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クリーンルームの完成

 久々にカイゼル魔導士爵から面会依頼が来た。

 先生も同行するとのこと。

 僕はそれを了承し、二人を本宮の執務室に招いた。


「お久しぶりです、先生、カイゼルさん」

「お元気そうで何より」

「本日はお目通りかない光栄に存じます」


 ん?


「カイゼルさん、しばらく見ない間に気持ち悪くなってません?」

「気持ち悪いとは何だよ」


 それでこそカイゼルさん。


「いつ、公爵様に召喚されてもいいように、すこし言葉遣いについて教育していたのですよ。しかし反射的に下町言葉が出るようではまだまだですね」

「ああ、なるほど。今のままではうっかり打首になってしまいかねませんからね」

「うっかりで打首になってたまるかよ」

「先は長そうですね、先生」

「これはなかなかやりがいがありそうですね。じっくり取り掛かりましょうか。まあ、それまで首が残っていればですが。さすがの私めも生首の家庭教師は御免被りたいですし」

「勘弁してくださいよう」


 カイゼルさんが泣きそうなのでこのへんで許してあげましょうか。


「では早速ですが本日の要件に移りますか」


 僕はカイゼルさんをからかうのをやめて本題に入る。


「はい、以前よりご要望の有りました『クリーンルーム』が完成いたしました」

「私も協力しまして、ようやくこれまでの四倍、八一九二ページ分でエラーの出ない魔導板がほぼ安定的に作成できるようになりました」


 おおー。

 これまではエラーの出ない魔導板は二〇四八ページが限界で、それでも時々不良品が出ていた。

 一気に処理速度四倍。

 赤い人よりすごいぞ。


「どんな工夫をされたのですか?」

「そうですね、まず作業場の隙間はスライムの粘液と膠で徹底的に塞ぎました」

「それから部屋は二つに区切って、実際の作業場には手前の部屋で体や服を洗浄した後で入るようにしたんだ」

「奥側の部屋の天井に五センチ位の穴をいくつか開けてそこから洗浄の魔法で綺麗にした空気を流し入れてあげます」

「仕切りのところのドアと実際のドアの下はわざと隙間を開けて、空気を逃がすようにしているんで、ホコリなんかはこの隙間から外に出ていくという寸法だ」


 先生とカイゼルさんが交互に僕に説明してくれる。


「なるほど。洗浄した空気を奥から手前に流すことで部屋全体に洗浄の魔法をかけなくても済むようにしたのですね」


 洗浄の魔法は範囲が広くなるほど魔力を消費しますからねぇ。


「部屋全体を洗浄の魔法で綺麗にしようと思うと、数秒ごとでも魔力が持ちませんでした。なので洗浄はまず外の部屋で行って、部屋全体ではなく中に取り入れる空気だけを洗浄することにしました。後は体に定期的に洗浄の魔法をかけることでホコリを最小限に留めることが出来ています」

「コーティング液を作るときもゴミを極力入れないよう目の細かいアラクネ糸で編んだ布で何度も濾してみた。アラクネ糸はそれ自体がものすごく長く丈夫な糸で、綿や毛などとは違って短い繊維を撚り合わせた糸でないから糸くずのようなものは殆ど出ない素材だからな」


 ファンタジー素材キター。

 アラクネ糸は結構高級品だ。

 アラクネ自体上級魔物だからね。

 まあ、アラクネは獲物が一度かかると作った巣を放棄して、別の場所に移動する性質があり、討伐しなくても糸が手に入るらしいから高級ではあるが入手困難と言うほどのものでもない。

 アラクネは上級魔物ではあるけど巣にかかった獲物しか襲わないため脅威度は低く、巣も一定の縄張り内で作るため見つけやすい。

 それが放棄された巣かどうかの見極めさえ間違わなければ、ほぼ危険もなく収集できるので、討伐などせずほぼ放し飼い状態なのだとか。


「八一九二ページ分でエラーなしということは、『バッドセクタ』回避すれば一六三八四ページまではいけそうですね」 

「はい、問題ありませんでした。流石にその二倍は『ばっどせくた』が多くなりすぎて無理そうですが」


 現在はバッドセクタ回避して四〇九六ページ分で出荷しているが今後は一六三八四ページで製造できるというわけだ。

 四倍速ならネットワークももう少し早くできるしグラフィックなんかも組み込めるかもしれない。

 今のグラフィックはちょっとした線を引くだとかのなんちゃってだし。


「早くなるのはいいんだが、これまで売ったのはどうするんだ? 買ってすぐ早いのが出たら恨まれないか?」

「まず、今の処理速度があれば普通に使う分には問題ないはずです」


 重い処理はそんなにないしね。

 八ビット機飛び越えて三二ビット中盤からのスタートで文句を言うやつがいたら僕が怒る。

 きさまら、どんだけ恵まれてんのかわかってんのかと。


「値段も今回『クリーンルーム』を作成した時のコストを上乗せしますので、値段は結構高くなるのではないでしょうか?」

「そうだな。後で明細を出すが、部屋の改造やら魔導具の作成やらで結構かかっているぞ」

「まだ販売数が少ないので、一台に上乗せするコストは結構上がりそうですし四倍速ですから『プレミア』価格つまり付加価値価格が追加できます。速度四倍+『プレミア』で今の定価の五倍から六倍に値段設定してもいいかもしれません」

「そんなに高くして大丈夫か?」


「シーケンスを抜いた本体価格の五倍ですから、実際の価格は三倍位になりますでしょうか。これだけ値段に違いがあれば、すでに買った人も納得できるだろうし、場合によっては『アップグレードサービス』してもいいかもしれませんね」

「『あっぷぐれーど』ですか?」

「魔導板部分は封印処理して個別モジュールになっていますから外せますよね?」

「ああ、簡単に外せる」

「ならそこだけ取り替えれば後は同じ部品で済みますから。取り替えた魔導板は回収して、そのまま別の『パソコン』を組んで販売してもいいですし、洗浄して四倍速魔導板に作り変えてもいいでしょう。新しい『パソコン』と同じ値段か少し安めの値段設定なら納得していただけるのではないですか?」


 『パソコン』のハード部分の値段はほとんどが魔石と魔導板でしめられている。

 魔石も魔導板もそれに関わるのが貴族のため、工数単価が高くなるのだ。

 キーボードや筐体、インク壺なんかは平民の職人が作るので手間がかかっている割に安かったりする。


「まあ、回収するのに手間と金がかかるが、それなら恨まれることもないか?」

「それまでインストールしたアプリやデータをどうするかという問題はありますが」


 固有IDは魔導板に書かれているからね。

 魔導板を交換したらその魔導板に同じUSBメモリでインストールは出来ない。

 データなども消えるので、新しい板に書き換える必要がある。


「そのへんはまあ、後で考えるとして、この新しいのはとりあえずサーバ用として売り出しましょう。用途が違うと言えば納得する材料になるはずです」

「「『さーば?』」」

「この間完成した、手紙を離れた人に瞬時に渡すアプリ専用の『パソコン』です」

「瞬時にってどうやってだよ? 手紙を土魔法で石板に書いて先方まで飛ばすのか?」


 いやいや。

 それじゃあ、誰かにあたって怪我をするかもしれないじゃないですか。


「飛ばすと言えば飛ばすのですが、紙ではなく情報だけ飛ばします」

「手旗信号や狼煙みたいにですか」

「まあ、原理は一緒ですね。見えない光の一種を使って、『パソコン』同士で手旗信号のようなやり取りをして、情報を交換するのです。『パソコン』は人間の動作より超早く動けますから、手旗信号のようなものでもものすごく早く相手に伝えることが出来ます。この情報を仲介するのが『メールサーバ』です」


 超早い手旗信号を想像しているのだろうか。

 考え込む二人


「確かに計算速度が人間とは比べ物にならないくらい早いのですから、手旗信号も早く伝えられるでしょうね」

「はい、いまのところ一秒間に六二万文字近くの手紙が送れます」


 実際にはヘッダとフッタがあるからもう少し少なくなるかもしれないが。


「六二万文字だと! それも一秒間で。手紙なんて一ページ書くのに数時間はかかるってのに」


 数時間はかかりすぎですカイゼルさん。


「とてつもない速さですね。でもそこまでの速度が必要なのですか?」

「必要です。いえ、これでも遅いくらいですよ。今は文字情報が主なものになりますが、将来的には『アプリ』を『USBメモリ』ではなく『メール』で送るなどということも視野に入れれば遅いくらいです。今後は文字だけでなく音声や画像なども作れるようになっていくでしょうし」


 僕の書くシーケンスはでかいからね。

 でもメールで送れるようになればアップグレードなどが簡単になる。

 音声や画像データは優秀な圧縮ツールが出来ないととてつもなくデータがでかくなるからなぁ。

 こんなもの送ろうと思ったらいくら速度があっても足りない。


「とりあえず新しい魔導板を使った『パソコン』を一台僕が買いますので、後で納品してください。『メールサーバ』の仮運用を始めて、その便利さをみんなに知ってもらおうと思いますので。いつ納品できます?」


 まずは使ってみる。

 そしたら実感も湧くだろう。


「板はすでに何枚か有るし、確認用に一台組んであるからすぐに納品できるが」

「すばらしい。そうですね。まず僕と先生とカイゼルさんとでメールをやり取りできるようにしましょう。それで問題点を洗い出し、実用に耐えると思えるところまで来ましたら父上に『プレゼン』して買っていただきましょうか。カイゼルさんは新しい『パソコン』と自分の『パソコン』を一緒に持ってきてください。先生もご自分の『パソコン』を持ってきていただけますか? 『メーラー』をインストールして使い方を説明しますので」

「わかりました」

「すぐに持ってくる」


 二人はそう言って部屋を出ていった。

 僕はその間インストールの準備をして帰ってくるのを待った。


 クリーンルームは今では欠かせない存在になっていますが、半導体工場は言うに及ばず、一般の人も利用するものとしては病院の手術室なんかがあります。

 それぞれ要求されるクリーン度(空気清浄度)には違いがありますが、基本的にはきれいな空気を入れて汚れた空気を外に出すという原理は一緒です。

 あとは、空気の流入方法や排気の方法の違い、フィルター性能なんかによって、実現できるクリーン度に違いがでます。

 半導体工場のようなクリーン度にするには建物の構造まで考える必要もありますが、ここは異世界w

 科学+魔法の力w で結構なクリーン度を実現しています。


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