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閑話 副団長の胃が痛い護衛任務5

本日五話目です。

 程なくして到着した応援の騎士に後を任せ、俺達は王宮に急ぐ。

 送り狼がいてはたまらないので、護衛は出発したときと同じ四人の騎士と従者のみ。

 もう狼はたくさんだ。

 黒狼と犯人を載せた荷車は増えたが、怪我をした従者を除けば、三人いるから御者は足りている。

 守る範囲は増えたが、いざとなれば黒狼と犯人の遺体は捨ててもいいしな。

 どうせ、調べたってなにか出るとは思えんし。

 一応襲われたことの証明と、万が一黒幕につながる手がかりがあればと思って持ってきただけだからな。


 これだけのことをしでかしたやつだ。

 証拠になるようなものを残しているとは思わないが、ごろつきなら顔や体付きなどで騎士や兵士の中に見知ったやつがいるかもしれないしな。

 そこから付き合っているやつなどをたぐれるかもしれない。

 まあ、そのへんは王都の騎士たちにお任せだから、ちゃんと捜査されるかもわからんが、さすがに他領の騎士に捜査権はないからな。

 そのへんも陛下や公爵様におまかせだ。

 俺は俺のできることをするだけだ。

 農村を抜け下町に入ると黒狼を見ようと人が集まってくる。

 普通魔物などは外で解体されて持ち込まれるから、中級の魔獣がまるごと王都内に持ち込まれるのは珍しいのだろうが、護衛する方としてはどこに暗殺者が潜んでいるかわからない。


「どけどけーい。道を開けろ」


 新米騎士のジャックに先導させ集まってきた住民を蹴散らさせる。

 さすがに貴族に逆らうものはいないようで、さっと人垣が崩れた。

 そこへ俺は荷車と馬車を進める。

 シールドは下町に入る前に張りっぱなしにしているが、魔法で狙撃されれば完全に防ぐのは難しい。

 それでも威力を落とす程度の防御力はある。

 後はこの馬車の強度があれば、まあ数撃は耐えられるであろう。


「もうすぐ王宮ですが、着いてもすぐには馬車から降りないでください。まずは安全を確認しますので」

「わかりました」


 中からアルカイト様のお返事が聞こえる。

 あのような怖い目に会いながらも、特に怯えるようなこともない様子に安堵しながらも、まだ七歳でしかないくせに随分肝が座ってると改めて思う。

 肝が座りすぎて馬車の中ではなく外で見守るとか言い出したときには、まるで王にでも鼓舞されたように感じ、思わず全員で敬礼してしまった。

 この様子なら緊急事態が起こっても冷静に対応していただけるであろう。

 狼の群れに襲われたときのように斜め上の落ち着きを見せるかもしれないが。

 いや、王家の秘術を持っていたからの落ち着きなのか?

 アルカイト様がそのようなものをお持ちかは確定していないが、この中にいる誰かは持っているはずだ。

 ならば何かあっても、ばらばらになるのはやめたほうがいいかもしれない。

 いざとなればまた秘術を使ってもらえるかもしれないしな。

 だがそのような心配は杞憂に終わった。

 奇襲も襲撃もなく王宮の門前へと到達。


「ジャック、貴様は裏に回って男の死体と黒狼(ブラックウルフ)宿直宮(とのいきゅう)に運び入れ、検分をさせろ。どこの手のものか徹底的に調べさせろ」

「はっ!」


 さすがに黒狼と死体を正門から入れるわけにはいかないから裏門に回らせる。


「アルカイト様。王宮に入ります。陛下か公爵様にお引渡しするまで、我らが御身をお守りいたしますのでご安心ください」

「よしなに頼みます」


 俺は馬を降り、その馬を引きながら馬車を進めさせ、正門をくぐる。

 そこで俺たちは急襲された。


「アルちゃん、無事なの!?」


 走っているわけでもないのにものすごい勢いで近づいてくる女性。


「第三王妃様!」


 俺たちは慌てて跪き、その方を待ち受ける。


「アルカイトは無事なの?」

「はっ、傷一つございません。少々お待ち下さい」


 俺はあたりを見回し危険がないことを確認して馬車の扉を開ける。


「アルカイト様。第三王妃様のお出迎えです」

「もう戻られていたのですね」


 アルカイト様が下車を促されたので、俺はその体を支え、降ろして差し上げる。


「アルちゃん!」


 第三王妃様が飛びつくようにアルカイト様をひっつかみ、抱きしめる。


「さあ、安全な場所へ行きましょう。もう大丈夫ですからね」


 第三王妃がアルカイト様を抱き上げ本宮へと向かう。

 その後を親衛隊が慌てて追いかけていった。


「……副団長。自分らの護衛任務はここで終了ということでいいんですかね?」


 護衛対象を拉致られるなど言語道断であるし、すぐさま取り返しに行くのが護衛の務めだ。

 しかしこの状況で取り返しに行ったらこっちが逆賊扱いだ。

 護衛対象のいない護衛にやることなどあるはずもない。

 まあ、俺は護衛の責任者として報告業務がまだ残っているがなっ!


「ああ、お前たちは荷を片付け馬と馬車を返したら休め。俺は着替えて公爵様にご報告に行く」


 騎士と従者には後始末を命じて、俺は護衛用の鎧姿から騎士の正装に着替え公爵様に面会依頼を出す。

 程なくして返答が来たが、面会場所と指定されたのはなぜか陛下の私室。

 昨日護衛任務のために呼び出された部屋だ。


「フラルーク公爵領騎士団副団長、デニアス・カンタレスト、ただいま召喚に応じ罷り越しました」

「うむ、直答を許す」

「恐れ入ります」


 もちろんそこで待ち受けていたのは国王陛下その人。

 再び余人を排しての会談。

 わずか二日で二度の会談とか。俺の心臓が持たん。


「そなたも任務明けで疲れているだろうから手短に済まそう。まずはどのような状況であったか教えてもらおうか」


 俺は今朝からここへ来るまでのこと、特に狼の群れに襲われたときのことを詳細に語った。


「ふむ。誠に黒狼と灰色狼の群れ五〇頭近くを四人の騎士とその従者で殲滅したというのであるな?」

「はっ、間違いございません」

「一報を聞いたときには、にわかに信じがたかったが、宿直宮からは黒狼が持ち込まれたこと、確認に行った騎士からも黒狼と五〇頭に迫る灰色狼が死んでいるのを確認したとの報告も受けている」


 この短時間にそこまで情報を集められておられたか。


「それを聞いてもなお信じられん。黒狼だけであればその人数でもなんとかなろうが、灰色狼の群れは騎士にとって黒狼より厄介な相手と聞いている。一体どのようにして倒したのか聞いてもよいか?」


 個人の持つ魔法に関しては聞かないのがルール。

 それは国王でも強制的に話させることはできないし、強制されても拒むことが許されている。

 しかし、俺はこれについて何も話すことはできない。


「黒狼も灰色狼もその死因はおそらく頭の中が破裂したためと思われます。私めはこのような魔法の存在を知りません。誰かがそのような魔法を隠し持っていたと考えるしかありませんが、それが誰か私めではわかりかねます」

「それは、誰かをかばっている、そういう意味か?」

「いえ、本当に誰の仕業かわからなかったのです。その攻撃は見えませんでした。突然狼どもが転がり始め、最後の黒狼のときなどバインドボイスをまともに食らって、誰も動けなかったはずなのに、その黒狼は突然死にました」

「なんと!」

「ある一定の距離で狼どもが倒れ始めましたので、『シールド』のようなものが張り巡らされていたのではないかと考えますが、『シールド』と同様に見えないのであれば、それを誰が張ったのかはわかりません」

「そうか。……誰が使ったか予想はつくか?」


 これは言ってもいいのであろうか?

 アルカイト様かアンジェリカが陛下か公爵様から魔導具を預かっていてそれを使ったなどと。

 もしかしてそれを疑ってあえてカマをかけているかもしれない。ここは正直にお答えしたほうが良かろう。


「私はアルカイト様か侍女見習いのアンジェリカに、陛下か公爵様が王家の秘術を収めた魔導具を持たせたのではないかと考えています。騎士になるような者というのは魔導士爵と違って頭を使うことが苦手な者が多いのです。自分の使うシーケンスでもせいぜい発動キーを変えたり初期パラメータを変えるくらいで、親から引き継いだり、魔導士ギルドから買った一般的に知られた魔法がほとんど。新しいシーケンスを一から開発するような能力はありません。魔導士爵から買うにしてもこれほど画期的な魔法ですから、一騎士に買えるような値段ではないでしょう。あれだけの代物です。作れるとしたら王家の者以外にはいないと思われます」


 俺は一気に俺の考えを披露し陛下のご様子を伺った。

 この対応で正解だったかわからない。


「……それがそなたの予想か。他の者もその予想にたどり着くと思うか?」

「さて、何らかの奇跡のような秘術が使われたことはわかるでしょうから、その元を作った、少なくとも保有しているのが王家かその係累であることは予想が付きます。誰がそれを使ったか誰がそれを作ったかは確信できないでしょうが」

「そうか……」


 陛下は深い溜め息の後、俺に退室を促した。


「事件の詳細については他言無用に。それからこれは我の私費からの報奨金だ。正式な報奨については決まり次第知らせを出そう。本日はアルカイトを守ってくれたこと、感謝する。大儀であった」

「はっ、ありがたき幸せ」


 俺は革袋を手に陛下の私室から退出する。

 公爵様への報告は陛下自ら行ってくださるとのことだから、今日の仕事はこれで終了だ。

 いや、もうひと仕事残っているか。

 俺は宿直宮に向かい、今回付き従った従者と騎士をひっつかんで、再び王宮の外へと繰り出したのだった。


 護衛対象をかっ拐われた苦労人デニアスw

 本来なら首チョンパになるところでしたが、気苦労が増えただけで許されましたw

 ラッキー!w


 陛下に呼び出されたり、カマをかけられたのかと疑心暗鬼になったりしたけど、首が飛ぶことに比べればマシなのでしょうが、彼の気苦労は増えるばかりw


 許されたばかりか報奨金ももらって、ラッキー、で済ませられる性格であったなら、彼の苦労も幾分軽減されるのでしょうが、そこは苦労人デニアスw

 苦労は買ってでもする苦労人デニアスに、心の休まる日は来るのか!?w


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