領地への帰還
ようやく領地に帰ってきました。
やはり章立てはしませんが、ここからは内政編といったところでしょうか。
パソコンとその応用で、内政改革を進めていきます。
「フラルーク離宮よ、僕は帰ってきた!」
僕は定番のセリフを叫びながら馬車を降りる。
さすがに馬車にも慣れたのか気分も悪くならなかったし、行程も順調で行きよりも帰りのほうが二日早い五日で到着。
まあ、普通の行程だね。
「アルカイト様、お屋敷に入るまでが『えんそく』ですよ」
アンジェリカがキメ台詞を言えてご満悦の僕に水を差す。
すでに『遠足』を使いこなしているとは、アンジェリカ、恐ろしい子。
「はいはい。生身での移動中が最も危険ってね」
あたりは騎士で囲まれているが、この騎士の中に裏切り者がいないとも限らない。
騎士の殆どは臨時に借り受けた者たちだから、絶対に信用できるというわけでもないしね。
僕はアンジェリカとともに離宮の表玄関へと向かう。
父上や兄上たち、そして父上の第一第二夫人も一緒だ。
「「「おかえりなさいませ」」」
玄関までは屋敷の使用人たちが並んで出迎えてくれる。
「ああ、何もかも皆懐かしい」
「懐かしいもなにも一月も経っていませんよね?」
「子供の一ヶ月は長いんです。それに色々ありましたし……」
僕は遠い目をして過去を思い浮かべる。
「まあ、色々ありましたね。馬車で死にそうになってたり殺されかけたり殺されかけたり」
「しかし、もうそんな波乱万丈とはおさらばです。ここは僕のホーム。何が来ようと撃退してやります、騎士団のみんなが!」
なんか周りでぎょっとしている騎士の面々。
「できれば私を巻き込まないでくださいね」
「前向きに善処します」
「はぁ、善処する気がありませんね」
「だって、相手の有ることですから、善処したからってどうにかなるものでもないですし」
しかもこれから敵を経済的に追い詰める予定なのだ。
恨みを買う可能性はさらに高まる。
そうこうしているうちに玄関に到着。
扉が開かれ、中へと進む。
「おとーたま、おにーたま!!」
中に入った途端マリエッタがとてとてと駆け寄ってくる。
「「ただいま、マリー」」
父上と僕は揃ってマリエッタをその手に受け止めた。
「いい子にしてたか? マリー」
「うん!」
「マリー、色々お土産有るからね」
「やったー」
あー、癒やされるぅ。
殺伐とした王都はもうゴメンでござる。
「あなた、おかえりなさいませ。皆様もようこそおいでくださいました。ほら、マリエッタもご挨拶は?」
「あっ、そうだった。おとーたま、おにーたま、おかえりなさいましぇ」
ちょっとぎこちないながらもカーテシーで出迎えてくれるマリエッタ。
うちの妹が可愛すぎる件。
「マリーも元気そうで何より」
「うん! マリーは元気だよ。おうとのお話いっぱいきかせてね!」
うぐ!
話はいっぱいあるが話せないことばかりなのだよ、マリエッタ。
「まあ、おいおいね」
「みなさんもお疲れでしょう。湯浴みの準備はできておりますので、まずは旅の汚れをお落としになりゆるりとお過ごしください」
すでに先触れは出してあるはずなので、準備に怠りはないはず。
僕たちの部屋だけでなく、客間なども準備されているはずだ。
僕と父上、その婦人たちは母上の案内で後宮へ。
兄上たちは客間へと向かうようだ。
臨時の雇われ騎士たちは一晩宿直宮で明かして、明日には王都へ帰る。
よそ者がいるうちは完全には警戒を解けないから、今日は部屋に籠もっている他ないだろう。
まあ、マリエッタにおみやげを渡したり、話せる範囲での土産話でもしていればいい。
ざっと湯で汗を流し、部屋着に着替えると、リビングに向かう。
「おにーたま!」
そこでは待ち構えていたマリエッタが僕に飛びついてくる。
「マリーはね、マリーはね、とっても寂しかったの!!」
同年代の遊び相手といえば僕くらいしかいないからね。
兄上たちの年代なら騎士の子供らがいたらしいが僕たちの頃にはもうデビューするなり成人するなりして、ここから出ていったらしいから、本当に赤ん坊の頃を除けば同年代の子供がいなかった。
乳母はいるが陪臣の子なので当然平民で、乳離れすれば王宮への出入りはできなくなる。
僕にとってアンジェリカでさえ久しぶりに出会った成人前の子供ということになる。
アンジェリカの前にも何人か新しい侍女が来たけどみんなすぐにいなくなっちゃったからね。
マリエッタなどは物心ついた時には周りに僕以外の子供がいないという状況だ。
なんとかしたいところだが、今更一代貴族である公爵のところへ叙爵を望んでくれる奇特な者はまずいない。
何しろ、同年代はすでに平民落ちしているし、これから成人するものは、叙爵されても引退前に主を失うことが確定しているのだ。
陪臣ならともかく他の者を主と仰いだ者を受け入れてくれるところは少ない。
公爵に仕える者は主人とともに引退するのがこの国での慣例だから、若い者が来ることはまず考えられない。
「そっかー。ごめんね、一人っきりにして。これからはいつも一緒だからね。王都のお土産もいっぱい持ってきているから、これからちょっとずつ開けていこうか」
王都帰還が決まってからの三日間で、僕は王都の様々な品物を買い求めた。
もちろん買い物にはいけないから、王宮の御用商人を召喚しての買い物だけどね。
幸いなことに持ち込んだ『パソコン』が全部売れて僕の懐はホカホカだったので、遠慮なく買い求めた。
「母上のもたくさんありますからね」
お土産はマリエッタや母上の分だけでなく、使用人などにも下げ渡せるような、グレードを落としたものもちゃんと用意した。
「あらあら、どんな物があるのかしら? 楽しみだわ」
マリーがいるせいでここ数年はあまり王都には行っていない母上も嬉しそうだ。
僕の小さい頃は放置していても平気だったのでそれなりにでかけていたらしいが。
「アンジェリカ、例のものを」
「はい」
アンジェリカはリビングを出て、程なくメイドに小箱を二つもたせて帰ってくる。
すでに今日渡す分は先に梱包を解いて部屋においてあった。
それを持ってきてもらったのだ。
まあ、小箱と言ってもそれなりの大きさが有るけどね。
「あけてもいい? おにーたま」
「ああ、いいよ。こっちが、マリエッタ向け、こっちが母上向けですね」
「わーい」
マリエッタが無邪気に喜び、自分向けの箱を開けた。
「かわいい!」
そこに入っていたのはお花の髪留めやブローチなど、多数のアクセサリー類。
マリーはお花が好きだからね。
「あっ、ちょうちょさんもいる」
もちろんちょうちょさんも忘れてないぞ。
「こっちのネックレスは素敵ね」
母上も箱を開けて中を確認する。
今王都で流行りのデザインだそうです。
母上にふさわしいグレードのものと、普段使いや下げ渡すのに丁度いいものをいくつか選んできた。
田舎にいるとどうしても流行から遅れがちになるからね。
父上もそれなりに土産なども買ってくるようだが、父上のセンスはちょっと微妙だと聞いて僕がチョイスしてきたのだ。
まあ、僕もこういうのはよくわからないから、アンジェリカやおばあ様の助言にしたがってだけど。
「まあ、こんなに素敵なものをこんなにたくさ、ん? ……値段を聞くのは礼に反するのだけど聞いていいかしら。お父様に無理を言ったのではありませんよね?」
「心配無用です。なにせみんな僕のお金で買いましたから、父上には銅貨一枚も使わせておりません! 持ち込んだ『パソコン』が全部売れたのです!!」
持ち込んだ『パソコン』とソフトをフルセットで買ってもらったため、僕の書いたシーケンス代だけでもかなりのものになる。
もちろん父上の懐もかなり潤ったはずだ。
「まあ、まさかと思ったのだけど本当にあんなものが売れたのね? 私にはちょっと難しそうだったのだけど」
今でこそパソコンやらスマホやらを女性でも平気で使いこなしているが、昔は女性でパソコンに興味を示す人は極稀だった。
今でさえIT業界といえば男の職場で、女性の比率は極端に低い。
僕の職場もサービス系ならともかくプログラマやSEとかなるとほんの数えるほどしかいなかった。
文官仕事さえ女性にはさせない世界であるから、女性がパソコンに興味を持つようにするためにはiphoneのような手軽に使えるデバイスの開発が必要かもしれない。
先は長いがジョブズはそれをやってのけたのだ。
僕だって努力すればできる……かもしれない。
まあ、環境も能力も違うから今後どこまでできるかわからないけど、やるしかない。
僕は異世界のジョブズになると決めたのだから。
IT業界の女性比率は1~2割ほどだそうです。
それだけ応募する人が少ないのか。それとも採用が少ないのか。
昔はカットオーバー前など何日も泊まり込みになったりと、とてつもなく残業が多いところもありましたが、今は三六協定などの徹底で、そのようなブラック企業はだいぶ少なくなったはずです。
女性が少ないので、入社すると姫プレイならぬ姫ワークw 状態。みんなチヤホヤしてくれますw
独身男性も多いので婚活に最適。選び放題w
給与も自分の能力次第で上を目指せます。
この業界は常に人手不足で、即戦力が求められるため、子育てや病気などで一時休職や退職しても復職しやすいとか。
服装も割りと自由なところが多く、成果を出せば休憩時間なども割と自由に取れたりします。
仕事も自分の成果が実際に動いて見えるので、やりがいが有ります。
こんなにいい職場なのになんで女性が少ないのでしょうかw?