閑話 王子たちの会談
今日も閑話です。
一話だけの投稿です。
国王が立ち去り、続いて第三王子派閥の者たちも退室。
謁見の間には第一王子と第二王子そしてそれぞれの派閥の者が残っていた。
いや、王のあまりに唐突な宣言に動けなくなっていたというのが正しいか。
「あ、兄上」
それでもなんとか気を取り直して第二王子が話しかける。
「ディミトリ、大変なことになったね」
「大変って、大事じゃねぇか」
「まあ、そうなんだけど、ここは私達の力が試されていると考え、粛々と対応していこうではないか」
「随分冷静なんだな」
「今更慌てても仕方があるまい。とりあえずまずは二人っきりでは話そう」
「側近を排除してか?」
「ああ。人が増えればまとまるものもまとまらなくなるからね。まずは二人っきりで大枠を決めてしまおう。細かいところは側近に任せればいいだろう」
「まあ、兄上がそうおっしゃるのであれば」
彼らは側近を排除し手近な会議室へ向かった。
「さて、査察だが、どこまで踏み込むべきかね?」
「その前にひとつ聞いてもいいか?」
「なんだね、ディミトリ」
「今日のあれ、兄上のところだろ?」
「いきなりだな。謁見の間で父上に申し上げたとおりだよ」
「そうだな。ここにいる者たちは関わっていないだったか。ならここにいないものなら関わっているとも取れる」
「おいおい、言葉尻をとらえて悪く言うのはやめてくれないかな。いないものには尋ねられないのだからそう言うしかなかろう」
「まあ、そういうことにしておくよ。さて、どこまで踏み込むかだったな」
「ああ、父上は互いに監視せよとはいったが逆に言えば二年間なにも起こらなければ互いを監視する必要はないのではないかと思ってね」
「ふん、物は言いようだな」
「監視してもしなくても、なにか起これば三人共巻き添えなのだから、双方の派閥はどうしたって動けない。動くとしたら他の派閥かなって思うんだよね」
「俺達じゃなくて、他の派閥を警戒したほうがいいってことか?」
「私達が継承権を失うと、次に継承権が与えられるのは我らの子供たちになる。そうなればせっかく作り上げてきた派閥が分解する」
「そうだな。それぞれの母親の実家がしゃしゃり出てきて、俺達は田舎の公爵領に押し込められるだろうな」
「権力も財力もない舅など邪魔なだけだしね」
「そんなこと許せるかってんだ」
ディミトリがテーブルを拳で打ち付ける。
「そんなに熱くなるなよ。二年間何も起こらなければ問題ない。いや、フラルークが選定の儀から降りればもっと早くこの呪縛から逃れられるだろう」
「確かに。だが下手な手出しはこっちの首を絞めるぞ」
「もちろん今の状態で裏から手を回すのは得策ではありませんし、武力でどうこうというのもやめておいたほうがいいでしょう」
「ああそうだな。聞いたところによると、中級魔物の黒狼を含む五〇頭あまりの狼の群れを四人の騎士だけで殲滅したそうだからな。あそこには化け物じみた魔法を使うやつがいる。まともに行ったら被害が増えるだけだ」
「私も最初に聞いたときには耳を疑いましたからね。もしかしたら上級精霊使いが影から護衛していたのかもしれませんね」
「マジかよ。ならちょっかいを掛けるだけ損だな。暗殺騒ぎがあった後だけに父上が護衛に付けたってことか」
「その可能性は十分あります。ならば今も護衛していると考えたほうがいいでしょう。上級精霊使いについてはわかっていないことも多い。王子たる我らにも多くのことは教えていただいていない。どんな能力を持っているかしれたものではありません」
「なら、ここで話していることが聞かれている可能性もあるかもな」
「流石にそこまで万能ではないでしょう。そうだったらとっくに暗殺犯が掴まっているはずです」
「そうだといいがな。まあ会話が全部筒抜けだったら暗殺自体が未然に防げるか」
今は防音の魔法も使っているし、これで聞かれているとなるともうお手上げだ。
「最初の暗殺未遂で警戒されましたかね。あなたのところのおマヌケさんは下手を打ってくれたものです」
「元はと言えば兄上がフラルークを追い落とすため協力しようといい出したからじゃねぇか」
「確かにここ二年ほどでフラルークの領地は経済的に大きく発展し、第三王子にも関わらず、次の王にという声が高まってきました。我らが共闘する必要があった」
普通であれば今の時期になれば第三王子以下はすべて領地運営に失敗し、継承権を返上している頃だ。
しかしフラルークは領地運営に失敗するどころか、大きく税収を伸ばし、王に献上することができるまでにその力をつけた。
派閥貴族の援助をほとんど受けずにだ。
「一体どうやればあいつの領地でこんなに税収を伸ばせる? うちだってカツカツ、いや援助がなければとっくに潰れていたはずだ」
「それはこちらだって同じです。一番いい状態の土地を拝領していてさえこれですからどんな手を使ったものか」
「俺が王子でなければ、やつを次代の王に推したくなるのもわからないではない」
「おやおや、そうしたいのであればそうしてもよろしいのですよ」
「バカ言え。ここで降りられるかよ。一代で地位と財を築かないと、惨めな老後が待っているだけだろ」
「アルカイトが見舞ったというグレスタール大公のようにですか?」
「ああ。誰からも顧みられず離宮で軟禁されるように隠居しているだけなんて耐えられそうもない」
「それは同感ですね。力と金があれば直轄地を買い取って、侯爵として君臨することも可能ですからね」
「地位は落ちるが、代官の公爵よりずっと実入りもいいし何しろ自分だけの領地だ。代官では出来ないこともできるようになる」
代官はあくまで王の代理に過ぎないから、やれることにも限界があった。
これが領主であれば、国に一定以上の貢献をしている限り、ほぼその権限に制限はない。
「フラルークの躍進に焦った派閥の者たちが早まったことをしたおかげで、王にもなれずかといって優良な直轄地ももらえずではたまったものではありませんね」
「ああ、やるんなら証拠を残すなってんだ」
「同感です。一回目はなんともお粗末な出来で。二回目を見習ったらいかがです」
「まだ黒幕が捕まっていないってだけだろ。って、やっぱり兄上のところか」
「別にそうはいっていませんよ? 証拠を残さない手法は見習うべきと言っただけです」
「ふん、よく言うよ。まあ、そんなことはどうでもいいか。どうせ同じような手はもう使えないし」
「ですね。とはいえやりようはあります。裏からどうこうできないなら表からどうこうすればいいのですよ」
「表から襲えってか?」
「違いますよ。正々堂々と策を巡らせるのですよ」
「策ってところで正々堂々って言えるのか?」
「問題ありません。基本的にやることはこれまでと同じです。派閥を増やし、こちらの税収を上げ、相手の税収を下げる。例えばこれまで以上に派閥の勧誘を強化したり、領地に投資を行う。フラルーク領や派閥に物を売らない買わない、交易に高い税金をかけるなどなど、表から対抗する手段はいくらでもあります」
「ああ、それなら健全であることは確定的だな。禁止されているのは暗殺やそれに類する行為だから、選定の儀で一般的に行われる行為であれば問題ないってことか」
「ええ、超健全です。しかも我ら二つの派閥が手を組んで同時にかかれば、向こうも手を焼くでしょう」
「わかった。二人がかりでフラルークが領地運営に失敗するよう追い込むってことだな」
「ええ。やつが倒れた後、二人で思う存分競い合いましょう」
「一対一なら負けないよ、兄上」
「私のほうが今のところ幾分有利だと思うがね」
「ぬかせ。フラルークのところが倒れたら、やつの派閥はこっちにつかざるを得ない。兄上の派閥についても冷や飯食わせられるのが目に見えているからな。不利なこっち側ならある程度優遇されると誰でもわかるだろ」
「さてさて、そううまくいけばいいけど」
「うまくいかせるさ。その程度できなくて王になんかなれるかよ」
「それもそうですね。それができればそなたを王と認めるのもやぶさかではありませんよ」
「ああ、出来なきゃそれだけの器だってことだ。兄上に王位は譲る」
「それはありがたいですね」
「だから俺が王位についたときには協力してもらうからな」
「この状態から逆転されたのでは、それも仕方ないでしょう」
「だがフラルーク。貴様は駄目だ。第三王子が王になるってだけでも許せないってのに、俺の大事な息子を一人教会送りにしやがって」
「それはこちらも同感ですね。自分の息子が教会入りするなんて、王族として許されざる傷です。しかも第三王子が王位につくなど我が国の歴史上ほぼ例がない。しかも数少ない例も、上の王子が病気や怪我で死んだり王位につけないほどの後遺症を患ったり大失敗して教会送りになったときだけです。上の王子よりその能力が優れているからと王になった例はない」
「そうなれば俺たちは我が国始まって以来の無能と呼ばれる」
「ええ、それだけは許せません」
二人はゆっくりうなずき二人の弟の排除を誓うのだった。
二人の王子が超健全に対抗してくるようですw
健全といえば聞こえがいいですが、超健全空間と言われると、いかがわしいなにかのように思えてきますw
超健全なのにw
これは、ゲームがなければ人生じゃないあのアニメのせいですね!
言葉の意味がひっくり返るなんてことは長い歴史の中でよくあることで、「情けは人のためならず」を反対の意味で捉えている人がある調査では半数近くもいるとか。
そのうち健全という言葉がこのアニメのせいで、反対の意味に変わってしまうかもしれませんねw