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剣術のお稽古

 次の日は朝もはよから剣術のお稽古。

 到着の次の日は疲れているだろうからと好きにさせてもらったが、今日から日常へ戻る。

 僕が受けている授業はこの剣術とダンスとマナー一般で、あとは自由時間というか『パソコン』の開発とマリエッタとの交流の時間としている。

 中でも一番苦手としているのがこの剣術の稽古だ。

 元々体が小さいし、外にも殆ど出ないヒッキーだ。

 体力で二つ年下のマリエッタにも劣ると評判の僕がまともにやり会えるはずもない。


「ほらほらアルカイト様! 腰が引けてますぞ!! もっと腰を入れて打ち込んでください」


 今日のお相手は副団長のデニアスだ。

 だいたいいつも団長か副団長が相手してくれるのだが、今日の副団長はなんか恨みが籠もっている気がする。


「王都に行かれている間、稽古をサボりましたね? 今日は徹底的に鍛え直しましょう」


「むりー」


 副団長の木剣が打ち込まれてくる。


 ガキン。


 うげ、手がしびれる。

 まともに受けとめた僕の手はしびれて剣を取り落しそうになったが、なんとか耐える。


「体格の違う者の剣をまともに受けてどうするのです。躱すか脇に受け流すのですよっ!」


 ガコン!


「うわっ!」


 二度めは受け止めきれず、木剣が飛んでいく。


「剣を落としたらすかさず拾いに行くんです。敵は攻撃を待ってくれません」


 僕は慌てて剣を拾い、構え直す。


「なんかちょっと厳しすぎません?」

「アルカイト様は二度も殺されかけてます。またいつ狙われてもおかしくありませんからね! これでも甘いくらいですよ。心を鬼にしてでも鍛え直さねばと決心しただけです」


 その割にイイ(・・)笑顔で僕に迫ってくる。

 これはあれだ、八つ当たりだ。

 僕が狼を倒したと気がついたか、あるいは少なくとも疑っているか。

 ほとんどの狼に火球は当たっていなかったからね。

 死体を検分すれば自分達が倒したのではないと気がつくであろうし、事実おじい様にもそんなようなことを話していたらしい。

 自分たちでなければ僕かアンジェリカということになる。

 流石に僕が下級魔石で倒したとか確信が持てないだろうが、おじい様から秘術を預かっていてそれで倒したとかは考えられる。

 なのにしれっと騎士に手柄を押し付けたのだから、憤懣やるかたないのもわからないでもない。

 だからって子供に八つ当たりするのって大人げないんでない?


「そういえば副団長。おじい様から士爵位をひとつ頂いたとか。おめでとうございます」


 要は誰か一人を士爵に叙爵する権利を得たということだ。

 基本的に叙爵は王の権利だけど、その権利を譲渡することもできる。

 というか王が全員を叙爵してたらいくら時間があっても足りない。

 通常は王自身の子供は自分で叙爵するものの、それ以外は各領主や功績のあった士爵に権利を与え、与えられた者が必要に応じて叙爵するのが普通だ。

 また領主にも自身が面倒を見られる範囲で叙爵する権利が与えられており、領主は自身の権利と、王から与えられた権利の両方を持っていることになる。


 これらの権利は領主が使ってもいいし、他に分け与えてもいいし、どちらの権利を使うかは権利を持つものの裁量に任される。

 ただし領主が与えた権利を使って叙爵した場合はその報酬や身柄は領主が。

 王が与えた権利を使って叙爵した場合は王が面倒を見ることになる。

 今回は王からもらった権利であるため、所属も王都となり、デニアス副団長とは別の所属となってしまうが。

 副団長は父上の直臣で、フラルーク公爵領所属だからね。


「なんともありがたいことにあの時の四人共ね!」


 ガキン!


 ありがたがってる顔じゃないですよね?


過分(・・)な沙汰に、みな喜んでおりますよ!!」


 ガキン! ガキン!


「うげ」


 やぶ蛇だったか。

 何もしていないのに褒章だけ過分にもらったら気味悪いよね?

 おじい様もなんか気がついてたっぽいので、口止め料代わりなのだろうけど、命助けたのにこの仕打はあんまりでない?


「副団長はどなたを叙爵されるので?」


 おっと。

 僕は剣を躱しながら尋ねる。


「この間もご一緒しました従者を務めていたゲリックに与えようかと。うちの愚息です。一応騎士としての訓練や勉強もさせてきましたし」


 ああ、黒狼にふっとばされていた。

 あれ副団長の息子さんだったのね。

 貴族以外だと紹介されることも普段言葉をかわすこともないからなぁ。

 文官はともかく騎士や兵士とはあまり親しくはない。

 護衛とかで周りにはいるけど、護衛中に無駄話などできるはずもないし。


「それはいいですね。彼のおかげで怪我をしなくてすみました。礼を言っておいてください」

「ありがたきお言葉。きっと伝えます!」


 うへぇ!

 ほんとにありがたく思っているのか疑問なほど強い打ち込みに、僕は再び剣をふき飛ばされる。


「さあ、もう一度!」


 もうかんにんしてつかわさい。

 さすがの僕も泣きが入るぞ。

 とぼとぼと取り落とした剣を拾い、再び構える。


「でも授爵したら従者をやめるんですよね? 代わりに心当たりは?」

「ご心配無用。愚息はもう二人おりますゆえ。ここで兵士を務めております」


 おお。

 さすが忠臣デニアス副団長。

 一家まるごと当家に仕えていたようだ。

 従者なら准貴族と言えるけど、兵士だと完全に平民だ。

 それが繰り上がって准貴族扱いだから立場も報酬も桁違いだ。


「それは良かったですね」

「すべては、アルカイト様のお・か・げ・デス!」


 おい待て。

 デスがdeathじゃなかった?


 ゴキン!


「うがぁあ」


 横薙ぎの木剣を受け止めた僕はそのまま剣ごとふっとばされる。

 副団長たちに手柄を押し付けたことは悪かったと思うよ?

 でも、褒章ももらったし、確信もないのに僕に八つ当たりするのってなんかおかしくない?

 この恨み晴らさでおくべきか。

 絶対にやり返してやると誓いながら僕は芝生の上を転がっていった。


 貴族は一応剣術を習いますが、実際の戦いで使うことはあまりないです。

 大抵は魔法でなんとかなるからで、騎士以外では精々短剣を持つくらいで、それも実用性より見栄え重視のアクセサリー感覚です。

 拳銃を持っているから、剣はいらないよねってことですね。

 サラリーマンで言えばスマホを常用しているのに、ぶっ高い腕時計を見栄でつけるようなものでしょうかw

 腕時計が便利なシーンもないわけではないんですが、昔に比べれば頻度は低くなり、大抵はスマホで代用可能。

 自分もスマホを持ち始めてから腕時計は使わなくなりました。

 となるとあとはアクセサリーとしての価値しかなくなり、異世界でも剣の価値は低く、儀礼的行事のときくらいしかまともに剣を身に着けません。

 まあ、剣は身につけて歩くだけでもある程度技術や慣れが必要なので、それなりに訓練は欠かせないのですが。


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