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モバイルパソコン試作機の完成と新たな課題

 その日カイゼルさんから試作機が出来たとのことで、いつもの会議室へ召喚。

 実機を二つ持ってきてもらった。

 ひとつはインク入り、もう一つはインク無しらしい。

 インクなしは内部構造が見られるように、未接着で分解できるようになっていて、カイゼルさんはインクなしを手に説明を始めた。


「取り急ぎこれまでの『ゆーえすびーめもり』にインクユニットをくっつけただけの代物だが『ぱそこん』としては十分使えることを確認した」


 見ればUSBメモリの横に四角いインクユニットがくっついてるだけという簡単なものだった。


「このままでも『ゆーえすびーめもり』として使えるし、『ゆーえすびー』の指し口に魔石ユニットを差せば、『ゆーえすびーぱそこん』になる。インクはここから外に出てここに開けた穴から中に入る構造だ。『ぱそこん』との接続口は『くりーんるーむ』を作る時に使ったスライムと膠の混合液で塞いだから、『ぱそこん』側からのインクは使えなくなっている」


 僕は手渡されたUSBパソコンをじっくり見聞する。

 USBメモリ自体は長方形の箱型なので、その短い方の側面に四角いユニットが張り付いている。

 後ろは大きめの穴が五ミリほど奥まで開いていて、その奥はボールペンの芯くらいに細くなり、そこに実際のインクが入るようだ。


「後ろの内径の大きい方からインクを垂らして、適当なところでコルクで栓をすれば後は垂れてこないのを確認している。さすがに力いっぱい振ったりすれば出てくるが日常使いなら問題ないはずだ」


 これなら今の『USBメモリ』をちょっと改造するだけで作れる。


「製造の手間としてはどうですか?」

「それがな。『ゆーえすびーめもり』だと、職人が型に入れ筐体側を作って、俺が魔導板や魔導線を配置して、蓋をするだけなんだが、この構造だと更にインクユニットを接着して、こっちに穴開けて接続口は塞がないとならねぇ。インクはユニットを作るときに職人が入れてくれるが、はっきり言って職人より俺の工数のほうが多いくらいだ。魔導板や魔導線は秘匿技術だし高価なものだから、安易に平民に扱わせるわけにはいかないからな。一旦組み込んだら後は全部こっちでやるしかない」

「それはいけませんねぇ」


 貴族であるカイゼルさんの工数が増えればその分コストが上積みされる。

 USBパソコンなら、そのコストに魔石代と僕の作ったシーケンス代がプラスされるため、下手をすると普通のパソコンより割高になる。

 まあ、小さい方が高くなるのは向こうの世界も同じだけどね。

 パソコンがディスプレイ含めて五~六万で買える時にスマホは十万以上するとかザラだったからね。

 それでもできるだけ低コストにしたい。

 しかし、魔導板や魔導線を組み込んだ後、平民の工房に戻して後の作業をやってもらうというのも難しい。

 ここまで組み上げた状態ならUSBメモリとして使えるので、横流しでもされたら大変な損失だ。


「新しい型を作ればどうでしょう?」

「それしかないだろうな。インクを通す部分を密閉しないといけないから、このまま半分にするわけにはいかないが、まあどっちかにくっつけるような形にすればいいだろう」


 今は薄い方の面で上下二分割の型だから、試作品のままバッサリ二分割すればインクユニットも二分割される。

 接着剤でくっつけるとはいえ、隙間が空いてしまえば空気が抜けてインクが漏れるし、接着剤を着け過ぎればパイプが埋まってしまう。

 歩留まりを考えればパイプの上下分割はありえない。


「『USBメモリ』にはインクは不要なので今の型を使えばいいでしょう。『USBパソコン』用に新しい型を作ってください」

「わかった」

「あとこのインク入りの試作品は僕が買い取ってもいいですか?」

「構わない。開発費として計上してるからな。確認用に『おーえす』もすでに『いんすとーる』済みだ。魔石は自分のを使ってくれ」


 僕はインク入りのUSBパソコンを受け取る。

 そしてFCSが入っている僕のUSBパソコンもどきから魔石がついたUSBの蓋を外して、取り付けた。

 USBの蓋の構造はUSBの指し口と同じだからね。

 差し替えるだけで使えるのだ。


「おお、普通に使えますね」


 テスト用にセットアップされているため、表示やキーボードは宙に浮かぶモバイルモードになっていて、即座に使用が可能だった。

 さすがにFCSは入っていないから、エディタと表計算くらいしか使えるものがなかったけど十分使える。


「インクが無くなったらこの『すぽいと』を使ってくれ。後ろのコルク蓋は使い捨てだから、先の尖ったものでほじくり返して新しい蓋を使うように。蓋はいくつかおいておこう」


 カイゼルさんからアンジェリカがそれらが入った布袋を受け取る。


「ところで作るのはいいんだが売れる見込みは有るのか? 文官や俺達なら今の『ぱそこん』でも不自由はないだろ?」


 文官にしろ僕らにしろ基本的に出先で使うってことはないからね。

 必要があれば大抵は召喚すれば済むし、離宮の中くらいなら持ち運べないこともない。

 向こうなら電車の中で使うとかカフェで使うとか考えられるが、馬車の中では流石に揺れが酷くて使えないし、外で公爵の紋章つきのパソコンを使って何かあったら首が飛びかねない。


「とりあえず騎士に使ってもらおうかと。騎士は外回りも多いですし、メールだけでも使えれば定時報告や応援要請も即時に行えますから」

「なるほど。一人一個配布するなら少なくともここだけでも三〇以上は売れるわけだ」

「まあ、全部父上の出費になりますから、僕たちは儲かりますけど領地としては赤字です。早急に売り込み先を探さないといけませんね」


 外周りが多い騎士に売り込むのが一番なので、できれば派閥の騎士たちに売っていきたい。

 だが騎士にメールというのはいまいち利便性が低いんですよねぇ。

 定時連絡以外は緊急の連絡になるので、即時性のないメールだと、気がついた時には手遅れということにもなりかねない。

 なにか騎士向けのアプリが必要かもしれませんね。

 この世界で騎士といえば警察や機動隊、軍隊といった役割も有るし、時には狩人にもなる。

 暴力を必要とするすべての対応を行う。それが騎士だ。

 とはいえさすがにFCSは渡せない。

 FCSの存在が知られれば欲しがるだろうが、これをむやみに渡せば文民統制が崩れ、下剋上が当たり前の戦国の世になりかねない。

 それ以外で使えるものとなるとフラワーガーデンとフェアリーガーデンしかない。

 もちろん騎士が使ったら、かなりシュールな光景になるであろう。

 ちょっとみたいかも。


「ああ、『電話』だよ『電話』!」

「『でんわ』?」


 アンジェリカが僕の突然上げた大声に耳をふさぎながら尋ねる。

 スマホOSの支配力向上のためにOS強化しなくちゃ、でもセキュリティめんどくさい、やっぱりハードでなんとかしようというのがモバイルパソコン開発の流れだ。

 スマホまで来ていて電話が思い浮かばないとは何たる失態。

 って、電話よりインターネットの使用頻度のほうが高いから思いつかなくても仕方ないよね。

 電話なんか病院なんかの予約や、田舎に連絡するときくらいしか使わなかったからな。

 田舎にはインターネットなんて洒落たものはなく、両親共亡くなるまで黒電話しかなかった。

 だがスマートフォンの名前通りそもそも電話が主体なのだから、この機能はほしい。


 とは言え今の技術でできるか?

 音声圧縮技術もない。

 インターネットもない。

 ないないづくしだ。

 詰んだか?

 いや、諦めるのはまだ早い。

 回線はメール回線が有るし、場合によっては電話用サーバを増設してもいい。

 回線速度が十分耐えられば、電話機能を開発するのも夢じゃないはずだ。

 まずは必要な回線速度を計算してみよう。

 僕の知識じゃ、さすがにMP3とかは無理だが、例えばCDなんかのPCM形式ならどうだろうか?

 PCM、いわゆる音声サンプリングして量子化符号化する技術だが、ここまでなら大して難しい話じゃない。


 昔はPCM音源のないパソコンでBEEP音を使って喋らせたりしたものだ。

 昔のパソコンはカセットテープでデータを読み書きしてたからね。

 そこからプログラムではなく音声データを読み込めば、音声に合わせたONOFFのデータが得られる。

 その信号に合わせてBEEP音をONOFFしてやれば音声っぽいものが再生されるってわけだ。

 専用音源じゃないからノイズがすごかったけど。

 精霊は電磁波を送受信できるように音波でも同じことができる。

 一定期間ごとにサンプリングしてそれをネットワークに流せば受取先で音声に戻せるはずだ。

 確かCDのサンプリング周波数は44.1kHz。量子化ビットが16だったはず。

 この場合一秒間の音声に必要なデータ量は44.1×2バイトで88.2キロバイト。

 ステレオでもこの二倍だ。

 対して通信速度は一チャンネルあたり一〇メガビット秒、つまり1.25メガバイトだから十分送信可能だ。


 音声通話ならステレオにする必要もないし、88.2キロバイト/秒ならオーバーヘッドなどを入れても一チャンネル一〇通話くらいはいけるか?

 いや、送受信必要だからその半分、五通話一〇回線が限界だろう。

 音声ならサンプリング周波数を半分に、量子化ビットを8にしても行けるんじゃね?

 多少ノイズが入るだろうが、アナログの無線機に比べればずっとクリアなのではないだろうか。

 まあ、どの辺でサンプリングするかは今後調整するとして、四分の一にデータ量をできるのであれば、二〇通話四〇回線まで問題なくできるはずだ。

 騎士は確か三六人だったはずだから、全員が同時に通話しても問題ないことになる。

 実際のところ文官を含めたって問題ないはず。

 全員が一度に話し始めるなんて、大災害のときでもなければ起こり得ない確率だし、規定人数以上に通話要求があれば回線が込み合っている信号を返して、一定時間繋げないようにしてしまえばいいだろう。


「カイゼルさん。量産化に向けて作業をお願いします。あと、新しい『サーバ』の納品もおねがいしますね。僕は新しいアプリの開発に取り掛かりますので」

「お、おう」


 僕の勢いに押されてカイゼルさんが退室する。

 僕もアンジェリカを伴って、自室へと戻った。


 今では当たり前になった音声読み上げソフトですが、その先駆けとも言える、MZ-80シリーズ用のダンプリストの読み上げソフトってのがありました。

 当時は雑誌にゲームやアプリのダンプリストが掲載され、パソコンユーザーはそれを手入力していました。

 もちろん手入力ですから間違いも多かったので、ダンプリストの読み上げソフトなるものを使ってみたのですが、流石にノイズが多く非常に聞きづらかったので、ちょっと使っただけでお蔵入りw

 読み上げ速度も一定だし、ちょっと目を離すとどこまで読んだかわからなくなる始末w

 昔はよくあんな大量のダンプリスト見ながら入力できたなと思います。


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