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狼VS『FCS』

 バウバウバウ!


 吠えながら接近してくる狼ども。

 ざっと四〇~五〇といったところか。最後尾に一回りでかい真っ黒いやつもいた。

 対するこちらの布陣は騎士四人従者四人+僕とアンジェリカとメイドが一人。


「クソが! 黒狼(ブラックウルフ)がいやがる!」

「ふくだんちょー。なんかやばくないですか?」

「アルカイト様だけはなんとしても守るぞ! 『ファイヤーボール』」


 副団長がいきなり火球を打ち出す。


「あの焦げ跡を超えた奴から優先して叩く! 弾幕を集中させて一匹ずつ確実に倒していくんだ!!」


 通常なら数の暴力で殲滅するところだが、逆の立場の今、一頭に集中することで一対多数の状況を作り出そうというのであろう。


「ただし黒狼(ブラックウルフ)が来たらそいつが優先だ。ボスをやれば逃げていく可能性が高い」


 騎士たちは魔導具と魔導書を掲げ、狼達を待ち受ける。

 魔法の二刀流だね。


「従者どもは槍を構え、盾をしっかりレンガの隙間に突き刺し、体で支えろ!」


 大盾とはいえ従者は四人。

 馬車の後ろ側を覆うだけでも結構隙間がある。

 そこは槍でカバーして防御する戦術らしい。


「アルカイト様、黒狼(ブラックウルフ)ってもしかして中級ですか?」

「ええそうです。普通これ一頭でも安全に相手をするには騎士四~五人必要といいますから、それに眷属が四〇~五〇頭。絶望的な戦力差ですね」


 黒狼の群れとしては中程度か。

 大きな群れだと一〇〇頭を超えることもあるようだから、ラッキーとは言えるけど、ここまで来ると五十歩百歩だね。


 中級魔物からは中級の魔石が取れる。

 魔導書や攻撃用の魔導具は中級魔物のもの。

 つまり体内に魔石を持つ魔物は、シーケンスを組む必要もなく、即魔法が発動できるし、魔素の充填も、その発生源である体内にゼロ距離で収納されている魔石のほうが回復速度が早い。

 そのため中級魔物との戦いは一対複数でなければ人間は立ち向かえないのだ。

 しかもこの数の眷属では、四人の騎士でどうこうできる戦力ではない。


「だ、大丈夫なんですか?」


 こころなしかその声が震えています。


「さて、やって見ないことにはなんとも。神にでも祈っていてください」


 もし僕をこの世界に連れてきた神がいたのであれば僕も祈っておくところだが、転生時に出会っていないということは、神はいないか感謝する必要はないという神の意志なのだろう。


「神頼みする前に足掻けるだけあがきましょう。『セレクト魔物』『セレクト三〇メートル以内』『ソート近い順から一巡』『出力最大』『照射時間〇・〇一秒』『照射間隔〇・一秒』『ターゲット眼球』」


 僕は『FCS』に諸元をセットしていく。

 ターゲットスコープには駆けてくる狼の姿に重なるように黄色の枠が表示されている。


「『シュート』!」


 先頭の狼のターゲットスコープが赤に変わった途端、僕は攻撃開始を指示します。


「うてー!!」


 それとほぼ同時に副団長の号令。

 ぎゃんぎゃん、きゃい~ん。

 途端に上がり始める狼達の悲鳴。

 一頭の狼あたり八発の火球が襲いかかり、狼達が倒れていく。

 そして僕の『FCS』は。


「うーん。効果がわかりませんねー」


 そう。

 赤外線レーザーなので、全く軌跡が見えない。

 昼間とはいえ強力なレーザー光なら、ホコリに反射して軌跡が多少は見えるし、当たればかなりの反射光を発する。

 それは王宮の庭で確認した。

 しかし、今は全く見えない。

 これでは当たったかどうかどころか、発射されているかどうかすらわからないではないですか。


「アルカイト様! すごい勢いで狼達が倒れています!!」

「うむ、これは」


 よく見れば火球が当たる前に倒れ込んでいる狼が多数出てきた。

 考えてみればほぼ一〇分の一秒に一発の照射なので、五〇頭いてもその眼球は一〇〇個しかない。

 一〇秒そこそこで全部の眼球にレーザーを打ち込むことが可能だ。

 対して、騎士たちの火球はせいぜい一人あたり秒間二発程度。

 狙いをつける時間を考えれば秒間一発でも怪しい連射速度。

 こっちの一〇分の一の連射速度だから、『FCS』の連射に追いつくはずもない。

 火球が届く前に倒れているということはちゃんと当たっているし、それなりの効果はあるってことだろう。

 わずか一〇秒ほどで灰色狼(グレイウルフ)達は沈黙し、後方に控えていた黒狼(ブラックウルフ)だけが残った。


「だんちょー、やりましたね! あとはやつだけです!!」

「ばかやろう! 油断するんじゃねー」


 その忠告は少し遅すぎた。


 わおぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~ん。


 轟く遠吠え。

 馬車が、いや、体が細かく震える。


「くっ!」


 体が全く動かせない。

 隣のアンジェリカだけではない。

 騎士や従者たちも動けないでいるようだ。


 バインドボイス!


 動けない中、僕はブラックウルフの得意とする攻撃技を思い出していた。

 魔法は距離が離れるほどその威力を減らす。

 同じ威力を保つにはその分多くの魔力を消費する。

 その原理は人間の扱う魔法だろうと、魔物の扱う魔法だろうと変わらない。

 さらに人間のように精霊を意思の力で使役可能な生物に直接魔法を発動させるには更に強力な魔力をぶつける必要がある。

 この距離で人体に直接影響のある魔法など、どれだけの魔力がこもっているというのか。


 だが食らってみてわかった。

 これは魔法の力が直接作用しているわけではない。

 おそらく強力な指向性の低周波音を発して、脳を揺さぶり、軽い脳震盪を起こさせているのだろう。

 揺さぶられっ子症候群などという言葉もあるように、未発達な乳幼児が喰らえばクモ膜下出血などの脳内出血や脳挫傷さえ起こしかねない危険な技だ。

 動きを止めた僕たちに対し、その隙を逃さず黒狼(ブラックウルフ)が突進して来る。


 ものすごい迫力だ。

 馬ほどもある黒い巨体は地響きを立てて接近してくる。

 だが誰も反応できない。


 ずさ――――――――


 突然、黒狼(ブラックウルフ)がバランスを崩し、地面を滑っていく。


「ぐわ!」


 そしてそのまま大盾のところまで滑って、従者を一人跳ね飛ばして止まった。

 シンと静まり返る森の中。


「終わったのですか?」


 ようやく動けるようになったのか、アンジェリカが不安そうに尋ねる。

 黒狼(ブラックウルフ)はその巨体を横たえピクリともしない。

 その眷属たちも動きを止めている。


「そのようですね」


 野生動物に死んだふりをする芸など身につけているものはいないだろう。


「あっぱれ! さすが我が王国が誇る騎士たちよ! 誠に見事な働きであった!! このアルカイト・ユーシーズの名の元に、其方等にふさわしい褒賞を与えるよう、おじい様および父上に進言することを誓おう」

「はっはー。ありがたきしあわせ!」


 その声で呆然としていた騎士たちも一斉に跪き、最敬礼を見せる。


「この苦難を乗り切った諸君ならば必ず僕を王都まで無事送り届けてくれることでしょう。さっさと後始末して王都に帰りましょう」

「はっ。ゲリック! よくぞあの巨体を受け止めた!! 怪我の具合を確かめ、必要があれば応急手当をせよ」

「問題ありません! ちょっとばかり打ち身があるだけで、動けないほどではありません」

「そうか、だが念の為、少し休憩して、打ち身のある場所を確認しておけ。興奮していると痛みがあってもわからなかったりするからな」

「お心遣い感謝いたします。では、少しだけ休ませていただきます」

「うむ。残りの従者たちは狼どもの魔石を回収しろ! 俺たちの飯の種ってだけじゃないぞ。こいつを他の魔物に食われたら上位種に進化しかねんからな。ジャック! お前は王都の騎士団詰め所に行って応援を呼べ。途中農村に寄って、荷車と人手を集めるように命じろ。応援とともにここに来させて、狼どもを運ばせるんだ。残りの騎士は辺りの警戒と息があるやつを見つけたらとどめを刺せ」


 副団長が次々と指示を出し、皆が動いていく。


「僕たちも馬車に戻りましょう」


 僕はアンジェリカをそう言って促す。


「できれば、おろしてくれると嬉しいです」

「……最後まで締まりませんね」


 それもこれも僕が小さいのがいけないんです。

 神様、僕の成長期はいつ来るんでしょう?

 襲撃のときにも祈らなかった神に祈る僕だった。


 戦闘時間わずか二〇秒ほどで終わってしまいましたw

 週間なジ○ンプなら、絶対に編集から引き延ばせと言われる長さですねw

 あっちは一戦闘が終わるまで何週もかかりますからねぇ。

 うっかりするとなんで戦っていたかすら忘れるほどの長さw

 戦闘シーンを飽きさせることなく描ける方ならいいのですがダラダラ長いだけの戦闘シーンは、途中で飽きてしまうこともしばし。

 自分も戦闘シーンを書くのは苦手な方なので、割と短めになるかと思います。


 明日は再び閑話の連続投稿になります。

 いつもどおり12時から1時間おきの投稿になります。

 全4話になりますので、読む順番にお気をつけください。


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