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おじい様と会談

 夕食後、僕はおじい様の私室へと招かれた。


「早速だが、いくつか聞いておきたいことがあってね」


 おじい様は防音の魔法を使うとおもむろに話し始めた。


「何でしょう。僕にわかることであれば何でも聞いてください」

「領地改革案のことだ。どうにもよくわからない概念があってな。例えばこの金融改革案だが……」


 僕はおじい様の疑問にひとつひとつ答えていく。

 勉強したのはだいぶ昔のことだから記憶に怪しいところもあるが、これを作ったときに記憶にある限りのことを書いた。

 それが記憶を留める役にも立っている。

 日記を見れば過去が思い出されるように。


「なるほど。理屈はわかった。だが本当に機能するのか?」

「実際にやってみれば想像もつかない事態が起こりうる可能性はあります」


 向こうの世界だって完全に制御できていたとは言い難い。


「制御に失敗すればお金の価値が全くなくなったり、逆に価値が上がりすぎてものが売れなくなる可能性もあります」

「リスクは有る。だがメリットも大きい。特に金貨を使わなくていいのが大きいな」


 金本位制だと経済規模は金の産出量や保有量に左右されてしまう。

 経済を活性化させようとすればたくさんの金が必要になり、それが用意できなければ経済発展はそこでストップする。


「切替時には大きな混乱が予想されますから慎重に進めるべきですね」


 たとえば金貨を金を担保とした紙幣に交換し、最終的には金を担保とすることをやめる。

 昔向こうの世界で起こった歴史をなぞることで結果が予測しやすくなるだろう。


「ふむ。なるほど。やはり相当な時間がかかりそうであるな」

「そうですね。何年何十年あるいは何百年もかけて整備していく必要のある仕組みです」


 経済論は多くの学者が研究しているが未だに『正解』は導けていない。

 経済は人の論理的でない思考に大きく左右されるし、個人の行う最適の方法と、社会全体で行う最適な方法が相反することも多いからだ。

 例えば節約は個人として行うなら好ましいが社会全体で行うと物が売れずに不況になる。


「導入されるのであればまずは小規模でできるだけ影響の少ないやり方でするようにしてくださいね」

「…いや。私はこれを、この領地改革のどれも実行するつもりはない」

「そうなのですか? とりあえず二年ほどは父上の派閥だけに広める予定ですが、それ以降であれば使えるものがあれば使っても構わないのですが」

「きちんとやろうと思えばどれも時間が掛かる。即効性のあるものもないではないが、その分副作用も強い。何度も行えば副作用のほうが強く出てデメリットのほうが大きくなりかねない。私の治世は長くても一〇年もあるまい。それまでに制度を確立させるのは難しい。途中で次世代の王に引き継ぐことになろうが、その者と考え方が違えば途中で方針が変わるかもしれない。そうでなくともやりたくなかった政策を続けざるを得ないこととなるかもしれない」


「でもそれは支配者が変われば常に付きまとう問題では?」

「それはそうだが私はこれを完全に理解しているとは言い難い。おそらく理解しているのはそなただけだ」

「僕だって実際にやってみたわけじゃないですから、今の所机上の空論ですよ」

「だから、もっとよく知る必要があるし、研究する必要もあるだろう。実際に行こなうのは議論しつくし、多くの問題点を潰してからだ。それにはやはり数年はかかるだろう。その頃には実際にそなたらの派閥で経験が積まれるだろうし研究も進むであろう。国全体に広げていくのはそれからでも遅くはあるまい」

「まあそうですね。小さい領地での失敗ならまだ取り返しが付きますが国全体での失敗は国が消えかねませんからね」

「その通りだな。そなたはこれを実践し経験を積み、将来の国造りに活かせるようにしておいてもらいたい」

「わかりました。おじい様。微力を尽くします」

「うむ、頼んだぞ。さて、国の話はこれくらいにして、こんどはそなたのことについて話しておくか」

「僕のですか?」

「ああ。そなたの希望していた上級の精霊使いとの面会日が決まった」

「! いつですか? おじい様!」


 おお。

 これでパソコンに必要な機能のいくつかを実現する言葉を聞き出すようお願いができる。

 その場で聞き出せれば万々歳だな。


「三日後だ。王都から少し離れた場所になるため、馬車での移動となる。移動自体は二~三時間程度だが王都に来るときも体調を崩したと聞くが問題ないか?」

「多分そのくらいなら大丈夫でしょう。王都周辺は道もきれいですし」


 王都から二~三時間ならまだレンガで舗装されている範囲内のはず。


「それならよいが」

「ご心配いただきありがとうございます」

「なに。孫の心配をするのは爺の性みたいなものだからな。ただ心配なのは体調だけではない」

「まだなにか?」

「この間暗殺騒ぎがあったばかりだ。道中襲われんとも限らん。一応信頼できる騎士を四人とその従者四人が警護に付く予定だ。護衛騎士には離宮に遊びに行くお前の護衛と伝えておるが、万が一上級精霊を使役できる者の居場所だと知られれば一大事だからな。騎士はそれだけしか用意できない。できれば次の機会にしてもらえればとは思っている」


「次の機会はいつになりそうですか?」

「わからぬ。まずは暗殺の危険が完全とは言わずともある程度は防げる算段がつき、近くに対象となる人物がいるときとなると、おそらく一年か二年、あるいはもっと先か」

「ずいぶん先ですね」

「第二王子派にはいくら査察が入るとしても、全ては調べきれないし査察が入る前のことは調べるのが難しい。第一王子派もお前を狙ってくる可能性もある。あっちは観察義務のみの厳重注意しかできなかったからな。お前が第一第二王子派を崩壊させるほどに追い詰めたあとなら実行する力を失っているから、さほど心配はないのだろうが。それまでは危険だと思っておいたほうが良かろう。まあ、ここならば警備を厳重にできるし、そなたの領地にもどれば、あそこは田舎だからよそ者はすぐに分かるが、中途半端に王都から離れていると、へんな輩が紛れ込み易いし、警備も薄くなる」


「それなら、上級精霊使いの人をこっちに呼んでもらうのはだめなんですか? あるいは父上の領地とかで合流とか」

「それはできん。上級精霊使いはいわば戦略兵器だからな。一人で王都を壊滅させられかねん力がある。だから基本王都に近づくことを許しておらん。逆にアレの領地では田舎すぎてよそ者は目立つ。暗殺者が発見されやすいのと同じく上級の精霊使いも目立ってしまうだろう」


 なるほど。

 人間核爆弾といったところですか。

 安全装置がその人の忠誠心にしか無い核弾頭を首都に保管しておくのは危険すぎる。

 父上の領地も開拓村を抱えた辺境ですから、旅人が来る場所ではない。

 来るとしたら顔なじみの商人かその荷運びの人足くらい。

 護衛の騎士だって基本うちの派閥だ。

 そんな中、他派閥の騎士の護衛を引き連れた人物がやってきたら何事かと思われるだろう。


「そうですか。ならばこの機会を逃すわけにはいきませんね」


 危険はあるが、パソコンの性能を上げればそれだけ危険を早く排除できるというもの。


「そうか。ならば予定通りに準備を進めよう。言うまでもないことだが、真の目的は誰にも話してはならない。もちろん第三王妃にもだ」

「もちろんです。おじい様」


 おばあ様が話すとは思えないが、盗み聴きされる危険は常にある。

 魔法を使えば集音だってできる。

 おばあ様では防音の魔法は使えないし、僕のパソコンだって広い範囲を長時間防音できない。


「あれには二日後、二泊ほど泊まりの予定を入れているから少々遅くなってもバレる心配はない。朝にでかけ夕方に戻ってくれば目立つこともあるまい。朝夕は通いの貴族たちの馬車が多数宮殿に出入りするからな」

「お心遣い感謝いたします」

「必要なものはこちらで全て準備するゆえ、向こうで何を話すか考えておくが良い。向こうでもあまり時間は取れぬぞ。せいぜい二~三時間ほどか」

「わかりました。その予定で準備しておきます」


 朝出て往復で六時間近くかかるとなれば、会談に取れる時間はせいぜい三時間ほど。

 無駄話をしている暇はないぞ。

 僕はおじい様の自室から辞去し、別室で控えていたアンジェリカかとともに自室――と言ってもおばあ様の部屋だが――に戻る。

 二~三時間で聞けることなんてそうたくさんはない。


 簡単にまとめておくか。


 あばあさまは明後日には泊りがけで出かけるので、今日明日は準備で忙しい。

 第三王妃とはいえ外遊すると慣ればその準備は膨大だ。

 特に急に決まった外遊となれば。

 その間僕はゆっくり考えをまとめる事ができる。

 僕はパソコンの前に座り聞くことリストをまとめていった。

 おばあ様にも内緒なのだから当然アンジェリカには下がってもらっている。

 部屋にはおばあ様の侍女が一人控えているが、僕付きの侍女ではないため、僕が呼ばない限り近づいてこないから見られる心配はない。

 時間があるようならFCSのブラッシュアップもしないとね。


 移動時といえば暗殺にもってこいだ。

 おじい様は極秘に事を進めているみたいだけど、情報は漏れていると考えるべきだろう。

 少なくとも四人の騎士とその従者には護衛対象と護送する手順やルートの打ち合わせをしないといけないだろうし、向こうにだって受け入れ準備が必要だ。

 僕が移動するだけでおそらく数十人をくだらない人間が動いているのだ。

 上級精霊の使役者に合うことは知らずとも、僕が外出することくらいは掴まれていてもおかしくない。

 自分でおねだりしたご褒美で暗殺されるとか間抜けすぎだよね。

 ざっとこんな機能があれば便利だと感じたことを早々にまとめFCSのブラッシュアップに取り掛かった。

 今はまだ、人や魔物、そして魔導書などを識別してアイコンを重ねて表示する機能や、条件選択したターゲットをロックして、ロックしたターゲットを追尾する機能。

 そしてターゲットに指定時間レーザービームを照射する機能しかない。

 僕はそれに出力や照射時間、照射間隔を調整することのできる機能や、距離制限や近い方を優先とするとかの優先順位変更機能。


 それから、着弾点の維持機能を追加しようと考えている。

 面倒なのだが、やれることはやっておくべきだろう。

 ターゲットの追尾程度なら今でもできるが、一点を維持するのは案外難しい。

 例えば額に照射を受けた人間が顔を背けたとき、額の表面の着弾点を維持すべきか、穴を開けたその先を着弾点とするかで動かし方が違ってくる。

 表面を維持すれば横を向かれるとレーザーは当たらなくなるし、奥を狙うにはどのくらいまで浸透しているか知らないと、着弾点がわからない。

 とすると殺傷重視なら脳の中心か中心と思われる場所を着弾点として設定しておくか。


 それなら、多少頭が動いても、十分なパワーがあればそのうち脳に達するはずだ。

 額を着弾点としてそこを維持すると横向きのときにビームが脳に当たらなくなる。

 体の表面でも同じだ。

 殺傷ということを考えるのであれば、心臓や脳など急所や重要な器官がある部分を狙いに定め、そこを狙うようにすべきだろう。

 下級魔石によるレーザーは熱密度は高くても熱量自体は大きくない。

 つまり全体を焼いてしまうようなエネルギーはないはずだ。


 一~二kwといえばせいぜい業務用の電子レンジ程度の出力だ。

 それで弁当を温めるのに数十秒から一分少々もかかる。

 エネルギーを集中させなければ弁当を温めるのがせいぜいの出力なのだ。

 FCSには見えない光である遠赤外線を使用するつもりであるから、その波長はものすごく細い繊維より細いはずだ。

 それだけの細さだから低出力で焼き切れるとも言える。

 そう考えれば、着弾点の維持は必要無いというか、無理かもしれない。


 髪の毛より細いんだぞ。


 そんな点を動く相手に維持出来るはずもない。

 まあ、レーザーメスだって前後左右に動かしながら焼き切っていくんだから、ある程度でいいか。

 完全に同じ場所でなくても、傷口が広がっていけば、そのうち重要な器官に到達するはずだ。

 となると、相手の動きが止まるまでレーザーを維持する機能の方が、使い勝手がいいかもしれない。

 相手を無力化できないと意味ないしね。

 着弾点を脳や心臓、手や足といった部位を指定できるようにして、攻撃はそこを維持するとともに、動きが止まるか、のたうつような動きになったら、照射を停止する機能を付けるか。


 だが反応の鈍い生物だと、致命傷を与えても、しばらく動き続ける可能性がある。

 その場合無駄に魔力と時間を使ってしまう。どうせ蓄熱量なんてたいしたこと無いのだから、短時間照射を複数対象すべてに当てた後無力化できるまで何度も繰り返せばいいか。

 実際の組み込みは明日だな。

 さすがに眠い。

 控えていた侍女にアンジェリカを呼んでもらい、就寝の支度をしてもらった。

 お休みなさい。


 ネット小説では、S級冒険者とか、災害級のドラゴンとか倒しちゃう人がその辺歩いてますけど、皆さん平気なのでしょうか?w

 ドラまたのあの人も、一部(全部?)では相当恐れられていましたが、一撃で街一つぶっ壊す性格破綻者が、自分の街に来たら自分も相当ビビります。

 魔王を倒した勇者を排除しようとしちゃう王様がいるのも致し方ないかと。

 勇者召喚で先に隷属の首輪などで対策しちゃう王様のほうが賢いのか。

 なにせ勇者召喚ではどんな人が召喚されるかわかりませんからねぇ。

 最近は素直に魔王退治に行ってくれる人は少なくなってきましたし。

 昔はひのきの棒と僅かなお金と装備で竜王を倒しにいかせられた上に、死ぬと「死んでしまうとは何事だ」と罵倒されるのに、それでも戦いに赴く勇者w

 流石にそれはどうかと思った人が多いのか、素直に魔王退治にいかない勇者とか、行かせるためにあの手この手を駆使する王様。

 なんか勇者召喚が悪魔召喚に見えてきましたw

 召喚という意味では中身が人間か悪魔かの違いだけで、無理やりなり納得済みなりで使役するという点では同じですからねぇ。

 最初から対価を与え契約で使役する悪魔召喚のほうがまともな気がしてきましたw


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