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閑話 副団長の胃が痛い護衛任務6

 本日六話目。最後の投稿になります。

 明日も閑話です。


 俺は騎士たちを連れて飲み屋に入る。

 下級貴族や金持ちの平民が来るような店なので個室もあり、気軽でありながら密談もできるから、今回のメンバーにはもってこいの店だ。

 流石にもっと高級なところだと従者と一緒には入れないからな。

 俺は店の女将に適当に酒とつまみを頼むと、案内された個室へと入った。


「先程陛下より今回の働きよる報奨金を頂き、アルカイト様をお守りしたことを感謝し、大儀であったとのお言葉があった」

「「「はっ、光栄であります」」」


 陛下より直接言葉を賜った俺はもとより、間接的にとはいえ陛下より労われた皆は誇らしげに顔を綻ばせる。


「お前らの働きに報いるため、今日は飲み明かそうぞ。恐れ多くも陛下の私費ということなので、心して味わうように」


 俺はずっしりと重い革袋をテーブルに置いた。


「今なんか、すげー音しませんでしたか?」


 ジャックが恐る恐る、革袋を窺う。


「ん?」


 俺も大きさの割にやけに重いなとは思ったのだが、流石に頂いたその場で中を検めるわけにはいかなかったので、そのまま持ってきたのだが。

 俺は袋を開けて中を確認する。


「……全部大金貨だ」


 数えてみると一二枚あった。


「ジャック、お前の年俸より多いぞ」

「うそぉ!」


 ジェックの年俸は大金貨にして一〇枚ほど。新米騎士としては多い方か。

 公爵様の第三婦人の別腹の弟に当たるからそれなりに地位もあるし、俸給は領地に戻ったときの報酬を基準に計算している。

 王都の下級騎士だともう少し安いらしい。

 領地で叙爵されるということは場合によっては領主になることができる。つまり継承権が残っているということだが、王都で王に直接叙爵されると基本的に継承権はなくなる。

 主が王になるためだ。

 その場合跡取りとなれるものが全滅して、御家断絶の危機にでもならない限り、領地に戻ることはできないので、後がない貴族は多少待遇が悪くても我慢する他はなくなる。

 待遇は悪くても、貴族と平民では大違いだし、田舎暮しより王都の暮らしのほうがいいという者も少なくないが。


「それじゃあ、ここの支払いには使えませんね」

「ぐっ。今日のところは俺が建て替えておくから、支払いのことは気にするな。とりあえずここなら一番高い酒を頼んでも問題はあるまい」


 大金貨といえば貴族や大商人なんかの決済用の硬貨で、一般に使われるのは中金貨までだからな。

 こんな飲み屋で使えるような金じゃない。

 後で両替でもしないとな。


「余った金は騎士団の規定に従って分配するから、飲んだもの勝ちだぞ」

「「「おお!」」」

「あと、酒が入る前に言っておく。言わなくてもわかっているだろうが、任務のことについては公爵様の許可がない限り何者にも話してはならない」

「「「はっ!」」」


 俺の場合は公爵様に出した面会依頼で陛下のところに呼び出されたので、そちらにお話しろということなるため問題はないが。


「特に今回は黒狼とその眷属五〇頭あまりを殲滅したという、いかにも自慢したくなる任務だけに、気をつけるように」


 俺が急ぎこいつらを飲みに連れだしたのは他言せぬよう釘を差すためだ。


「ほんとに俺たち、あの地獄から生き残ったんですよね。アルカイト様がお残りになると言い出した時には、絶対死ぬとか思いましたけど、あっさり勝っちゃって。なんか俺たちってすごくないですか? 伝説の英雄みたいですよね」


 俺は微妙な表情で新米騎士のジャックを見る。


「……ジャック、お前気がついていないのか?」

「何をです?」

「カストール、アンドレはどうだ?」


 俺は残りの騎士二人に尋ねる。


「あー、あれって、俺たちの実力じゃないですよね?」

「少なくとも俺じゃないな」


 アンドレは若いとはいえ三年目だし、カストールは俺と同年代だから気がついていてもらわないと困る。


「どういうことです」

「あれは、あの場にいた誰かの秘術が使われたんだよ」

「秘術ですか?」

「ああ。貴族が一つは持っているべき、魔法だな。たとえ持っていなくても、それを悟られてはいかん。切り札というべき魔法だ。お前だって貴族になる前にひとつは用意するように言われただろう?」

「いやまあ、用意はしましたけど、あんなのどうにかできるようなもんじゃないですよ?」


 普通は起動条件を変えて監禁や監視されていて、身動きできないときでもこっそり攻撃できるようにするとか、せいぜいそんなもんだ。新たな攻撃魔法を創る騎士など聞いたこともない。


「そりゃあ、俺たちも同じだ。たった一〇秒かそこらであの群れを殲滅。黒狼だってバインドボイスで皆が動けないときに倒してるんだぞ。しかも狼どもはみんな目玉が飛び散ってやがった。ありゃあ、頭の中が破裂したんだな。まともな秘術じゃ無ぇ。そこいらの一騎士に作れるもんか」

「じゃあ、誰がそれを作って、誰がそれを使ったっていうんですか?」

「俺には誰が使ったかわからなかった。お前らわかったか?」


 誰もが首を横に振った。


「まあ、そうだろうな。俺が見えたのは火球だけだった。それ以外の魔法的現象は全く見えなかった。なのに狼どもは死んだ。死体を全部検めたが、火球で死んだやつは一頭もいなかった。火球で死んだのは子狼を持ってきた男とそいつが乗ってきた馬だけだな」

「そうなんですか? 焼け焦げてたやつは何頭かいたと思いますが」

「魔物はしぶとい。全身やけどくらいじゃ、すぐには死なん。下手をすると一日くらい平気で生きてるぞ」


 囮のために使われた子狼だって、結構血が流れていたが、事が終わって見てみたらすでに血が止まってやがった。

 このまま放置したら親を殺された恨みで、絶対に復讐しにもどってくるからな!

 可愛そうだが始末するしかなかった。


「へー、そんなにしぶといんですか」

「ああ。アイツラを殺そうと思ったら頭を狙え。熱風を吸い込ませることができれば気管支や肺が焼け焦げて、窒息死する。まあ、それでも死ぬまでに数分はかかるがな。俺が見たところ気管支が焼けているやつは一頭もいなかった。つまり俺たちはすでに死んでいる狼どもを必死に燃やしてたってわけだ」

「……」


 俺たちは伝説の英雄どころか滑稽な道化師にしか過ぎないってことが皆にも伝わったようだ。


「とても自慢できることじゃねぇ事はわかったな。自慢気に話してたら後で事実がわかったとき赤っ恥をかくぞ」

「で、でも、その秘術を使った人がいたんですよね? それが俺たちのうち誰かって可能性も……」

「ジャック、さっきも言ったが、一騎士がどうこうできる秘術じゃねぇよ。ありゃ一流の魔導士爵が何人何十人、何年何十年もかけて作った秘術でもおかしくねぇ代物だ。そんな事ができるのは、王家しかねぇと俺は思っている」

「じゃあ、まさかアルカイト様か侍女見習いが?」

「そうだな。二人のうちどちらかが、王家の秘術を収めた魔導具を持っていたんだろうな。お前らおかしいと思わなかったか? わざわざ危険な外にアルカイト様とアンジェリカが揃って立っていたことに。あれは初めから俺たちを当てにしちゃいなかったんだよ。勝てる自信があったからあそこにお立ちになっていたに違いないし、逃げずにお残りになったのもうなずける」


 まあ、そう考えなければ怖がりもせずあんなところに身一つで立てるわけがない。

 残ると言い出したのもアルカイト様だし、アンジェリカはそれなりに怯えていたから、持っていたのはやはりアルカイト様か?

 さすがに王家の秘術を王族でもないアンジェリカに託したりはしないだろう。

 まあ、七歳のアルカイト様に渡すのもどうかと思うが。


「じゃあ、この報奨金はもらっていいんですかね?」

「あくまで俺たちの功績にして、王家の秘術ということは秘密にされたいのだろう。口止め料とでも思っておけ。だからうっかり話したらどうなるかわかるな?」

「うわぁ。なんかこれでも安かった気がします」


 確かに報奨金としては結構な額だが、秘密の大きさにしては安すぎる報酬かもしれねえな。

 まあ、正式な報奨ももらえるらしいから、トントンにはなるかな? いや、大きすぎる秘密はお金には代えられない。


「お酒と食事の準備が整いました。お運びしてよろしいでしょうか?」


 酒が来たようだ。


「まあ、こうなったもんはどうしようもない。貰えるもんはもらってあとは忠義を尽くすだけだ。今日は飲もう。おう! 運び込んでくれ」


 そういや前にアルカイト様が『ぱそこん』とかいう変な魔導具を作ったと言って、文官共に下げ渡されてたな。

 今までにない画期的な魔導具だとか。

 俺は恐ろしい考えに取り憑かれる。

 アルカイト様はまだ七歳だぞ。

 しかも下級の魔石しかお持ちになられていないはず。

 魔石の入手と管理は騎士団の仕事だからな。いくつアルカイト様に渡ったかこっちでも把握している。

 第一中級の魔石などこっちに来てから入手したことはない。

 陛下や公爵様がいくら親バカ爺バカでも七歳の子供に中級魔石を与えるか?

 秘術が収められた魔導具だって考えられないのに、用途の限定されていない中級魔石を渡す?


 考えられんな。


 もしアルカイト様が王家の秘術も中級魔石も使わずに、狼どもを殲滅したとしたら。

 ……いやいや、ないない。

 んなわけあるかぁ。

 そんなものが存在したら世界がひっくり返るぞ。


「我が国に栄光あれ!」


 俺はその不穏な考えを振り払うかのようにグラスを手にし定番の挨拶を叫ぶ。


「「「「我が国に栄光あれ」」」」


 平和な明日を願って後は飲み明かそう。

 俺はこの胃が痛い護衛任務のことはしばし忘れ、飲み明かすのだった。


 ついに大魔王w の存在に気が付き始めたデニアスw

 しかし常識人の彼はその事実が信じられず、脇にうっちゃった苦労人デニアス。

 すでに忠臣デニアスの二つ名は誰もおぼえていないくらい連呼された苦労人デニアスw


 大きすぎる秘密を抱え込み、いつかポロッと話してしまうのではないか、いつか消されるのではと戦々恐々とする苦労人デニアスw

 いっそ誰かに話せたら気が楽になるのにと思ったその時は、井戸に向かって叫ぶのだ! 切り株でも可w

 きっと誰かが聞いてくれるw


 明日は閑話を二話投稿です。

 閑話はもうちょっと続きます。


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