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閑話 国王の憂鬱な午後1

 本日も閑話を二話投稿します。

 一話目です。


 アルカイトが襲撃された翌日。

 我は再び王子たちとその主だった派閥の者たちを謁見の間に集め、予定していた貴族のすべてが揃ったとの報告で我はその腰を上げた。


「国王陛下のご到着」


 侍従長の告知の後、我は謁見の間に入室し、玉座に座る。

 目の前にはひざまずいた貴族たちが派閥別に並んでいた。

 一番多いのは第一王子の派閥。

 流石に第三王子であるフラルークのところに貴族は少ない。


「……昨日の今日でそなたらを再び呼び出すことになるとはな」


 本来なら楽にしろとか、面をあげよとかいう場面であるが、我はそれを無視して話し始める。


「なあ。我の言葉はそんなに軽いのか?」


 これで我の怒りは伝わったであろうか。

 この者らを集めて釘を差したのが昨日の朝。

 事件が起こったのは、昨日の夕方。

 良からぬことを考えていた者でも、中止の使いくらいは出せたであろう。

 にも関わらず、暗殺は実行された。

 運良く無事だったとはいえ、我の言葉を軽視する輩がいることは確かであろう。


「我も引退間近だからな。もう権力が王子たちに移ったものとでも考えておるのか?」


 誰も彼も身じろぎひとつしない。

 この程度で動揺する者はおらんか。

 我が軽視されているのか、はたまた隠し事に慣れておるのか。

 まあ、両方であろう。


「ディミトリよ。後宮での暗殺未遂は、しでかした貴族の独断とのことで裁いたが、本当に他に関わった貴族はおらんのだな?」

「はっ、ご報告のとおりです」


 第二王子のディミトリが顔を上げて答える。


「面を上げて良いとは許しておらぬ。控えろ!」

「も、申し訳ございません」


 ディミトリは慌ててうつむく。


「一度はゆるそう。さて、前回の件も有るゆえ、まずはそなたに尋ねる。昨日の暗殺未遂にはそなたとそなたの派閥は関わっておらぬのだな?」

「この私が知る限りは関わっておりませぬ。もちろん昨日の今日ですからすべてを把握しているわけではありませんが、ここにいる者は関わっていないとの言質はとってありますし、査察中でもありますから怪しい動きをしていれば陛下にも伝わるはず」

「そうだな。ということは第一王子、リュドヴィックかその派閥がしでかしたということになるが……」

「お待ち下さい。こちらとてここにいる者たちが関わっていないと明言できます」

「しかしそれを証明することはできまい」

「そ、それはそうですが」


 前回は当事者ではなかったから涼しい顔をしていられたが、今回はそうもいかないであろう。


「今回、孫であるアルカイトが狙われたのは確かで、狙ったとするなら、そなたら二人かその派閥のもの以外、考えられん」

「単なる野盗の仕業とか貴族に恨みを持つ者の仕業とかは有るのでは?」

「無いな。野盗だとしても狼の群れを引き連れて襲わせたりしたら、盗れるものなど何も残らんぞ。貴族に恨みがあって誰でもいいから襲おうというやつはその兆候が見えるし、同様の事件を起こすものだ。しかし近年はそのような報告もない」


 旅の途中の貴族から盗れるものなんて、着ている服とか装飾品くらいなものだ。

 商人ではないので、商品や金をごっそり持っているはずもない。

 確かにそれだけでも高価なものであろうが、服も装飾品も狼どもに食いちぎられ使い物にならない状態にされる可能性が高い。

 着替えや予備の装飾品はあろうが、貴族の持ち物には大抵所属の紋章が刻まれているので、そのまま売り払うには向かないのだ。

 しかも貴族は魔法を使う。

 それを知って襲い来る野盗など聞いたこともない。

 貴族に恨みを持つ者の襲撃も同様だ。

 いないとは言わないが、貴族は一人でも一般の平民とでは力が違いすぎる。

 まともに貴族とやりあおうと思えば一〇〇人単位で人を集めなければならないだろう。


 そんなに人を集めようと思えばどこからか話が漏れるものだ。

 しかしそのような話は聞かないし近年は戦争もなく収穫も安定していて、飢饉や戦争で餓えたり死んだりするものもそうはいない。

 領地で暴政を振るっているものがいるとの報告もない。

 いい意味でも、悪い意味でも国としては安定していると言える。

 まあ、安定しているがゆえ権力争いに血道を上げる余裕があるのが困りものであるが。


「犯人がわからぬ限り、そなたとその派閥の者は疑われ続けることになる。それは今後王として立つのに差し障りがあろう」

「誠にその通りであります」

「そこで、そなたとその派閥も査察対象とすることとした」

「そ、それは」

「不服か? 確かに査察を受けることは不名誉なことではあろう。しかし、それで潔白が証明されたほうが将来遺恨が残らぬと考えたのだが……。なに、ほんの二年ほどだ。それで潔白が証明されれば良し。もし犯人が見つかっても獅子身中の虫が排除できると思えば安いものだと思わぬか? また、査察を受けている間は再びこのような事件が起きたときに無実を証明することになるやも知れぬ。それとも何か? 査察を受けられない理由でも有るのか」


 まあ、こう言えば断れないだろうが。

 断れば自派閥がやましいことをしていると白状するようなものだ。


「……いえ、陛下のお言葉に従い査察を受け入れます」


 案の定リュドヴィックは我の提案を受諾した。


「もう一つの提案として、査察は第一第二王子の派閥が定期的に互いに行い、また常時監視し合う事とする」

「「なっ!」」


 二人の息子が慌てて声を上げる。

 さすがに顔までは上げなかったが。


「なにか問題が?」

「はっ、今は選定の儀の最中。互いの手の内が丸見えになると、支障があるのでは?」

「兄上のおっしゃられる通り、公平な儀の進行が難しくなるかと」

「そうか? 片方だけでなく、どちらの手の内もわかるのだから公平では?」

「そこにフラルークは入っておりません。有利な状況で進めることができます」

「ほう。我はフラルークがとても有利だとは思えぬのだが」


 謁見の間にいる他の貴族の数を見れば一目瞭然だ。


「真に公平というのであれば、後ろ盾となる貴族の数やその財力、管理する領地の状態なども揃えねばなるまい。領地の状態とこれまでの援助分を考えると、今後援助できる貴族の数をフラルーク派閥の半分にするか? これなら公平であろう」

「……」


 ふたりとも黙り込んだ。

 そう。

 全ては公平でも平等でもないのだ。


「そなたらの息子達も同じような理論でアルカイトに迫ったそうだな。献上品で平等にするためとか。そもそも出だしから後ろ盾や与えられた領地で公平も平等でもない者に、こちらが不利になったからと公平性を盾に相手を不利にするのは『公平』な態度とは言えまい」


 単純な力比べだって、体の大きい者と小さい者とで有利不利がある。


「そなたらが不利になったとするなら、それはそなたらの息子とそれをそそのかした者。そして王族の暗殺などという大それた事をした者。強いてはそれを統率できなかったそなたらに責任があろう。無論すべての責任は我、王にある。その全責任者として我は提案しているのだよ。双方を監視し合うことで、二度とこのようなことが起こらないようにするのはいかがだと」

「陛下のご提案、ありがたく」

「当方も異存ありません」

「まあ、監視し合うだけでは抑止力に欠けよう。よってもし今後二年のうちにアルカイト並びにその家族周辺内で同様の事件があった場合、犯人がわからずともリュドヴィックおよびディミトリの王位継承権を剥奪するものとする」

「「「「「なんと!」」」」」


 謁見の間が騒然とする。

 まあそうだな。

 継承権の剥奪は、王族だけじゃなく貴族だって一大事だ。


「そ、それは厳しすぎるのでは?」

「そなたらが何もやましいことをしなければ問題がないことではないか? ここまですれば自制にも監視にも身が入るであろう」

「し、しかしそれではフラルークが自作自演しても我らが責を追うこととなりませんか?」

「リュドヴィックの言い分も最もだ。なら、その場合は自分の身内さえ守れぬフラルークも能力不足ということで継承権を剥奪。その時成人している孫たちで短期の選定の儀を行う。具体的な方法はその時詰めるが、新規領地の開拓でもしてもらおうか」

「「「「「ばかな!」」」」」


 再び騒然とする謁見の間。


「静まれ!」


 我の一言であたりは衣擦れの音も聞こえないほど静まり返った。

 まだ我の権威が失われていないようであるのは何よりだ。


「そなた達。王族殺しとはそれほどの罪であるとわかっておるのか? 本来であるならディミトリはとっくに継承権を外され、その状態で昨日の件が起きたなら、その犯人は第一王子派のものと見做され、リュドヴィックも罪を免れん。二年間の査察で済まそうという我の温情がわからぬようであればこの場で二人の継承権を剥奪しても構わぬのだぞ!」

「……」

「まだ異議のあるものには発言を許す。遠慮なく申してみよ」


 発言を求める声は上がらない。


「異議はないようだな。王孫とは言え直系の王族である限りは、いかに継承の可能性が低いとて誰が王になってもおかしくないのだ。未来の王に手をかけたのだということをその肝に銘じておけ。特にディミトリ、そなたとそなたの派閥は反逆者として処分されてもおかしくなかったということを忘れるな。他も同様だ。次は許さん!」

「「「「イエス・ユア・マジェスティ!」」」」


 貴族達が一斉に敬礼で応える。


「具体的な監視査察体制については今査察中の第二王子派閥の査察官も交えて双方の派閥で調整するように。以上、退出を許す」


 我は立ち上がり謁見の間を出る。

 その後ろでは事の大きさを受け止めきれていないのか、多くの貴族はひざまずいたまま動き出す気配がない。


「これで少しは大人しくしてくれればよいのだが」


 結局アルカイトの提案をそのまま使ってしまったが、効果の方はどの程度あったか計り知ることはできない。

 今後も警戒を緩めず、あたって行く他ないであろう。


「なんとも憂鬱なことだ」


 兄弟がこのようなくだらないことで命を奪い合うなど。

 これまでもなかったとは言わないが我の代で起こるなど考えたくもなかった。

 あとはアルカイトが穏便に収めてくれればいいのだが。

 我ですら思いつかない方法で貴族達を諌めた。

 果たしてこれが吉と出るか凶と出るか。

 神か悪魔でもなければ知りようもないことがさらに我を憂鬱にさせる。


「ああ、もう一つ済ませないといけないことがあった」


 それを思い出し、我はさらに憂鬱な気分になった。


「はぁ」


 我は仕方なく侍女長を呼び要件を言いつけた。


 謁見の間といえばどういうものを想像しますでしょうか?

 奥の数段高い場所にある椅子に王が座り、その前に貴族たちがひざまずき、その周りを甲冑の騎士が固める、なんてのは、ナーロッパ世界ではよくありそうです。

 和風小説だと畳の間になるのでだいぶ雰囲気は違うのでしょうが、主人が高いところにいるというところは同じようですw

 どこでも権力者は高いところに登りたがるようで、人がゴミのようだとのたまったあの人も高いところがお好きなようでしたし。

 翻って現代。

 タワマンの最上階などに住まう方々。

 人がゴミのようだと思わず言ってしまったことはありませんでしょうか?

 それは危険な徴候(中2病的にw)ですので、窓の近辺には近寄らないほうがよろしいでしょうw


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