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閑話 副団長の胃が痛い護衛任務1

 ここからしばらく閑話が続きます。

 本日の投稿は12時から1時間おきに、全6話になりますので、読まれる順番にお気をつけください。


 その護衛任務は最初っから胃が痛くなりそうなものだった。


「フラルーク公爵領騎士団副団長デニアスよ。直答を許す」

「はっ、ありがたき幸せ」


 俺はひざまずきながらそう応えるのが精一杯だった。

 そりゃあそうだろ。

 目の前にいらっしゃるのは国王陛下その人。

 しかもここは陛下の私室で、従者どころか護衛さえ排しての面談だ。

 緊張するのも仕方がない。

 普通、私室に呼ばれるのは親しい人間だけで、俺程度の騎士が呼ばれようはずもない。

 フラルーク公爵の騎士団副団長を務めていることもあり陛下と面識は有るし、元々公爵様が自分を叙爵してくださったから今の身分が有ると言っていい。

 一応王俺も祖父の代には傍系王族で、母が公爵の乳母を務めたこともあり、公爵様とは幼馴染の関係と言えるが、基本的に子育ては母親とその実家の領分なので、陛下と顔を合わすことなどまず無いし、言葉を直接交わすことなどあろうはずもない。


「ここへ来てもらったのは他でもない。明日朝より護衛任務に着いてほしいのだよ」

「護衛ですか? しかし私めは公爵様の臣下。恐れながら陛下の命といえど主の命なくばお受け出来かねます」

「心配はいらぬ。委任状は預かっている。それに護衛対象はアヤツの息子のアルカイトだ。そちの任務の範囲内であろう?」


 陛下は一通の書状を手渡してくださった。


「拝見いたします」


 俺は封蝋を確認後、封を開き紙取り出し開き目を通す。


「確かに。公爵様の書状です」


 封蝋、筆跡、花押とも公爵様のものに間違いない。

 魔導書を使えば手紙の複写など簡単にできるが、ペンで書けば紙が僅かにへこむ。

 複写と直筆を見分けるのは容易だ。


「先にも言ったとおり、明日朝から出かけるアルカイトの護衛任務をそなたを含め、できればアルカイトの派閥騎士計四名に頼みたい」

「それは構いませんが、この間暗殺未遂事件があったばかりと聞きます。いま後宮より外へ出て大丈夫でしょうか?」

「後宮での保護者である第三妃が外遊に出ている。そのため後宮の警備が手薄になった。また、明日、今回の暗殺騒ぎの原因となった各王子派閥の者たちを呼び、注意喚起を行う予定である。一時的に王宮へ敵対派閥の貴族たちが集まるゆえ、外へ出したほうが安全と判断した。そもそも暗殺騒ぎが後宮で起こったのだから後宮内が安全とは言い難いし、後宮外であれば護衛騎士もつけられるからの」


「そういうことであれば、承知いたしました」

「うむ。詳しい手はずはこちらの封書にしたためた。わかっていると思うが、くれぐれも内密に事を運ぶように。自室で誰にも見られぬように確認するのだ」

「はっ。お心遣い感謝いたします」

「帰りはフラルークのところへ寄ってもう一通の書状を渡せ。フラルーク宛の書状にはやつが行うべき詳細を記した。ただしそなた宛の封書の中身はやつにさえ見せてはならん。あやつの動静は監視されている可能性がある。すべて秘密裏に運ぶのだ」

「承知いたしました。では、御前失礼仕ります」


 俺は封書を二通受け取り陛下の私室を辞去。その足で公爵様が滞在されている王子宮へと足を運んだ。


 そして手紙を渡したその足で宿直宮へ向かい、明日共に任務につく者たちを選択する。

 とはいえ、選択の余地は殆どなかった。

 もともと正規の騎士が少ない上、他の騎士も公爵様の母方か嫁の実家からの派遣だ。

 いまは公爵様方が住まわれる離宮に第三夫人とその子どもたちしかいらっしゃらないため、派遣騎士は母方と第三婦人系の騎士しかおらずその数も少ない。

 よって王都に来るときも、護衛は俺を含む四名が公爵領から引き連れてきた騎士団員で、あとは今回のみ王都から派遣された臨時派遣騎士だ。

 この臨時派遣騎士達も第三王妃と第三婦人系の騎士であるが、俺の部下というわけではないし、人となりをほとんど知らぬのでは魔物の討伐ならともかく護衛としては使えない。

 信用できるか判断できないからな。

 なら領地から引き連れてきた三人を使うしか無い。


「カストール、アンドレ、ジャック、ちょっときてくれ」


 こちらも派遣騎士では有るが、新人のジャックを除けばそれなりに月日を重ねている。

 陛下もそれをわかっての四人での護衛なのであろう。


「明日護衛任務につくことになった。日帰りの予定では有るが最悪二泊はできる準備をするように」

「はっ。護衛対象と目的地を伺ってよろしいでしょうか?」

「明日、出発時まで秘密だ。目的地についても、私が誘導するためお前達は知る必要はない。順調に行けば片道二、三時間の距離だ。天候や不測の事態が起これば足止めされる可能性はあるが二泊分の準備があればよかろう」

「承知いたしました」


 俺は三人に明日までに必要な準備を命じ解散させる。


「さて、俺も準備をするか」


 俺は従者に着替えや携帯食などの準備を命じる。

 その後はその準備されているものを確認せねばならない。

 持ち物に細工されていないか確認するのも騎士の仕事だ。

 特に護衛任務の場合、真っ先に狙われるのは騎士やその従者だ。

 毒はもとより、怪しい魔導具が仕掛けられていないかは十分に確認する必要がある。

 殺傷能力の低い下級魔石だって火くらいはつけられるからな。

 油と魔導具があれば立派な発火装置の出来上がりだ。

 護衛任務はありとあらゆる可能性を考えて準備しなければならないから、魔物退治より数段気を使う。


「あとは明日だな」


 まとめた荷物を箱詰めして封印して今日は終わりだ。

 明日は早朝から、馬と馬車の確認をして、荷物と護衛対象を積み込まなければならない。


「無事に終わってくれればいいのだが」


 暗殺騒ぎがあったばかり。

 しかも行き先は途中に深い森も有るし、王都を出ることになるから治安も心配される。

 騎士が四人もいれば貴族でもない一般兵士なら千人単位でも撃退できるだろうが。

 陛下が敵対貴族を抑えてくださるというのであれば、それほど危険はないははずだ。


「とは言え油断は禁物」


 俺は今回使用するルートの地図を取り出し、待ち伏せや襲撃を警戒すべきポイントを書き込んでいった。



 翌朝、馬車を受け取り荷物を詰め込んでいく。

 その途中で公爵様が指示されたのだろうが、メイドが荷物を抱えてやってきた。


「おう、今日のお付きはマーサか。よろしく頼むな」

「はい、副団長様。本日はよろしくお願いいたします」


 マーサはアルカイト様の乳母を務め、いまも部屋付きのメイドを務めている。

 俺も面識は有るし最も信頼できる人物の一人だ。

 可能な限り信頼できる人物で固めた布陣となり、ひとまず安心と言いたいところだが、王宮側がどの程度信頼できるかわからんからな。

 安心するのはまだ早い。

 とりあえずメイドの持ってきた荷物を従者に運ばせ、馬車に馬をつなぎ出発させる。

 俺たち騎士も騎乗しその周りを囲うように進む。


 すでに護衛任務は始まっている。

 馬車や馬を傷つけられただけでも、任務は失敗だ。

 当初の目的を果たせないわけだからな。

 また、走らせることで馬の調子や馬車の具合も確認できる。

 馬の調子が悪ければ進めなくなるし、車軸が折れたりすれば、交換が必要だ。

 一応車軸や車輪の予備は積み込んでいるし、馬の調子が悪くなっても、俺達が騎乗している馬も有るから、交換できないこともない。

 しかし想定以上の仕掛けがされていれば、途中で立ち往生ということにもなりかねないのだ。

 気を使って使いすぎることはない。


「ふむ、問題なさそうだな」


 馬と馬車の様子を確認したが、どこにも問題なさそうだ。

 馬は苦しそうな素振りもなく機嫌が良さそうだし、馬車にも軋みや変な振動は見られない。


「カストール、どうだ? なにか気がついたことは有るか」


 俺は騎士隊長を務めるカストールにも確認した。

 俺は副団長で、すでに現場からは半分足を洗っている。

 団のまとめと事務作業が本業なのだが、公爵領は人数が少ないので現場に出ることも多い。

 それでも専業というわけにはいかないからな。


「いえ、特には。馬も馬車も王宮が用意したものですから、公爵領のものより一段上等なくらいですよ」


 なるほど。

 馬車は地味だが、頑丈そうであるし、車輪もスムーズに回っている。

 段差があっても、跳ねが少ないので、よい衝撃吸収機構を組み込んでいるのであろう。

 これなら、なにかに追われて逃げるようなことになっても、全力で馬車を走らせられそうだ。

 馬も毛艶がいいし、馬体も立派だ。

 長距離長時間走らせることに特化した品種のため、早馬に比べれば小柄だが、その筋肉はしなやかで、歩みも力強い。

 いい馬を手配してくださったようだ。


 これに比べれば、我らの乗っている馬のほうが見劣りする。

 俺たちが普段使っている馬は街乗りに適した近中距離用で自費で購入したものだ。

 そのため今回のような遠征だと長距離に強い馬を領主が貸してくれる。

 遠征など早々ないし、遠征だと魔物の襲撃で馬が失われる可能性もある。

 遠征用の馬を確保したり、失われるたびに騎士が自費で購入してたらあっという間に破産だ。

 遠征は護衛任務だけではなく魔物退治も含まれるからな。


 この間まで公爵領は大赤字で、それほどいい馬が買えなかった。

 財政が黒字になったとは聞いているので、馬の買い替えができないような財政状態ではないはずだ。

 この任務が終わったら、馬の買い替えを進言してもいいかもしれない。

 決して自分がいい馬に乗りたいから言っているわけではないぞ。


 王宮は伏魔殿だ。


 そこで一度命を狙われたアルカイト様はもちろんのこと、そのご家族だって狙われないとは限らない。

 その時、いい馬が有るのと無いのとでは雲泥の差だ。

 逃げるにしろ戦うにしろ機動力や持久力は必要だし、修羅場でも動揺しない肝の座った馬の存在はありがたい。

 しかしそんないい馬なら誰だってほしいに決まっているし、欲しいやつが多い分値段も高い。


 そんなことを考えているうちに後宮前の馬車止めに着く。

 従者が到着を知らせると、程なくしてアルカイト様が姿を表した。

 侍女見習いのアンジェリカも一緒だ。

 俺たちはすでに馬車を降り整列して出迎える。


「アルカイト様。私、デニアス以下三名の騎士が、本日護衛を務めさせていただきます」

「護衛は副団長でしたか。今日はよろしくお願いいたしますね」


 アルカイト様は俺の顔を見て安心されたかのようににっこり笑いかけてくださいました。

 その信頼に応えねばと一層気を引き締める。


「はっ。この身に代えましてもお守りいたします」


 思わずその決心が言葉に出る。

 しかしアルカイト様はそんなことは望んでいなかった。


「だめですよ、副団長。その身を犠牲にすること無く、全員を守ってください。副団長だって大事な身ですからね。副団長なら全員を無事に守ってくださると信じてます」


 我らの身まで案じてくださるとは身に余る光栄。

 ちょっと変わったところのある御方ですが、その心根は優しく、それでいて領地を黒字に導くほどの才を見せたと聞く。

 王孫と言うだけではない。未来の王国に絶対に必要な人物になる。

 俺はそう確信し、決意を新たにする。

 どんな困難な任務であろうと必ずやまっとうしてみせると。

 他の騎士達も同様の気持ちなのであろうか。神妙な顔つきだ。


「……期待に添えるよう、全力を尽くします」


 そう応えるだけで精一杯だった。


「アルカイト様、遅くなって暗くなっては危険度が増します。早く馬車に乗りましょう」


 侍女見習いのアンジェリカの言葉に促され、アルカイト様が馬車に乗り込む。

 出迎えのため整列していた我らも騎乗し、メイドや従者たちもそれぞれの持場に着く。


「我らは少し離れたところから護衛いたしますので、人通りが少なくなるまでカーテンを閉め窓は開けぬようお願いいたします。緊急時には鎧戸をお閉めください」

「わかりました。……失礼いたします」


 侍女見習いに注意を促すと、すぐさま彼女はうなずき、アルカイト様の側の窓をしっかりと締め、カーテンを引く。続いてその反対側も締め、出発の準備が整った。


「出発!」


 俺の掛け声で従者たちが馬を走らせる。

 俺は先頭を走り、馬車を誘導。

 他の騎士達にも目的地を知らせていないからこれは当然だ。

 他の騎士は後ろから、馬車の護衛となる。

 この時間、王宮へ通いの貴族たちでごった返すので、その間を抜けながら貴族街へと進んでいく。

 まさか貴族街で仕掛けてくることはないとは思うが、監視されている可能性はある。

 貴族街には第一第二王子派の屋敷も少なくない。

 門番なり使用人なりが通りを見張っていないとも限らないのだ。

 監視されていないか、つけてくるものがいないか俺は目を光らせるが、今の所怪しい気配は感じない。


 ここで注意すべきは監視の目。下町あたりだと家々が密集しているので奇襲もあり得る。

 農村まで行けば視界がひらけるので奇襲はまずありえないだろうが、ひと目がない分襲撃はしやすくなる。

 森の中は、奇襲も襲撃もしやすく魔物の襲撃も考えられる。一番危険なポイントだ。

 安全な場所などどこにもない。一瞬たりとも気が抜けない護衛任務となろう。

 俺はことさらに気を引き締め、あたりを睨みつけるかのように見回した。


 苦労人もとい忠臣デニアス副団長視点ですw

 アンジェリカに次ぐ被害者w

 主人公がお魚お魚~と浮かれている傍らで胃の痛い護衛任務。

 主人公の能天気な生活は彼らのような苦労人によって支えられています。

 この任務が終わったら馬を買ってもらうんだw とフラグを建てる副団長の運命やいかに。


※準備されてものを->準備されているものを、に修正。

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