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閑話 侍女見習いアンジェリカの長い一日4

本日閑話四話話目です。

今回の閑話はこれで終了です。


 バウバウバウ!


 吠えながら接近してくる狼たち。

 ざっと四〇~五〇匹はいますね。


「クソが! 黒狼(ブラックウルフ)がいやがる!」

「ふくだんちょー。なんかやばくないですか?」

「アルカイト様だけはなんとしても守るぞ! 『ファイヤーボール』」


 副団長様がいきなり火球を打ち出します。


「あの焦げ跡を超えた奴から優先して叩く! 弾幕を集中させて一匹ずつ確実に倒していくんだ!!」


 一頭に集中することで一対多数の状況を作り出そうというのでしょうか。


「ただし黒狼(ブラックウルフ)が来たらそいつが優先だ。ボスをやれば逃げていく可能性が高い」


 騎士たちは魔導具と魔導書を掲げ、狼達を待ち受けます。

 訓練中の騎士の戦いは幾度か見ましたが、魔法の二刀流は初めてみました。

 普通は攻撃用の魔導具のみ使い訓練しているようですが、今は魔導書までも使って手数を稼ごうというのでしょう。

 魔導書は狙いがつけにくいので、あまり攻撃には使われないと聞いたことがありますが、まああれだけの数がいれば適当に撃ってもそれなりに当たるだろうし牽制にもなるのでしょう。


「従者どもは槍を構え、盾をしっかりレンガの隙間に突き刺し、体で支えろ!」


 大盾と槍を構える従者。

 本来なら頼もしいと思える大盾ですが、盾と盾の間に結構な隙間があるので、狼の大軍の前ではなんともみすぼらしく感じます。


「アルカイト様、黒狼(ブラックウルフ)ってもしかして中級ですか?」

「ええそうです。普通これ一頭でも相手をするには騎士四~五人必要といいますから、それに眷属が四〇~五〇頭。絶望的な戦力差ですね」


 絶望的な戦力差。

 アルカイト様がそうおっしゃるのであればそれは正確な戦力分析なのでしょう。

 副団長様たちの緊張の度合いも一層高まっていますし。


「だ、大丈夫なんですか?」


 緊張のあまり声が震えてしまっているのが自分でもわかります。


「さて、やって見ないことにはなんとも。神にでも祈っていてください」


 神にって、悪魔が言っていいセリフではありませんね。

 アルカイト様も神様に祈りを捧げることがあるのでしょうか?

 そう疑問に思いましたが次の言葉であっさり解消しました。

 彼は神に祈らない。


「神頼みする前に足掻けるだけあがきましょう。『セレクト魔物』『セレクト三〇メートル以内』『ソート近い順から一巡』『出力最大』『照射時間〇・〇一秒』『照射間隔〇・一秒』『ターゲット眼球』」


 アルカイト様が何やらつぶやき、彼の目の前に小さな幻影が表示されます。

 開発中に見せていただいたことがありますが、それは『たーげっとすこーぷ』なるもので、自動的に照準をつけてくれるものらしいです。

 騎士たちが手で持った魔導具や魔導書で狙いをつけているのとは比べ物になりません。

 まるで原始人と未来人を見比べているかのような錯覚に陥ります。


「『シュート』!」


 アルカイト様が攻撃を始めた? ようです。


「うてー!!」


 それとほぼ同時に副団長様の号令。

 火球が狼達に襲いかかります。

 ぎゃんぎゃん、きゃい~ん。

 途端に上がり始める狼達の悲鳴。

 一頭の狼あたり八発の火球が襲いかかり、狼達が倒れていいきます。

 ですが『えふしーえす』は効いているのでしょうか。


「うーん。効果がわかりませんねー」


 アルカイト様も首を傾げていらっしゃいます。

 確か見えない光を使うとかおっしゃられていましたから、見えないのは当然として、効果もわからないのはどうかと思います。

 ですがじっと狼達を見ていたら不思議な現象に気が付きました。


「アルカイト様! すごい勢いで狼達が倒れています!!」


 火球が当たっていないのに倒れる狼が出始めたのです。

 それも急速にその数を増やしていきます。


「うむ、これは」


 わずか一〇秒ほどで灰色狼(グレイウルフ)達は沈黙し、後方に控えていた黒狼(ブラックウルフ)だけが残りました。


「だんちょー、やりましたね! あとはやつだけです!!」


 若い騎士が歓声をあげます。


「ばかやろう! 油断するんじゃねー」


 その忠告は少し遅すぎましたね。

 早かったとしても対処できたかどうかわかりませんが。


 わおぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~ん。


 黒狼(ブラックウルフ)が突如として遠吠えを放ったのです。

 馬車が、いえ、体までもが細かく震えています。


「くっ!」


 体が全く動かせなくなりました。

 いったい何が起こっているのでしょうか?

 隣のアルカイト様に尋ねようにも、口さえ動かせません。

 それどころか頭がぼうっとしてなにか考えることすら難しくなってきました。

 それは私だけでなくアルカイト様や騎士達も同じようでした。

 誰もが動けない中、その隙を逃さず黒狼(ブラックウルフ)が突進して来ます。

 馬ほどもある黒い巨体が地を駆けるさまはとてつもない迫力で、あれに体当たりでもされたらみんなは馬車ごと木っ端微塵間違いなし。

 なのに誰も反応できません。

 ですが。


 ずさ――――――


 突然、黒狼(ブラックウルフ)がバランスを崩し、地面を滑っていきます。


「ぐわ!」


 そしてそのまま大盾のところまで滑って、従者を一人跳ね飛ばして止まりました。

 シンと静まり返る森の中。


「終わったのですか?」


 ようやく口をきける程度に回復した私がポツリと呟きます。

 見れば狼達は一匹残らず地面に横たわり、ピクリともしません。


「そのようですね」


 アルカイト様もその様子を見て終わったことを確信したようです。


「あっぱれ! さすが我が王国が誇る騎士たちよ! 誠に見事な働きであった!! このアルカイト・ユーシーズの名の元に、其方等にふさわしい褒賞を与えるよう、おじい様および父上に進言することを誓おう」

「はっはー。ありがたきしあわせ!」


 アルカイト様の有無を言わせぬ称賛の声で、呆然としていた騎士たちも一斉に跪き、最敬礼を見せます。

 これって騎士の手柄とすることで、自分に疑惑の目が行くのを回避しましたね?

 あのまま冷静になられたら、自分たちがほとんど何もしていなかったことに気がつくでしょうから。

 火球が当たっていないのに倒れていく狼達。

 そして『えふしーえす』は見えない攻撃を繰り出す。

 それを知る者なら何が起こったか考えるまでもありません。

 アルカイト様の『えふしーえす』は灰色狼(グレイウルフ)の大半と黒狼(ブラックウルフ)をも打ち倒してしまったのですから。

 騎士が五〇人以上で立ち向かうような魔物の群れをほぼ一人で討ち取る?

 物語の英雄かよ。

 悪魔が英雄とか笑っていいですか? だめですかそうですか。

 絶体絶命のピンチから命からがら脱出した今、大声で笑ったら気が触れたと思われますからね。

 気が触れているのはアルカイト様だけで十分です。


「この苦難を乗り切った諸君ならば必ず僕を王都まで無事送り届けてくれることでしょう。さっさと後始末して王都に帰りましょう」

「はっ。ゲリック! よくぞあの巨体を受け止めた!! 怪我の具合を確かめ、必要があれば応急手当をせよ」


 副団長様が従者を褒めます。単に咆哮を食らって身動きが取れなかっただけでしょうが、彼が受けとめなければ馬車のどこかが壊れていたかもしれません。

 そうでなくとも狭い簡易御者台に登っていた私達が振り落とされていた可能性もあります。

 そうなれば体が動かせなかった私達では頭から地面に叩きつけられていたやもしれませんから、彼は立派に使命を果たしたと言えるでしょう。

 偶然でも功績は功績です。


「問題ありません! ちょっとばかり打ち身があるだけで、動けないほどではありません」

「そうか、だが念の為、少し休憩して、打ち身のある場所を確認しておけ。興奮していると痛みがあってもわからなかったりするからな」

「お心遣い感謝いたします。では、少しだけ休ませていただきます」

「うむ。残りの従者たちは狼どもの魔石を回収しろ! 俺たちの飯の種ってだけじゃないぞ。こいつを他の魔物に食われたら上位種に進化しかねんからな。ジャック! お前は王都の騎士団詰め所に行って応援を呼べ。途中農村に寄って、荷車と人手を集めるように命じろ。応援とともにここに来させて、狼どもを運ばせるんだ。残りの騎士は辺りの警戒と息があるやつを見つけたらとどめを刺せ」


 副団長様が次々と指示を出し、皆が動いていきます。


「僕たちも馬車に戻りましょう」


 アルカイト様がそう言って下車を促してくださいます。


「できれば、おろしてくれると嬉しいです」

「……最後まで締まりませんね」


 悪魔のくせにどこか抜けてますよね、アルカイト様って。

 馬車を降りる彼を手伝い、扉の横に立つと馬車の中でメイドのマーサが神に祈りながらブルブル震えていました。


「ああ、神様。我らを、アルカイト様を、お、お助けください」


 どうやら祈りに必死で外の様子は聞こえていなかったようです。


「マーサ、マーサ! 馬車の扉を開けてください」

「神さ……ま? ああ、アンジェリカ様! お、終わったのですか?」


 大きくノックして声をかけると、そう言ってマーサは恐る恐る扉を薄く開いてあたりを見回します。


「はい、狼どもは騎士達が始末しました。もう大丈夫です。アルカイト様が落ち着けるようにお茶の準備をお願いいたします」

「……お坊ちゃま! よくぞご無事で!」


 私の隣に無事な姿のアルカイト様を見つけた途端、マーサが飛び出してきて、アルカイト様に抱きつきます。

 彼女は乳母を務めただけあって、自分の子供と同じように感じているのでしょう。

 涙を流しながらも嬉しそうです。


「くるしいよぉ、まーさ。僕は大丈夫だから。心配かけたね」

「あっ! も、申し訳ありません。な、何ということを!」


 マーサは陪臣の妻、で平民ですからね。

 本来ならこのような行いは許されるものではありません。


「かしこまらないでマーサ。久しぶりに抱きしめられて子供の頃を思い出しました。危機は去りましたがまだ後始末が残っています。僕たちのお茶を準備したら、騎士達にもお茶を出してやって」

「は、はい。ただいま!」


 マーサが自分の馬車に戻りお茶の準備をはじめました。

 私とアルカイト様は馬車に乗り込みひと息つきます。


「すごかったですよね『えふしーえす』。あんな大きな黒狼(ブラックウルフ)も一撃でしたね」


 馬車の中で簡易テーブルをだし、マーサが用意してくれたお茶を飲みながら話しかけます。


「ナンノコトデスカ?」

「はい? だから『えふしーえす』のことですよ。騎士達の火球はほとんど当たっていませんでしたよね? なら『えふしーえす』の見えない攻撃とやらで仕留めたのではないのですか?」

「ソンナハズナイジャナイデスカー。騎士達の誰かが秘術でも使ったのでしょう。僕の考えた最強の魔法はあくまで僕の妄想ですからねぇ。『黒歴史ノート』いえ、『最強の僕設定集』のネタに決まってるじゃないですか」

「設定?」

「そう。ごっこ遊びの一種ですよ。例えば最強の魔法『FCS』の存在を知った暗黒邪神教団の使徒がアンジェリカの家族を人質にとって脅かし、『FCS』のシーケンスを盗み出させて、世界を征服しようと企むのです。そこへさっそうと現れた僕。盗まれはしましたが更に改良された『FCS2.0』をもって暗黒邪神教団を討ち滅ぼすとか、かっこよくないですか?」


 これ、アルカイト様がよく言う『なんかやっちゃいましたか?』だ。


「カッコイイデスネ! サイコーデス。逆にアルカイト様が『えふしーえす』を使って世界を支配するとかどうですか? 『わっはっはっは、下賤な人間どもめ、魔王の依代たるわれが世界を支配してくれる』とか高笑いしながら」

「イヤー。世界を支配するとかめんどくさそうだから不採用です。アンジェリカは妄想の才能がありませんね」


 なくて結構です。

 ってかそれ、妄想じゃなくて本気でできますよね?

 あっ、本気でできるから不採用なのですね。

 できないから妄想なのであって、できちゃったら単なる現実ですから。

 下級の魔石なんて貴族の屋敷にはいくらだって転がっています。

 マーサが用意してくれたお茶だって、お湯を出す魔導具のおかげで、あっという間に準備が終わりましたし、その他に明かりの魔導具や簡易トイレには洗浄の魔導具なんかも付いています。

 その他空調の魔導具やら冷蔵の魔導具とか、馬車だけでも複数の魔石が使われているはずです。

 つまり手に入れようと思えば平民でも手に入れらる程度のもの。

 お金とコネがあれば。

 もし『えふしーえす』のシーケンスが外部に漏れれば、狼達を殲滅した魔法が平民でも使えるということになります。

 私はその考えにぞっとしました。


「実際の戦いを見ると妄想に拍車がかかりますねぇ。見えない攻撃というと格好いいですけどなんか見た目が地味じゃないですか?」

「そうですねぇ。地味というか、誰が何をしたか全くわかりませんから、さっそうと出てきて何やらブツブツ呟くだけの危ない人にしか見えませんよ」

「デスヨネー。ならもっと派手なの考えますか。例えば発射前に魔法陣が生成されてその中から虹色の光線が飛び出すとか」

「イイデスネー。いっそのこと虹色の光線が二重螺旋で飛んでいくとかどうですか? 着弾と同時に派手に爆発するとか」

「ムチャヲイイマスネー、アンジェリカは。でもそれ採用。僕の『薄い設定集』がまた厚くなります。ワッハッハッハ」

「オッホッホッホ」


 私何やってるのでしょうか?

 この際後宮のベッドでも構いません。

 早く帰って休みたい。

 私の一日はいつ終わるのでしょうか?


 見えない攻撃といえばバトル系の漫画やアニメでよく目に? するかと思いますが、赤外線レーザーは本気で見えません。

 マウスなんかでもレーザーマウスなんかでは光が見えないものだから、マウスの反応が無い時、PCがハングしているのかマウスが壊れているのかわからず困ることもあります。

 なので最近は普通のLEDマウスを使ってます。

 見えるということは情報を得る上で非常に重要ですからねぇ。

 見えないとどうにも対処のしようがありません。

 それはバトルでも同じこと。

 避けることもどこから攻撃されているかもわかりません。

 まあ、バトル漫画の主人公たちはそんな見えない攻撃でもなんとかしちゃうんですがw


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