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FCSの開発

 昨日の夜からお昼までおばあ様と過ごし、ようやくの自由時間。


「お疲れのようですね、アルカイト様。お昼寝でもいたしますか?」

「いや、ここで寝てしまったらおばあ様が帰ってきてしまう。それに今日はおじい様もいらっしゃるだろ?」

「はい、そう伺っております」

「自由時間は午後しか無いんだ」

「ですが、お体に障りますよ?」

「大丈夫。おじい様がいらっしゃればおばあ様も無茶はすまい」


 してもおじい様が止めてくれるはずだ。……たぶん。


「時間は短いがやれるだけやってしまおう。体調が悪かろうが刺客は待ってはくれないからね」

「それはそうですが。わかりました。私も手伝いますのででさっさと片付けてしまいましょう」

「ありがとう。まずはインターフェイス部分から行くか」


 眼の前へターゲットスコープの表示。

 これはフラワーガーデンの応用だから問題ない。

 表示の基準点を自分の目にして、そこから適当な距離に画面を表示させるだけだ。

 片方の目にだけ表示させて、スコープと実映像を左右分離するのがいいか、必要な情報部分だけ表示するのがいいか。

 表示範囲位置、追従はどこを基準とするかなど実際に表示させて決めていった。

 ただし目に近すぎると焦点合わせができなくなるため、望遠の魔法を応用して、焦点距離と歪みの調整をする必要があった。

 そして問題は見え方だけではない。


「視線がずれるとメニューとターゲット表示は逆に動かさないと駄目か」


 当然であるが普通ディスプレイは眼前に位置固定だから視線を右にやれば表示はすべて左に行く。

 視線を動かす時は普通眼球だけじゃなく顔も動くからね。

 固定位置でFCSを起動するならともかく動き回ってとなると、メニューが視界の外にいったり視線が外れたらターゲットも外れたのでは都合が悪い。

 なのでメニューは視線追従。

 ターゲットは動くので自動追尾だ。

 またターゲットは人間/魔物、男/女、大人/子供など大雑把に分類してアイコンを表示。

 ターゲットロックする対象を減らせれば選択も楽になる。

 他にも武器を持っている、走っているなどの条件も選択できるようにするか。

 FCSが使われる状況というのは大勢に囲まれるか追われているときだろうから、そういった条件である程度絞り込めるはずだ。

 そういったファジーな条件判定を精霊は得意としているしね。


「僕らを襲ってくるとしたらどんなやつだと思う?」

「そうですねぇ。覆面をしている、とか、黒ずくめとかどうでしょう?」

「定番だな」


 僕はそれも付け加えていく。

 こっちは問答無用でターゲット認識だ。

 黒ずくめの覆面とか、まず間違いなく敵だ。

 違ってたらその時外せばいい。

 できるだけ自動で絞り込めれば、大勢で襲いかかられても、僅かな操作で対応できるようになるはずだ。

 ターゲットスコープ周りの仕様をだいたい決めた後は操作方法となる。


「やはり音声か? それとも指による操作か?」


 一応両方で制御できるようにしておくか。

 言葉で操作するほうが便利な機能もあれば、指で操作したほうがいいものもある。

 インタ-フェイスは柔軟な方が使いやすい。

 その点ジョブズと少し考え方が違うのかもしれない。

 彼は割と彼が最上と思う機能やインターフェイスのみ搭載し、それ以外は認めないようなところがあった。


 彼はどちらかといえばシンプルで直感的な使い心地にこだわっていたように思う。

 柔軟に対応できるというのは逆に言えば複雑な機能が必要ってことだからね。

 これしか無いなら選ぶ必要も、なにか設定する必要もない。

 シンプルでも十分快適なら人の方を慣れさせればいい、そんな考えで製品を作っていたのではないだろうか。

 想像でしか無いが。


 僕はどちらかといえば人間に機械が合わせるべきと思う。

 自分が使いやすいようにカスタマイズするのが好きだ。

 まあ、それは僕がそれを好んでいるし苦にならないからだが、一般の人はそれが好きではないし苦痛でしか無いんだろうから、僕の『パソコン』だって、できるだけGUIなメニューから操作できるようにしているし。

 コマンドレベルからでも操作できるから、好きな方を使えばいい。


「あとは視線との組み合わせでターゲットを選択、ロックできるようにするか」


 見るだけなら指でポイントするより早いしね。


「まあ、インターフェイス部分はこんなものかな?」


 あとはロックしたターゲットの追従と攻撃か。

 向こうで言うFCSなら弾道計算や着弾点予測とか、敵の未来位置予測とかいるのだろうが、ビーム兵器にそんなものは不要だ。

 まっすぐ飛ぶし、着弾までの時間は無視できるくらいに短い。

 問題はレーザーというのはある程度の時間照射しないと効果がないということだ。

 鉛の弾丸ならあたった瞬間にそのエネルギーの大半が対象に伝わる。

 しかしレーザーだと当たった部分の温度が上昇するにはそれなりに時間が掛かるし、動く相手に対しその間照射点を維持するのは大変だ。


 今のところ効果の程は未確認なのでどの程度の出力でどの程度の時間照射すればいいか決定するのが難しい。

 とりあえず追尾機能を作るのが面倒なので、出力は常に最大で、追尾が必要ないくらいの短時間を基本として必要に応じて照射時間を伸ばしていくか。

 ちょっと計算してみる。

 時速四〇キロメートルで移動する物体の場合、〇・一秒で……一・一メートルも移動するのかよ。

 そうなると完全に標的から外れてしまう。

 時速四キロメートル。つまり人間の歩く速度でも、一〇センチほど。

 とすると照射時間は〇・〇一秒とかならどうだ?

 それなら一センチ程度のブレで済む。

 しかしそれで十分な威力が出るのか?


 精霊はものすごく精密な動作が得意だ。

 レーザー光もきっちり波長分の長さで集光するはず。

 少なくとも近距離では。大気のゆらぎなどで多少拡散するかもしれないが。

 集光能力が高ければ、その分加熱する物質の量が減るから、浸透力が増すはずだ。

 だが念の為、早めに着弾点の追従機能を開発しておくか。

 弾丸を避けるような動きの早い魔物がいないとも限らないからね。時速四〇キロで走る獣とかザラに居るわけだし。

 そういうタイプの魔物だと表面をちょっと焦がすくらいにしかならない可能性がある。


 まあ精霊は精密な計測が可能だから、追従させるのもそれほど難しくないだろう。

 面倒なだけで。

 とりあえず今回は高出力のビームをごく短時間パルス状に照射することとした。

 追従機能はあとだ。

 照射時間〇・〇一秒で〇・一秒間隔で撃てば毎分五四五回撃てることになる。

 しかも消費魔力量から考えて、最大出力でも毎分五四五発をずっと撃ち続けられそうな感じだ。

 自動小銃なら分速ではもっと多くの弾を撃てるものもあるだろうが、弾倉にはせいぜい二〇~三〇発。


 フルオートなら数秒で打ち尽くしてしまう。


 機関銃だって弾をベルトでつないで無限に撃てるようにしたって銃身がもたない。

 それに比べて魔力を物理現象に変換する時は損失が〇だから、発射する方には余分な熱が残らない。

 魔力が続く限り撃ち続けられるというわけだ。

 まあ、〇・〇一秒の最大出力でどれだけのダメージを与えられるかわからないけど、目とかにうまく当てられれば、失明は免れない程度はあるはずだ。

 これはひょっとして過剰戦力かもしれない。

 普通、弾の切れ目に突っ込んでくるのだが途切れないのであれば突っ込んでくることもできない。


「低出力モード、あるいは着弾点を目ではなく鼻とかにする牽制モードも用意しておくか」


 こちらとしては時間が稼げればいい場合もあるから無理に倒す必要はない。

 倒してしまってもいいのだろう、といって変なフラグを立てるのもあれだし。


「まあこんなものでしょう」

「もうできたのですか? まだ夕食前ですよ?」

「まさか。アウトラインができただけですよ。これから細かいところを実装していって、最後にテストまでしないと」


 一番大変なターゲットの識別が精霊任せにできたし、着弾点予測も未来位置予測もいらないから、攻撃特化ならそれほど時間がかからないでしょう。

 時間がかかりそうなのは安全装置ですか。

 これで十分というのがありませんからねぇ。

 完璧を求めようとすればとんでもない時間が掛かるし、完璧だと思ってもどこかに抜けがあるものだ。

 僕はとりあえず今作った簡易『FCS』をUSBパソコンにコピーしておいた。

 まだまだ十分な機能があるとは言えないが、背に腹は変えられない。

 無いよりはマシ程度ですが、あって困ることは無いだろう。


「大丈夫なんですか? 暴発しません?」

「『USBパソコン』は普段魔石との接続を切っていますから、まあ問題ないでしょう」

「ならいいのですが。誤射とか絶対にやめてくださいよ。特に国王様の近くでは」


 フラグはやめて!


 そんなことをしたら王孫の僕だってただでは済まない。

 良くて首チョンパ。

 悪けりゃ、鞭打ち拷問の上、磔かそれとも火炙りか? 父上や母上も道連れにして、少なくとも楽には死なせてもらえない。

 僕は再度USBパソコンの接続を確認しポケットにしまう。


 自分が使いやすいと思っても他人が使いやすいとは限らないのがユーザーインターフェイス。

 多くの右利きの人に使いやすいハサミでも左利きの人には使いにくいように、大抵は大多数が使いやすい方に寄せてしまい少数には対応しません。

 少数派のためのニッチな市場というのも無いわけではありませんが、大抵は高額になるか、選択肢が少なくなるかします。

 ユーザーインターフェイスは、できるだけたくさんの人に対応しようとすると、かえって複雑になり、万人向けでなくなるという矛盾も抱えます。

 万人が使いやすくするにはたくさんの設定項目が必要ですが、設定項目が多すぎると万人が使えないというやつですね。

 ジョブズは少数派をバッサリ切り捨て、自分の理想とするものをシンプルに実装。

 大多数が使いやすいインターフェイスとしました。

 このへんの割り切りとバランス感覚はすごいと思います。


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