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自衛のために

 翌日、おじい様は政務に、おばあ様は社交にと出かけ、どんぶらこと桃も流れてこないので、暇を持て余すこととなった。

 暗殺未遂事件が有ったばかりだし、観察義務が課せられたとはいえ、徹底するにはまだ時間がかかる。

 安全が確保されるまでは、自由に出歩くことも出来ない。


「今日は何をしましょうか、アンジェリカ」

「『ねっとわーく』とやらの続きでいいのでは? 『ぱそこん』も運んでもらいましたし」

「あれはね、パソコンが二台以上無いと先に進められないんですよ」


 USBパソコンが有りますが、いちいち接続してプログラムをコピーして外してとかやっていると、面倒な事この上ない。

 複数台がネゴり始めたときのテストとかもできないし。

 それにもう少し構想をまとめてからのほうがいいだろう。


「なので今日は、『FCS』について検討しますす」

「『えふしーえす』?」

「射撃管制システム。いわゆるファイヤーボールなどの魔法を効率よく使おうということです」


 この世界の攻撃魔法は魔導書を起動させ意志の力で細かなコントロールをするか、杖のような魔導具を作り狙った方向に飛ばすといういわば人間任せの制御だ。

 それを自動化あるいは、補助をしてくれる仕組みを作ろうというのが今回の趣旨だ。


「でも、アルカイト様はまだ攻撃魔法使えませんよね?」

「いいところに気がついたね」


 まだ成人していないため、中級魔石を使った魔導書もないし、魔導具も持てない。

 先生に使う魔法の種類も限定させられている。

 僕の持ってるパソコンも下級の魔石を使っているため、出力が低い。

 ファイヤーボールといった攻撃の基本魔法は使えない。


「いきなり終了ですか?」

「そんなわけないだろ。下級魔石だって牽制程度はなんとかなるからね。この『パソコン』や『スティックパソコン』に使われている魔石は余裕をもたせて下級でも上位クラスの魔石を使っている。殺傷能力は低いとはいえ皆無というわけではない」


 急所を狙えばちょっと長めの針だって人を殺せるし、タンスの角に小指をぶつければ転げ回るほどに痛い。

 要はちょっと足止めできればいいのだから、それほどの威力はいらないのだ。

 パソコンが売れてお金が入ってきたので、僕の初号機やスティックパソコンも魔石をちょっといいやつに換装してある。

 さすがに子供用の魔導書に着いてた魔石だと魔力量が足りなくなってきたからね。

 つまり、今ならある程度余裕があるということだ。


「そうかもしれませんけど、なんでまた急にそんな物を作られようと思ったのですか?」


 アンジェリカが不思議そうに首を傾げる。


「この間殺されそうになった人のセリフとは思えませんね。自衛手段はあって困ることはありませんよ」

「それは公爵様や国王様が考えることで、子供が考えることではありませんよ。まあ、今更ですが」

「子供が考えないのはその能力がないからです。考える能力があり実行する力があってやらないのは怠慢以外の何物でもないですからね」


 できないならともかく、できるのにやらずに死ぬのはゴメンです。


「考えることも、実行する力もあることは認めますが今やることですか? 国王様も敵対勢力に釘を差していただいたようですし、そう簡単に手を出してこないのではないですか?」

「いつやるかと問われたら、今でしょ、と答えますね。釘を差したとはいえ隅々まで目が行き届くわけではありませんし、ああいうことをする輩はしつこいと相場が決まっています。今僕らがここに閉じこもっているのもまだ完全には安全が確保されていないからですよね」


 確保されていたら今頃、子ども会に行っている。

 アンジェリカもそこに思い至ったのか納得してくれたようだ。


「……そうですね。身を守る手段はいくつあっても困りませんね」

「というわけで今日の課題は僕の考えた最強の『FCS』です」

「わーぱちぱちぱち」


 アンジェリカのおざなりな拍手で『FCS』の開発が始まった。


「アルカイト様。一つ疑問があるのですが、ファイヤーボールも撃てない『ぱそこん』で射撃管制なるものが必要なのですか?」

「さっきも言ったように別にファイヤーボールが撃てる必要はない。それに類するものを投げつけるだけでもある程度の効果はある。それこそ石や砂なんかでもいい。要はちょっと足止めできればいいんだ」

「なるほど。でも石とか砂なら魔法がなくてもぶつけられますよね?」

「おいおい。僕が投げた石に怯む大人なんていませんよ」


 自慢じゃないが、アウトドアとは無縁の僕の体力を甘く見てはいけない。

 へろへろの石をぶつけられて怯むのは僕より小さい子供くらいのものだ。


「確かに。アルカイト様では威嚇にもなりませんね」

「なので、魔法でなんとかしようというわけです」

「魔法で石を飛ばすのですか?」

「いや、飛ばすのは石ではありません。大体それじゃあ、いつも石を持ち歩かないといけないじゃないですか」

「石ころを持ち歩くアルカイト様ですか。子供が宝物の石ころを持ち歩いていると考えれば微笑ましいのでは?」

「持つとしたらアンジェリカだろ。僕の侍女で世話係なんだから」

「それは嫌ですね」

「でしょ。なので石は却下です。持ち運べる個数もそんなに多くはないしね」


 碁石くらいのものでも数十個。大きなものなら数個が限界だろう。

 しかもそれを四六時中持ち歩くとか、重いしかさばるし何より邪魔くさい。

 では何を投げつけるのか。


「なので、投げつけるのは『レーザー』、いわゆる光とします」

「光ですか。でも光はあたっても痛くないですよね?」

「普通の光はね?」

「普通じゃない光といえば聖光とかですか? でもそれで怯むのはアンデッドくらいなものでは?」


 この世界にもアンデッドはいる。

 僕は見たことないけど、魔物図鑑によるといわゆるゾンビのようなものが時々現れるらしい。

 腐った体でさまよい歩くモンスター。

 だが、何故かスケルトンについては確認されていない。

 ゴーストのような非実体系などもいないようだ。


「太陽の光は明るいだけでなく当たると温かいだろ? あれをもっと強力にするんだ」

「太陽を作り出すのですか? それはファイヤーボールより魔力を使いそうですけど」

「全体を温めようとすればね。でも針の先ほどの一点を温めるだけならどうだろう? 熱い物にちょっと触れるだけだって、思わず手を引いてしまうだろ? ちょっとひるませるならそれで十分だし、もし目を確実に狙えるのであれば、行動不能にすることだってできる」

「一点に集中させることで威力を上げるということですね」

「そのとおり」


 ネットワークについて推敲したときに電波を1Hz単位で制御できるということから思いついたことだ。

 揃った波長の電磁波とはすなわちレーザーではないかと。

 レーザーの性質として他に収束性や指向性に優れることがあるが、精霊ならどちらも実現できる。

 パソコンのディスプレイも、光を前面だけに放出することで魔力の消耗を抑えた。

 同じルーチンを利用し更に出力を上げればレーザーが実現できるはずだ。


「ではまた『かーど』作りからですか?」

「いや、今日は『パソコン』があるからね。こちらに書いていくよ」


 アウトラインプロセッサはまだできていないけど、タグジャンプくらいならできる。

 タグ付けしてインデックスをつければどこでも参照できるし、関連付けも可能だ。

 『スティックパソコン』で机に投射されたキーボードを使うより遥かに入力しやすいからね。


「では、私のすることがありませんね」

「アンジェリカはいつもどおり話し相手になってくれればいいよ。人と話していると考えがまとまりやすいし、僕の思いつかないことを考えつくかもしれないしね」

「わかりました」

「じゃあ、早速行くよ。まずは光の考察から行こう。光といっても赤い光から紫の光まであるし世の中には見えない光というものもある」


 パソコンには『光の種類』と記載する。


「光なのに見えないんですか?」

「前に聞こえない音という話をしたろ。あれと同じように見えない光というのがある。音にしろ光にしろ人間が感知できる範囲なんてごく狭いんだ」

「アルカイト様は変なこと知ってますね」

「精霊はいろいろな光や音を出すことができるからね。実験したんだ」


 まあ嘘だが。


「光や音には周波数というものがあって、それにより色が変わって見えたり、高く聞こえたり低く聞こえたりする。つまりこの周波数によって性質が変わるんだ」


 『周波数と性質』と記載。


「光は色だけでなく熱も伝えるが、この周波数によって熱の伝わり方が違うかもしれないからそれを確認する必要がある」


 『熱の伝わり方の確認』と記載。

 熱といえば赤外線かな?

 遠赤外線だと中まで浸透しやすいんだっけ?

 攻撃手段としては表面を温めたほうがいいのか、それとも中まで熱したほうがいいのか。

 そこまで実験するのは無理かな。


「肝心なのはどこまで熱することができるかだ。光が熱を伝えるからと言ってぬるま湯程度じゃ怯みもしないしね」

「そうですね」


 『出力と温度』を記載。


「かと言って出力を上げれば当然魔力の消費も増える」


 『魔力量とのバランス』と記載。


「また、当てる場所の問題もある。出力次第だけど服や鎧に当てても効果が薄いかもしれない」


 『照射ポイント』


「全身鎧だと小さなファイヤーボールくらいなら防いでしまうそうですよ」

「まあそうだろうね。ファイヤーボールはエネルギーが広く分散しているし、接触が一瞬だから与えられる熱量が低いんだ。攻撃手段としては一般的だが効率はあまり良くない」


 『収束と照射時間』


「お湯を沸かすには結構な時間がかかるのと同じように、熱が伝わるのにはそれなりの時間がかかる。しかしびっくりして相手が動いてしまうと十分な熱量が伝わる前に照射点がずれてしまうかもしれない」


 『照射点の維持』


「まあ、照射時間が一瞬ならあまり気にすることはないんだけど」


 『高出力を瞬時にできるか?』


「アンジェリカはなにか思いつくかい?」

「そうですね。攻撃ですから誤射には気をつけてほしいです」

「なるほど。光は弓のようにそのうち地面に落ちてくれないからね。誤射しないというのは重要だ」


 『誤射の防止』


 レーザー兵器は長距離の攻撃も可能な点が利点であるがそれが欠点にもなる。

 外したレーザー光が数km先の人間に当たらないとも限らないのだ。

 レーザーポインターで飛んでいる飛行機のパイロットを狙うなんていたずらが問題になるのもその性質ゆえだ。


「誤射を防止するためにはターゲットの認識が必要だな」


 『ターゲットの認識』


「ここらへんはもう光の考察というより『FCS』の領域だな」


 『FCSとの連動』


「そうなると『FCS』にどう命令するかのインターフェイスが必要になるな」


 『FCSへの命令方法』


「考えられるとすれば音声、目線、身振り手振り、といったところか」


 『音声、目線、身振り手振り』


「そうだ。『ターゲットスコープ』とかかっこいいよな」


 『ターゲットスコープ』


「『たーげっとすこーぷ』?」

「この間『USBパソコン』で中空に浮かぶ『ディスプレイ』を見せただろう? あんな感じでターゲットと照準を重ねるんだ。どこに当たるか印を付けておけば間違えることはないだろ?」

「まあそうですね」

「ターゲットがひとつとは限らないから、『複数ターゲットの捕捉と選択』」


 そんな感じで僕たちは思いつくままパソコンに追記していった。


「アルカイト様。お昼の準備ができたようです」

「そうか。とりあえずここまでにするか」

「食後は続きですか?」

「いや、実際にちょっと実験してみよう」

「実験ですか?」

「十分な強度の光が出せなかったら考えたことは全く無意味になるからね」


 殺傷能力が低いというのが下級魔石の条件だ。

 大怪我をさせるのは無理でも、せめてひるませる程度の熱量が出るといいのだが。


「逆に強力すぎても危ないから、適当な出力を決めておく必要があるんだ。初めてだからその加減がわからない。危険かもしれないので実験は中庭で行うから準備しておいて」

「かしこまりました」


 僕は準備するものをアンジェリカに指示すると食堂に向かった。


 FCSでググるとなぜかサーフボード・フィンの広告ページがトップに表示されるので、詳しく知りたい方は射撃管制などで検索してくださいw

 FCSの主な機能としては、「目標の捜索、探知」「敵味方の識別」「目標の捕捉、追尾」「未来位置補正」「火器の軸線設定」「射撃」あたりがあるようですが、最近では友軍間のリンク機能なども搭載されるようで、標的がかち合わないように分散させたり、自分の観測装置では見えない範囲を他の友軍からの情報で補ったりもできるようです。

 武器本体より、それを制御するソフトウェアのほうが開発に時間がかかるなんて話も聞きます。

 それくらいFCSなどの電子機器は重要な地位を占めるようになってきました。

 車なんかも今では電子制御が当たり前になっていますからね。

 日本の次期戦闘機もアメリカ軍との連携をとるため、国産を歌いつつ連携部分についてはアメリカの協力が必要となるそうです。

 イギリスとの共同開発の話も出ていますし、どこまで国産で行けるんでしょうね。


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