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モバイルパソコンの開発に向けて

 僕はまずスマホやタブレットのようなモバイルパソコンの開発において必要なものを上げていく。

 どこでも使おうと思えばインク瓶は使えない。

 持ち運びだけなら今のパソコンでも何とかなるが、歩きスマホみたいなことをしようと思えば、インク瓶の存在は邪魔でしかない。

 とすれば、基本的にプログラム領域もHDD領域も書き換えることが出来なくなる。

 ここで問題になるのがデータの保存とアプリの実行。

 普通、アプリはHDDからプログラム領域に読み込んで実行される。

 書き換えできないのであれば、全アプリを読み込んでおかないといけないのであるが、読み込んでしまうと起動キーに反応して複数のアプリが動いてしまう。

 まずはこれを抑止しなければならない。

 まあ、メール専用とか、アプリを一本だけロードするなら問題ないのだけど。


「まてよ。それもありかも」


 メーラーからエディタが呼び出せる構造にはなっているがマルチプロセスではない。

 エディタが動いている間はメーラーの起動キーが反応しても無視するような構造になっているため、メーラーとエディタは共存可能だ。

 外で使うのであれば、とりあえずメールとエディタがあればそれなりに使えるはずだ。

 今は使えるアプリも少ないのだからメール&エディタ専用マシンや、表計算専用マシンの二台を持ち運べば用は足りる。

 ネットワークドライブを使えるようにすれば、なんとかならないだろうか?


「しかしその場合セキュリティがなぁ」


 メールは各アプリへ配信だからまだいいが、共有ファイルは見ていい人、更新していい人等の細かな設定が必要だ。

 例えばunix系だと所有者・グループ・その他のユーザー毎に、読み書き実行の操作権限を設定できる。

 メールサーバのように外部に公開する前提であるなら見れる人書ける人実行できる人等細かく制御しなければならない。

 バソコン自体ユーザー名とパスワードでログインできるようにはなっているので、このユーザー名とパスワードはそのまま使える。

 外部から接続する場合、それぞれのユーザー名とパスワードを登録する必要がある。

 今はいいが将来人が増えてくれば登録削除作業が頻繁に行われるようになるだろう。

 本来こういう作業は情報システム部のような部門を会社で作ったり外部に委託したりするのだが、しばらくは僕がやらざるを得ない。

 陪臣にはセキュリティ上任せられないし、まだキー操作すら危うい父上ができるはずもない。


「うん、めんどくさい」


 セキュリティは元の世界でも解決できない問題のひとつだ。

 大企業でさえ、データを抜かれたり、システムを破壊されたりという事例は枚挙にいとまがない。

 しかもこの世界、セキュリティ意識、いや道徳意識が低い。

 拾った財布は自分のものが当たり前で、見つからなければ犯罪ではないという意識の者も少なくない。

 そのため、なにか重要なことを下の者に命じるときは、貴族や准貴族が監視するのが日常となっている。

 アンジェリカの業務のひとつがそれだし。

 セキュリティというのは長い教育が必要だし、それでも守らないやつというのは存在する。

 向こうだってディスプレイにパスワードを付箋に書いて貼り付けるなんてことを平気でやるのが人間だ。


「そう考えるとファイル共有は少し早いかもしれない」


 ファイル共有はその仕組だけでなく教育が重要になるから、今のような倫理観で使わせるのはかなりリスキーだ。


「そうすると、共有ではなく、個人フォルダをサーバに置いて、そこだけしかアクセスできないようにするか」


 モバイルパソコンを作るだけならそれでも問題はないわけだが。


「しかし、メールを受信してそれを元のメールサーバに書き戻すって、無駄じゃね?」


 これだったらダウンロードが基本のPOP3ではなく都度ダウンロードのIMAP方式のほうが良かったかな?

 結局メールデータはしばらくサーバにおいておくことになったし。

 データ送受信への負荷を考えるとネットワークドライブは時期尚早かな?

 全パソコンが四倍速マシンに置き換わっても現在の四倍、40MBPS程度の伝送速度だ。

 現在広く使われている100BASE-Tにも及ばない。


「ファイルサーバを使わないとなるとハードウェアの問題に戻っちゃうんだよなー」


 USBパソコンそのものは僕の手でも握れるほど小さいのだから、これに小さなインク瓶を持ち歩いたとしてもそう負担にはならないだろう。

 粘性の高いインクを使えばこぼす可能性も少なくなるし。

 とりあえずこれでも使えないことはないんだが、元の世界のスマホを知っているとコレジャナイ感が漂う。


「なにかインクの代わりになるものがあればいいんだけどね」


 向こうだと高温にすると透明になり低温にすると色が戻るインクがあった。

 いわゆるフ○クションボールだね。

 科学が進めばそういうインクも作れるだろうが今は無理だろう。

 レーザーが使えるのだからCD-RWのようなものもそのうち作れるようになるだろうが、これも今は難しい。

 レーザーと言えばレーザープリンタが思い浮かぶがこれはどうだろうか?

 これは静電気を利用し、トナーを弾いたりくっつけたりして印字を行う方式だ。


「これはちょっと厳しいか」


 ホコリが付着するのも基本的に静電気の仕業だ。

 いまの魔導板はこのひっついてくるホコリを洗浄しながらインクを着けている。

 トナーを静電気でくっつけただけでは洗浄した時に剥がれてしまう。

 レーザープリンターのように定着剤と混ぜて使う必要があるだろうし、ホコリが入らない仕組みも必要になる。

 いまの技術力ではこれも難しい。


「詰んだ」


 やはりインク瓶を持ち歩くしかないのか?


「いや、もう少し考えてみよう」


 使うインクの量なんてたかが知れているのだから、USBパソコンにインク壺を合体させたらどうだろうか?

 これなら別々に持つ必要はないから、利便性は上がる。

 問題は液漏れだね。

 漏れて魔導板に付着でもしたら、データは一瞬にしてパーだ。

 漏れない工夫と漏れても被害を最小限に食い止める工夫が必要だろう。


「とはいえ、ここの技術だと隙間なく塞ぐというのは意外に難しいんだよねぇ」


 いわゆるスクリューキャップが作れないため、一般的に使われているのはコルク栓だ。

 インク瓶なんかもコルク栓かガラス栓なので、ある一定以上は小さくできない。

 ガラス栓なんかは漏れ防止というより、乾燥防止のためのもので、ひっくり返したら簡単に漏れちゃうしね。

 コルクはただでさえちぎれやすいのに、小さくするとさらにちぎれやすくなってしまうだろう。

 頻繁に開け締めするのは向かない。


「まてよ、開け締めしなければいいんじゃね?」


 ストローの中に水を入れ片方の口を塞ぐと水は落ちてこない。

 これは表面張力と空気の圧力のせいだ。


「小さなスポイトのようなもので粘性の高いインクを吸い上げて、それをUSBパソコン内に収めればどうだろうか」


 吸い上げた時に付着したインクは洗浄するなりスポイトの先端を切り落とすなりすればいいし、スポイトの吸盤のようなものが作れるかどうかだけど、無理なら上の方を漏斗のように広げてインクを注げばいいだろう。

 粘性の高いインクなら下に落ちるにも時間がかかるだろうし、落ちきる前に、上を塞げばパイプの中にインクをとどめておくことも可能だろう。

 これなら、強く振ったり中に残った空気を温めない限りインクは飛び出さないはずだ。

 まあ、万が一飛び出したときのために、インクは一旦外を経由して中に戻るようにすればいい。

 内部を密閉し小さい穴をひとつだけ開けておけば、これまた空気圧の関係で中に液体は侵入できないはずだ。


「早速、カイゼルさんにお願いしよう」


 僕は構想をまとめ、カイゼルさんにメールを出す。

 何度かメールのやり取りを行い、実際に会って詳細を詰め、試作品が出来たのは一週間後のことだった。


 インクを安全に持ち運ぶ仕組みですが、思いついてみればなんてことはない仕組みですが、思いつかないときはとことん思いつかないですね。

 これを思いつくのに結構時間がかかりました。

 まさにコロンブスの卵。

 もちろんすぐに思いつく人はいるでしょうが、当事者になってみると、なぜか思いつかず第三者に指摘されて、ああ! と思うこともしばし。

 集中しすぎると近視眼的になって、簡単なことが見えづらくなることがあります。

 よくミスする人は不注意なのではなく、注意しすぎて周りが見えなくなってることが原因の一つとか。

 煮詰まっているときは気分転換したり様々な視点から見つめ直すことが必要なのだと思います。


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