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メールアプリの完成

 問題を単純化した結果、メールアプリは一週間程度で完成した。

 ちなみにこの国では一周間は六日だ。

 一ヶ月は三〇日、一年は一二ヶ月+約一週間の三六五日でうるう年あり。

 うるう年は新月と言われる一月? 一三月? が五日になるか六日になるかで調整だ。

 曜日は闇光火風土水があり、月の初めは必ず闇曜日から始まる。

 一週間のうちに決まった休みはなく、三六五日いつでも仕事、ということはなく皆適当に休んでいるようだ。

 新月は春分の日から数えて五日か六日間。

 新月は新しい年を祝ったり準備したりする月であり、お祭りがあったり、仕事が休みになる所も多いようだ。


 ようだが多いのはほとんど離宮の外へは出たことがないからだけど。

 デビューするまでは基本的に子供は隠されて育てられるからね。

 あんまり露出させると、そういえばあなたのところのお子さん最近見かけませんね? ってことになって外聞が悪い。

 処分されたってことが一発でわかってしまう。

 つまり出来の悪い子供を生んだとなって、その両親もが貶められるネタになってしまうから、できるだけ人目にさらさないのだ。

 僕としてはヒッキーなのでそれでも構わないのだが、たまには外に出たいものである。


 暗殺騒ぎはゴメンだけど。


 さてメールサーバだが、そんなに難しくはなかった。

 データを受け取って各個人のメールフォルダに保存し、送信先のパソコンがつながってたら、メールが来てるよ信号を送り、メーラーがデータを取りに来たらデータを送るだけ。

 暗号化もDB化もデータ転送もしないとごく単純なプログラムで済む。

 一斉にメールを取りに来たりした時の排他処理や、送信中に回線が切れた時の処理が面倒だったくらいで、特に引っかかるところもなかった。


 メーラーも送信するだけ、受け取るだけだから、かなり単純だ。

 送受信したメールはメールフォルダに普通にファイルとして保存されるから、そのままエディタで確認してもいいし、一応エディタを組み込んだメーラーも作った。

 いや、メーラーからエディタを呼び出しているだけなんだけどね。

 ツリー表示などもない単純なものなので、機能もほとんどファイラーだ。


 メール一覧の表示と削除、新規メール作成や返信、転送のコマンドが選択できる程度のもので、メールの表示や作成はエディタ任せ。

 なのでエディタ画面から返信したり転送したりは出来ない。

 一旦エディタを終了しメーラーに戻る必要がある。


 あとはアドレス帳管理なんかができる程度のものをでっち上げた。

 添付ファイルについてはメーラーやエディタに組み込まずish方式、つまり外部アプリでエンコード・デコードすることとした。

 別にしておけば後から他のアプリに組み込むときも楽だからね。

 アプリの中に直接組み込んじゃうと、バージョン管理とかで面倒なことになる。

 共通部分は別アプリとして個別に呼び出したほうが都合がいいのだ。


「アンジェリカ、メールのテストするから、キリいいところで終わらせてね」

「はい」


 アンジェリカには今タイピングソフトでキー入力の練習をしてもらっている。

 僕がメールアプリにかまけてる間暇そうにしていたので、使っていないパソコンを貸し与え、やらせたのだ。

 流石にエール券はつけられないので、新たにスイーツ券を作って成績によって賞品として出している。

 でもそれももう、そろそろ終わりかな。

 だいぶ早く正確に打てるようになってきたし、なんかアンジェリカが少し丸くなってきたような気がする。

 そろそろ成人させたらとの話も聞くし、女性特有の丸みならいいのだけど。


「アルカイト様、やりました! また記録更新です!!」


 アンジェリカが飛び上がって喜ぶ。

 うん、良かったね。

 でも、それ、もう終わるんだよ。

 僕は生暖かい目でアンジェリカをみつめる。


「良かったね。どれどれ」


 僕はタイプングソフトに表示されている記録を確認する。


「おー頑張りましたね。これスイーツ券です」

「ありがとうございます、アルカイト様!」

「うん、これだけ打てればもう練習は不要でしょう」

「え゛!?」


 アンジェリカの顔が絶望にゆがむ。


「……ならスイーツ券は?」

「もちろん終わりですね」

「そんなー」


 乙女がorzとかはしたないですよ?

 そこまでショックでしたか。

 まあ、甘みは高いですからねぇ。

 このへんだとサトウキビは育たないので、代替品として麦芽から作った水飴が主流のようだ。

 エールの原料でもあるけど、陪臣たちがエール券で喜んだことでもわかるように、こちらもけっこういい値段だ。

 基本生活必需品以外は贅沢品に分類されてしまうからね。

 その他に甘みと言えば干した果物とかしかないが、食料生産の余剰能力で作られるため、余剰の少ない原始的農業では大量生産できるものでもない。

 需要に対して供給が少ないため高値になるのだ。

 もちろんアンジェリカには給金が出ていないので、甘みを買うことも出来ず、僕らの食事で下げ渡されるとかでもしない限り口には出来ないからね。

 結構貴族の暮らしも世知辛いのです。

 特に今は選定の儀の最中。

 貧乏領地の代官では公爵といえ贅沢は敵だ。


「メールソフトが売れたらまたスイーツ券をあげますから協力してくださいね」

「はい、何でもお命じください!」


 いきなり気合が入ったな、おい。

 やはり女の子はスイーツで出来ているというのは本当のことか?


「じゃあまずメールソフトをインストールしてしまおう」


 僕はUSBメモリにメーラーをコピーしアンジェリカが使っていたパソコンにインストール後、初期設定する。

 すでにもう一つのパソコンにはメールサーバをインストールして起動してある。

 メーラーはもう一台、僕の初号機でも動いているから、これでアンジェリカと僕の間でメールのやり取りができるようになったはずだ。


「それじゃ、メールを送るよ」


 僕はメーラから新規文書を開いて、適当な文書を書いて送信する。


「あ、何か映りました」


 新着メッセージが一行太線で表示されているはずだ。


「そこを選択して、enter押してみて」

「はい」


 選択の仕方はタイピングソフト等と同じ文字反転だからアンジェリカも戸惑うことなく操作が可能だ。


「あっ、開きました。えっと、スイーツの食べすぎに注意? どういう意味ですかアルカイト様?」

「そのままの意味です。まさかこれまで獲得したスイーツ券全部使い切っていませんよね?」


 アンジェリカが目をそらす。

 ギルティ。

 スイーツ券の枚数は陪臣達にタイピング競争をさせたときの成績を元に決定した。

 一回で一〇枚近く獲得したこともあったから、全部で三〇枚くらいはあったはず。

 エール券のように一日の使用制限はかけなかったのは失敗だっただろうか。


「次から一日一枚だけしか使用できないように料理長には言っておきますね」

「そんなあ」


 絶望した! みたいな顔で嘆くアンジェリカ。


「そろそろ成人の儀を行おうという話が出ているのでしょう? 用意したドレスが入らなくなってもいいんですか?」

「うぐっ」


 ドレスとか基本手作りのオーダーメイドだからね。

 作るのにすごく時間がかかる。

 出来上がるまでにサイズが合わなくなるとかよく聞く笑い話だが、女性にとっては死活問題だ。

 まあ、作るのに時間がかかる分、長く着られるようにある程度サイズ調整はできるようになっているはずだけどね。

 その調整幅を超えてサイズアップするのは相当やばいってことだ。

 晴れ着なんかは絶対に期日に遅れるわけにはいかないので割と早めに用意するわけで、成長期の子供用だと結構な調整幅が有るはずだがアンジェリカは大丈夫であろうか?


「ま、まだ大丈夫なはずです」

「まだ?」


 うーん、これは本格的にダイエットを考えたほうがいいかもしれませんねぇ。

 水飴を使ったお菓子のカロリーは知らないけど同じ甘さにしたら砂糖と同程度のカロリーはあるだろう。

 いや、元の世界で甘みとして水飴が一般的に使われていないのは、甘みが砂糖より劣っているからではないだろうか?

 つまり砂糖と同じ甘さにしようとすると大量に使わないといけない。

 結局カロリーは砂糖と同程度かそれ以上になる可能性もあるな。

 まあ、とりあえず運動からしてもらおうか。

 僕はアンジェリカにメーラーの使い方を教え、離宮の中をパソコンを持って適当に移動させる。

 どこまで受信できるか確認するためだ。

 これまでそれをしなかったのは、メールのようなものがないと接続確認がめんどくさいからだ。

 メールがなくても、接続出来た出来ないくらいは確認できるけど、出力や周波数の調整がすぐには出来ない。

 メールがあればこっちから指示して出力を調整させたりできる。


【自室に来ました。ドアは開けたままです。電波は『ばりさん』です】


 アンジェリカからのメールが届いた。

 『ばりさん』というのはそのまま電波強度インジケータの表示のことだね。

 エラーが全くない状態がアンテナ三本でバリ三。あとはエラー頻度でアンテナの本数が変わる。

 まあ、こっちのパソコンにアンテナは付いていないけど。

 何しろ新しい概念ばかりなのでこちらには専門用語? が存在しない。

 多くは向こうの言葉を流用している。

 考えるのめんどくさいんだもん。


【ドアを閉めてみて。接続が切れたらすぐにドアを開けてね】

【閉めました。『ばりさん』のままです】


 すぐにアンジェリカから返事が来る。

 まあ、アンジェリカの部屋とはそんなに離れていないしね。

 使っている周波数帯も八〇〇メガヘルツ帯。

 むこうのwifiで使われている二・四ギガヘルツ帯や五ギガヘルツ帯よりずっと障害物に強い。

 しかもおそらく送信出力が段違いだ。

 wifiだと出力は確か一〇ミリワットとかそんなものだったはず。携帯でも一ワットなかったと思う。

 しかし今実験しているパソコンでの出力はレーザーの出力を基準に考えると一ワットとかそのくらいになるはず。

 計測機器がないので正確なところはわからないけど、まあ多分そのへんだ。

 おそらくこの程度あれば多少の障害物があっても平気だろうし、うまくすれば離宮外でも届くかもしれないとして設定した値だ。

 インターネットとか電話網とかないからね。


 できるだけ遠くにつなぎたい。

 町の商人やギルドなんかと通信がつなげれば、商品の注文なんか、わざわざ出かけなくとも済む。

 幸いなことに下級魔石でも通常状態なら常時数百W程度の出力は確保できるので一W程度の出力は問題にならないはず。

 電磁波とか健康上の問題が有るので、あえて低く抑えているだけだ。


【じゃあ適当に移動して。移動する前にどこに行くか知らせてね。あと接続が切れたら一個手前の場所に戻ってね】

【わかりました】


 アンジェリカは離宮内のあちこちに移動しては電波強度とその場所を伝えてくる。


「うん、離宮の中なら低くてもアンテナ二本か。もう少し出力は低くてもいいかもしれないが、二本のところもあるからメールサーバを置く位置によっては接続できないとか、離宮外とは難しいかもしれないな」


 今日は周波数帯による違いは検証していないけど、この程度つながるのなら、まあ確認しなくてもいいか。

 あくまでつながらなかったら変更する必要があるだけで、つながるのであればどこの周波数でも問題ない。


【戻ってきて】


 一通り計測が終わった後、アンジェリカを呼び戻す。


「次は父上にプレゼンかな」


 まずはメールを使ってもらい、デバッグしたり要望を聞いてブラッシュアップもしたい。

 今の所メールの顧客は父上だけなので、買ってもらえないと話にならないのだ。

 僕はエディタを立ち上げプレゼン資料の作成に取り掛かった。


 主人公が使っているバリ三はすでに死語となっているようなので、一応作中で解説していますw

 昔の携帯電話はアンテナ三本が多かったのと、つながらない場所が結構多かったので、この言葉が流行ったようですが、今は五本だったりと必ずしも三本ではないことと、つながらないってことが殆どなくなったため、棺桶にほぼ両足を突っ込むことになったようです。

 しかし今、復活の兆しが!

 そう、かの楽に天国に行けるあの会社の携帯が昔のようなつながりにくさを実現したのです!

 基地局の少なさと、プラチナバンドを持たないハンデのせいで、ある程度仕方がないのでしょうが、今の段階で〇円をやめたのが吉と出るか凶と出るか、バリ三が復活するのか、目が離せませんw


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