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父上達との夕食

 暇をなんとか潰していたら、夕食の時間となった。

 ただ、いつもと違うのは、後宮ではなく本宮側の食堂を使うということであった。

 今回はおじい様とおばあ様の他、父上も参加しますからね。

 後宮には父上といえども入れませんし。


「アルカイト、無事で何よりだったな」


 父が無事を喜んでくださいます。


「ええ、優秀な近衛女官おかげです」

「毒や不審な女官の存在に気がついたのはお前とのことではないか。よくぞ気がついたな」

「毒の件はちょうどアンジェリカと暗殺の可能性とか話していたところだったので。その後の女官は似たような話の小説を読んだ事があったからですね」

「それでもすごいわ。どちらかでも見逃していたら、この可愛い子が今頃冷たくなっていたかと思うと今でも身が震えるわ」

「おばあ様、ご心配をおかけしまして申し訳ありません」

「あなたが謝ることはないのよ。悪いのはあなたの命を狙ってきた者たちなのだから」

「ではお礼にしておきますね。心配していただきありがとうございます」

「まあ、どういたしまして」


「このようなことが起こらないように護衛も信頼できる者を充分つけたし、王都に居る貴族たちにも献上の義のあと釘をさしておいた。これでしばらくはおとなしくしているだろう」

「おじい様、ありがとうございます。しばらくとはどのくらいになりそうですか?」

「そうであるな。恐らく二、三年か」


 おじい様のお言葉によると、第一第二王子の派閥には、観察義務が課せられたそうだ。

 観察義務というのは、お金の流れや派閥の名簿などを提出したり、不審な支出等見つかれば予告無しの査察を受ける義務を負うことらしい。

 さすがに永久にということは無理なので、全く問題を起こさなければ二年間、なにか不審な所があれば更に延長となる。

 更に第二王子派閥の主要人物にはすでに査察官が派遣され、現在査察中とのこと。


「その程度しかお前を守れない。すまない」

「もったいないお言葉。ですがそれだけあれば充分です。その頃には興味が薄れているかもしれませんし、それでなくとも僕に関わっている状況ではなくなっているでしょう」

「アルカイト、一体何をするつもりだ」


 父上は頭を抱えながら尋ねてくる。

 嫌だなぁ、僕がなにかやると父上が大変なことになるので、警戒されるのはわかりますが、今回はそんなに大変にはなりませんよ。


「父上の派閥以外に『パソコン』を売らないようにしていただくだけの簡単なお仕事です」

「本当にそれだけか? ならば問題はないが。……本当にそれでいいのだな?」

「はい。父上」

「『パソコン』とは本日献上されたあの化粧箱か?」

「はい、おじい様」

「あれは確かに見事な細工であったが、さほど珍しい物ではない。それを派閥以外に売らないことで状況が変わるとは思えんが」


 あれ、中身の説明はしなかったのかな?


「父上、『パソコン』の説明はされなかったのですか?」

「私ができるわけなかろう。御献上の後、陪臣を呼んでゆっくり説明する予定であった」

「そうでした」


 父上は『パソコン教室』に参加されていませんでしたからね。

 父上用のパソコンはこの間できたばかりですし、その後は王都への途上でそんな暇はありませんでしたから、説明できるはずもありませんね。


「簡単に説明しますと、あれは文官や魔導士爵の仕事を大幅に効率化する魔導具なんです。実際に家の文官の仕事の効率が二倍から三倍に上がっていますし、魔導士爵であれば一〇倍以上の効率でシーケンスが開発できるかと」

「なんと。そんな能力があの箱に?」


 おじい様も驚いたようです。


「それでは御献上の儀で他の貴族たちの反応も微妙ではありませんでしたか?」

「そうだな。献上品としてはあまり珍しいものでもないからな。公爵がわざわざ献上するようなものではないと囁いていた者もいたようだ」


 まあ、見た目はただの化粧箱で、文箱かそんなものにしか見えませんからね。


「なら、良かったです」

「良かった?」

「ええ、注目されていなければ、あれを売り出しても警戒されることはないでしょう。しかもあれと同じ化粧箱はおじい様のと父上の物だけですので、たとえ見たとしても同じものとは思わないはずです」


 肝心なのはその中身ですから。


「そうだな」

「そして相手が気がついた頃には手遅れになっています」

「「「……」」」

「そなたの息子は怖いな」


 皆が沈黙する中、おじい様がポツリと漏らす。


「恐れ入ります」


 恐れ入るんですね父上。


「あと、売った者には他の派閥の者がいるところでは使わず、派閥外には見せたり話したりしないよう、いい含めておいてくださいね。気がついたときには我が派閥だけが富んでいるでしょう。そうなれば中立の派閥を取り込むのも簡単なはずです。うまくすれば敵対派閥の貴族達でさえ、引き剥がされるところまで追い詰められます」


 僕は昨日アンジェリカと話したことや、その後考えたことなどを披露していく。


「そなたの息子は鬼だな」

「恐悦至極です」


 恐悦するんだ父上。


「こんなに可愛らしいのに、すごいわ。もう王者の風格ね」


 喜んでくださるのはおばあ様だけです。


「うむ。我が息子と孫の中でも飛び抜けておろう。今後どう成長していくのか楽しみのような恐ろしいような」

「楽しみにしていてください。手はこれだけではありません。僕が考えた『財務諸表』の作り方や活用の仕方、領地改革案についても参考資料として入れますので、すぐにでも活用が進むはずです」

「あれを、公開するのか?」

「ええ」

「あれとはなんだ」


 父上は僕が五歳のときに作った文書をかいつまんで説明してくださいました。


「うむ、なるほど。あの領地が息を吹き返したのはそのせいか……」

「まだいくつか実行しただけですが、それでもすでに黒字が出ています」

「一部でそれか。全部を実行すれば」

「おそらく世界が変わります。まあ、全部を実現しようとすれば一〇年二〇年どころか何百年も掛かりそうですし、貴族としては受け入れがたいものもありますが」

「世界を変えるか……お主とんでもない息子を持ったな」

「天からの授かりものにございます」


 異世界からの授かりものですけど。

 それが神の仕業であればそれも間違いではないか。


「あとで献上品を持って来させるゆえ、使い方を説明してもらえるか。他の貴族たちを時代遅れにし、世界を変えるという領地改革案を見せて欲しい」

「ええ、構いませんよ。父上、ついでに僕の『パソコン』も持ってきていただけますか?」

「それは私にも使えるものなのかしら?」

「ええ、大丈夫です、おばあ様。お手紙の草案を作ったり、覚書なども簡単に修正できるようになりますから、お考えをまとめるのにも役立つでしょう」

「なら、私もひとついただこうかしら」

「ありがとうございます、おばあ様」

「できれば王宮の文官にも使わせたいのだが……」

「それは少しお待ちいただく他ありませんね。王宮だと他派閥の者が大勢出入りしますからね。王都の自派閥の拠点とか自宅で使う分には問題ありませんが、自分の隣で変な魔導具を使われては流石にバレますから」


「そうか残念だ」

「自派閥の文官が自宅に仕事を持ち帰って使うとか、個室持ちの文官なら王宮内の執務室に置いておいて、誰かが入出する時は蓋を締めるとか徹底できれば使っても構わないのですが。これなら自派閥の人員分の効率は上がりますし、優秀さが認められれば、自派閥の地位だけ上がることになるのでこちらとしても助かるのですが。まあ、どうせ二年もしないうちにバレますから、その暁には王宮に持ち込んで使い始めればいいでしょう」


 まずは自派閥の領地で広め、運営を改善する。

 王都でも使えないことはないがこっそりと広める必要がある。

 結果が出るには一~二年はかかるだろうから、政敵が不審に思うのはその後だ。


「ところで、よろしいのですか、おじい様」

「何がだ」

「王子たちが相争うことです」

「かまわん。暗殺のような卑怯な手段や互いの足を引っ張り合うような生産性がないどころか王国に害のある行為以外なら大いに争い競い合って欲しい。競い合うことで互いの能力を磨けば、将来誰が王になろうが公爵として領地に赴こうが、国の為になるであろうからな」


 さすが王者。

 懐が深いです。


 それに比べて安易に暗殺に走るとか。

 誰の指示か知りませんが、小物過ぎます。


「そもそもが今は王となるための『選定の儀』の最中。己を磨き力をつけるべきとき。他者を引きずり落とすのではなく自らを高めねば王にはなれん」

「なら、遠慮なくできますね、父上」

「……少しは遠慮しろ。追い詰めすぎると思わぬ反撃を食らうぞ」

「なるほど。生かさず殺さずですね?」

「いや、そういう意味ではないのだが……」

「わっはっはっは。かまわん。遠慮なくやれ。お主なら反撃をくらおうと叩き潰せるであろう」


 おじい様。なんか『やれ』が『殺れ』に聞こえるんですが。

 まあ、お墨付きを頂いたので遠慮なく『殺り』ますか。


「全力を尽くします」


 父上、なんで頭を抱えているのですか。

 まあ、『殺る』のは父上ですからね。

 僕は粛々と『パソコン』を強化していくだけです。


「ところで、なにか欲しいものはないか?」

「欲しいものですか?」

「今回は怖い思いをさせたからな。何かお詫びをしようかと思ってな。不始末を起こした王子たちの派閥から賠償金をふんだくったから、好きなものをねだるが良い」

「とりあえず『パソコン』の専売を認めていただいただけで充分なのですが」

「そういわずもらっておけ」

「そうですか。では、信頼できる魔導士爵を数人お借りしたいのですが」

「魔導士爵? 『ぱそこん』を作るためか?」

「それもありますが、新たなシーケンスを書いていただきたいのです」

「それであれば、若いほうが良いかな」

「そうですね。新たな概念を覚えていただかないといけませんし、魔導具の作成の仕事もありますから」


 壮年クラスになるとシーケンスの開発と家庭教師が主な仕事になりますからね。

 魔導具作りは現役でなくなっていくようです。

 両方をやってもらうとすれば若いほうがいいでしょう。

 シーケンスの組み方も、既存とはだいぶ違っているし、コンパイラ等の新言語の習得もしてもらわないといけない。


「わかった。そなたの派閥の者から優秀な者を我の名のもとに引き抜いてそちらへ派遣しよう」

「無茶な引き抜きはやめてくださいね」

「もちろんだ。嫌々派遣されたとてまともな仕事ができるとも思えん。ちゃんと本人の希望を優先する」


 王に問われて嫌と言えるかわかりませんがその辺は信頼してお任せいたしましょう。

 問題があれば返品すればいい話ですし。

 これがこちらで直接雇うとそう簡単に返品はできませんからね。


「しかしそれでは完全に領地のためではないか。他になにか個人的に欲しいものはないのか?」

「そうおっしゃられましてもねぇ」


 一番欲しいのはあっちの『パソコン』や『インターネット』なんだけど、そんなの無理ですし。

 あとはカレーとかお米とか、醤油とか、食べ物系かなぁ。

 そうそう、お刺身とか日本酒とか。一杯やりたくなってきた。

 子供なのでまだ飲めないけど。

 お米は探せばあるかなぁ。

 作物は向こうと同じようなものもあるようなので、お米もありそうなものだが、恐らく品種改良していないお米であれば、温暖で湿潤な地方でないとできないから、もっと南方の国まで行かないと作っていないだろうしここでは作れないでしょうね。

 運んでくるのも難しいだろう。

 街道は整備されているとは言えないし、魔物も出るし、それは海路も同じ。

 この世界では遠方から物を運んでくるのはとんでもない困難が伴う。

 やろうと思えばできるかもしれないが採算が合うものではない。


 カレーもなぁ。

 カレーの聖地がインドであるから、スパイス系の多くはその辺りで栽培しているはず。

 これもほぼ南方だ。

 カレーにおいて最も重要だと思うスパイスは、僕はクミンだと思っている。

 最低限カレーを構成するのに必要なスパイスは三つだと聞いたことがある。

 それはクミン、コリアンダー、ターメリックだ。

 そのうちターメリックは色付けのためのスパイスなので、なければないでいいし、コリアンダーはちょっと甘い香りで、クミンの独特の香りを抑える働きをする。

 そしてクミンがカレー独特の香りの主成分だ。

 隣でカレーを食べられると自分も食べたくなる現象はこの香り成分によるもので、クミンなしのスパイス料理を僕はカレーとは認めない。

 つまりクミン以外はカレーの主成分とは言えない、逆に言えばクミンさえあれば、カレーっぽいと言うことができるのだ。

 タイカレーとかクミン無しだったりするけど、実のところ日本でこそカレーとはいっているが、現地語では別の名前の料理だし。

 そしてクミンの原産国は確かエジプトあたりから東側。

 これも他のスパイスと同じように南方産。

 陸路で行くにしろ海路を使うにしろ、魔物が跋扈するこの異世界で入手するには大変な困難を伴うでしょうね。

 種か苗を入手できたとしても、このへんでは温室でも作らないと栽培は難しいだろうし。


 王でなければ用意できないものではあるのだが、あまりに高額になる上多くの犠牲が伴う。

 とすると……そうだ、あの問題を解決する方法が見つかるかもしれない。


「ひとつございました」

「何でも言ってご覧。できるかどうかはわからないができるだけ望みを叶えよう」

「では、上級精霊を使役できる者と面会の機会をいただきたい」


 上級精霊を使役できる者は、人間というより戦略兵器といって過言ではない。

 魔力が十分あれば、街一つ消し去ることができる、そんな力を持つ者達だ。

 それだけの力を持つ者だから、その管理は国王となる。

 領主などが所有することはできず、派閥にも入れないし、他の貴族との接触も大幅に制限されます。

 国王の許可がなければ面会すらできないのだ。


「……ふむ。なるほど、それなら我に願わなければ実現しない望みではあるな」


 おじい様は僕を値踏みするかのように見つめます。


「なにか問題が?」

「問題があるかないかといえば、ある」

「どのような問題が?」

「そもそも上級精霊を使役できるものは貴重だ。国の最大戦力でもある。他国の間者による暗殺や上級魔石の盗難の危険は常に付きまとう。自国の貴族だって取り込もうとするであろう。多くの者にその存在を知られればそれだけでも危険が増える」

「なるほど」

「他にも色々な問題が有るのだが、そなたであれば問題なかろう」

「ありがとうございます」

「ところで面会してどうするつもりなのだ?」

「はい。『パソコン』に必要な機能がいくつかあるのですが、それを実現するための精霊語がありません。最新の研究結果を尋ねるとともに、必要な言葉を聞き出していただきたいのです」


 四則演算ができれば処理速度が大幅に上げられる。

 コンピュータというのは計算の塊だからね。

 計算だけで数ステップから数十ステップも消費するから、これが一ステップで収まれば、うまくすれば数倍の高速化ができる。

 また、今日検討していたネットワークも高速化が可能かもしれない。


「しかし徒労に終わる可能性もあるぞ。なにしろ精霊とは人間とはまるで違うものだ。うまく言葉が聞き出せるとは限らぬ。そもそもそのような言葉があるかもわからぬ」

「承知しております。それでも試みなければ先へは進めません」

「うむ。承知した。近日中に面会できるように取り計らおう」

「ありがとうございます。おじい様」


 うまく聞き出せれば儲けもの。

 聞き出せなくても、精霊とはどういうものか実際に見ることができる。

 向こうの世界じゃ絶対に見れない不思議生物だからね。

 子供の自分じゃ魔物や魔獣さえ見る機会がない。

 残念なことに異世界にはエルフもいなければドワーフもいないし獣人もいないらしい。


 少なくとのこの辺には。

 同じような伝説はあるようだが。


 植物や動物も向こうとそんなに変わらない。

 恐らくここは異世界とはいえ並行宇宙的な場所なのであろう。

 大枠ではほぼ同じであるが細部が程々に違う。

 月はひとつだし、星座も見たことがあるものがいくつかある。

 おそらく地形などもほぼ同じなのだろうが、地図の精度がどうなのか不明なので、ここが向こうの世界ではどのへんに当たるかはわかっていない。

 もし平行世界だとすれば最大の謎は魔力と精霊の存在だ。

 魔力は精霊の力だとすれば結局の所、謎は精霊だけとなる。

 今後『パソコン』を発展させていくためにも精霊と精霊語の研究は必須だ。

 このような機会を逃す訳にはいかない。

 僕は夕食をいただきながら、何を聞き出すかまとめていった。


 今や国民食と言われるカレーですが、その基本のスパイスであるクミンは日本での栽培が難しくほぼ全てが輸入のようです。

 なんとか栽培に成功している方もいらっしゃるようですが、かなり苦労されているご様子。

 やはり原産地でない場所での栽培は、気候や地質の違いなどもあり、繊細な植物であれば種や苗を持ってきても根付かせるのは難しいのでしょう。

 中には在来種を駆逐する勢いの外来種もありますけど。

 この世界でさえ昔は遠方からの輸入となると大変な困難を伴いました。

 ましてや魔物が跋扈するこの異世界。

 他国との輸出入はほぼ皆無。

 国同士は魔物の領域で囲まれほぼ陸の孤島状態。

 海にも沖合には大型の魔物がいて沖に出るのは難しいという設定になっているので、主人公がカレーを食べられる日は来ないでしょうw

 ナーロッパ世界なら割と簡単にスパイスが手に入ったりするのですが、現実ではそううまくは行きませんよね。


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