦闘部族でもないから普通じゃないかな」

「戦闘部族って何?」

 言葉の響きがとても嫌な予感がする。


「それは魔人族の中でも戦闘に特化した部族のことさ。魔人族には翼を持った飛行できる部族や、俺達みたいな穏やかな性格の部族、戦いの大好きな部族と色々あるんだ」


「その戦闘大好きな部族はどのくらい強いの?」

 リファが不安気に聞いた。

「それは強いよ。とにかく強い。体術の得意な部族や、魔法が得意な部族とかいるけど、僕なんか3秒と持たないんじゃないかな」

「ちなみにサイガとキトリはどっちが強いの?」

「キトリだよ」「サイガね」

 お互いに相手の名を言った。

 どっちだよ!

「いや、実は戦ったことなんてないから分からないよ。でも、キトリは戦闘のセンスあると思うんだ」

「あら、サイガだって魔物と戦ってるときはとても勇敢で素敵よ」

 もういいよ。聞いた俺がバカだった。

 まったく、なんかこの二人桃色的な雰囲気出してやがる。

 種族は違えどそういう所は共通らしい。


「で、この先もこの屋敷に住むつもり?」

「そうしたいところだけど、君が出て行けというなら出て行くよ」

 その時、キトリが凄く悲しげな顔をした。

「キース・・」

 リファが困った顔をしている。

 何とかしてあげてと言いたいけど、屋敷を魔人族に明け渡せとも言えないよな。


「このままここに住んでも構わない。お墓を作ってくれたお礼だ。だけど、いずれ俺はこの地に帰って来たいと思ってる。それが叶うかどうかは分からないけど、その時は別の場所に移って欲しい。その代わり俺もサイガの家族が住めそうな場所を探すよ。今はどうしようもないからそれ位しか言えない。あ、たまにここに戻ってくるから泊めてくれ」

「あぁ、助かる。ありがとう」

 キトリはあからさまに、ほっと息を吐いた。


 幼い子共二人抱えて出て行けとはさすがに言えない。

 今は帰還の目途も立たないし、それでいいんじゃないかな。

 それから、屋敷の中を見て回った。

 屋敷は3階建てで部屋数も多い。

 その空き部屋に、お爺様とお婆様の肖像画や父様と母様の肖像画があった。

 小さい俺と、もっと小さいジュリアも描かれている。


「わぁ。キースの家族ね!お母さまが凄く美人。ジュリアはお母様似なのね。キースったらこんな小ちゃくてとっても可愛い!」

「ほんと!可愛いわね。顔はお父さん似だったのね。大きくなったらキースはこんな感じの凛々しい顔になるんじゃない?リファーヌ良かったわね!」

「うん!」

 肖像画を見て懐かしさに涙する俺の横でリファとアリアがはしゃいでいた。

 全然気分が出ない。涙も引っ込んだよ。


 領主の執務室には、金庫があった。

 残された金貨は当たり前だけどまったく手が付けられていない。

 金庫はそのままにして、書棚の書類を手に取ってみた。

 領運営の詳細が記録されている。

 収穫高とか工事費用とか給金とか収支とか。

 お爺様の文字は奇麗で細かいことまで書き留めてあった。

 その棚に一角に、針や糸や布切れが置かれていた。

 お婆様は良く刺繍をしていた。

 毎日お爺様の傍で刺繍をするのがお婆様の日常だった。

 そんなことを思いだした。


 一通り屋敷を見て回って、俺は一人庭に出た。

 広い庭は記憶と随分違っている。

 木があったはずなのに無くなっているし、畑が増えてるし。

 でも、俺の作った魔物の彫像が今でも庭の端に残されていた。


 懐かしい・・

 一通り見終わるとお墓の前に来た。

 そこにリファとアリアがいた。

「あ、やっと来た」

 アリアが笑顔を見せる。

 リファはどこか泣きそうだ。

「私達もキースの家族と領の皆さんのご冥福をお祈りしたくて」

「うん。ありがとう」

 リファが、草魔法を使って花を奇麗に咲かせると、アリアが魔法で水を与えた。

 すると小さな虹がかかった。

 まるで皆が喜んでくれているみたいだ。


「お爺様、お婆様。ただいま戻りました。父様もそこにいるのでしょうか。母様とジュリアは見つかりません。不甲斐なくてすみません。でも、必ず二人共見つけだします。約束します。あの日、ジュダーグの森の中で俺だけはぐれてしまいました。バルバドールで命を救われて、長い旅をしてやっと、‥やっと帰って・・来れました。この領地は魔物ばかりで人の住めない土地になってしまい・・ました。クリフロード家は取り潰しとなり、今や王国の版図ですらありません。うぅ・・お爺様、お婆様、父様、・・母様はどこにいるのですか?ジュリアはどこにいるのでしょう?俺はどうしたら見つけられるのでしょうか・・頼りなくてごめんなさい。でもどうか、そちらからジュリアを見守ってあげてください・・」


 グス

 以前、クリフロードの地に戻る時は、母様とジュリアと一緒にと心に誓ったことがある。

 それを守れず一人だけおめおめ戻ってきてしまった。

 なんだか申し訳ない思いが込み上げてきた。

 自分の不甲斐なさがどうしようもなく情けない。


「キース。お爺様もお婆様も、お父様も皆、キースが帰って来てくれて喜んでるよ」

 リファの優しい声が聞こえた。

「キース、私も頑張るわ。いつか二人を見つけてだしていい報告聞かせて上げよう」

 アリアも励ましてくれる。


 俺の仲間が俺を元気づけてくれる。

「うん。ありがと、ありがとぅ・・」


 それから、リファがお墓の前に立った。

「私リファーヌです。キースはこれまでずっと頑張って来たんです。5歳の時から、ずっと、ずーと故郷に戻るために頑張って来たんです。今だってお母様と妹を探して頑張っています。ここまで良く頑張ったって褒めてあげてください。そして、これからも見守ってあげてください。キースは諦めることを知らない頑張り屋なんです。だから必ず二人を見付け出します。私が保証します。皆さん、その時を楽しみに待っていてくださいね」

 リファは少し大きな声で、明るく宣言するように語り掛けていた。 


「私はアリアよ。キースの仲間に加えてもらいました。私もキースの家族探しを手伝っているけど、私もリファーヌも全力でキースを支えると約束します。だから、その日まで心安らかに待っていただければと。あ、でもキースは無茶ばかりで危なっかしいところがあるから、しっかり見守ってあげてくださいね」

 アリアの前では危なっかしい事なんてしてないはずなんだけどなぁ。

 でも、嬉しかった。


「ありがと。俺に頼もしい仲間がいてお爺様たちもほっとしてると思う」

「えへへ。そうだと良いな」

「私も母さんが里ごと世話になったみたいだからね。恩返しとまではいわないけど、仲間だし」

 アリアは少し照れ臭そうだった。


 その日、空き部屋を借りてというのも変だけど、屋敷に泊まった。


 その翌日、今後の方針を立てていた。

「キースはどうしたいの?少しここでのんびりする?すぐにまたケシャルに戻る?」

「少しここで、領地を見たい。でも、まず魔境の奥に住み着いたその皇帝竜らしき魔物を確認したいんだ」

「はぁ?」

 アリアが素っ頓狂な声をあげた。

「キース、危なっかしいにも程があるわ。あなたがそんなんじゃお爺様もお婆様もおちおち眠ってられないわよ!」

「キース。私も反対。だってあれだけの数の魔物が逃げ出してくるほどの奴だよ。危険すぎるよ」

「まぁ、そう言うなよ。リファ、魔境の奥で見た大物は俺達なんて相手にしなかっただろ?それに、もし本当に竜の頂点に立つ奴ならそれは上位竜だ。だとしたら高い知性がある筈なんだ。見に行くだけで接触するつもりなんてないけど、万一見つかっても話せばわかる筈だよ」

「むぅ。たしかに」

「ちょっと!そこで納得しないでよ!」

「その皇帝竜がずっと魔境に居座るなら、俺はいずれ平原の魔物を全て討伐するつもりだ。俺は領地を魔物から取り戻したいんだ。そしたら北の魔境はもぬけの殻で魔物の脅威は皆無になる。ジュダーグの森はあるけどずっと安全な領地になるんだ。でも、そいつが危なそうな奴ならそんな奴の住む傍に街は作れない。いずれまた襲われるかもしれないからね。だからそれを見極めに行きたい。あ、すごく危険だから二人はここで待っていればいいよ。俺一人で行ってくるから」

 と言えば、リファは来るって言う。絶対に。


「待って!私も行く!」

 ほら。

「ちょっと!そんな簡単に言いくるめられないでよ!」

「アリアはお留守番しててもいいよ。危ないし、何があるか分からないし」

 今度はリファが悪戯っ子のような目でアリアに言った。

「嫌よ!私も行くわよ!一人だけ置いてこうって酷くない?」

「アリアなら一緒に来てくれるって思ってた!ありがとう!」

 リファが嬉しそうに笑みを浮かべた。


 という事で、早速北へ向かって飛びたった。

 ひとまず皇帝竜とやらにコンタクトするつもりはない。

 気づかれないように遠目から見るだけだ。


 草原に細い川が幾筋も流れ、野生化した小麦が茂っている。

 所々ポツポツと見える黒い影は全部魔物だ。

 北へ行く程ランクが高くなるようだ。

 今はブラッドオーガが真下にいる。こいつは赤黒いオーガだ。

 青猿はブラッディエイプなのに、名付けの基準がよく分からない。

 さっきカイザーコングという金色の毛並みの大猿がいた。

 こいつの毛皮は高値で売れる。

 リファの指さす先に、懐かしの火焔熊までいた。

 どれもギルド認定ランクAだ。


 草原の中で一晩の野営となった。

 二日目、まだまだ草原は続く。

 魔境に近づくほど魔物の数は減り、遂に一匹もいなくなった。

 そして午後、いよいよ魔境に突入する。

 俺達は北の魔境と呼んでいる。

 この魔境は果てが分からない。

 どこまで深いのか、何キロルあるのか、その先に何があるのか全て不明だ。

 分かっているのは王都の北側までこの魔境は続いていること。

 ジルべリアとノエリアの西も魔境が広がっていること。

 この大陸の最南東部分が人族の住む世界で、他は魔境に覆われて大陸の大きさや形すら把握できていないのだ。

 もしかしたらエルベス大魔境の10倍も20倍も広いのかもしれない。

 そう考えると、この広い魔境の中の、クリフロード領に影響を及ぼすような場所に皇帝竜が住み着いたのは、ものすごく低い確率で起きた特別な不運だったように思える。


 魔境は静かだった。鳥の(さえず)りや、虫の鳴き声は聞こえる。

 風が梢を揺らす音もいたって普通だ。

 でも、魔物の気配がない。それが尋常じゃない程不気味に思えた。


 そんな魔境を北へ北へと向かってゆく。

 その日、魔境で野営をした。

 後どれほど飛んだら皇帝竜までたどり着けるのか。

「こんな広範囲から魔物が逃げ出したってこと?なんかおかしくない?皇帝竜ってそれ程なの?」

 アリアの疑問はもっともだ。幾らなんでも影響の範囲が広大過ぎる。

 その時は俺もそう思った。


 三日目夜。その日も頑張って飛んだけど皇帝竜は未だ見つからない。

 それにしても、魔境の中で魔物がいないという事がこれほど不気味な事とは思わなかった。

 しかも、遠くからものすごく重くて分厚い魔力を感じる。

 この魔力はとんでもない強者から発せられていると分かる。

 これが皇帝竜の魔力だとしたらとんでもないことだ。

 気を許せば腰を浮かせて反対方向へ逃げ出したくなるのだ。

 だから、アリアもリファもそわそわしていて落ち着かない。


 四日目。

 遠くからの重たい魔力にだいぶ近づいてきた。

 何もしてなくても冷や汗が滲むほどのプレッシャーを受け続けている。

 野営で食事を摂っている時だった。

 突然大気がビリビリビリと震えだした。

 地震じゃない。魔物の咆哮が聞こえたわけでもない。

 ただ、大気が震えている。

 それも、怒り、悲しみ、絶望。そんな感情まで伝わって来た。


「なになに何が起こってるの!?」

 アリアが、立ち上がって動揺している。

「キース!」

 リファが俺にしがみついてきた。

 俺は、大気の震えに威圧に似た力を感じ取っていた。

「これは、きっと竜の波動だよ。多分」

 サイガが言っていた。平原の魔物がざわめきだすとかいうアレだ。

 ほんの5分。それで大気の震えは収束した。

 でも、これだけの波動を巻き散らかすその魔物は確かに特別恐ろしい存在だ。

 この世界の最強者の波動ともなれば、魔物がこぞって逃げ出したのも頷けた。


 やっと、落ち着いてアリアが腰を下ろした。

「ね、キース。本当に行くの?今から引き返しても私は怒らないわよ」

 アリアは帰りたくなったらしい。

「ね、リファーヌ?」と同意を求められてリファが困った顔をした。

「うーん。それでもキースが行きたいんだったら私は行くかな。でも、アリアが怖いならここで待っててもいいよ」

「なっ!?ば、馬鹿ね!怖くなんてないわよ。ただ、結構凄い相手みたいだから、もし、引き返すならそれもいいんじゃないって提案したかっただけよ」

 アリアは信じられないといった顔でリファを見たけど、結局は呆れて取り繕った。


「アリア、俺の我儘でごめん。でも俺は行く。俺が行けばリファも絶対ついてくるんだ。明日にはきっと辿り着く。その時、気づかれて殺されるかもしれないし、どうなるか分からない。正直ここまでの奴とは思わなかったんだ。アリアは好きにしていいよ。ここから先は本当にどうなるか責任持てない」

「行くわよ!私も仲間なんだから!私だけ置いていかれても困るわよ!」

「そっか、アリアは勇気あるな。ありがと」

「なによ!あたりまえのことなんだからお礼なんて言わないで」

 プイッとそっぽを向いてしまった。

 リファも俺も苦笑いだ。


 更に翌日、俺達は気づかれない様に、慎重に北上した。

 そして、遂にその姿を目にすることができた。

 


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